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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第21章 女たちの戦い。
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#176 竜の魔眼、そして変化の兆し。



「参りました……」


 地べたに大の字になりながら白旗を上げる。無理。もう無理。何回かかするくらいはできたけど、決め手になる一撃は入らなかった。魔法を使ってもいいならなんとでもなるけど、剣技というものにおいては勝てる気がしない。さすがは剣の神様なだけはある。


「いや、思ったより危なかったよ。ちょっと本気を出してしまったしね。しっかりと修業を積めば私と同じ域に達するんじゃないかな?」


 いあいあ〜。二代目を継ぐ気は無いので。正直、そこまで剣技を極めても、戦う相手は貴女ぐらいしか思い当たりませんし。


「二人の剣筋がほとんど見えなかったでござるよ……」

「わ、私も……。す、凄いです、二人とも……」


 ヒルダと八重が茫然としながらもそんなことを口にしている。凄いと言っても僕と姉さんの間には、かなり高い壁があるぞと言いたいが、そんな余力も残ってやしない。


「へえ、「ほとんど」ってことは「多少は」見えたんだね? なかなか有望じゃないか、二人とも」


 楽しそうにヒルダたちを眺める諸刃姉さん。対する二人はキラキラした瞳で目の前の剣神を見上げている。多少なりとも認められたことが嬉しいのだろうか。


「そのうち二人とも手取り足取り教えてあげるよ。しばらく冬夜君のところにお世話になるつもりだから」

「本当ですか! 諸刃お義姉ねえ様!」

義姉あね上! 感謝するでござる!」


 さらにキラキラした眼差しを向ける二人。剣神の信者が二人誕生したな。


「むう〜。諸刃ちゃんに義妹いもうとを二人取られたのよ……」

「わっ、私は、花恋お姉さんのこと、尊敬してます、よ?」

「リンゼちゃ〜ん。いい子いい子、ぎゅーなのよ〜」


 なんかわからんが花恋姉さんがリンゼに抱きついている。ルーも二人ほどではないが、諸刃姉さんに興味を持っているようだ。まあ、彼女の場合、二人ほど剣術バカじゃないからな。

 なんとか身体を動かす程度には復活したので「リフレッシュ」をかけて、体力を回復する。ふう。僕もまだまだってことか。

 いつの間にか周りにギャラリーができていた。あんだけ派手に打ち合っていれば当然か。


「誰だあれは?」

「ラウリ族の客人たちらしい。だが出場者じゃないそうだ」

「あれだけの実力があって……なんでだ?」

「知るか」


 耳元にギャラリーたちのヒソヒソ話が聞こえてくる。答え。男だからです。

 遠巻きにこちらを見ている奴らの中に、あのスキンヘッドの棒術使いと、竜人族の女性武闘士がいた。

 僕の視線に気付くとスキンヘッドの方は軽く頭を下げて会釈をしたが、女性武闘士の方はこちらをじっと見つめていた。おや? 右目は金の瞳だが、左目は赤い瞳……ひょっとして魔眼持ちか?

 そのまま彼女はこちらを見ていたが、その後ろに物騒なものを発見した僕は、腰のブリュンヒルドを抜き、躊躇わず引き鉄を引いた。

 銃声が響き渡り、竜人族の背後にあった大木から、ドサッと一人の男が落ちてくる。スタン弾で麻痺したまま落ちてきたのだ。倒れ落ちたその場へ向かうと、そいつの手には強力な弓矢が握られていた。こいつは明らかにさっき竜人族の女性を狙っていたのだ。


「見憶えは?」


 僕の背後に立つ竜人族の女性に倒れている男を指差して尋ねる。


「……先ほど対戦した部族の一人です」


 なるほど。逆恨みか。負けた腹いせの意趣返しと言ったところか。「審判の部族」のジャジャ族が来て、動けない男を引きずっていった。

 闇討ちもよくあるこの「剪定の儀」ではあるが、当然のこと、それが発覚すれば手痛いペナルティも存在する。それが次回の「剪定の儀」への出場停止処分だ。そんな不名誉を突きつけられたその部族の怒りはその犯人へと向かい、村からの追放はまず間違いない。

 村を追い出され、この大樹海で一人で生きていくのだ。それが罰となる。


「助かりました。私はソニア・パラレムと申します。ルルシュ族に厄介になっております」


 そう言って竜人族の女性、ソニアさんは頭を下げてきた。


「自分は蓮月れんげつと申します。ソニアさんの危ないところを助けていただきありがとうございました」


 スキンヘッドの棒術使いもそれに習い頭を下げてくる。蓮月……ひょっとしたらユーロンかイーシェンの人か? 黒髪というか、髪自体がないからわからないけど。あ、でもよく見ると眉毛は黒いな。


「蓮月さん、出身は?」

「え? イーシェンですが、それが?」


 よかったー。ユーロンだと何かと面倒だからな。八重の時もそうだったが、イーシェンの人たちは旅好きが多く、武者修行をして世界を回る人たちも多い。

 逆にユーロン人はあまり諸国を巡るようなことはしない。というか、かつての国政で他国へと渡ること自体が困難だったのだ。困難というかいろいろ面倒くさい手続きをしなければならず、そんな思いをしてまで外国へ行こうとは思わなかったんじゃないかと。いろいろ情報規制もされてたようだしな。

 ま、それももう崩壊したわけだから、難民が次々と国を捨てて他国へと流れているわけなんだが。数で言うと、ほとんどがフレイズに殺されてしまったのでそれほどではないらしいが、受け入れる国としては頭の痛いところだろうな。


「僕は望月冬夜。ラウリ族の客人でして、えっと……?」


 自己紹介をしようとしたらまたしてもソニアさんにじっと見られてしまった。あれ? ひょっとしてなにか魔眼が発動してる?


「あの……なにか?」

「……こういうのを聞くのはなんですけど、なぜそんな女性の姿を?」


 あれ? ひょっとして「ミラージュ」が効いてない? こそこそっとソニアさんに小声で尋ねると、彼女は小さく頷いた。


「あ、いや。そういう趣味の人がいることは知っていたのですが、ちょっと驚いてしまって……」

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってちょっと待って! 違うから! 誤解だから!」


 このままでは女装趣味の男として認識されてしまう。女装っていうか幻なのに。僕は二人を人気のないところへ連れていき説明をした。

 ラウリ族として出場しているわけではないから、部族の誇りを穢していることにはならない。他の人にバレたところで僕が観戦できなくなるだけだから、バラしても別にいいだろ。いざとなったら「インビジブル」で透明化するって手もあるし。


「っていうか、幻術が効かないのはその魔眼のせい?」

「はい。私の魔眼は幻覚などを打ち消す力があります。魔法による視覚効果もこの右目には効きません」


 なるほど。光魔法による閃光の目つぶしなんかも右目だけはキャンセルされるのか。いや、常時発動してるわけじゃないだろうから、不意をつけば効くかもしれないけど。


「まあ、たいしたことじゃないけど、黙っていてくれると助かる」

「では、先ほどはこちらが助けてもらいましたから、これで貸し借りなしということで」


 お、話がわかるね。意外とこの二人話しやすく、穏やかな性格のようだ。二人に聞いたところによると、二人は冒険者で武者修行中なんだそうだ。旅の途中、厄介になったルルシュ族の「剪定の儀」出場者が病気で二名出れなくなり、代わりに助っ人を申し出た、とこういうことらしい。


「先ほどの冬夜さんの手合わせを見せてもらいました。冬夜さんもそうですが……相手の方は何者なんですか?」

「ああ。あの人は諸刃姉さん……僕の二番目の姉。正直アレに勝つのは無理。剣だけなら最強だから」

「最強ですか……」


 二人ともそれは言い過ぎじゃ? と言った顔をしていたが、まあそうなるよね。でも事実だ。

 とりあえず明日、もし当たったらそのときはよろしくと、互いにエール交換のようなことをして二人と別れた。


「ここにいたのか」

「ん? パムか」


 二人と別れたあとにパムがやって来た。月明かりに照らされて、その姿が闇の中でぼんやりと浮かび上がる。


「バルム族も負けたわけだし、とりあえず安心だな」

「まあな。だが、次の「剪定の儀」に備えて布石は打っておきたい。やはりトウヤの子がほしいところだが……」

「優勝したらそれは無しだからな」

「わかっている。ラウリ族は約束をたがえない」


 心外だと言わんばかりにパムはふくれた顔でそっぽを向く。


「追加する掟はやっぱりバルム族を僻地へと飛ばすのか?」

「うむ、それでもいいのだがな。せっかくだし、なにか別の掟を作るのもありかと思っている。もちろんラウリ族の利益になるようなものがよいのだが……」


 パムがそう言って考え込む。ラウリ族の利益にねえ……。普通に考えれば女性の有利になる掟ってことか? ラウリ族は男女平等に真っ向から反対してるからなあ……。男女関係なく、話し合いで大樹海の部族を治めていければいいんだけど。

 そもそも男女間でそこまで差があるのはラウリ族とバルム族ぐらいなんだよな。

 いや、でもどっちかって言うと他の部族も女性の方が立場が弱い感じか。


「いっそ「「剪定の儀」には女性しか参加できない」とかにするか?」

「馬鹿言え。暴動が起きるぞ」


 まあ、そうだよなあ。他の部族が黙っちゃいまい。女性が強い部族もそこそこいるが、大半は男性のほうがメインだ。


「じゃあ「剪定の儀」を男女別にするとか」

「む? …………それは悪くないかもしれない……。男女別になれば少なくとも女の部では我がラウリ族がかなり有利……」


 パムがぶつぶつと考え始めてしまった。おいおい本気か? まあ、男性と女性が同じ土俵の上で戦うこと自体が僕らの考えではあまり馴染みがないんだが。オリンピックだって男女別だしな。もともと男と女じゃ身体の作りからして違うんだからそこは仕方がない。差別と区別は違うからな。


「でもそれが成り立つなら他の部族は男性の部と女性の部、たぶん両方に出場してくるぞ? ラウリ族とバルム族は片方しか参加できないけどいいのか?」

「問題ない。と、いうか望むところだ。これが成り立てば、他の部族でも女をないがしろにすることはできなくなるわけだからな」


 あ、そうか。そういう考え方もあるか……。女性も強さを求められる、言わば活躍の場を与えられるわけだ。

 これで他部族の女性が自分の強さに目覚め、その強さを活かせる場を求めれば、自然とラウリ族というところへ流れつくかもしれない。それはラウリ族の強化にもつながる……悪くない。悪くないぞ……と、そんな物騒な呟きが聞こえてくるんですけど。

 女性の地位向上は悪い話ではない……はずなんだが、男としては微妙なものがあるな……。余計な提案をしたかもしれない。

 大樹の精霊にとっては男女別で掟を二つ叶えることになるが、まあ、そこらは大丈夫だろう。

 叶えると言っても精霊は承認するだけで、実際はみんなでの決め事なわけだし。

 

「よし、部族のみんなにも提案してこよう。これは「剪定の儀」が大きく変わるやもしれん」


 喜び勇んで駆け出していくパムに、本気で余計なことをしたかと悩んでいると、いつの間にか傍らに大樹の精霊が立っていた。相変わらず緑の燐光を発している。


『悪い提案ではないかもしれません。これにより大樹海の女性の立場が少しは良くなるかもしれませんし。ラウリ族のようにまでいくとちょっと行き過ぎな気もしますが、それも部族の個性ですし』


 ううん。そうなのかな。こういうことには答えなんて無いんだろうけど。どっちが上とか下とかじゃないし。

 複雑な懊悩を抱え込みながら僕もみんなの元へと戻ることにした。大樹の精霊もいつの間にか消えていたし。諸刃姉さんのことに関してツッコミがなかったのは、神気とやらが完全に消されていたから気づかなかったのかな。僕はダダ漏れらしいけど。それぐらいはできるようにならないと、なんか厄介事が増えそうな気がする。

 帰り道、ふと視線を巡らせると、僕とは逆に森の奥へと入って行く人影がいくつかあった。あれは……リベット族か? あんなマスクをしている部族なんて、そんなにいないだろうしな。

 用足しにでも行くのだろうとその時はさして気にもしなかった。後から考えるとそれが間違いだったのである。








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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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