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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第20章 災い来たりて。
163/637

#163 乱戦、そして上級種出現。



「っせぇのッ!!」


 すれ違いざまに核ごと飛行型フレイズをぶった斬る。そのまま飛んでくる二体目も同じように真っ二つ。

 三体目、四体目、と次々と飛んでくるフレイズたちを片っ端から斬り捨てていく。

 僕が飛行型を相手にしているその眼下を、フレイズの一群が土煙を上げながら駆け抜けて行った。あれはレインさんたちに任せるしかないな。僕の役目はまず飛行型を全滅させることだ。マンタのような中級種の飛行型がいなかったのはラッキーだった。

 「フライ」で空中を駆け抜け、向かってくる飛行型のフレイズたちを全て斬り終えると、すぐさま下降し、地上を行くフレイズたちに突撃する。巨大な中級種はスルーして、下級種を重点的に狩る。

 常にマップを表示しながら、フレイズの動きを把握しておく。一番遠くにいた群れもこちらへ向かって移動し始めた。通常の移動より何倍ものスピードでまっすぐこっちへ向かってくる。


「そろそろA地点で戦闘が始まるな。早いとこB地点へ向かわないと」


 このままではユーロン中の全フレイズがレインさんたちの方へ行ってしまう。

 「ゲート」を開き、B地点で待機中の八重たちのところへ出る。ミスミドとラミッシュの連合軍が僕を迎える。


《これからここへフレイズを呼び寄せる。各自散開、戦闘に備えよ》

《御意》


 琥珀に念話を送る。八重を通してここにいるみんなに伝わるはずだ。それぞれのフレームギアが武器を振り回しても邪魔にならない距離を取り始めるのを見ながら、懐から取り出したプレパラートをパキンと砕く。

 A地点へ向かっていたフレイズのうち、B地点に近い群れから分岐し、全体の半分ほどがこちらへ向かってくる。飛行型はすでにいないので、だいたい同じ速度でこちらへ向かってきていた。


「検索。現在のフレイズの数を表示」

『了解。……検索終了。12017体でス』


 表示された数が12016、12015、と次々と減っていく。A地点で戦闘が開始されたのだ。っていうか、確か最初に検索した時は13000ちょいくらいだったよな? エンデのやつ、一人で千体も倒したのか……。

 「フライ」で飛び上がり、八重の機体の肩に立つ。


「あと数分すると、ここへフレイズの一群がやってくる。あとは頼んだ」

『わかったでござる。任されよ』


 再び「ゲート」を開き、今度はC地点のエルゼのところへ向かう。

 真紅の機体に透明色のガントレットをつけたエルゼ機に、頼まれて作った水晶のパイプレンチを持った朱色のモニカ機、そしてベースカラーの黒騎士であるニコラ機が僕を出迎える。


《A地点ではすでに戦闘開始。B地点でもすぐに開始する。ここへも残りを呼び寄せるぞ》

《御意》

《了解よ〜ん》


 珊瑚と黒曜の返事を聞きながら、三たびプレパラートを割る。B地点へ向かっていた何割ががこちらへ向かって方向転換を始めた。


「うーん……思ったように分散はされなかったなあ」


 プレパラートを割るタイミングが悪かったのか、綺麗に三分割とはいかなかったようだ。

 マップを見る限りではそれぞれの地点へ向かっているのは、A地点に5割、B地点に3割、C地点に2割といった分散の割合だった。


「このままだとレインさんたちの負担が大きいな……」


 こちらへ向かっている数の少ない、このC地点からA地点へ、何機か送ることにする。

 モニカ機の肩に立ち、声を上げる。


「モニカとブリュンヒルド騎士団から20機をA地点へと送る。後ろの方へ送るけど、すでにあちらは戦闘を開始しているので気をつけて」

『へっ、腕が鳴るゼ。大丈夫だ、マスター。やってくれ』


 「ゲート」を開き、僕もモニカ機や他の機体ごとA地点へと転移する。到着したA地点ではすでに激しい戦いが繰り広げられていた。

 群がる下級種を蹴りつけ、武器で薙ぎ払いながら、迫り来る中級種に向けて攻撃を放つ。数のせいか少し押されている感じがする。


「行くぞッ!」


 モニカ機の肩から飛び出し、一体のフレームギアに飛びかかろうとしていた下級種を斬り捨てる。それに続けとばかりに転移させた増援がモニカ機を先頭に突っ込んできた。


『どけどけぇ!』


 モニカ機の振り下ろすパイプレンチが、重騎士と斬り合っていた中級種の胴体へと叩き込まれる。粉々になって崩れ落ちた中級種から、転がり出た核をバキャッ! と踏み潰し、そのまま周囲の下級種たちを力任せに蹴り付けていった。

 僕も間違って蹴り付けられないように、フレームギアと距離をとりつつ下級種を片付けていく。横に浮かぶマップのフレイズ表示数を見ると、10852となっていた。

 B地点でも戦闘が始まった。じきにC地点でも始まるだろう。今のうちに雑魚を片付けておかなければ。そんなことを考えていると、紅玉から念話が飛んできた。


《主。レグルス15番機大破。戦線離脱します》


 ッ!? マップ検索をして、その場所へ向かう。そこには右腕を肩から切り落とされ、左足首を破壊された重騎士が転がっていた。頭部も半分ひしゃげている。

 一応確認のために近づいて胸部ハッチを開ける。中には誰もいなかった。どうやらちゃんと本陣へ転移されたようだな。

 壊れたフレームギアを「ストレージ」へと収納する。と、また念話が届いた。


《マスター! レグルス15番機戦線復帰できるでありまス!》

《操縦者の状態は?》

《問題なし。本人もやれると申しているでありまス》

《わかった。転送陣で待機させといてくれ》


 本陣のケルベロスを通して届いたロゼッタの声に安心する。どうやら乗り手は無事なようだ。

 「ゲート」を開き、本陣にある転送陣の上の重騎士を、再びこの戦場へ呼び寄せる。

 現れた予備機体の重騎士は先ほど回収したやつとなにからなにまで同じだったが、肩の塗装が違っていた。左肩には書きなぐったような字で「15」と紫のペンキで塗られ、右肩にはその紫のペンキがぶちまけられていた。

 状況が状況だし、個体識別さえできればこの際見栄えなんか関係ない。

 レグルス15番機は僕に小さく頭を下げると、すぐさま戦線へと戻っていった。

 やがて中級種が全て倒され、下級種の掃討戦が始まる。基本的に下級種はフレームギアが人間サイズだとすれば中型犬くらいだ。武器を振り回すたびに多くのフレイズが粉々に砕かれていく。


《次の群れは約5分後に到着する。今のうちに休める者は休んでおけ》

《了解》


 レインさんと共にいる紅玉にそう告げて、今度はC地点へと「ゲート」を開き、現場へと向かう。

 他の場所よりも数が少ないC地点の敵を率先して倒し、ここの戦力を他の地点へ回せれば、と思ったのだ。

 C地点でも戦いが始まっていた。やはり下級種を蹴散らしながら、中級種を何体かのフレームギアで追い詰めていく。

 僕もその混戦の中へ飛び込み、主に下級種を次々と斬りつけていく。斬っても斬っても続々と湧いてくるな……。


《主。ラミッシュ11号機が大破》


 頭の中に琥珀の声が響く。B地点か。忙しいなあ! もう! C地点に来たばかりだってのに。

 B地点へ飛び、壊れた重騎士を回収、再びラミッシュ11号機を戦場へと送り出す。

 ちら、とフレイズ表示数を確認すると9243まで減っていた。10000以下に減ったか。

 ここからが正念場だな。




 斬って斬って斬りまくる。戦場の空を駆け抜け、次から次へと群がるフレイズを砕いていく。

 その間にも大破した機体を回収し、予備機に乗り換えた者を再び戦場へと送る。

 幸いまだ死者は出ていないが、フレイズに一撃をくらい、倒れ込んだ衝撃で脳震盪を起こした者や、同じようにコクピット付近を攻撃されて、負傷した者などがかなり出ていた。本陣の方で手当てをしているが、少しずつこちらも数が減っているのも確かだ。

 さすがに一人で50体を相手しなけりゃならないと、みんなに疲れが見えてきていた。大破する者も増えてきている。

 マップを確認すると、まだまだ三地点へ向かっているフレイズたちがいる。数はもう5000を切ったが、こちらもいろいろと限界が近い。


『はあッ!!』

 

 エルゼの拳が中級種のボディを砕き、飛び出した核を振り抜いた足で木っ端微塵にする。その横ではリーフリースの騎士団長さんの槍が(各国の隊長、副隊長にはフレイズの武器を持たせている)見事に他の中級種を核ごと串刺しにしていた。

 そのリーフリース隊長機の肩に乗り、声をかける。


「すいません、ここはもうだいぶ減ってきたので、リーフリース騎士団はB地点へ転移させます」

『わかりました。少々お待ちを』


 外部スピーカーから聞こえてきた声が途切れると、周りのリーフリース騎士団の機体がこちらへ歩み寄ってきた。

 全部で17機のフレームギアをB地点後方へと転移させる。僕も隊長機の肩に乗ったまま一緒に転移した。

 B地点ではミスミドとラミッシュ、そしてブリュンヒルドの連合軍がフレイズを相手に壮絶な戦いを繰り広げていた。そこにさらにリーフリースが参戦する。

 撃ち出される水晶の矢を盾で受け止め、重騎士が勢いをつけた戦棍メイスを叩きつける。一撃ではヒビが入る程度だったが、続けざまに他の重騎士達からも戦棍メイスの雨が相手に降り注ぐ。客観的に見ると集団でボコっているのだが、この場合仕方が無い。油断すれば自分がやられるのだ。

 その間も下級種の群れが次々と飛びかかっていく。それを武器で打ち落としながら、倒れたフレイズの核を丁寧に砕く重騎士たち。

 倒し方にも慣れが出てきたようだが、その分疲労が溜まってきているように見えた。動きがどことなく鈍くなっているように感じる。

 

「あれ?」


 向こうの方ですごい速さで戦場を駆け抜ける赤い機体が見えた。エルゼじゃない。エルゼがいるのはC地点で、ここはB地点だ。と、するとエンデか。

 てっきり戦闘が始まったらさっさと姿をくらますと思っていたんだけどな。意外と義理堅いんだろうか。

 両手に構えた双剣を乱舞して、瞬く間に次々とフレイズたちを屠っていく。あのスピードで正確にフレイズの核を狙って、突き、払い、斬りつけていた。まさに無双状態だな。

 エンデの方へ向かって飛んで行くと、胸部ハッチを開けてエンデが顔を出した。


「やあ、冬夜。そろそろ僕はお暇しようと思うんだけどいいかな?」

「もうちょっと手伝ってくれると助かるんだけど」

「いやいや、ちょっと事情があってね。時間的に無理なんだよ。その代わり忠告をひとつ」


 イタズラっぽく笑みを浮かべ、エンデが指を一本立てる。忠告? なんだろう?


「「上級種」がちょうどここから北西の方にだいたい五分後に出現する。みんなを一旦下げた方がいいよ」

「なッ…!?」


 上級種!? フレイズのか!?


「なんで!?」

「多分これだけの数が結界を抜けたせいで、一時的に綻びが大きくなったんだと思う。おそらくそこから一体だけ抜けたあとに綻びも元の大きさに戻るだろうから、そのあとはそんなに心配しないでも大丈夫だと思うけど」


 心配しないでも大丈夫って……! そんなわけないだろ!


「ま、とにかく気をつけて。じゃね」

「あ、おい!?」


 すうっ、と幽霊が消えるように目の前から竜騎士と共にエンデが消えた。やっぱりあいつ、転移系の魔法も使えるのか。って、それどころじゃない!


《琥珀! 北西にいる全員をそこから退避させろ! 上級種が五分後に出現するらしい! 急げ!》

《ッ!? わ、わかりました!》


 通信が伝わったのか、北西にいたフレームギアが次々と退避していく。その間にも周りのフレイズたちを砕きつつ、マップのフレイズ表示数を見ると2517まで下がっていた。もうちょっとだってのに!

 すでに三時間近くも戦って、みんなの疲労もピークに達している。この状態で上級種とか相手にできるのか?

 不意に大気を震わせるような振動音が鳴り響いた。ビリビリとする空気の震えの中で、目の前の空にヒビが入っていく。

 空、というより空間に亀裂が入っているのだろう。それは瞬く間に広がり、一部がパキンと割れて、そこから巨大な鍵爪が現れる。

 握り潰すようにバキバキと空を砕き、その奥に見える歪んだ空間から、その巨体がこちらの世界へと姿を現す。

 その姿を例えるならワニ、か。しかし、ワニは六本足じゃないし、頭部にあんなに長い角も持ってはいない。長い尻尾の先に突起物もなければ、背中にあんな背ビレもないはずだ。

 今までのフレイズのように、水晶のようなボディは同じだが、下級、中級種がシンプルなボディラインだったのに対し、この上級種は複雑な構造をしている。ギザギザの荒いラインで刻まれた水晶のボディの中に、三つの赤い核が透けて見えた。

 一言で言い表すなら怪獣だ。大きさも半端ない。中級種よりも遥かにデカく、フレームギアが小さく見える。例えが悪いと思うが、あれが実際のワニの大きさだったら、その横に144分の1のプラモデルロボットを並べるとしっくりくる。それくらいの比率なのだ。


「デカ過ぎるだろ……オイ………」


 思わずごくりと喉が鳴った。こいつを倒せっていうのかよ。

 呆然としていると、水晶のワニがガパアッ、とそのあぎとを大きく開いた。喉の奥にある核に光が集まり出し、次第にその強さが増していく。マズい! あの光はマンタ型の時と同じ……!


《琥珀! あいつの口の前面にいるみんなを退避させろ!》

《え?》


 叫ぶがダメだ、間に合わない!


「くっ!」


 「ゲート」を使い、無理やりその位置にいたフレームギア数体を地面に落とした。そして彼らを僕の後方へと転移させた瞬間、轟音が鳴り響き、光の奔流がワニの口から撃ち出される。

 ドガガガガガガガガガガガガガガガァッ!! と地面を抉りながら光は彼方まで一直線に走り、消えていった。気がつくと、射線上全てのものが消え失せていた。

 なんて威力だよ……。アニメとかで見た「荷電粒子砲」みたいだ。生み出すのは電気なんかじゃないないんだろうけど。

 チャージに時間がかかるのはマンタの時と同じようだが、威力がケタ違いだ。あんなのが直撃したら大破どころか何も残さず消滅してしまう。

 ……これが、上級種。









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