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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第21章 女たちの戦い。
172/637

#172 神樹域、そして試合開始。

 「剪定せんていの儀」。


 大樹海に住む全ての部族が、大神樹と呼ばれる御神木の元に集まり、大樹の精霊の加護のもと、その武勇を競うという……まあ、まさに「大樹海武闘会」ってやつだ。

 僕たちはラウリ族の者としてこれに参加し、勝ち残って「樹王の部族」を目指す。

 正直、そこまでしなくてもいいんじゃないかとも思うが、これ以上パムにつきまとわれてもなんだし、「剪定の儀」自体は三日ほどで終わるそうなので、まあいいかと。エルゼやヒルダなんかは戦いたがってたし。ちょっとした腕試し的なものもある。それと、うまくいけば、大樹海の部族を牛耳る「樹王の部族」と繋がりができるという打算もある。

 あ、あと、とりあえず女装だけは勘弁してもらった。「ミラージュ」で外見だけ女のように見せかければそれで充分だろう。触れられたら気付かれるかもしれない、とリンゼが食い下がったが、ただでさえ露出度の高いラウリ族の民族衣装を着る気はない!

 「ゲート」を使ってラウリ族の村へとパムはすでに帰してある。

 それと会話が不便になるだろうと思い、無属性魔法「トランスレーション」を習得した。早い話が翻訳魔法だ。こちらの言葉はあちらの言葉に、あちらの言葉はこちらの言葉に聞こえるらしい。

 この魔法って僕と琥珀たちの間にあるような念話に近いのかもしれない。

 一応、パム、八重、エルゼ、ヒルダ、ルー、が代表メンバーだ。誰かが負傷した場合に備えて、補欠とかがいるかと思ったが、その五人だけで勝ち抜くらしい。

 僕が参加してもよかったのだが、パムを含めたラウリ族の人たちに激しく反対された。ラウリ族として聖なる「剪定の儀」に男を代表者として出すわけにはいかないらしい。助っ人は認めても、そこは譲れないようだ。

 男は黙って見ていろ、ということなんだろう。なんかすごいいたたまれない。ちょっとバルム族が羨ましくなってしまった。

 まあ、そんなこんなで一ヶ月後。

 僕らは「剪定の儀」が行われる大神樹の根本へとやってきた。





「ふああああ……」


 でっかい樹だなあ……。大神樹を見た感想はその一言に尽きる。

 いったい、直径何十メートルあるのか。ものすごく太い幹から、青々と茂った枝葉が四方八方に伸びている。幹の大きさに比べて、高さはそれほどでもないのかもしれない。まるでパラソルの柄の部分を極端に短く切ったような形状だ。

 枝葉の間から木漏れ日が差し込み、地上を幻想的な光が照らす。その光の中で、大樹海の様々な部族が一同に会しているのだ。

 大神樹の根本には大小さまざまな切株があり、小さいものでも直径20メートルはある。それらひとつひとつが戦いのステージであり、大神樹の一部であるそうだ。

 大樹海の部族の総数はおよそ240。この中の一つ、「審判の部族」とも呼ばれるジャジャ族がこの「剪定の儀」を執り行うらしい。彼らは何代もこの「剪定の儀」を司り、唯一、精霊から大神樹の根本、「神樹域」で暮らすことを許された部族なのである。その代わり「剪定の儀」への参加は許されてはいない。精霊の意志を部族へと伝える神官のような者たちなのだろう。


「しかし、いろんな部族がいるんだなあ……」


 キョロキョロと辺りを見回す。大柄な部族、小柄な部族。頭に変な飾りを付けた部族、腕輪をジャラジャラ付けた部族。珍妙なところだと、何故か髭をものすごく伸ばしてる部族や、フードがついた緑のローブで全身を包んだ部族なんかもいた。

 いくつかの例外はいるが、総じて男性も女性も露出度が高い。流石にモロ出しというのはいなかったが、中にはかなり際どい姿の部族もいてちょっと目のやり場に困った。


「これなら拙者たちも目立たないので、ちょっと安心でござるが……」

「冬夜様? あまり女性をジロジロ見ない方がよろしいかと。外見上では同性なのですから変に思われます」


 ルーの言葉にわずかなトゲを感じ、僕はわざとらしく咳をしながら、居住まいを正す。

 そばにいるみんなはラウリ族の姿をしていた。要するに胸覆いと下帯姿だ。さすがにそれでは恥ずかしいのか、腰にパレオのようなものを巻き、上には短いポンチョのようなものを羽織っている。

 僕だけは「ミラージュ」で外見上はラウリ族の女性に見せかけている。一応、触られてもわかりにくいように、半袖短パン姿ではあるが。腕を掴まれたのに、そこに服の感触があったらマズいからな。

 スゥもラウリ族スタイルであるが、こちらはまだ可愛らしく、色気的なものは感じない。しかし、他のみんなの姿にはけっこうドキドキしていて、視線を他の方へ向けてしまうのだ。

 まあ、周りの部族の方がもっと過激だったりするので、なんとも言えないが。


「それで、あの切株の上で戦うわけ?」

「そうだ。あそこは精霊の加護が働いていて、生命を奪うような攻撃は全て軽減される。例え真剣で首を斬りつけようとな。死ぬほどの攻撃だから、むろん相手は気絶するが」


 いったいどういう魔法なのかわからないが、精霊の力なのは確からしい。僕の「シールド」のようなものだろうか。死なないとはいえダメージが通るんだから違うか。ゲームで言ったらHP1で寸止めされるということなのかな。

 基本、死ぬようなことはないらしいが、倒れた衝撃や、その他の要因で亡くなることもゼロではないらしいから気は抜けない。切株は地上から二メートルほどの高さがあり、そこから落ちると場外負けとなるが、落ちた打ちどころが悪ければ死ぬこともあり得る。


「魔法も使えないのよね?」

「ああ。それも無効化される。それと、ここでは小さな火でも使わない方がいいぞ。使うなら神樹域の外に出ろ。審判の部族に睨まれる」


 魔法も無効化されるのか。ってことはエルゼの「ブースト」はあの上じゃ使えないってことだな。武器の魔法付与も無効化されるらしいので、みんなが今回持ってるのは普通の武器だ。

 火が禁止されているのはわかるな。火事になったらとんでもないだろうし。神樹域から出てすぐのところに大きな清流があるので、食事などはそっちの方で作るらしい。

 応援に来た部族の仲間は、他の木の上に設置された観客席からその戦いを観戦するようになっていた。


「試合はいつ始まるの?」

「じきに始まる。今日は三つの部族に勝てば終わりだ。それで明日の戦いへと進めるようになる」


 んーと、約240部族が三回戦って……だいたい30部族くらいまでに減るのか。今日は予選ってとこで、明日からが本選って感じかな。

 シャリーンッ、と、どこからか鈴の音が響く。ざわついていた辺りの喧騒が消え、朗々とした声が上がった。


「時間だ。出場者以外はこの場から去れ。あとは全て精霊の導きのままに」


 白い貫頭衣のような民族衣装を着た「審判の部族」の男が厳かに告げる。それと同時に他の部族の人たちはぞろぞろとツリーハウスのようになっている観客席や、木と木の間に渡された吊り橋、あるいはそのまま大木の枝の上に移動していった。

 僕らも行くか。


「じゃあみんな、がんばって。無理はしないように」

「わかったでごさる」

「大丈夫よ」

「お任せください!」

「全力を尽くしますわ」

「行くぞ」


 パムに連れられて八重、エルゼ、ヒルダ、ルーの四人が戦いのステージになる切株の方へ歩いていく。

 僕らも木の上の設置された観客席に移動する。直径何メートルもの大木の側面に取り付けられた階段を登って、見晴らしのいい場所をキープした。


「なんだがわくわくするのぅ」


 スゥが手摺に身を乗り出し、眼下の試合会場を眺める。この大木の観客席はラウリ族のみんなで占められていた。

 総勢50名ほどの応援団ではあるが、女集団の中で男が一人なので正直居づらい。ラウリ族の人たちにも僕は女性に見えてはいるが、正体が男だと知ってもいる。ううむ、よくよく考えたら、「インビジブル」で透明になっておけばよかったんじゃないだろうか。

 でもそれだと、いざという時に介入しづらいしな。面倒でも「ラウリ族」というスタンスは取った方がいい。


「…あ、見て下さい、冬夜さん。あれ」

「お?」


 リンゼの指し示す先では、それぞれの部族代表にまるでスポットライトのように木漏れ日の光が差し込んでいた。やがてそれがゆっくりと動きだし、代表たちをそれぞれのステージへと導いていく。

 驚いて頭上の枝を見ると、枝葉が自由に変形して、木漏れ日の光を調節していた。マジか……。本当に意志を持っているんだな、あの大神樹って。あの導きによって対戦相手が決まるのか。

 と、思うまでもなく、さっそく戦いが始まっていた。あれだ、開会式挨拶とかないのな。


「試合形式は一対一の対戦を全員分やるのか」

「先に三勝したら、残りの二人は戦わないでも勝ちということですね」


 つまり一人だけ優れた戦士がいても、他の四人がダメでは三敗した時点で負けということか。勝ち抜き戦なら一人で五人を倒すってのもアリなんだろうけど。

 戦闘不能、あるいは降参するかで負け。また、場外に落ちることでも負けとなる。基本的に反則というものはないのだが、大樹海に生きる部族として著しく誇りを穢す行為をした者は失格となる。

 あるステージの試合を見ていると、一人の大男が振りかぶった斧が、相手の頭をカチ割った……ように見えた。が、現実は頭を砕くことはなく、そのまま相手の男はゆっくりとその場に崩れ落ちていく。

 あれが精霊の加護なんだろうか。倒れた相手の身体には、無数の傷や痣があることから、全てのダメージを消すわけではないことがわかる。致命的な一撃を受けると発動するということだろうか。相手は完全に気絶しているようだが。


「あ、ラウリ族の試合が始まるみたいですよ」


 ユミナが指し示した場所はここからだと見えにくい位置にあった。なので「ミラージュ」と「ロングセンス」で空中にステージの映像を映し出す。

 おおっ、と他のラウリ族の人たちから驚嘆の声があがる。やっぱりステージ上じゃなければ魔法は使えるらしいな。

 みんなで観戦できるように大きめの画面サイズに変更する。どうやら一番手はルーが出るようだ。

 相手は長身の男で、年季の入った槍を手にしている。身長差が40センチはあるんじゃなかろうか。対するルーは刃渡り30センチほどのショートソードを、両手左右に二本手にしていた。


「始め!」


 審判の白装束が腕を振り下ろすと同時にルーが動いた。まっすぐに槍の男の懐へと突進していく。それに反応し、串刺しにしようと男が繰り出した槍は、ルーの剣に弾かれてあらぬ方向へと向かってしまう。

 滑り込むように相手に接近したルーの左手が閃き、男の脇腹を捉えた。

 ドッ! という鈍い音がして、そのまま槍の男がぶっ倒れた。時間にして一分も経っていない。

 うおおおおおおおおお! と後ろにいたラウリ族のみんなから歓声が湧き上がる。

 伊達に僕や八重と訓練しているわけじゃない。ルーからしてみればあれぐらいの動きは見切って当然だろう。

 そもそも双剣使いは俊敏さがものをいう。動きで相手を翻弄し、変幻自在の角度から攻撃を繰り出す。斧や大剣のような重い威力はないが、その手数で攻める剣術なのだ。

 だからと言って、相手を一撃で仕留めることが出来ないわけじゃない。あのように急所を狙えば可能なのだ。当然、俊敏さに加え、正確さも要求されるわけだが。

 ルーがこちらへ向けて大きく手を振っている。

 こうして僕らの戦いの幕は切って落とされた。









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