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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第21章 女たちの戦い。
175/637

#175 毒の部族、そして姉の実力。


「冬夜さんの二番目のお姉さん、ですか!?」

「そうなのよ。名前は望月もちづき諸刃もろは。諸刃ちゃんなのよ。私の妹なのよ」

「よろしく」


 剣神……もとい諸刃姉さんは花恋姉さんに紹介されて、リンゼと握手していた。突然の姉出現にみんなびっくりしている。わかるよ。僕もびっくりしました。


「ご挨拶が遅れました。わたくしたちは冬夜さんと婚約させていただいた者で……」

「知ってるよ。君がユミナで、こっちの子がリンゼ、その子はスゥだね」

「私たちのことをご存知で?」

「ああ、上からよく見て……」

「ああっとぉ! 花恋姉さんから手紙で教えてもらってたんだって!」


 余計なことを言いそうになった新しい姉に割り込み、なんとか誤魔化す。この姉さん、ちょっと場の空気を読まないところがありそうだ。天然か?

 諸刃姉さんは花恋姉さんと同じくらいの美人さんだが、花恋姉さんはどちらかと言うと可愛いタイプなのに対し、諸刃姉さんは凛々しいタイプの美人だ。

 長身だし、いちいち動きが洗練されているというか。歌劇団的なところに居てもおかしくないレベルだな。


「しかし、なんで冬夜の姉君がこんなところにいたのじゃ?」

「んー、ちょっと面白そうだったから無理矢理参加してみたんだけどね。勝ち抜き戦じゃなかったから負けてしまったんだ。まあ、ここに来たのは武者修行のため、かな」


 諸刃姉さんは適当な理由をでっち上げ、スゥの質問を躱す。

 この人、本当に上から見ていて面白そうだったから地上に降り立ち、ある部族に無理矢理入り込み、しれっとその一員として戦っていたらしい。どうもその部族には仲間だと思わせていたらしいな。催眠術みたいなもんか? いや、神様なんだしなんでもアリか。

 基本的にこの二人、地上の出来事に本来なら干渉できないはずなのだが。まあ、「神」として干渉できないのであって、あくまで力を持った「人間」としてなら干渉できるっぽい。身体能力も「あくまで」人間基準らしいし。達人どころか化け物クラスだけどな。

 だから「フレイズを全滅させて下さい」とか「ユーロンを復興させて下さい」なんて頼んでも無理。だいたい、自分の得意分野以外駄目人間(神?)っぽいしな……。


「武者修行というと、ひょっとして冬夜さんに剣を教えたのは諸刃義姉(ねえ)様ですか?」

「あー……まあ、そんなとこだね。冬夜君のは色々自己流のも入ってるけど」

「剣の腕なら諸刃ちゃんに敵う相手なんかいないのよ。世界一なのよ」


 花恋姉さんが自分のことのように自慢する。そりゃそうでしょうよ。神様なんだからさ。ああ、でもこの姉さんにうちの騎士団を鍛えてもらうのもアリか……。

 ただ「剣神」って言うくらいだから、ひょっとして槍とか斧とかはダメなのかもしれないけど。「短剣」とか「双剣」ならギリ大丈夫とか。あとで聞いてみるか。


「お、八重たちの試合が始まるぞ。これに勝ったら明日の最終日に出場できるのじゃろ?」


 スゥの声に思考するのをやめ、ステージの方へ意識を向ける。これでベスト8が決定して、明日で「樹王の部族」が決定する。つまり現在ベスト16が出揃っているわけだ。


「なんだかんだでバルム族も勝ち残ってるのな」

「私たちに絡んできた人たちと違って、出場者は流石に強いみたいですよ」


 まあ、当たり前か。昨日の奴らと同レベルでこの場にいたとしたら、よほど組み合わせに恵まれたとしか思えない。

 おっと、あんな奴らより八重の試合を見ないと。

 八重の対戦相手は両手にトマホークを持った全身刺青だらけの男だった。

 試合開始と同時に男が八重へと迫り、右手の斧を一閃する。それを八重はバックステップでよけて、追撃する男の攻撃を右に左にかわして、距離をとって動く。


「八重の勝ちだね」

「え?」


 面白そうに小さな笑みを浮かべて諸刃姉さんがつぶやいた。

 ステージ上では男がだんだん八重を追い詰めていた。しかし、八重は焦る様子もなく、斧を避け続けている。何か狙ってる?

 やがて八重が動いた。トマホーク男が振り回す斧をよけて、跳ね上げるように刀でトマホークの柄を切断する。切り飛ばされた斧の刃はステージ場外へと飛んでいった。返す刀でもうひとつの斧も切り落とし、唖然とした男のガラ空きの胴へ、八重の刃が閃く。

 その一撃で男の敗北が決定した。


「八重のあの刀じゃ斧のような破壊力がある武器とは切り結ぶわけにはいかない。刀が破損する可能性もあるからね。そのまま攻撃しても斧で防がれたら、同じこと。だから逆に斧を無効化するタイミングを狙ってたんだろう。しかし、防御さえもさせずに一気に抜き打ちを決めれば、もっと早く済んだのにね。あれはちょっと遊んでいたな。振り回す斧を切り落とせるか試したんだろう。そこらへんがまだまだかな」


 お、おお。よくわからないが諸刃姉さんがなんか語っとります。さすが剣神、始まってすぐそこまでわかったみたいだ。

 試合の方は、続けてパム、ヒルダとこれまたストレートで勝ち、ラウリ族は最終日へと駒を進めた。

 危なげなく最終日までいけたか。


「ん?」


 なにげなく他のステージを見てみると、バルム族が奇妙な部族と対戦していた。

 痩せぎすな身体つきに、猫背気味な姿勢。長い爪の付いた手甲をつけ、顔には奇妙なマスクをつけていた。マスクと言っても仮面の方ではなく、顔の下半分を覆う防塵マスクのようなものだ。一瞬、どこの腐海へ行くのかと疑うようなマスクだ。

 どことなく目つきも怪しい。なにか狂気を孕んだような光さえも感じられる。

 バルム族の方は槍を構えた大男だったが、このマスクの男に攻撃を受けたのだろう、身体中に細い爪痕が無数に走っている。

 バルム族の男が槍を放つが、足元がおぼつかない。だいぶ体力を消耗しているのだろうか、呼吸も荒く、汗もダラダラと流している。


「ふむ、毒か」

「え!?」


 諸刃姉さんがさらっと口にした言葉に驚いてしまう。毒って……ひょっとしてあの爪に塗られているのか?


「生命を奪うほどのものではないな。せいぜい手足の痺れ、体力消耗、軽い目眩と言ったところか。どうやらステージ自体にも散布されているようだね」

「毒の使用ってルール違反じゃないのか?」

「いや、魔法は禁じられているが、それ以外は特にない。部族の誇りを穢す行為は禁止とされているが、毒の使用は微妙なところだね。獲物を毒で仕留めることなど、よくある狩猟法だし」


 そう言われるとそうか。でもなんだかなあ。卑怯者って感じがしてしまう。確かにあのマスクの部族は身体的に優れているとは言い難い。それをカバーするために毒を使う狩猟法が確立されていったのかもしれないけど。

 得意な分野で勝負するのは悪いことじゃない……のかなあ。

 動きが鈍くなったバルム族の男に、猫背の男が素早く踏み込み、その腹へ右爪の突きが叩き込まれる。それで終わりだった。

 そのまま為す術もなく男尊女卑のバルム族は、毒を操るリベット族に次々と敗れ、あえなく敗退したのである。


「負けてしまいましたね、バルム族」

「これでラウリ族の懸念はとりあえず消えたわけだ」


 少なくともバルム族が「樹王の部族」となって、ラウリ族に不利な掟を強いる事だけは防げたわけだ。

 しかし、あの毒は厄介だな。直接攻撃を食らわなくても、ステージ上に散布された毒を吸い込んでしまったら同じことだ。それを狙ってか、先鋒戦ではわざと時間をかけて戦っていたような気がする。他の四人にも毒が回るのを待っていたのだろう。

 幸い、精霊の加護のおかげでそのステージ以外に毒が漂い、撒き散らされるようなことはなかった。

 しかし、逆に言えば、精霊や審判も毒の使用を認めたとも言える。毒のステージにいた審判も巻き込まれているのにな。まあ、生命に関わるほどではないらしいから、数時間で回復するみたいだが。

 だが、戦う上ではその程度の毒でも致命傷になりうる。なにか八重たちには対抗手段を持たせた方がいいだろうな。明日当たるかもしれないんだし。

 あのリベット族は今までに「剪定の儀」に参加したことがなかったのかと尋ねると、元々は違う部族から分かれた新興の部族なんだそうだ。元々、毒も使う、程度の狩猟をしていた部族から、それに特化した部族が生まれたわけか。

 この大樹海の部族というのは、一族と言うよりも、いわば村とかコロニーのようなものであるから、独自で新しい部族が生まれることもあれば、合併吸収され消える部族もいるらしい。


「お」


 別のステージでは昨日見た竜人族の女性武闘士が戦っていた。相変わらず坦々とした動きで、無駄のない戦いをするな。あ、また相手が吹っ飛ばされた。

 っと、今のが三試合目だったのか。ストレートで勝ち抜き、この部族も明日の最終日に進んだわけだ。

 さすがベスト8に入るだけあって、勝ち残ったのはどれも一癖も二癖もあるような部族ばかりだ。頭からジャガーの毛皮を全身にまとった部族や、骨で作られた武器をメインにした部族など、バラエティに富んでいる。

 明日からはちょっと大変かもな。





「本当にやるの?」

「遠慮はいらないよ。かかっておいで。あ、一応魔法は無しでね」


 出場していた八重たちに、諸刃姉さんを紹介したそのあと、ヒルダとか八重がぜひ手合わせを、と言ってきた。

 剣の腕前を花恋姉さんが吹聴したもんだから、どうやら火がついたらしい。しかし、仮にも「剪定の儀」出場者である彼女たちを戦わせるわけにはいかない。明日は大事な試合があるのだ。何かあったら困る。

 それでも諸刃姉さんの腕前を見たいと懇願するヒルダや八重たちに押し切られた形で、夕食後に模擬戦をすることになったのだが。


「なんで僕が相手?」

「だって他にいないだろう?」


 いやまあそうですけど。八重たちを抜いたらユミナやリンゼにやらせるわけにもいかないし。

 仕方ない、僕も少しは気になってたし、やらせてもらうか。刃引きしたミスリル製の模擬剣を握り締め、諸刃姉さんと対峙する。


「すぐ終わらせたりはしないから、全力でかかっておいで」

「それじゃあ、いかせてもらいますか、ねっ、と!」


 とりあえず物は試しと真っ直ぐ突進して真っ向から剣を振り下ろす。それを姉さんは軽く受け流し、身体を回転させながら僕の背後に回り込んで、横薙ぎに剣を振るってきた。身体を屈め、それをやり過ごしながら切り上げた剣筋は、あっさりと躱された。

 再び正面から対峙して、今度はフェイントをかける。右の胴を狙うと見せかけて、剣を跳ね上げ、右腕を狙う! が、逆に体当たりをかましてきた姉さんにバランスを崩され、危うく倒れそうになったが、そのままの勢いで地面を転がり距離を取る。追撃をしないところを見るとまだまだ本気じゃないようだ。

 余裕の笑みを浮かべているあたりがちょっと悔しいな。こうなったら全力でいかせてもらいましょう!








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