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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第20章 災い来たりて。
165/637

#165 天帝国の末路、そして新兵器。



 あれから数日が経った。全体的に今回の被害としては大破したフレームギアが36機、軽傷者が24人、重傷者が4人、死者が0人。

 死人が出なかったのはよかったが、いろいろと考えさせられる結果となった。

 ユーロンの首都は壊滅、数多くの町や村が地図上から消えた。もうちょっとうまく立ち回れたら、なんとかなったのではないかとも思う。


「それでこれからのユーロンはどうなるんですかね?」

「さあな。儂等はもう干渉せんでもいいだろう。もともと関係ないんだからな」


 会議室に並ぶ西方同盟の面々のうち、ミスミド国王が僕の質問に興味なさそうに答えた。


「しかしこれにより、ユーロンを巡って諸国の争いが始まったりはしませんか? ただでさえフレイズによりユーロンの人々が傷付いているというのに、この上戦争が始まったりでもしたら……」

「ハノックは元からユーロンとは一線を引きたがっていたのでその心配はない。魔王国ゼノアスも他国への不干渉を貫いているので問題なかろう。イーシェンに至っては内戦が近々起こりそうな雰囲気だし、ホルン王国は武力侵攻を是としない国だという」

「となると、フェルゼン、ノキア、ロードメア辺りがどう動くかだが……」


挿絵(By みてみん)


 ラミッシュ教皇の発した言葉にベルファスト国王とレグルス皇帝の二人が考え込む。


「たぶんその三国もしばらくは静観していると思うがな。考えてもみろ、あれだけの壊滅的な打撃を謎の存在によって起こされたのだ。そこを統治しようと思うか? もしあれが自分の国で起こったらと思うと背筋が凍るわい」


 確かにリーフリース皇王の言う通りかもしれない。また同じようなことが起こったら、と考えてしまうのは当然だとも言える。


「じゃあユーロンは今、統治者がいない状態なんですか?」

「いや、それがな。天帝には三人の息子がいたんだが、そのうち一人は首都にいたために天帝と運命を共にした。もう一人は別の都にいたのだが、これもフレイズに襲われ死んでいる。最後の一人が運良く生き残り、新たな天帝を名乗っているそうだ」


 リーニエ国王にベルファスト国王がユーロンの現状を語る。新天帝が出てきたのか。それならユーロンも再びまとまることができるかもしれないな。

 そう思った矢先、ベルファスト国王が苦虫を噛み潰したような顔をする。


「ところが、だ。この新天帝が言うには今回のユーロン壊滅はすべてブリュンヒルド公王、つまり、冬夜殿の仕業だと言いふらしているらしい」

「はあ!?」


 なにをどうしたらそうなる!? わけのわからない言いがかりに、唖然として開いた口が塞がらない。


「なんでも召喚術でフレイズを呼び出した冬夜殿が都や町を襲わせたと言うんだな。その証拠に前線となる砦をハノック側の国境に築きあげたと。それに冬夜殿がフレイズを呼び出すところを見たという者もいるとか。ユーロンの国民を大量虐殺して生贄にし、大規模な召喚術を使ったのを見たと。命からがら逃げてきた証人がいるらしい」


 なんっ、じゃそりゃ!? 捏造もいいところだろ! どこかのゴシップ記事じゃあるまいし、どこからそんな噂が出てきたんだ? 僕がフレイズを呼び出したのを見たってやつは誰だよ!?


「ずいぶん詳しいですね?」

「いや、向こうがな、書状をよこしてきたんだよ。今回のことは冬夜殿の自作自演であり、自分たちは被害者だと。今回のことは自国の軍事力を誇示し、西方同盟の主導権を握るために起こしたことだとな」

「あのような軍事力をそんなブリュンヒルドに持たせておくのは危険だ。取り上げて大国であるベルファストやレグルス、そしてユーロンが管理するのが一番だと、そうも書いてあったな」


 ベルファスト国王に次いで、レグルス皇帝も口を開く。そっちにも行ってるのか!?


「で、なんて返事を?」

「返事も何も。もしそれが本当だとしたら、とても敵うはずがない。ユーロンの首都を消してしまうほどの相手に対抗できようか。ブリュンヒルドにおとなしく降伏することにしよう、と」

「余の場合は、それが事実なら由々しきこと。この書状をブリュンヒルド公王に見せ、真偽のほどを確かめよう。公王は短気ゆえ、何かの間違いであった場合、貴国に怒鳴り込むかもしれないが、真実を明らかにするのは大国の務め。万事任されよ、と」


 二人ともヒデえ。なんだその丸投げ感。まあ、相手にするのも馬鹿らしいってのは共感するけどさあ。

 しかしなんだな……。こうなってくるとユーロンなんか知ったこっちゃないって気になってきたな……。

 いやいや、そこに住んでる人たちには何の罪もないんだ。一部の支配層のユーロン人がどうしようもないからって、全員が同じなわけはない……はずだ。


「とりあえずユーロンに関しては放置でいいんじゃないですかね? 国がああなっては、こちらになにかをする余裕もないでしょうし。我々はユーロンと国境を接しているわけでもないんですから」


 リーニエ国王の言うことももっともだ。すでにユーロンには以前ほどの国力も軍事力もない。ハノックを襲う恐れなどないので、国境沿いのあの砦は近々ハノックへ返還するつもりだ。

 ユーロンに関しては放置。決定。いかなる干渉もしないし、最低限の交流にとどめることにする。新天帝の行動は、西方諸国へ多大なる信頼度の低下を呼び起こした。まともな忠臣がいたら止めてたと思うんだがなあ。なんだろう、蛙の子は蛙って言葉が浮かぶな……。

 どっちにしろ、新天帝はこの二週間後に暗殺された。ユーロン国内で有力貴族による覇権争いが起きたらしい。あちらこちらで自分こそが真の天帝だと名を上げる者たちがいた。

 そんな戦火を避けて、かなりの数のユーロン国民が他国へ流れ、流浪の民となったという。

 ちなみにユーロンでは新天帝を暗殺したのも、僕がやったことになっているらしい。もうやだ、この国。





「それで、どうしたのだ?」

「どうもしないよ。言わせておけばいい。相手するだけ損だよ」

「ぶー。冬夜ならユーロンなんかちょちょいのちょいでやっつけられるだろうに」


 椅子に座る僕の膝の上でスゥがむくれた。そんなこと言われてもなあ。

 久しぶりにスゥが遊びに来たので相手をしていたが、ユーロンとの話を聞くと僕以上に腹を立て始めた。


「だいたい冬夜はユーロンを助けてやったのだろう? それがなんで非難されねばならん。ろくに調べもせんで自分たちの都合のいいことだけ並べ立てる。中身が空っぽの張子の虎のくせに、吠えるのだけは一人前じゃな!」

「まあ、これ以上厄介なことを増やしたくないし、放っておけばいいよ」

「それはいかんぞ。怒る時は怒る。こちらが本気だと示さねば舐められ続けるだけじゃ。「なあなあ」の関係は互いにいい結果を生まぬ。一度ガツンと殴らねば目を覚まさん愚か者もいるのだ」


 キツイこと言うなあ。これはあれか? 父親であるオルトリンデ公爵が外交官を務めているからだろうか。


「じゃあどうすればいいのさ?」

「そのユーロンの新天帝を名乗るやつらを片っ端から思い切りぶん殴って、説教してやるのじゃ。恥知らずなことはやめよ! とな」


 はい外交失敗ー。なんですか、そのガキ大将的な解決の仕方は。

 まあ、僕のために怒ってくれているんだからありがたいけど。まだぷんすかとしているスゥの頭を撫でる。


「ありがとう。でも本当に大丈夫だから」

「……冬夜は優しすぎるのじゃ。でもまあ、そこがいいところじゃが……。心配する身にもなれ」


 僕の方を向き直り、ぎゅうっとスゥが抱きついてくる。なんとなく嬉しくなって僕もスゥを抱きしめた。

 ふと顔を上げると、部屋の扉が少し開いていて、そこからティーセットを持ったシェスカが顔を覗かせていた。


「…………お茶をお持ちいたしまシた、ロリマスター」

「そこのメイド、ちょっと話そうか」


 違うぞ。断じて違う。この場合スゥに抱いているのは家族的な感情であって、そういうのじゃない。少なくともまだ今は。


「今さら隠し立てスることもないでしょウに。マスターの性癖はこのシェスカ、全て把握しておりまス。お気になさラず、どウぞご存分に」

「ちょっとここ来て座れ。説教する」

「調教ならば喜ンで」

「いいから来いっつうの!」


 それから小一時間エロメイドを説教した。説教中、顔を赤くして「もっと罵って下さイ」とか言い出したので、うんざりしてやめてやった。「焦らしプレイ…」とか、わけのわからんことを言うな。

 シェスカを置いて、城を出る。今日はスゥに婚約者としての指輪をプレゼントしたのだが、それだけではなく、バビロンを見せてあげようと思ったのだ。いつまでも仲間外れではかわいそうだし。一応固く口止めはしておいた。

 「ゲート」で転移しバビロンに着くと、そこから見える空の景色にスゥが目を見開いて感嘆の声を上げた。


「すごい! すごいすごいすごい! 空のお城じゃ! 天空の城は本当にあったんじゃ!」


 あの城とは違うけどな。滅びの呪文とかはないぞ。バビロンにそびえ立つ「城壁」の城を見て、スゥはさらに興奮している。


「オかえりなさイませ、マスター」

「ただいま、リオラ。ノエルは?」

「オ昼寝中です」


 またか。「塔」の管理者は暇さえあれば寝ている。ご飯の時しか起きてないんじゃないだろうか。


「冬夜、この者は?」

「この「城壁」の城の管理者、リオラだよ。あんまり下には降りてこないから、スゥとは初対面だったか」

「プレリオラと申します。リオラ、とお呼び下さい」


 ピンストライプのジャンパースカートの端を摘み、淑やかな仕種で挨拶をする。こういうところはバビロン姉妹の長女って感じがするよな。


「リオラ。で、例のシステムの話なんだけど」

「はイ。ロゼッタとも話したのですが、多分実用化できると思われます。しかし、まさか「サテライトオーブ」の技術をフレームギアに転用するとは思イませンでしたが」


 バビロン防衛システムのひとつ、「サテライトオーブ」。それは襲いくる敵をオリハルコン製の空飛ぶ球体が迎撃するという自動防衛システムだ。

 それに改良を施し、フレームギアに搭載させようと僕は考えていた。つまり遠隔操作の多数攻撃システムを作ろうというのだ。むろん、アイディアはあのアニメからだ。

 飛ばす物体は球体より剣のような形状にし、もちろん材質はフレイズのかけら(面倒なんで以降「晶材」と呼称する)で作るつもりだ。その程度の大きさなら「工房」で複製できる。

 問題はある程度の魔法の才が無いと操作できないってところだな。魔力量によっても活動時間が制限されるし。万人向けの武器ではないが、遠距離攻撃ができるのは大きなアドバンテージとなるだろう。

 この武器を仮に「フラガラッハ」と呼んでいたら、いつの間にか定着してしまった。まあ、いいけど。どうせ由来なんてこの世界の人にはわからないんだし。

 今のところ、現存機体の制御システムでは、いいところ4つを同時展開するのが精一杯らしい。

 やはり「蔵」にあるという新型の設計図が必要なのかもしれない……。ううむ。










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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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