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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第21章 女たちの戦い。
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#167 初恋キラキラ、そして勝負。




「それで聞きたかったこと、とは?」


 城内の応接室で三人掛けのソファーにレスティア先王陛下とヒルダ姫を座らせる。僕はその正面に座り、二人の話を聞くことにした。

 二人ともお忍びと言う事で身分を隠してやってきたらしい。確かに鎧にはレスティアの紋章は付いてなかったな。

 先王陛下は元冒険者ということもあって、いろんなところにツテがあるらしく、ここまでなんの問題も無くやってきたらしい。かなり型破りな人らしいからなあ。

 どうも話を聞くと身分を隠し、水戸のご老公のようなことまでしているらしい……。「ここにおわすお方をどなたと心得る。先の国王、ギャレン様にあらせられるぞ!」「ははあー!」みたいな? まさかな。風車を持った忍者とかいないよな?

 まあ、迷惑省みず好き勝手してるのは、僕も人の事言えないけど。


「実は先日のユーロン崩壊の件で……」


 と、ヒルダ姫が話を切り出した。なるほど、それか。

 あの戦いは当事者が他国の人間であったためと、ユーロンの辻褄の合わない流言によって、正確なところをつかめない感じになっている。特に東方ではそれが顕著だ。

 事が起こった東方よりも、西方の方が状況に詳しいってのも皮肉だが、西方のほとんどの国が参加してたわけだし、それは仕方が無い。

 ギルドでも正しい情報が流されているはずだが、事が事だけに信じがたいのだろう。魔法が効かず、再生能力を持ち、空間から出現する……。そんな魔物など今までいなかったわけだしな。

 僕は二人にユーロンで起きた出来事を事細かに語った。


「やはりあのフレイズの大襲来があったのですね。それにしてもベルファスト、レグルス、ミスミド、リーフリース、ラミッシュ、リーニエの連合軍ですか……」

「それぐらい力を合わせないと勝てない相手だったんですよ。実際、上級種の一撃でユーロンの都は吹き飛んでしまいましたし」

「恐ろしい話じゃの……。それで、同じようなことがまた起こる可能性は?」


 先王陛下の心配ももっともだ。なにせレスティアにも下級種とはいえフレイズの一群が現れているんだからな。下手に誤魔化すより、きちんと話した方がいいだろう。


「しばらくはないと思います。しかし、いずれ同じような大襲来が起こることは充分ありえます。そのためにいろいろと戦う準備を進めているところです」

「フレームギア、という巨人兵のことじゃな?」


 知っていたのか。まあ、ある程度の情報は漏れているとは思ったけど。

 説明するより見せた方が早いと思い、二人だけじゃなく護衛の騎士たちとともに城の西に広がる平野へと転移した。

 初めての転移に先王陛下やヒルダ姫をはじめ、護衛の人たちもただ驚くばかりだった。さらに驚かせるようにバビロンから黒騎士を地上に転移させる。


「これがフレームギア「黒騎士ナイトバロン」。フレイズに対抗するための最終兵器のひとつです」


 みんなあまりの衝撃に声も出ないようだった。「ストレージ」からレシーバーを取り出し、操縦席のモニカを呼び出す。


『ひと通り動いて見せてくれ。無茶はするなよ』

『了解だゼ、マスター』


 モニカが歩いたり走ったり、剣を抜いて構え、突いて、振り上げ、振り下ろし、様々な動きをしてみせる。


「この……フレームギアとやらは、ユーロンでの戦いでは何体ほど投入されたのかの?」

「予備機も含めてざっと250体ですね。フレイズ側が13000ほどいましたので、なかなか大変でした」

「これが、250……。それだけの兵力を持ってブリュンヒルド陛下は何をなさるつもりかな?」


 先王陛下がこちらに探るような眼を向けてくる。まあ、なにか野心を持っているのでは、と思われても仕方が無いか。


「信じてもらえないかもしれませんが、これを他国への侵略に使う気はありません。攻め込まれたらその限りではありませんが。一番の目的は対フレイズ戦ですから。西方同盟の各国にも、よほどの状況で無ければ貸し出すことはしてませんしね」

「よほどのこととは?」

「出現した巨獣の討伐や、山崩れなどの災害に対しての救出などですね」


 実際、何度か各国に貸し出したりはしている。人命救助に使うのならなにも問題は無いしな。もちろんレンタル料などは取ってない。あくまで好意からの援助だからだ。あ、でも巨獣相手に戦ったり、壊した場合は材料費を貰うけどな。


「仮にだが。我らレスティアも貴国らとの同盟を結べば、こいつを貸してもらえたりはするのかの?」

「それが戦争や非合法の用途で無ければ」


 他国へ貸し出すと解析されて技術を盗まれるのではないか、とも言われたが、逆にできるならやって見せてほしい。僕やロゼッタでさえ一から製作することができないのに。あの変態博士並みの天才が出てきてくれんもんか。

 分解したりしても、おそらく腕や足ぐらいなら作れるかもしれないが、中枢部は無理だろうし、何よりも燃料であるエーテルリキッドを作ることができないだろう。まあ、戻せないほど分解されたら、二度と貸さないけどな。


「今回ブリュンヒルドにやってきた目的のひとつは貴国と友好関係を結びたいと思ってのことじゃ。同盟に加入するかは国王である倅に一応聞かんといかんが、まず反対はすまい」

「こちらとしても喜ばしいことですが、他の国とも協議してからになりますね」


 まあ、こっちも反対はしないと思うけど。レスティアは騎士王国と言われるだけあって、高潔な精神と国民からの信頼の厚い国らしいし。……この爺さんを見てるととてもそうは思えないが。

 だけどレスティアが加入したら「西方同盟」という名称を変えないといかんかな。レスティアは東方だし。うーん。ま、そんなのはあとで考えればいいか。





「せやあぁぁぁぁぁ!!」

「はあぁぁぁぁぁっ!!」


 互いの剣が互いの身体に触れる直前で止まった。ヒルダ姫の木剣は八重の横腹を。八重の木刀はヒルダ姫の首筋ギリギリで停止していた。見事なまでの相打ちである。


「それまで!」


 審判役を買って出た僕の声が地下の訓練場に響く。

 ヒルダ姫がこの国で一番剣の使い手と戦ってみたいというので、とりあえず八重をぶつけてみた。剣術だけなら山県のおっさんよりも上だからな。

 この一年、八重にどれだけネット上にある剣術についてのサイトや動画サイトを見せたと思ってるのか。それをスポンジが水を吸収するかのように己の物にし、さらに進化させていったのだ。すでに彼女の剣術は実家の「九重真鳴流」とはだいぶ外れた流派になりつつあると思う。

 その八重と引き分けるヒルダ姫もすごい腕前なのだが。

 互いに剣を下ろし、深く息を吐く。


「楽しい試合でした。陛下は素晴らしい騎士をお持ちなのですね」

「いや? 拙者は騎士団の者ではないでござるよ?」

「え?」


 試合後に八重と握手をしたヒルダ姫が首を傾げる。


「拙者は冬夜殿の許嫁にござる」

「いいなづけ?」

「婚約者ってことですよ」


 横から口を挟むとヒルダ姫の動きが止まった。あれ? どうした?

 ギ、ギ、ギ、とぎこちなく首が回り、視線がこちらに向けられる。なんだ? 瞳の中に光がないぞ……。


「婚約、者、が、おられた、のです、ね?」

「え? はあ……まあ。あれ、聞いてませんか? ユミナとルーの時に婚約自体は大々的に発表されてたはずだけど」

「ユミナ? ルー?」


 誰それ? という感じで聞き返してくるヒルダ姫。どうやら本当に知らないらしい。まあ、東方までは伝わらないのかもしれないな。


「ベルファストとレグルスの姫でござるよ。二人とも拙者と同じ冬夜殿の婚約者でござる」

「はいぃ!? さ、三人も婚約者が!?」

「正確には六人いるでござる」

「ろくっ……!?」


 絶句してしまうヒルダ姫。むう。引かれたかな? さすがに一夫多妻制を容認しているこの世界でも、大商人や貴族だと二人から三人、稀にとんでもない数の奥さんがいる王様もいるらしいが、普通の王族なら多くても五人くらいらしいからな。

 それ以上いないのは正規の「奥さん」がいないってだけで、お妾さんや愛人ならそれこそかなりの数がいるらしいけど。

 けれどそれは正妻と結婚したあと、少しずつ相手が増えていって、というのが大半だ。僕みたいに結婚相手がすでに複数決まっているというのは珍しいようだ。


「私は……どうすれば……予想外……いや、まだ……」


 なにやらぶつぶつ呟き始めたヒルダ姫の眼前に、僕は手を翳す。ダメだ、見えていない。


「そこでお姉ちゃんの登場なのよ!」

「うわっ、びっくりした!!」


 背後からいきなり声をかけられ、思わずズザッ、と引き下がってしまった。

 そこには右手を高々と上げて、むふー、と鼻息荒く仁王立ちになる花恋姉さんがいた。

 この人(人っていうか神だけど)、瞬間移動とかできるんだろうか? 神なだけあって神出鬼没だよな。


「そこのあなた! ズバリあなたの片想いのお相手は冬夜君なのね!!」

「ふぉあっ!? にゃっ、にゃに、にゃにお言って、言ってるんでしゅかっ!? そんな、そんなつもりは! つもりは!」


 ビシィッ! と姉さんに指を差されたヒルダ姫が、ボッ、と火がつくように顔が真っ赤になって慌てている。え? なにそれ? それって……そういうことなの?

 いや、でも……僕らは二回しか会ってないのに……まさか。

 ヒルダ姫を指で差しながら、いい気になっている姉さんを引っ張り、小声で話す。


「ちょ、ちょっと。まさかなんか変な力を使ってないよね? 惚れっぽくするとか、魅了系の力とか」

「失礼な。そんなの使ってないのよ。初めからあの子の中には冬夜君への恋心があったのよ。しかもあれは初恋。キラキラしてて綺麗なのよ」


 そんなことまでわかるのか。っていうか遅くね? 初恋。にしても、どうすればいいんだ、これ?

 もじもじとしているヒルダ姫になんと声をかけたらいいのかわからずにいると、八重が彼女の前に進み出た。ちょっ、修羅場とかは勘弁して下さいよ!?


「ヒルダ殿は冬夜殿を好きなんでござるな?」

「ひえっ!? いえ、あのっ! それはですね……八重さんという婚約者がいるとは思わなかったもので……なんというか……その……すいません……迷惑ですよね……」

「なんの。拙者もヒルダ殿と同じ立場だったことがあるので、気持ちはよくわかるでござる」


 八重の言葉に俯いていたヒルダ姫が顔を上げる。


「冬夜殿が最初にユミナ殿と婚約したとき、拙者はただの仲間でしかなかった。自分の気持ちを伝えることもなく、胸の奥にしまっていただけ。けれど、冬夜殿とユミナ殿はそんな拙者を受け入れてくれたのでござるよ」

「そうだったんですか……」

「だからヒルダ殿も同じく冬夜殿の婚約者になればいいのでござるよ」

「「はいぃ!?」」

 

 僕とヒルダ姫の声が被った。ちょっと待った! なんでそうなる!? ただでさえこないだスゥを迎えたばっかりなのに、七人目とか性急すぎない!?


「ちなみに冬夜殿の婚約者枠はあと3つでござる。冬夜殿のお嫁さんは9人と決まっているからして」

「9人!?」


 驚きのあまりヒルダ姫の声が上ずっている。それを持ち出すか!? その話、認めてないぞ僕は!


「相変わらずモテモテなのよ。お姉ちゃんも鼻が高いのよ」

「あのなあ!」


 横でヒューヒュー言い始めたバカ姉を睨む。完全に面白がっているだろ!


「つっ、つっ、つまり陛下のお嫁さんになれる人は、あと三人ってことですよね!? 愛人やお妾さんではなく! なります! 私、七人目になります!」

「ではあとで他のみんなにも紹介するでござる。心強い仲間ができて、拙者、嬉しいでござるよ」

「ありがとう、八重さん!」


 ガシィッ、と八重の手を握るヒルダ姫。ちょっと待った、いろいろなんかおかしい! なんでこっちの人たちは(特に女性!)相手の意見を聞かないんだよ! 僕の意思は無視かい!

 マズい。これはユミナやルーの時と同じ流れだ。このままでは成り行きで……! んん? 今さら、か?

 こちらの人たちには結婚というのは、好き合っている同士が、というだけではなく、家同士の繋がりを深めるため、という意味合いも持つ。だからなのか、愛情というものは結婚してから育てればいい、という考えもけっこう浸透している。特に上流階級はその傾向が深い。

 王家ともなればもう極めつけにその考えなのかもしれない。もちろん、嫌いな相手に嫁ぎたくはないだろうが。

 目の前で急に展開していく話。どこかで止めなければ、と思っていた僕より先に動いた者がいた。


「話は聞かせてもらったッ! その結婚、すんなり許すわけにはいかぬ!」

「お祖父様!?」

「また面倒なのが現れた気が……」


 どこからか先王陛下が現れ、「あいや待たれい!」とばかりに手を翳す。歌舞伎役者かあんたは。

 この流れは「孫が欲しくばワシを倒してからだ!」的な流れですか!? こっちにはそんな気はないんですけど……。


「騎士王国の姫が嫁ぐからにはそれなりの覚悟を示してもらおう! ワシと勝負じゃ!」


 ビンゴー。マジですか……。仕方ない、適当に負けるか。今のところ姫を嫁にもらう気はない。かわいいとは思うけど、まだなにも知らないし。でも歳をとったとはいえ、ゴールドランクの冒険者だしな。相手するのは大変かなー。


「この試練を受け、見事ワシを倒してみせよ! 勝負じゃ、()()()!」

「はい! お祖父様!」


 ………………アレ?









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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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