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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第21章 女たちの戦い。
168/637

#168 嫁会議、そして紐水着。



「では冬夜さんとレスティア騎士王国の第一王女、ヒルデガルド姫の婚約に反対の者は挙手を」


 厳かなユミナの声に対し、誰も手を上げるものはいなかった。


「では満場一致でヒルデガルド姫を私たちの同志と認めます。共に夫を支え、良き妻、良き母とならんことを願います」

「ありがとうございます! 粉骨砕身頑張ります!」


 涙を浮かべながら頭を下げるヒルダ姫に、他の六人の婚約者から拍手が送られる。なんだこれ。

 この部屋にいるのは八人。僕と婚約者のみんな、そしてヒルデガルド姫だった。この通称「嫁会議」で、ヒルダ姫の嫁入りが許可されたらしい。が、なんで当事者の僕が一番外れの席に座ってるのさ?


「あのさ、何度も言うけど僕の意思とかそういうのは考慮されないわけ?」


 少しジト目になってユミナに視線を送る。


「冬夜さんはヒルダ姫を嫌いですか?」

「そんなわけないじゃないか」

「では容姿に不満が?」

「あるわけない。可愛いと思うよ」

「性格は?」

「真面目で民のために努力を惜しまない、素敵な人だ」

「では生まれや祖国に問題が?」

「別に含むところはない。ユミナやルーだって王女だしね」

「ではなにも問題はないと思われますが?」

「うぐっ」


 にこにこと笑顔を浮かべながら、ユミナが質問を切り上げる。ヒルダ姫を見ると真っ赤になって俯いていた。確かに断る理由は何も無い……。けれどなんだ? この「引き下がったら一生頭が上がらない!」という予感は!

 ただでさえ一人に勝てる気がしないのに、七人になったら何も言える気がしない!

 一夫多妻制って妻同士ががっしりとスクラム組んだら夫に勝ち目なんてあるのか!?


「……本当にみんなはそれでいいわけ?」

「よくなきゃさっき手を上げてるわよ」

「…私たちは、冬夜さんを好きでいてくれて、他の婚約者の人たちも、家族と認められる人が仲間に相応しい、と考えています」


 エルゼとリンゼが口を開く。そんなの会ったばかりでわかるのか? ……ってユミナの魔眼か。なるほど。

 ユミナの魔眼は発動すると、その人の本質の色がオーラのように見えるんだそうだ。心の綺麗な人はキラキラと、なにかやましいことや、悪意を持つ者は濁った色というように。

 無意識下の本質まで見抜けるらしいが詳しくはわからない。ユミナも色と感覚で判断していると言っていた。

 つまり「なんとなく」なのだ。しかし、本質的なものであるため、「悪ぶってるけど実はいい人」や「いい人を演じてるけど実は腹黒」な人も見分けてしまう。そのユミナが太鼓判を押すのだから、そうなのだろうが……。


わたくしはこれはいい機会だと思っています。わたくしやユミナさんは王女と言っても西方の国です。ですがヒルダさんは東方ではユーロンがあんなことになった以上、最大国家の姫。西方と東方、両方に繋がりを持てば怖いものなしですわ」


 ルーがそんな事を口にする。なんか物騒な感じだな……。

 確かにレスティアと強いパイプがあれば、東方でもなにかと融通が効くのは確かだが……。


「でもな……」

「はっきりしないのう。冬夜はもっと自信を持てばいい。義姉上あねうえの言うとおり「モテモテ」なのじゃからな!」

「モテモテって……」

「モテモテじゃろう? ここにいるみんなが冬夜のことを大好きじゃぞ?」


 まっすぐなスゥの言葉に顔が赤くなる。ヤバイ! 嬉しいやら恥ずかしいやら!

 むううううう……。あんまり流されてこういうことを決めたくないんだが……。

 ちら、とヒルダ姫の方を見ると、不安そうに僕を見つめる視線とぶつかった。そんな泣きそうな顔をしないでほしい。


「……わかったよ。みんながそれでいいなら」


 わっ、みんながヒルダ姫のところに集まり、祝福の言葉を贈る。きゃっきゃ、うふふという光景を見て、やはり彼女たちに勝てる気がまったくしない。将来に一抹の不安を感じる。


「それでヒルダ姫。先王陛下との勝負だけど……」

「どうかヒルダ、と。これより私はあなたの婚約者であり、第一の騎士なのですから」


 ヒルダ姫、もといヒルダが微笑みながら僕に視線を向ける。その誇らしげな表情にちょっとドキッとしたのは内緒にしとこう。


「わかったよ。ヒルダ。で、先王陛下との勝負だけど、勝算はあるのか?」

「正直、難しいと思います。お祖父様と戦って勝ちを拾える確率は一割くらいかと……」


 低いな。やっぱりあの爺さん、かなりの強さなのか。でも一割とはいえ、全く勝てないわけじゃないんだよな。


「いえ、それも実力から奪った勝ちではなく、たまたまあちらの不運とこちらの幸運が重なっただけという……」

「要するに偶然ということじゃな」

「はい……」


 ズバッと言うんじゃない、スゥ。見ろ、落ち込んじゃったじゃないか。

 でも、逆にそれだけの差があれば、相手が油断することもあるんじゃないかと思う。爺さんが舐めきってかかってきてくれれば、そこにつけ込んで勝ちを拾えるかもしれない。

 試合は確か武器は剣、魔法無しの身体能力のみを使った戦いだったな。


「冬夜殿、なんとかならないでござるか?」

「うーん、刃先に目つぶし用の粉を仕掛けるとか、柄に爆薬を仕掛けとくとか? 武器防具に補助系の魔法をしこたま「エンチャント」しとくか?」

「そ、そういう勝ち方はちょっと……騎士道精神に反しますよぉ」


 だろうね。まあいくらでも方法はあるけどさ。要は直接魔法を使わなけりゃいいんだろ。くっくっく。


「また悪い顔をしてるでござるよ……」

「なんかズルい手を思いついたんでしょ。ある意味安心じゃない」

「頼もしいような、そうでないような……」


 勝手なこと言うない。そんなに卑怯なことを考えてはいないぞ。

 今回は。





 試合が開始されたと同時に、踏み込んだ先王の攻撃がヒルダを追い詰めていく。防戦一方だが、なんとか襲い来る木剣を躱し、捌き、流して、堪えていた。


「どうした! お前の公王陛下への想いはそんなものか!」

「……私は冬夜様を信じております。冬夜様の言うとおりに動けば、必ずや勝利を掴めると!」

「言うたな? ではやってみせよ!」


 さらに攻撃の手を早め、連打の嵐を孫娘に叩きつけていく。次第にヒルダの防御が崩されていった。木盾で受け止めてもその衝撃は腕に来る。それが蓄積されれば動きが鈍ってくるのは当然だ。

 地下の訓練場には、観客は僕と婚約者のみんなのみ。護衛の人らは外で待ってもらっている。

 ヒルダにはなるべく防御に努め、相手の隙を決して見逃さないように、と言っておいた。狙うは一発逆転。相手の隙を突いて、一撃で終わりにする。

 ヒルダが木剣を盾で押しのけ、距離をとる。かなりの体力を使っているのだろう。すでに息が上がっていた。

 対する爺さんの方は余裕綽々といった風で、薄い笑いを浮かべている。


「むう……。強いでござるな。騎士の剣でありながら、荒々しい実戦の激しさも感じるでござる。ヒルダ殿が柔とすればまさに剛。技というよりゴリ押しの剣でござるな……」

「でもなんとか堪えてるじゃない? けっこういい勝負に持ち込めてると思うけど」

「それは完全に防御に徹しているからですわ。ですが、あの状態からは勝てません。やがては崩され、倒されるでしょう」


 八重、エルゼ、ルーと、ウチの武闘派三人衆が試合を分析する。しかしルーも逞しくなったなあ……。クーデターの時に襲われて震えていたのが嘘のようだ。まあ、あのときはあまりのことに動転してたってのもあるだろうけど。

 戦闘能力は八重やエルゼに一歩及ばないが、それでも今じゃかなりの腕だ。八重や僕の戦い方が混ざってしまっているので、かなり我流になってしまったけど。


「そろそろかな。なんとか相手の一瞬の隙を逃さないでほしいけど」

「でも先王陛下が隙なんて作りますかね。いくら格下で孫娘が相手と言っても……」

「作るんじゃない。作らせるのさ。僕が、ね」


 え? という顔をしたユミナを置いて

魔力を集中する。幸い手頃な動画はネットに転がっていたから、そんなに難しいことじゃない。

 とどめとばかりにヒルダに向かい、駆け出した先王。今だ!

 ヒルダの2メートルほど背後に「ミラージュ」で作り上げた動画の幻影を流す。


「ッ!?」


 先王陛下の目が見開かれ、一瞬、動きが止まる。なにが起こったかわかっていないが、その隙をずっと待ち構えていたヒルダは、全力の木剣を先王陛下の身体へと撃ち込んだ。


「ぐふうっ!?」


 真剣なら上半身と下半身が真っ二つになっていただろう。そのまま先王陛下が地面に崩れ落ちた。よし!


「……冬夜さん」

「なに?」

「あのヒルダさんの背後に一瞬だけ見えた、紐のような水着を着た女性は誰です?」


 僕のスマホの画面ではマイクロビキニを着たグラビアのお姉さんが扇情的なポーズをとっていた。誰と言われても知らないが、かなり際どい水着なのは間違いない。小麦色の肌に魅惑の瞳、スタイルもボン、キュッ、ボンっといった大迫力ボディだ。


「勝った! 勝ちましたよ! 冬夜様! 私、やりました!」


 喜びはしゃぐヒルダに手を振って返事を返す。他のみんなも笑顔を浮かべて拍手を送っているが、小さくぼそりぼそりとつぶやく。


「ああも容易く隙をつくるとは……」

「男ってのは……」

「…イラっとするね。お姉ちゃん」

「随分と胸が大きかったですわね……」

「ああいう水着が好みなんですか? 冬夜さん?」

「あれ? 冬夜、どこへいく?」


 スゥ以外全員目が笑っていない。これ以上ここにいられるか! 三十六計なんとやらだ!

 観客席から訓練場に飛び降り、よくやった! とばかりにヒルダの方に近づいていく。後ろから冷たい視線が突き刺さるが、振り向いちゃダメだ。


「冬夜様! 勝ちました! これで私も冬夜様と添い遂げることができます!」


 なぜ祖父が隙を作ったか、そんなことは気にも留めず喜ぶヒルダの横で、蹲っている先王陛下が小さい声で呻く。


「よくぞワシを倒した……。しかし、第二、第三のワシがお前たち二人の前に立ち塞がり、さらなる試練を……」

「どこの魔王ですか」


 先王陛下に回復魔法をかける。本当にこの人、騎士王国の国王だったのか? ああ、そういや婿養子だとか言ってたか。騎士っぽくないもんなあ。

 回復したのか先王陛下はすっくと立ち上がると、ヒルダの方に視線を向けた。


「己の未熟さを痛感したの。負けは負け。お前の覚悟、とくと見定めた。結婚を許そう。倅にも文句は言わせぬ。今よりお前はレスティアではなく、ブリュンヒルドの騎士となれ」

「お祖父様……」

「冬夜殿、剣しか振るえぬ孫娘ですが、末長くよろしくお願いいたします」

「……わかりました。ご安心を」


 そう言って頭を下げる先王陛下。


「……で、じゃな。さっきの水着の娘さんはどこの誰かの!? もう一度! もう一度だけあの姿をこの目に焼き付けたいんじゃが!」

「水着?」

「あー……。先王陛下。ここではなんですので、別室でよろしいでしょうか?」

「おお、そうじゃな! ヒルダ、お前は他の方々から、いろいろな心構えを聞いておくがいい。では行こうかな! 冬夜殿!」


 グイグイと僕を引っ張っていく先王陛下。隙を作る原因になった幻影に対して文句も言わないのか。ひょっとしてこの人、初めから負けるつもりだったんじゃないかと、ちょっと思った。

 そのあと先王陛下に拝み倒されて、そういった系のグラビアアイドルの映像を「ドローイング」で何枚も転写させられた。どっから来るんだそのエロパワー……。

 疲れ果てて部屋に戻ると、スゥとヒルダ以外のみんなが待ち構えていて、いろいろ問い詰められた。要約すると、僕の女性の好みに関してあれこれ聞かれた。胸が大きい方がいいのか、スタイルはすらりと細い方が好みなのか、ああいったエロティックさが好きなのか、とか。

 しまいには全員あのマイクロビキニを着る! とか言いだしたので、土下座して勘弁してもらった。さすがにそんなことはさせられないし、刺激が強すぎる。

 …………惜しかった、か?

 









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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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