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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第20章 災い来たりて。
160/637

#160 共鳴音、そして竜騎士譲渡。





 一瞬、どうすればいいのか頭が真っ白になった。それほどの数がマップを埋め尽くしているのだ。


「確認できるフレイズの数は何体だ?」

『……13169体でス』


 さっきの百倍以上か。どうする? 倒すだけなら時間をかければ可能かもしれない。だけどこうしている間にもどんどんユーロンの人たちが殺されていっているはずだ。僕とは関係ないといえば関係ないんだが……。


「くっ……どうすれば……!」

「ああ、やっぱり冬夜だったのか」


 背後から聞き覚えのある声をかけられて振り向くと、そこには白髪の少年が立っていた。


「エンデ……!」

「たくさんのフレイズの「音」が消えたからさ。ちょっと気になって来てみたんだけど。そっか、冬夜が倒したんだね」


 にこにこと相変わらずの黒いジャケットと黒いズボン、そして白いマフラーといったスタイルでこちらに歩いてくる。そして僕の後方に立つ白騎士シャインカウントを珍しそうに見上げた。


「すごいね、これ。冬夜が作ったの? ちょっと乗せてもらえないかなあ」

「あ、いや、僕が作ったわけじゃないんだけど……。ってそれより! なんでこんなにフレイズが出現してるんだ!? なにか知ってるのか!?」

「知ってるもなにも……。冬夜も知ってるだろ? 結界が綻びたんだよ」


 結界。世界を隔てているというアレか。それが破られたっていうのか。そこからこれだけのフレイズが溢れ出した……。


「結界はもう役に立たないっていうのか?」

「そんなことはないよ。今回のはどっちかっていうと、たまたまだね。偶然、結界の緩んだところにストンとフレイズたちが落ちたって感じかな。完全に結界が破れたわけじゃない」


 ってことはこちらにやって来たこいつらをなんとかすれば、とりあえず安心ってことか。なんとかできるか怪しいが……。でも、やるしかないよな。


「あいつらを一気に倒す方法ってないのか?」

「うーん、一気に倒すってのは無理なんじゃないかな。気を引くことぐらいはできるかもしれないけど」

「どうやって?」

「「王の声」を聞かせてやればいいのさ」


 「王の声」? それってあれか? あいつらが探している、フレイズの「王」のことか?


「フレイズの「核」はほんのわずかに「音」を出しているんだ。これは固有に違う音の波で、「王」の核もそれは例外じゃない。だけど、この世界の知的生命体の内部に潜り込んでいる「王」の核は、この音を巧みに寄生者の心音の陰に隠しているんだ。じゃあ、もしこの「音」を発することができたとしたら?」

「フレイズがみんなそっちに向かって来る……」

「正解」


 偽物の「王」の音でフレイズたちを誘導できるっていうのか。

 確かにそれができれば全てのフレイズをこちらへ向かわせることができる。問題は1万以上ものフレイズを僕らが相手できるかだが……。

 幸い、あいつらはバラバラに出現した近くの人間、つまり、町や村を目指して動いている。そいつらがこちらへ向かってきてもバラつきがあるから、1万全部と同時に戦うことはないだろう。もちろん倒すのに手間取ればどんどん相手が増えていくことになるだろうが……。


「……本当にそんなことができるのか?」

「できるよ。僕は「王」の共鳴音を封じた物を持っているからね。その「音」を封じ込めたものがコレ」


 ピッ、とエンデは人差し指と中指で細長い薄いガラスのようなものを出した。理科の実験で使うプレパラートのようなものだ。


「コレはいろんなものを収納・保存しておける僕の倉庫のようなものなんだ。大きなものから、「音」のようなものまで保存できるんで便利でね。コレを使えば「王」の共鳴音が鳴り響き、フレイズたちはそれを捉えて、すぐにそこを目指すだろう」


 そんなものを持ってたのか。道理でいつも身軽だな、と……っていうかこいつは本当に何者なんだろう。フレイズの仲間ではないというけれど……。

 プレパラートに手を伸ばそうとするとスッ、と引かれた。あれ? くれるんじゃないの?


「タダじゃあ、やれないなあ」


 ニヤリとした顔でエンデが告げる。こんにゃろ……。


「なにが望みだ?」

「僕もあれが欲しい」


 そう言ってフレームギアを指差す。ええー。うぐぐ。どうしようか。目をキラキラさせてやがる。子供か。


「……変なことに使うんじゃないだろうな?」

「使わない使わない。信用してよ」


 フレームギアには緊急停止魔法が組み込まれているから、僕らに対して攻撃することはできないし、よくわからないが、エンデ自身はフレイズと敵対しているようだ。完全に僕らの味方とも言えないけど、敵には回らないんじゃないかと思う。しかし、渡してしまっていいものだろうか?

 でも、渡さないとあの「王」の音が封じ込められているプレパラートが手に入らないし。だいたいもうそんな状況じゃないしな。使えるやつは何だって使わないとこの窮地を乗り越えられない。でも一応釘は差しとこう。

 

「どこかの国に売るとか、誰かにあげるとか、盗賊に盗まれるとかされると困るんだけど」

「売らないし、あげないし、盗ませない。僕の愛機として大切にすると約束するからさ。頼むよ、冬夜〜。あ、なんならここらへんのフレイズをならし運転のついで退治するよ?」


 なんだろうな、簡単に操縦できるような口ぶりだけど。でもこいつなら簡単にできそうな気がする……。こいつはいろいろと規格外だからな。くそっ、天才め。

 何回か顔を合わせているからか、悪い奴とは思えないんだけど。直感だけどさ。ここにユミナがいたらな。

 あと、正直フレイズを倒してくれるのは時間稼ぎになるし助かる。

 「ゲート」を開き、バビロンの「格納庫」から赤いボディカラーの竜騎士ドラグーンを呼び出す。


「高機動用フレームギア、竜騎士ドラグーンだ」

「うはー、赤いね! 悪くない」


 この機体は高機動用の機体で、乗りこなすのが難しい。どっちみち僕以外の乗り手がいなかったので、この際だから押し付けてやろうと思ったのは秘密だ。

 エンデは僕にポイッとプレパラートを渡すと、さっそく竜騎士へとよじ登り、胸部ハッチを開けて中へ乗り込んだ。

 エンデは難なく機体を起動させて、あっさりと竜騎士が歩き始めた。しばらく歩いたり走ったり、腕を上げたり下げたりをしていたが、やがて踵の車輪を下ろした高機動モードで見事な動きをして見せた。

 おいおい、僕より上手くないか?


「動かしやすいね、これ。気に入ったよ」

「……それは、よかった、ね」


 ハッチから降りて来たエンデに対して、僕は引きつった笑いを浮かべて答えるしかなかった。おのれ、天才め。


「こいつ、武器とかないの?」

「あー……、そっか用意して無かったな」


 竜騎士はパワーがあまりないため、超重武器を扱うのに向いてない。そのうちフレイズのかけらで武器を作ろうと思ってたんだっけ。

 ちょうどいいや、材料はここに山ほどあるし、作っちゃえ。

 転がっているフレイズの刃腕を「モデリング」で変形させて、その曲線をそのまま利用し二振りの小太刀を作りあげた。ついでに鞘も作り、竜騎士の背中に取り付ける。


「よし、じゃあ約束通りフレイズを退治してくるよ」

「ちょい待ち! これの使い方を教えてから行ってくれ!」


 僕は受け取ったプレパラートを竜騎士によじ登ろうとしていたエンデにかざす。


「それを割れば音が鳴り響くよ。ちなみにその音は機械や魔法で複製することはできないから、一回きりしか使えないよー」

 

 そうなのか。スマホに録音して再利用できないかと思ってたんだが、そんな都合良くはいかないか。

 と、思っていたらエンデがさらに二つのプレパラートを投げてきた。


「同じやつをもう二つあげるよ。違う場所で時間差をつけて使えば、あいつらを分散することもできるだろ」


 そのままエンデは竜騎士に乗り込むと、高機動モードで滑るように去っていった。あいつなら一人でもフレイズをそこそこ片付けてくれそうだ。できれば全部倒してほしいところだが。

 赤い機体だからか強そうな感じがするしな。次に会うとき仮面とかつけてたら笑うんだが。

 っといかん。くだらないこと考えてないで急がないと。やることがいっぱいある。






 とりあえず城に戻り、みんなに説明することにする。ユーロンでなにが起こったのか、フレイズという存在、世界の結界、フレームギアの作られた理由……。


「なんつーか……話がでかすぎるぜ」


 説明を聞いた山県のおっさんが息を吐く。隣に座る馬場の爺さんも腕を組み、難しい顔をしていた。


「信じられないかもしれないけど……」

「いえ、おそらく真実なのでしょう。異界からの魔物、このままではいずれ古代王国滅亡と同じ悲劇が繰り返されることも」


 高坂さんはあのユーロン国境の城壁で立ち昇る煙を見ているからか、あっさりと信じてくれた。


「これから先、どうするかはとりあえず置いておいて。まず、今も行われているユーロンでの殺戮をどうするかです。陛下としてはユーロンの国民たちを救いたい、と?」

「できれば……フレイズに対抗できる手段を持っているのは今のところ僕たちだけなんだし……」

「私は反対です」


 きっぱりと高坂さんが言い切った。それはユーロンの人たちに死ねと言っている事と同じだぞ。彼らにはおそらくフレイズに対抗する手段が無い。魔法や知恵を駆使すればある程度の戦果は望めるかもしれない。しかし、とてもあの大群に勝てるとは思えない。


「自国が襲われたのなら戦いましょう。しかし、友好国でもない、どちらかといえば敵対国、そこに乗り込んでいって命をかけてまで戦う必要があるのでしょうか?」

「だけどこのままじゃユーロンだけじゃなくて、他の国にも被害が拡大していくよ? もう国がどうこうと言っている状況じゃないんだ。それに今この時だってどんどん人が襲われているんだ。救える力があるのに何もしないのか?」

「陛下のお優しいお心は素晴らしいと思います。しかし……」

「高坂よう」


 なおも食い下がろうとする高坂さんにそれまで黙っていた馬場の爺さんが口を開いた。


「うちらの王様がそういうヤツだってのは儂等が一番知ってるだろ。だから敵だった武田さえも救ってくれたんじゃねぇのか?」

「…………あの時とは立場が違う。一国を背負う者として……」

「そこが間違ってんだよ。こいつが国を背負ってんじゃない。儂等が勝手にこいつの背中に乗ったんだ。振り落とされたって文句は言えねえ。嫌なら降りればいいだけだ。それ込みでこの国に来たんじゃねえのか?」

「…………確かに」


 高坂さんが大きく息を吐きながら折れた。と、いうより、ただ心配してくれてたんだろうけど。


「しかし事にのぞむに至って、我が国だけで行動するのは望ましくないと思います。西方同盟の君主の方々にも事情を話し、我が国がこの事変に介入することを宣言した方が良いでしょう」


 確かにきちんと事情は話しておいた方がいいな。これから他人事じゃなくなるかもしれないわけだし。無理に協力を仰ぐ気はないけど、いずれ自国を襲う事になるかもしれない敵を確認しておくのも無駄じゃないだろ。

 事は一刻を争う。いつもなら手紙でお伺いを立ててからお迎えに行くのだが、今回は直接王城の方へと行かせてもらおう。急がねば。








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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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