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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第20章 災い来たりて。
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#158 大転移、そして大長城。




 あの後、なんとかレントさんに納得してもらい、村長のところへ案内してもらうことになった。まあ、信じてもらえないのも仕方ないけどさ。

 基本、外出するときは動きやすい冒険者の格好だしな。まあ、煌びやかな衣装が苦手ってものあるけど。あんなん恥ずかしくて外歩けるか。

 なんとか村長と会って話をしたのだが、ここでもまた信じてもらえなかった。僕が王様であるか、とかではない。ユーロン軍がこの村に迫っているということを信じてもらえなかったのだ。

 そこで村長を「レビテーション」で浮かせ、「フライ」で現場まで連れて飛んで行った。

 上空から見ると、ユーロン軍が村の方へと向かっているのがよくわかる。けっこういるな。5000くらいか?

 その光景を見て村長がガタガタと震えているのは、これから襲われるかもしれない村のことを思ってか、それとも単純に高いところが怖いのか。

 一旦、地上に着地して「ゲート」で村長を村へと送る。他の村人達を説得してもらうように頼み、僕はもう一度フライを使って周辺を飛んで回った。

 マップを展開し観察してみると、こちらに向かって来ている奴らとは別に、向こうに本隊がいて、その後方にも別動隊がいる。こちらの方はおそらく 補給部隊だと思うが、かなりの数を投入してきているな。

 一方ハノック軍といえば、ユーロンの本隊とぶつかっている軍勢以外いない。マップを拡大していくとはるか後方に別の軍勢が見える。王都から慌てて出した増援だな。でもこの距離じゃ着くのは明後日になるぞ。それまで前線がもつかな……。

 さて、どうしたもんか。他国の戦争に介入するのにはなにか大義名分とかが必要かな。もちろんユーロン軍には丁重にお帰り願うわけだが、根本的な解決にはならないよな。また来るに違いないし。

 ここがブリュンヒルドだったらなあ。遠慮なくやらせてもらうんだが……。ん?

 そうか。その手があるか。僕は地上へ一旦降り、レグルス帝国の皇帝陛下のところへ「ゲート」を開いた。いきなり僕が行ってもハノック国王が会ってくれるかわからないからな。皇帝陛下に紹介してもらおう。





 レグルス皇帝陛下の後押しもあって、ハノック国王は僕の提案を飲んでくれた。どのみちこのままじゃハノック王国はユーロンのされるがままになってしまう。それならば、と決断してくれたのだ。

 よし、ちゃんと国王の直筆だし、これで問題ないぞ。もらった証明書を手にレグルス皇帝陛下とハノックの城を出る。


「しかし、とんでもないことを言い出したもんだな……」

「あくまで一時的なものですよ。安全が確保されたらもちろんこれは破棄します」


 呆れたような声を漏らす皇帝陛下にぴらぴらとハノック国王のサインと国印入りの証明書を見せる。


「まあ、冬夜殿が出てきたのならこの戦争も心配することはないな。我らも救援物資を送らないですむのはありがたいが」


 まあ、うまくいくかはわからないけど。とにかくやらせてもらうか。もう遠慮することもないからな。





「避難することがなくなった……ってどういうことです?」

「ハノックからユーロン兵を一人残らず追い出すからさ」


 村で待ち構えていたパオロさんにハノック国王からもらった証明書を見せる。わけのわからないままその文章を読むにつれ、パオロさんの目が見開かれていった。


「こっ、これっ、これ本当なんですか!?」

「本当だよ。ここにハノック国王のサインがあるだろ。ちゃんと国印も押してもらったし」


 横から覗きこんでいた椿さんも目を丸くする。


「よくハノック国王が許可されましたね……。でも、どうせこのままではユーロンに押さえられてしまうわけですし、それならば……」


 納得したような、でもやっぱり納得いかないような様子で椿さんが独りごちる。納得しろ。


「さて、と。椿さんは城へ戻って高坂さんや騎士団のみんなにこのことを伝えておいてくれ。僕はハノックに入り込んでるユーロン兵を一回全部追っ払うから」

「追っ払う、って……」


 呆然としているパオロさんを一応この村の守りとして置いて、「ゲート」で椿さんをブリュンヒルドへ送る。

 僕の方は「フライ」で一気に空を駆け抜け、ユーロンの帝都へと辿り着く。

 仮面の襲撃者のときから思っていた通り、何処と無くアジアンチックな街並みだな。あのでっかい建物が王宮かな。

 緋色の屋根瓦に白亜の壁、ところどころに金箔が施されている。さらに黄金の、なにか動物のような像が屋根や柱に取り付けられていた。派手だなあ。なんというか自己顕示欲の塊みたいな王宮だな。

 あれ税金で作ったのかな……。日本だったら総スカンだぞ。気のせいか、都の外れの方は寂れているような気がする。

 まあいいや、とりあえずここまでお帰り願うか。


「マップ表示。ハノック領土内にいるユーロン軍全て」

『了解。マップ表示しまス』


 パパパパパッ、とハノック領土内にいるユーロン軍が赤い光で表示される。


「マルチプル。ターゲットロック」

『了解。……ロック完了』


 ユーロン軍全てにロックがかかり、捕捉が完了した。


「ユーロン軍全ての足元に「ゲート」発動」

『了解。発動しまス』


 ハノック領土内の赤い光が次々と消えていく。そして眼下の王宮内に次々とユーロン兵が現れ、王宮はパニックになっていた。全員お返ししますよ、天帝陛下。

 最後の赤い光が消えるまで見届けると、僕は「ゲート」を通り、悠々とハノックとユーロンの国境へと出た。さて、これからが本番だぞ、と。





「な、なんだこれは!?」


 眼下からそんな声が聞こえてくる。まあ驚くか。いきなりわけもわからず自国の都まで戻され、再びハノックへ侵攻しようと十日もかけて来てみれば、国境に巨大な壁がそびえていたのだから。

 しかもその城壁の上にはためくのはハノック国旗の大鹿ではなく、我がブリュンヒルドの戦乙女。

 その旗の横に現れた僕に、馬に乗ったユーロンの将軍と思われる男が城壁の下から声を上げる。


「どういうことだ、これは!?」

『ユーロン軍の諸君、ここまでの行軍、ご苦労様です。ですが、ここからは我がブリュンヒルドの領土。これより先に進むことはまかりならない』


 わけがわからずざわつくユーロン軍に対し、一枚の証明書を空中拡大投影で奴らの前に浮かべてやった。


「な、なんだと!? こんな……こんなことが……!」


 それにはハノック国王がユーロンとの国境よりハノック側の領土を、1キロだけブリュンヒルドへ譲渡するという証明書だった。つまり、今現在、ユーロンに接しているのはハノックではなく、ブリュンヒルドの飛び地なのである。

 ユーロン軍がハノックに侵攻したければここを通るしかない。が、もちろんブリュンヒルドとしては通すつもりはない。


『ちなみに言っておくと、この壁はユーロンとの国境全てに続いている』


 そう。土魔法と「工房」の力でわずか六日で作り上げた、異世界の万里の長城だ。むろん、高さはあれより高くしているが。面積は幅1キロの領土が国境に沿ってずっとである。ひょっとしてブリュンヒルド本土より広いんじゃないかな。


「ええい、あのような壁、壊すなり乗り越えるなりしてしまえ! 全軍突撃!」


 一人の将軍の号令に、一斉にユーロン軍が壁に向けて進軍してくる。ありゃ、攻めてきた。僕が言うのもなんだけど、一応さあ、他国の領土なんだから攻め込むにしても天帝陛下にお伺いをたてろよ。それとも信じてもらえなかったのかね。まあ、それはそれでいいけどさ。

 ユーロン軍の兵士たちがブリュンヒルドの領土に侵入し、壁に辿り着いて、その壁を登り始めようとした瞬間、兵士たちが忽然と地面に吸い込まれるように消えていった。


「なっ!?」


 その後も次々と兵士たちが壁に触れるなり消えていく。

 突然消えてしまった兵士たちに驚き、進軍がピタリと止まる。

 壁に触れると足元に「ゲート」が発動し、自動的にユーロンの都、しかも王宮の真っ只中に送られるのだ。まあ、説明してやるつもりはないけど。

 続けて兵士たちが僕に向けて弓矢を放ってくるが、それらも全て城壁にかけられた風属性の魔法で空高く吹っ飛ばされる。ちなみにこれはこちらへ向けての矢だけに反応するので、こっちから射つ分には反応しない。


『ああ、言っとくけど壁に向けて魔法とか放たない方がいいよ。全部君たちの王宮に返されるからね』


 軍の中にいた魔法使いが杖を振り上げてたので、一応忠告する。僕の言葉に驚いたように魔法使いがゆっくりと杖を下げた。僕の言葉を信じたかどうかはわからないが、試す気にはなれないのだろう。

 ま、本当だけどな。魔法に反応して、壁面に「ゲート」が開くようになっている。もちろん行き先はユーロン王宮だ。


『さて、これ以上は我が国に対する侵略行為とみなすがいいかな?』


 僕が指を鳴らすと空中に開いた「ゲート」から、次々とフレームギア・重騎士シュバリエが降りてくる。ズシン、ズシンと大きな地響きを立てて、全部で十体が城壁の前に降り立ったのち、二機の黒騎士ナイトバロンと、一機の白騎士シャインカウントが最後に降り立つ。

 うちの副団長二人が乗る黒騎士と、団長のレインさんが乗る白騎士だ。まあ、白騎士も黒騎士もベースは同じなんだけど。形をちょろっと変えて真っ白に塗り直しただけで。一応、団長が乗る旗騎だし、それっぽくした方がいいかなーと。


「な、ななっ、なっ……!! うわっ!?」


 ユーロン軍の将軍が地響きに驚いた馬に振り落とされ、地面に転げ落ちた。馬の方といえばあっさりと主人を見捨て、一目散にその場から逃げていく。


『戦う気があるのなら、我がブリュンヒルド騎士団が相手になろう』


 僕の合図で全機体が腰の剣を抜き、それを地面に突き立てた。それを見たユーロン軍は一気に戦意を失い、我先にと逃走を始める。


「た、退却っ! 退却ーっ!!」

「に、逃げろっ! 潰されるぞっ!」

「うわあああああっ!!」


 蜘蛛の子を散らすように一斉にユーロン軍が退却していく。帰るんなら城壁に触ればすぐに王宮にいけるのに。

 慌ただしく逃げていくユーロン軍を見ていると、僕の隣に立つ黒騎士の胸部ハッチが開き、副団長のノルンさんが身を乗り出してきた。


「陛下ー。陸路はこれで防げるかも知れないけど、あいつら海路を使ってハノックに攻め込むんじゃないですかねー?」

「そっちも一応大丈夫。ハノック側の海に十匹ほど大型のクラーケンを召喚しておいたから。軍船以外は襲うなって言い聞かせておいたし、問題ないでしょ」

「うわー、えげつないなー」


 なにを言うか。細かい心配りと言え。この城壁だって不審な侵入者やなにか異常があれば、矢印でその場所を表示してくれたり、「パラライズ」やら「グラビティ」やら「スリップ」やら、トラップてんこ盛りなんだぞ。さすがに空を飛ばれたら無理だけどさ。

 とにかくしばらくは様子を見よう。エサも用意したしな。先日の襲撃者がユーロンの者なら、このチャンスを逃すわけがない。なにか行動を起こすはずだ。

 さて、細工は流々仕上げを御覧じろ、といくかね。










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