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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第20章 災い来たりて。
161/637

#161 緊急会議、そして同盟国参加。




「なるほど。フレイズ、か。そんな魔物が相手では冬夜殿がフレームギアを作ったのも頷ける」


 ギッ、とベルファスト国王が椅子にもたれる。正確にはフレームギアは僕が作ったわけではないが。

 僕の他にこの場にいるのは西方同盟の君主たち。ベルファスト国王、レグルス皇帝、リーフリース皇王、ミスミド国王、ラミッシュ教皇、リーニエ新国王の六人。六国の代表だ。

 王様たちにはまずフレイズのことを話した。古代王国を滅ぼした異界からの侵略者。そして今それが再びユーロンで起ころうとしている事。フレイズの「王」のことや、バビロンのことは話してない。フレームギアは僕が古代遺跡で発見し、修復、複製製造した、みたいな話になってる。まあ、概ね間違ってはいないが。


「その、フレイズってやつですか? そんなに手強いんですか?」

「実はうちの国にも出現している。一匹だけだがな。魔法が通じず、とても硬く、おまけに再生能力まで持っていたそうだ」


 おずおずと手を上げたリーニエ新国王にミスミドの獣王が答える。リーンが倒したヘビ型のヤツのことだな。


「そんなのが1万もユーロンに出現したのか……。冬夜殿、これは一時的なものか? それともこれからこういったことが続くのか?」

「今回の場合はかなり稀なケースのようです。ですが、これから数は少なくてもちらほらと現れるかもしれません。何かの拍子に、また今回のような大襲来がある可能性もあります。……すいません、はっきりとしたことはわからないんです」

「そうか……。いや、気にしないでくれ」


 レグルス皇帝は小さく笑うと口を閉じた。僕はフレイズの専門家ってわけじゃない。けれど、この世界でエンデを除けばフレイズの事を一番知っているのはたぶん僕だ。


「正直、皆さんの国にも出現することがあるかもしれません。それを踏まえた上でこれを見てください」


 会議室の壁に映像が浮かぶ。先ほどユーロンに飛ばした召喚獣の鳥に、スマホを持たせて撮影した動画だ。

 フレイズの大軍が村を襲い、人々を無慈悲に惨殺していく映像が上空視点で流れていく。そこには一切の容赦がなく、まるで作業のように、逃げ惑う人たちを殺していく殺戮者の姿があった。六人の王たちは額に汗を浮かべながら、それでも映像から目を離すことなくフレイズたちを凝視していた。


「これが、フレイズ……」

「これはリアルタイム……あー、現在起こっていることではありません。一時間前の出来事です。フレイズたちはこの村を滅ぼすと、次の村を目指して進軍を開始したらしいです」


 帰ってきた鳥からスマホを受け取り、映像を見た時はなんともやるせない気持ちになった。フレイズを撮影するだけでよかったのだが、まさか村を襲撃するシーンを撮ってくるとは。助けられたかもしれない人たちを思うと心が痛んだが、あえてこの映像を国王たちの前で流した。

 危機感を持ってほしいということもあったが、想像してほしかったのだ。もし、これが自分の国で起きたらどう思うか、と。


「ユーロンの首都はどうなっている?」


 リーフリース皇王の質問を受けて、フレイズたちの映像からマップ表示に切り替える。小さな赤い光が動き回っていた。おそらく人間の住む村や町に向かって移動しているのだろう。

 すでに首都は赤く染まりつつあった。


「なんとか抵抗しているみたいですが、陥落するのは時間の問題でしょうね。フレイズの目的は人間を殺すことです。この都中の人間を一人残らず皆殺しにするまでここから動くことはないでしょう」

「なんてこと……」


 ラミッシュ教皇が口を押さえて慄く。フレイズは人間を殺すためだけに街を襲っている。そこにいる人間を皆殺しにし、それを終えたら次の人間を探しにどこかへ向かう。まるで穀物を荒らし、次から次へと飛んでいくいなごのように。


「冬夜さん、そこの……天都の右下の方……そこらのフレイズが少しずつ消えていっているみたいですが……?」

「え?」


 リーニエ新国王に指摘されたところを見てみると、確かに光が少しずつ消えていっている。これは……あ、エンデか!


「実は協力者がいまして、その者にフレームギアを提供しました。おそらくその者が戦っているのだと思います」

「なるほど。フレームギアは充分対抗手段になり得るということか」


 エンデ自身の力もあるだろうが、ベルファスト国王が言うとおり、そこが今回の会議のメインだ。僕は話の核心を口にするため、一拍、間を開けた。


「ブリュンヒルドはフレームギアをもってこれよりフレイズの殲滅戦を行います。つきましては西方同盟各国には、これを承認していただきたい」

「ちょ、待て! あれ全部相手にするってのか!?」


 獣王陛下が驚くのも無理はない。うちの騎士団や、ユミナたち、フレームギアを乗りこなせる者をかき集めてもおそらく百人に満たない。計算上は一人百体以上倒せば殲滅できるが、それでも無謀と言えるだろう。


「一応、フレームギアには緊急脱出の魔法をかけておきます。機体が大破された場合、搭乗者が特定の場所へ転移されます。むろん、コクピットを潰されたなど、即死だった場合はどうしようもありませんが……」


 幸い、機体だけは今まで量産してきたおかげでそれなりにある。最悪、大破したら次々と乗り換えて、対処するしかない。

 と、教皇が小さく手を上げる。


「冬夜様、ひとつ質問が。このフレイズという魔物は、「あの方」にとっても敵でしょうか?」

「……敵かどうかはわかりません。知らないと言ってましたし。しかし、これもまた、「あの方」が干渉してくることはないでしょう。これは我々の問題ですから」

「なんの話だ?」


 僕らの話が理解できないリーフリース皇王が首を傾げる。まさか「あの方」=神様とは思うまい。


「わかりました。我がラミッシュ教国もブリュンヒルド公国と共に戦いましょう。幸い、冬夜様の貸していただいた魔法道具フレームユニットで、聖騎士団の何名かはそのフレームギアを乗りこなせると思います」

「え?」


 ラミッシュの聖騎士団も参加するの? いや、助かるっちゃ助かるけど、いいのか? 危険だぞ?

 それを見て今度はミスミド国王が手を挙げる。


「おっと、そういうことならミスミドも力を貸すぞ。こんな面白いこと放っておけるかよ」

「ベルファスト王国ももちろん参加する」

「レグルスも同じく」

「リーフリースもだ」

「り、リーニエも、です!」

「あの、皆さん分かってます? 危険な相手なんですよ? なんでわざわざ……」


 僕が一応そう注意すると「お前が言うな」と声を揃えて返された。ごもっとも。

 しかし、僕が言うのもなんだが、こんなことをしても危険なだけで、何もメリットは無いように思えるんだが。僕が素直にそう言うと、ベルファスト国王がその疑問に答えてくれた。


「理由はいくつかある。まず、ひとつめに、これだけの打撃を受けたのでは、おそらくユーロンは元のような勢力を保てず、諸外国に頼ることになるだろうということ。恩を売っておくにこしたことはない。ふたつめに、フレイズとの戦いを自国の騎士団に経験させておきたいということ。いつ自分の国がユーロンと同じ目に合うかわからないからな。みっつめはブリュンヒルド、というか、冬夜殿を守るためだな。この国の技術や文化は素晴らしい。万が一こんなことで冬夜殿が死にでもしたら、それを学ぶ機会も失われ、国としては大きな損害となりかねん。まあ、そんなところか」


 なるほど。ちゃっかりしてると言うかなんと言うか。確かにユーロンはこの戦いがおさまっても厳しいことになりそうだ。首都の天帝だって生きているかわからないし。

 まあ、僕としては命を狙われたわけだし? 生きていようと死んでいようとあまり関心が無い。生きてたら助けるし、死んでたら残念です、で終わりだ。なるべく助ける方向で動くけどさ。


「問題は、事がおさまったあとだな……」

「弱ったユーロンを狙って隣国が動くと?」

「あり得ない話ではあるまい? しかしこうなると、ハノックとの間にあるブリュンヒルドの領地は、かなり役に立つな」


 ユーロンとの隣国は今現在、ひぃ、ふぅ、みぃ……六ヶ国か。イーシェンも入れたら七ヶ国にもなる。


 西にハノック王国。北に魔王国ゼノアス。東にノキア王国と海を挟んで神国イーシェン。南にホルン王国とフェルゼン王国、そして川を挟んでロードメア連邦だ。


挿絵(By みてみん)


 これだけの国に囲まれた大国が揺らいだ時、いったいどうなってしまうのか、予想だにできない。

 しかし今は目の前の問題を解決せねば。


「では協力していただけると言う事で、それぞれの国に、指揮官用の黒騎士を2機、重騎士を18機の計20機を貸し出します。搭乗者を選出しておいてください。ブリュンヒルド側からは90機、西方同盟からは合計120機、全210機で事に臨みます」

「10000対210……一機で50体近く倒さなくてはならないわけか。これだけだととても勝てそうに無いが、なにか策はあるのかね?」

「現在、フレイズには下級種と中級種が確認されています。フレームギアならこの下級種にはほとんど手こずることなく倒せると思います。───検索。中級種は何体いる? 青い光で表示」


 映し出されているマップ上の赤い光が、何割か青い光へと変化する。


『検索開始。……終了。表示しまス。中級種は1035体でス』

「約1割か。一機で五匹倒せばいいところまで下がったな。それならなんとかなるか?」


 リーフリース皇王が禿頭をぺちぺち叩きながら画面を見入る。


「実際はわらわらとやってくる下級種を蹴散らしながら、ですから、そう簡単ではないでしょうが。それとひとつ作戦があります」


 前置きして作戦の説明を始める。と、言っても難しい作戦ではない。エンデからもらった「王」の音を使い、フレイズたちを分断、三つの方向へ誘導する。

 三つのうち、一つのグループがフレイズを壊滅させたなら、すぐさま僕がそのグループを転移魔法で他のグループへ分散して送る。常に戦力のバランスをとろうというのだ。


「ちょっと待って下さい。では冬夜様は今回フレームギアに乗らないということですか?」

「はい。僕は戦場を飛び回り、その都度みんなのカバーをして、支援に回ろうと思います」


 ラミッシュ教皇の質問に僕が考えていたことを述べる。おそらく今回はその方がいい。いつどこで思いがけないトラブルが起こるとも限らない。その対処のため、僕は自由に動ける位置にいた方がいいだろう。


「確かに分断した三つの戦場の、どこが有利でどこが不利かを見極め、戦力をあちらこちらに回すのは冬夜殿じゃないとできんか……」

「はい。僕なら生身でもなんとかフレイズとも渡り合えますし」

「それもなんか釈然としないがな……。冬夜殿にフレームギアって必要あるのか?」

「倒せるといっても生身じゃやっぱり時間がかかりますよ。サクッと倒すならフレームギアの方が楽です」


 そう皇王陛下に答えながら、時間がないので会議はここまでということにした。こうしている間にもユーロンは危機に瀕しているのだ。急がねば。


「一時間後に迎えに行きます。それまでに事情説明と、フレームギアの搭乗者の選出を終えておいてください」


 「ゲート」を開き、国王たちとお供の騎士たちをそれぞれの国へ送り出す。

 時間がない。こちらはこちらでやることがいっぱいある。とにかくやれることはギリギリまでやってみよう。



 








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