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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第21章 女たちの戦い。
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#177 棒術使い、そして双剣使い。




 「剪定の儀」三日目。長かった戦いも今日で終わる。勝ち抜いてきた8部族が激突し、「樹王の部族」が決定するのだ。

 パムは昨日の提案をみんなに話し、どうやら説得したようで、かなりやる気になっていた。僕は余計なことをしたかと今だに悩んでいたりする。まあ、なるようにしかなるまい。

 今日は最初の4試合だけ同時に行い、まずはベスト4を決める。その後、一試合ずつやって決勝の二部族を決め、最後に決戦、とこういう流れらしい。

 神樹域に生えてきた大きな四つのステージ上で、それぞれの部族が対峙する。

 しかしなぜ切株の状態で生えてくるのかが謎だ……。試合が終わると地面に消えるしな。精霊パワーだろうか。面倒くさいからそういうことにしとこう。


「最初の相手はっと……変な部族だなあ」


 身体中を鳥の羽根で飾り、大きな翼のようなマント、極めつけは巨大な鳥の頭蓋骨でできた被り物をしていた。あの出で立ち……科学忍法とか使わんだろうな……。

 試合が始まると、鳥部族はものすごいスピードでステージ上を走り始めた。速いな。かなりのスピードだ。対するエルゼは動かない。

 鳥部族はエルゼの周りを縦横無尽に走りながら、攻撃すると見せかけては方向を変え、正面と見せかけて横に飛び、変幻自在の動きでエルゼを追い詰めていく。それでもエルゼは動かない。

 と、いきなり鳥部族のスピードがさらに一段階上がり、加速したその勢いでエルゼの背後に回った。手にした短剣がエルゼの背中を貫くかと思ったその瞬間。横に一歩動き、それをかわしたエルゼの裏拳が、見事に鳥部族の顔面を鳥の頭蓋骨ごと砕いていた。うあ、あれは痛い。

 そのまま鳥部族の男は立ち上がることなく退場となった。精霊の加護が働いているから、死ぬようなことはないだろうが、一発で終わりとはなんとも……。

 続けての八重も、その次のヒルダもあっさりと勝ち、ラウリ族は一番乗りでベスト4へと進出した。


「余裕だったのよ。圧勝なのよ」

「力押しの部族ならあの素早さで撹乱攻撃を繰り返して勝てたろうけどね。生憎とあのレベルではエルゼたちには敵うはずがない」


 花恋姉さん、諸刃姉さんの言う通り、相手にもならなかったな。ここに来てますます強さに磨きがかかったような……。

 ……まさか花恋姉さんだけでなく、諸刃姉さんの眷属化も進んでいるんじゃなかろうな。昨日はやたら八重とかヒルダは諸刃姉さんにくっついてたし……。充分あり得る。

 ううん、悪いことじゃないんだけどな。なんかこっちの都合に巻き込んでいるみたいで気が引ける。


「あ、冬夜さん。あれ」

「ん?」


 リンゼの指し示した先には、昨日知り合った棒術使いの蓮月さんが相手を打ち倒したところだった。彼らの属するルルシュ族もストレート勝ちをおさめたようだな。

 別のステージでも勝敗がつき、ベスト4の部族が決定した。そのうちのひとつはあの毒を使うリベット族だ。

 一応、八重たちには毒対策として防毒マスクを渡しているけどな。

 残った部族は、


 女性上位のラウリ族。

 毒を操るリベット族。

 武術に長けるルルシュ族。

 剛腕のレムナ族。


 こりゃ見事にラリルレと揃ったもんだな。ロがないけど。


「注意するとしたらリベット族でしょうか」

「んー、ソニアさんのところのルルシュ族もなあ。対戦相手次第じゃギリギリかもしれないぞ」


 レムナ族ならやりやすい相手なんだけどなあ。単純に力自慢の部族だし。捕まったらヤバイけどさ。熊の首をボキッとやってしまうほどのパワーらしいから油断はできないけど、少なくとも戦いの動きはわかりやすい。


「さて、最初の試合が始まるようじゃぞ。お?」


 スゥの声にステージの方を見下ろすと、ざわざわと頭上の枝葉が動き、木漏れ日の光が二つの部族を照らし出した。ラウリ族とルルシュ族である。


「ソニアさんたちとか〜。うーん、難しいところだなあ」


 正直、あの二人相手だと、ルーでは勝てない気がする。パムでもどうかといったところか。ソニアさんには八重とヒルダなら勝てるかな。ただ、蓮月さんにエルゼが当たると、相性が悪くて負ける可能性が出てくる。パムとエルゼがあの二人に負けて、ルーが他のルルシュ族に負けるとこっちの負けが決定する。

 まあ、確率で言ったらこっちに分があるとは思うけど。

 互いに切株の反対側に回り、戦う順番を決めて階段を上っていく。観客席からは丸わかりだが、ステージに上がって初めて出場者は自分の対戦者がわかるのだ。


「微妙だなあ……」


 ルーと蓮月さん、エルゼとソニアさんか。微妙だ。この二人にたとえ負けても、残りの八重、ヒルダ、パムが勝てば決勝には行ける。負けるとしたらパムが少し可能性があるか。

 逆に言えば、ルーかエルゼ、どっちかが勝てば、ラウリ族の勝利はかなり確実になる。

 可能性が高いのはエルゼの方だが、武闘士同士の戦いだ。正直勝敗は読めない。「ブースト」が使えればエルゼがかなり有利なんだけどな。

 第一試合。ステージの中央へルーと蓮月さんが進み出る。身長の差がありすぎるな。ルーが145も無いのに対して、蓮月さんは明らかに180オーバーだ。まるで大人と子供……ってそのまんまか。こりゃ蓮月さんが勝っても非難ブーブーなんじゃないのかね。

 審判の声で試合が開始され、ルーは双剣を構え、蓮月さんは棍を構える。蓮月さんの棍は金属製で、全体は銀色であったが、両先端は金色だった。あれってミスリルとオリハルコンだろうか。軽々と扱っているしな。鉄とか金とかだったら、ものすごい怪力なわけだけど。

 ルーが動いた。それに対応して蓮月さんの棍が迫る。彼女はそれを読んでいたのか、右手の剣でその棍を下へと受け流し、そのまま懐へ飛び込もうとした。しかし蓮月さんは下げられた棍をそのままステージへと突き刺し、棒高跳びの要領でルーの頭上を軽々と越える。

 むむ、やっぱり蓮月さんの方が一枚上手(うわて)か。完全に見切られているな。


「ルーさん大丈夫でしょうか……?」

「なに、このまま終わる子じゃないよ、ほら」


 ルーは双剣を逆手に構え直し、再び蓮月さんへと向かっていった。そのまま左右の剣で怒涛の連撃を繰り返し、軽やかなステップで移動しながらラッシュ攻撃を続けていく。あの動きは……。


「へえ。あの動きは武闘士のものだね。エルゼから教わったのかな」


 さすが諸刃姉さん。見抜いたか。確かにあの動きはエルゼの足捌きに似ている。ルーはエルゼからも戦い方を教えてもらっていたからな。


「くっ」


 蓮月さんはなんとか懐へ入れさせまいと、棍を使って凌ぐが、手数の上ではルーが有利だ。やがて追い詰められた彼は棍を持ち直し、横薙ぎに払ってバックステップで距離を取る。

 逃がすかとばかりにルーが追い打ちをかけた。しかし蓮月さんは逃げるどころか前に出て、ルーの足元を棍で引っ掛け、バランスを崩したところに掌底を叩き込む。


「うぐッ…!」


 ルーが転がりながら体勢を立て直し、一旦蓮月さんから離れる。今のは痛い。

 てめ、コラ蓮月、うちのお姫様になにしてくれやがりますか。呪うぞこのハゲ。……一瞬そんな思考が浮かんだ。

 いかんいかん、これは試合なんだからな。自重自重。でも後で軽く仕返しはする。とりあえずスリップ一回な。

 今度は蓮月さんの方が棍を連続で繰り出し、ルーを追い詰めていく。突き出される棍をギリギリで躱し、通り抜けたそれを、左手の剣を手放したルーががっちりと脇で押さえ、動きを止めた。そこから一気に攻勢に出るかとルーが踏み込もうとした瞬間、蓮月さんがポイッと棍を手放した。


「え? わわっ!?」

ッ!」


 相手側の力を失い、バランスを崩したルーへ、離れている蓮月さんが先ほどのように気合いと共に掌底を繰り出した。その瞬間、ルーが何かに押されたように後方へと吹っ飛ぶ。

 あれは、ソニアさんと同じ「発勁はっけい」か? そうか、仲間なんだから使えてもおかしくないか。

 吹っ飛ばされたルーは空中でくるりと回転し、大した衝撃もなく見事に着地した。「地面」に。


「勝者、蓮月!」


 審判が勝者の名乗りを上げる。途端に、会場から割れんばかりの拍手と歓声が轟き渡った。

 ルーの場外負け。吹っ飛んだ場所が悪かったなあ。あと1メートルほど手前だったら、なんとか踏みとどまれたのに。


「ルー……負けてしまったのう」

「勝負なんだからこういうこともあるさ。それはルーだってわかってる」


 残念そうに沈むスゥの頭を撫でてやりながら、ステージへ戻り、剣を回収して蓮月さんと握手をするルーを見つめる。その顔からは残念そうではあるが、やり切った思いが感じられた。よくやったな。


「さて、こうなると次は勝ってほしいところだけど……」


 ステージ上へ進み出たエルゼとソニアさんを見やる。

 武闘士同士、ガントレットを鳴らしながら拳を固めた。

 互いに構え、真っ直ぐに相手を見据える。審判が右手をゆっくりと上げた。両者に目をやり、その手を一気に振り下ろす。


「始め!」

 

 バキィッッッ!!


 開始と同時に全力で相手へ向けて突撃した二人は、互いの拳をその顔面へと繰り出し、互いにその拳を顔面に食らっていた。見事なクロスカウンター……クロスカウンター? どっちの!?

 ちょおおおおおおおおい!! いきなりかよ! しかも二人とも顔面殴られながら、なんでニヤリとしてんの!?


『なかなかやるな』

『お前もな』


 的なさあ! 夕焼けの河原でタイマン張ってる番長ですか、君たちは!

 一旦距離を取り、再び拳での応酬が始まった。エルゼが右ストレートを繰り出せば、それをソニアさんがガントレットで受け止め、逆にソニアさんが左フックを放てば、同じくエルゼがガントレットで弾き飛ばす。

 とにかく音が凶悪だ。

 ゴッ! ガン! ガィンッ! ガキャッ! と、重々しい金属のぶつかる音がステージ上に響き渡る。怖い怖い!

 それよりも怖いのは二人とも笑ってるんですよ。ええ、笑いながら殴り合っているんです。怖いですねえ、恐ろしいですねえ。

 それでは皆さん、また次回お会いしましょう。さよなら、さよなら、さよなら。




 ……なんか乗り移った。








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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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