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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第21章 女たちの戦い。
173/637

#173 バルム族、そして大樹の精霊。




 一日目は順当に勝ち進んでいき、難なく三勝をあげることができた。っていうか、先鋒、次鋒、中堅、のルー、エルゼ、八重以外は戦っていない。全ての試合を三勝で終わらせた。ストレート勝ちである。

 見る限り相手に恵まれたとも言える。総じて大した相手ではなかった。


「この調子で明日もいければいいんだけどな」


 日が暮れる太陽を眺めながら僕はつぶやく。ここは神樹域から離れた川のそばにある森の中。全ての試合が終わり、みんな食事の用意を始めている。

 試合で負けた部族も帰ることなく、それぞれ食事の用意をしていた。ここまで来たのだから、最後まで観ていくのだろう。

 僕らは城へ戻って食事を済ましてもよかったのだが、せっかくラウリ族の人たちが獲物を獲ってきてくれるらしいので、ご相伴にあずかることにした。

 「ストレージ」からバーベキューセットを取り出し、炭に火をつけて調理の用意をする。塩や胡椒、調味料やソースも取り出した。

 やがてラウリ族の人たちが、兎や雉鳩のような獲物をいくつももってやって来た。この辺りは「剪定の儀」のとき以外、「審判の部族」しか狩らないので獲物が多いのだそうだ。もちろんこの三日で大量に狩られるが、次の「剪定の儀」までには元の数に戻るらしい。


「たまにはこういう野趣溢れる料理ってのもいいもんだね」

「そうですね。あ、冬夜さん、こっち焼けてますよ」


 ユミナが甲斐甲斐しく僕の世話をやいてくれる。はたから見たらどっちも女なので、妙な関係に見られないといいのだが。

 肉ばかりだと栄養が偏るので、「ストレージ」からカボチャやタマネギ、ピーマンなどの野菜を取り出した。それを簡単に切ってから金属の串に肉と一緒に刺し、自家製のバーベキューソースで食べる。美味い。


「こういうのは初めてですが、なんか楽しくていいですわね」


 ルーが自分の受け皿に肉を取り分けながら笑う。レグルスの姫として暮らしてきた彼女には珍しいのだろう。楽しんでもらえて何よりだ。

 しかし僕としては、相変わらず周りは女性ばかりなので、やはり落ち着かない。楽しむにはちょいとレベルが高すぎる。レスティアの先王陛下なら嬉々として飛び込んでいったろうが。

 と、なにやら後ろの方で騒ぐ声がした。見ると屈強な男たちが殴り合っている。喧嘩だ。鬱陶しいな、あっちでやってくれんかな。


「これだけの部族が集まっているからな、諍いのひとつやふたつ、日常茶飯事だ」


 そう言ってパムが串焼きの肉にかぶりつく。ちなみに「剪定の儀」に出場している者に何かあってはいけないので、そういった揉め事は周りの部族の仲間が片付けるのが決まりなんだとか。ってことは、あそこで殴り合っているのは出場者じゃないんだな。まあ、どうでもいいが。


「なんだ、変な奴らがいると思ったらラウリ族か」


 喧嘩している奴らの横を抜けて、これまた屈強な男たちがこちらへやって来た。筋肉ムキムキの鍛えられた逆三角形の身体。その上に走る傷痕や刺青が、さらに威圧感を生み出している。その上、頭がスキンヘッドだったり、モヒカンみたいだったりと、ガラの悪いことこの上ない。


「何の用だ、バルム族」


 パムが肉を噛みちぎりながら鋭い眼を向ける。こいつらがバルム族か。

 確かに全員こちらを見下したような目付きで見てるな。ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべているヤツもいる。同じ男としてこういった手合いにはなるまいと心に決める。


「今回の「剪定の儀」には出ないと踏んでいたんだがな。なんでも魔獣ごときに村のおもだった戦士がやられたそうじゃないか。情けないことだな、やはり女か」

「貴様……倒れていった戦士たちを侮辱するのか?」


 パム以下の、他のラウリ族のみんなが身体を少し沈める。いつでも戦闘態勢に移行できるように。それを察したバルム族も軽く身構える。両者の間に一触即発な雰囲気が立ち込める。


「別にそんな気はないがな。ただ俺たちバルム族なら魔獣ごときに遅れはとらなかっただろうと思っただけよ」

「は。知らないとは愚かなものだな。お前たちバルム族が束になっても、あの水晶の魔獣にはかなうまい。全滅するのがオチだ」

「なんだと!」


 売り言葉に買い言葉。ガンのくれ合い飛ばし合い。まさに犬猿の仲といったところか。


「ふざけるな! お前たちラウリ族に倒せて俺たちバルム族に倒せないはずがあるか!」

「残念だが、水晶の魔獣を倒したのは我らではない。そこにいるトウヤだ」

「あ!?」


 おいおいこっちに振るなよ。バルム族の視線が僕の方へと一気に向いた。


「この女がか?」


 バルム族の男がこちらへやって来た。190センチはありそうな身長のその男はジロジロとこちらを不躾な視線を向けてくる。やがて、ニタァッといやらしい笑みを浮かべた。


「なかなかいい女じゃねえか。気に入ったぜ」

「気持ち悪ッ!」

「なんだと!?」


 思わず声に出してしまった。だってそうだろ!? 僕の立場で屈強な男にそんなこと言われたら!! 全身に怖気が立つ!!


「このアマ!」


 怒りに任せた男が僕の方に手を伸ばし、腕を掴もうとしてくる。


「触んな!」

「ぐぼぅえ!?」


 男のどてっ腹に蹴りを食らわせ、数メートル吹っ飛ばした。加減なんかできるわけがない。身の危険を感じた! 別の意味で!


「こいつ!」

「やっちまえ!」


 一気に襲ってくるバルム族の男どもをひょいひょいとかわし、次々と蹴り飛ばしていく。手で殴ったりはしない。だって触るのなんか嫌だし!

 なんだろうな、ここまでギラついたマッチョたちに襲われると男とか女とか関係無しに怖いわ! 性的な意味で。


「このアマ……全員でかかれ!」

『うおおおおおおおおおおお!!』


 筋肉の津波がやってくる。うええ!!


「シールドッ!」

『ぐふぅっ!?』


 不可視の盾に防がれて、飛びかかってきた男たちがそのまま地面に落とされる。あー、気持ち悪かった。


「バルム族も大したことないな。トウヤ一人にこのザマか」

「くっ……」


 残ったバルム族の男たちに、パムが挑発するかのように嗤う。おい〜、煽るなよ。

 残りの奴らも顔を真っ赤にして、怒りの表情を浮かべていた。(外見上は)一人の女にやられたとあっては、男尊女卑の部族としては、憤懣やる方がないのだろう。


「とっととそいつらを連れて帰れ。むさい男どもに居座られると迷惑だ」


 それについてはパムに同感だ。このままではマッチョ恐怖症になりそうな気がする。


「くっ、覚えてろ!」


 倒れた奴らを引きずって、バルム族は引き上げていった。

 うう、気持ち悪かった。不躾な男の目ってあんなに不快感を感じるもんなんだな。自分もあんなことをしないように注意しよう。


「あれがバルム族? 大したことなさそうね」

「出場者はいなかったようだがな。あいつらはバルム族でも下っ端だ。まだ成人もしてないガキに過ぎん」


 エルゼに返したパムの言葉に耳を疑う。確か大樹海の部族って15くらいで成人同様に扱われるんじゃなかったか!? え、あいつらアレで僕より歳下なの!? ものすごいゴツいオッサンでしたよ!?

 ありえん……。アレで中学生くらいってありえんわー……。どんな教育してんだ。なんか食欲なくなった……。





 バーベキューを終えて、数人の見張りを立てて交代で就寝する。

 これは森の獣を警戒するためでもあるが、他の部族からの闇討ちを防ぐためでもある。もちろん全ての部族がそんなことをするわけではないが、中にはそういうことを平然とする奴らもいるらしい。

 僕らだけならば「ゲート」で城へと帰ってもよかったのだが、そう聞いてしまっては無視するのも後味が悪い。

 一応、周りには「シールド」の結界を張っておいて、数名交代で寝ることにした。「シールド」では一時凌ぎにしかならないしな。出場者である五人には明日に疲れを残してはいけないので、見張りは免除。朝まで休んでもらう。あ、スゥも起きていても仕方がないので寝てもらった。

 今は僕の他、数名のラウリ族でパチパチと爆ぜる焚き火を囲みながら周囲に気を配っていた。

 横では先ほどまで見張りをしていたリンゼとユミナが、毛布に包まり静かな寝息を立てている。

 ふと、奇妙な感覚を感じた。この気配は……。

 立ち上がり、森の奥へと足を向ける。一緒に見張りをしていたラウリ族の人たちが、一瞬だけ目を向けたが、トイレかと思ったようで、特に何も言ってこなかった。

 闇夜の森の中を、奥へ奥へと進んで行くと、だんだんとその気配が強くなってくるのがわかる。間違いない、これってラミッシュの時の……。

 森の奥の開けた場所で立ち止まる。

 いる。ここに。この場所に。


「僕の声が聞こえるか?」


 闇の中の僕を月光が照らし出す。ざざざざ、という木々のざわめきが辺りを包む。

 月光の中にぼんやりとした緑色の光が浮かんだ。


『貴方は誰ですか?』


 緑色の光が少しずつ形を変えていく。やがてそれはエメラルド色の髪をした少女の姿へと変化していった。着ているワンピースのような服を含め、全身が緑色の燐光を発している。開いたその双眸も翡翠のように輝いていた。


「精霊……だな?」

『はい。私はこの大樹海を司る大樹の精霊。大神樹の化身でもあります』

「やっぱりか。ラミッシュで戦った闇の精霊と気配が似てると思った。まあ、あっちはもっとドロドロとして淀んでいたけど」


 大神樹からも少しではあるがその気配を感じていたが、今の方がよりはっきりと感じられる。こんな風に顕現しないとそこまでは感じられないのだろうか。


『戦った? 闇の精霊と……? では、あの子を解放してくれたのは貴方ですか?』

「解放っていうか、ぶっ飛ばして浄化したんだけど」

『精霊は不滅の存在。やがて闇の精霊もまたこの世界に戻って来ることでしょう。それよりも……貴方は誰ですか? その姿は見せかけの姿ですね? そして全身から僅かに漏れるその力はいったい……?』


 ん? ああ、ひょっとして神力とやらが見えているのか? 「シールド」とか魔法を使ったしな。そのとき神力が漏れたのかもしれない。 「ミラージュ」を解除し、元の姿を晒す。


「僕は望月冬夜。ここから北の、ブリュンヒルド公国で王様をやってる。ちょっと複雑な事情があって変な体質になってるけど人間だよ」

『それはいったいどういう……?』


 大樹の精霊が困惑の表情を浮かべる。うーん、どうするかな。説明が面倒だ。神様のことを言ったところで信じてもらえるかわからんしな。

 かといってわざわざ神様に来てもらうわけにも……って、ああ、いたな、もう一人の神様が。ちょっと不安だが。

 「ゲート」を開き、おそらくベッドで眠っていただろう人物をこの場に落とす。


「あいた! な、なんなのよ!? あれ、冬夜君なのよ?」


 落ちてきた花恋姉さんが寝ぼけまなこで辺りを見回す。ピンクのハートマークいっぱいのパジャマってどうなのか。

 よくよく考えたら下級神とはいえ、かなり雑な扱いをしてるな、僕。この人(神)を見てるとそんなに偉そうに感じないんだよねえ。いいかげんだし、イタズラ好きだし、つまみ食いはするし、わがままだし。

 だけど憎めないのは、弟扱いしてくるから、僕も家族のように感じてしまっているからなのかもしれない。


「花恋姉さん、神様みたいなピカーッてのできる?」

「ほえ? ピカーッ? 神威解放しんいかいほうのこと?」

「たぶんそれ」


 こう? と姉さんが全身から眩い光を解き放つ。神様ほどじゃないけど、やはりすごい。ああ、やっぱりこんな人でも神様の一人なんだな、と感じられる。


「……なにか失礼なことを考えているのよ?」

「すいまひぇん。はにゃしてくらはい。ごみぇんなひゃい」


 ホッペをつねられた。痛い。

 解放された頬をさすっていると、その横では地面に跪き、土下座状態の大樹の精霊がいた。

 やっぱり精霊にも効くんだなあ。神の威光は健在なり。花恋姉さんでも。


「またなにか失礼なことを考えているのよ?」

「ごみぇんなひゃい。にゃんでわかりゅの?」


 神、侮り難し。







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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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