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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第19章 備えあれば憂い無し。
154/637

#154 バビロンの城、そして刑罰。

 白くそびえる塔は、塔と言ってもせいぜい6、7階建てくらいの高さに見えた。窓らしきものも何もなく、幾何学模様のような溝が壁面に縦横無尽に走っている。白亜の壁が太陽に反射して眩しく輝いていた。


「説明スル。あの「塔」は…………ぐう」

「寝るな」


 食べたらすぐさまおねむかよ。激太りコースだぞ、それ。

 もうすでに目がトロンとしているノエルに代わってリオラが口を挟む。


「「塔」は大気の魔素を取り込み、増幅させ、魔力に転換させる巨大な転換炉リアクターです。同じものがそれぞれ他の8つのバビロンにもアりますが、それら全てを合わせた出力でも「塔」ひとつに及びませン。統合したバビロンの心臓部とも呼べる施設です」


 要は船で言ったら機関部ってことかな。他のバビロンの施設と合体すれば強力なパワーを出せるらしい。

 推進力が増すだけではなく、バビロンの設備も効率が上がるそうだ。これでフレームギアの量産や、エーテルリキッドの生成もスピードアップするかもしれない。


「「塔」の一番優れているところは何もしないですむトコロ。たまに微調整する程度でいいので楽チン。故に私が寝ていても問題ナイ。おやすみなサイ」


 ノエルが木にもたれながらそう言うと、そのまま眠り始めた。おいおい。機関部主任がこんなんで大丈夫なのか? いや、逆にこんなんだから管理が楽な「塔」を任されたのか……?

 揺さぶっても起きないので、仕方なく「レビテーション」で浮かべて一緒に運ぶ。


「おおう……これは新感覚の眠り……快・感……」


 やかましい。寝るなら黙って寝てろ。

 リオラが案内した先、真白き塔の向こう側には、これまた白亜の「城」が建っていた。ブリュンヒルドの城と比べるとやや小ぶりだが、間違いなく城だ。

 どことなく千葉なのに東京と名乗るレジャーランドの城に似てる。まあ、つまりはドイツのノイシュヴァンシュタイン城に似てるってことだが。


「アれが我が「城壁」です。バビロンの防衛システムの中枢であり、物理攻撃、魔法攻撃に対する防壁シールドを展開することができます。また、バビロンフィールド内の気温調節、外部への遮蔽機能、索敵、操舵など、ほとンどをここで操作できます」


 ふむ。さっきの「塔」が機関部だとしたら、ここは艦橋ブリッジか。

 しかし物理攻撃に対してのシールドか。ひょっとして帝国のクーデターの時に使われていた「防壁の腕輪」って……。


「はイ。「防壁の腕輪」にはバビロンの「城壁」の技術が使われてイます」


 やっぱりか。あれは面倒だった。「塔」で生み出した強力な魔力をシールドに転用できるなら、かなりの防御力を期待できるんじゃないかな。

 っていうか、そんなことまで考えていたということは、フレイズにはあのマンタ型のように飛行タイプのやつもかなりいるということか?


「空を飛ぶ敵とかに対しての迎撃とかってのはどうなってるんだ?」

「サテライトオーブによる迎撃ですね」

「サテライトオーブ?」

「直径20センチほどのオリハルコン製の球体で、それ自体が自律飛行、魔力防御、硬質化を施された、自動追尾、自動攻撃する「弾丸」です」


 直径20センチって……でかっ。ボーリングの玉とほとんど同じ大きさじゃんか。

 まあ要は金属球の形をした自動迎撃機ってとこか? 攻撃方法が体当たりってのがアレだが。でもフレイズには一番効果的なのかもしれない。

 非常時にはこのサテライトオーブが24個、バビロンの周囲をまさに衛星のように周回し、近づく敵を片っ端から撃ち落としていくらしい。

 そういや昔観たロボットアニメにそんなのあったな。あれは遠隔操作でオールレンジ攻撃ができる砲台だったけど。

 リオラに案内されて城内に入ると、大きく立派な玄関ホールが広がっていた。綺麗にされていて、なかなか手入れが行き届いている。とても5000年も前の建物とは思えない。おそらくは「プロテクション」のような保護魔法がかけられているのだろう。

 それはいい。それよりも僕が気になるのは、さっきからちまちまと動き回る、この小さい物体はなんだということ。

 丸い頭に円筒形のボディ。蛇腹式の手足に丸い手足。なんだこれ?

 まあ、見た目のままならロボットだな。二頭身の。アレだ、これも昔アニメの再放送で観たことがある。江戸時代の奇天烈な発明家が設計した、助手兼掃除番のちょんまげロボットにそっくりだ。ちょんまげはないけど。

 サイズはひとまわりほど小さいんじゃないかな。実際に見たことはないけどさ。

 だいたい30センチくらいの小さい二頭身ロボットが、10体ほどうろちょろと動き回っている。手にはハタキや箒、雑巾らしきものを持っていた。これは…掃除しているのか?


「全員整列」


 リオラがそう命じると、とてちてた〜、と僕らの前に全員が整列してビシッと敬礼をした。全部で9体か。


「これからこちらの望月冬夜様が我々のマスターとなります。以後、失礼のなイように」


 再びビシッと敬礼のポーズをとるミニロボたち。ひょっとしてロゼッタが前に言っていた、ミニサイズの自律ゴーレムってこいつらか? 全部「蔵」に収納されているのかと思ったが、配備されているやつもいたのか。


「ひょっとして、こいつらってフレームギアの整備も手伝える?」

「簡単な作業なら。さすがに専門過ぎる分野は無理ですが」

「これで全員?」

「アと6体ほど城内に。ここには全部で15体オります」


 15体か。ロゼッタやモニカの手助けになるかな。「工房」で複製できるかと尋ねたら、特殊な魔法付与や博士独自のシステムを積んでいるので多分無理とのこと。残念。サイズもこれがベストなんだそうだ。これ以上大きくすると自動作業に支障が出てくるらしい。

 とりあえず掃除を続けるように命令すると、再びミニロボたちはちょこまかと掃除をし始めた。

 城の一室にあったベッドの中に、「レビテーション」で運んできたノエルを押しやる。

 「塔」と「城壁」をブリュンヒルドへ向けて発進させ、ウチの城にいるみんなを迎えるために、僕は「ゲート」を開いた。





「これは……すごいわね。私はポーラをここまでにするのに200年もかかったのに」


 ミニロボの一体を抱え上げて矯めつ眇めつ、リーンがつぶやく。その足元で「負けたッ!」とばかりに床に膝をつき、拳を叩きつけるポーラの姿があった。そのうち、泣いてもいないのに天に向かって号泣する演技をし始めた。いや……お前、充分すごいよ。なんだその演技力。

 今回もリーンの狙う「図書館」ではなかったが、興味をそそられる存在がいたので、それほど落ち込んではいないようだ。


「…ということは、リオラさんが一番のお姉さん、なんですか」

「アまりわたくしたちに姉妹としての順番はなイのですが、バビロンナンバーズとしては、最初になりますね」


 リンゼの質問にリオラが答える。城の中で寝ているノエルはほっといて、みんなはリオラに「城壁」や「塔」のことを聞いていた。そのうちリオラの方もみんなに質問をするようになり、互いに情報交換みたいな感じになっていく。

 「城壁」の中はなかなか過ごしやすい感じになっていた。この部屋も僕らの城にあるものとさほど変わらない調度品で占められている。なんでも博士が僕らを未来視していて、気に入ったらしい。


「ではユミナさン、ルーシアさン、八重さン、エルゼさン、リンゼさンがマスターの奥方ですか?」

「奥方って……まあ、いずれはそういうことになるんだろうけど」


 どことなくテレながら今度はエルゼがリオラの質問に答えていた。なに聞いてんだか……。


「他の奥方はどこに?」

「……他の? ああ、スゥ殿なら、まだベルファストの方で暮らしてるんでござるよ」

「それで6人ですね。では残り3人はまだ……」

「うッわァ──────ッ!!」


 思わず声を張り上げる。それ以上は口を噤め! 余計なことを喋るんじゃない!

 突然騒ぎ出した僕にみんなの視線が集まる。


「……なんですか? その反応は?」

「エ、ナニガ? ナニモ変ナコト、ナイデスヨ、リンゼサン」


 ヤバい。声がうわずってるのが自分でもわかる。みんながジト目になって探るような視線を向けてくる。なんか脂汗が出てきた。なんですか、この緊張感。

 リオラの方へ今度はユミナが口を開く。


「リオラさん。先ほどの残り3人というのは?」

「博士から聞イたのですが、マスターは」

「いやいやいや! それは今言わないでもいいんじゃないかなァ、リオラさん! 不確かな情報を軽々しく口にするのはどうかと思うなァ、僕ァ!」

「八重さん」

「承知」


 ユミナの言葉に従って、背後からがしっと八重に羽交い締めにされた。なんなの、その阿吽の呼吸! こんなときばっかりさあ!


「それで?」

「未来遠視した博士によると、マスターは9人の奥方を娶ってイたと。それでバビロンも9つに分けたりしたわけでして」

「「「「「9人!?」」」」」


 バレた。バレてしまった。リオラとリーン以外の全員が声を上げて驚いていた。いや、ポーラまで驚かんでもいいだろ!


「スゥを入れても6人。あと3人増えるってこと?」

「なんと言いましょうか……。言葉もないですわ」


 エルゼとルーが呆れたような声を漏らす。いや、ちょっと待てよ。まだしてもいないことで呆れられてもな!


「……冬夜さん」

「はひ」

「正座」


 リンゼの冷ややかな声に思わず声が裏返ったが、言われるがままに椅子から離れ、その場に正座をする。ここで逆らうのは愚の骨頂であることは誰にでもわかる。

 っていうか納得はいかないが。なんで未来のことでこんな目にあってるんだ僕は? 「まだ」何もしてないのに!


「そこでしばらく待ってて下さい」

「え?」


 正座した僕を残してみんなは部屋の隅へ移動し、なにやら話し始めた。あの……放ったらかし感がものすごいんですけど。


「どんな刑が決定するのかしらね」

「刑とか言うな」


 面白そうに状況の成り行きを見守っているリーンが、にやにやと人の悪い笑みを浮かべる。くそ、完全に楽しんでやがるな。正座する僕にポンポンと慰めるようにポーラが肩を叩いてきた。お前……いいやつだなぁ……。

 クマのぬいぐるみと友情を育んでいると、やっとみんながこっちへと戻ってきた。


「刑が執行されるのかしら」

「だから刑とか言うな」


 リーンのつぶやきに小声で反論して、僕はみんなからの刑の宣告を待つ。あ、自分で刑とか言ってた。

 やがて大きなため息と共にユミナが結論を口にし始めた。


「もうここまできたら、6人も9人もあんまり変わらない気もします。もともと私は冬夜さんが何人お妾さんを囲おうと構わないと思ってましたし。それにまだ起こってもないことで、冬夜さんを責めても仕方ないということになりました」


 おお……神よ、感謝します。

 神様に「わし関係なくね?」とか言われそうだが、まあ、そんな気分だったんです。


「ですが」


 と、ルーが言葉をつなぐ。アレ? 無罪放免じゃないの? 続けてリンゼが話し始めた。


「…このことを知りながら、黙っていたのはどうかと、思います。隠し事をすることは、夫婦間に亀裂を生み出す原因になるんです、よ?」

「で、あるからして」

「有罪ね」


 なんじゃそりゃあー! 神様ヘルプミー! 助けてくらさい! くれませんよね、知ってた! 「だから、わし関係なくね?」って声が聞こえたもん! 神は死んだ!

 なんかさあ……嫁さんの数が増えていくにつれて、僕の立場がどんどん弱くなっていってるような……。一夫一妻制ってとても素晴らしいことな気がしてきた。誰だ、ハーレムは男の夢だとか言った奴。ここに連れてこいよ、現実見せてやるから。


「で〜……その、僕にどうしろと……?」

「ひとりひとりキスしてくれたら許してあげます。冬夜さんの行動で私たちは不安になりました。なので、それを払拭させる愛情を示すのは当然の義務です」


 ハードル高え……。ユミナとリンゼにはしたことがあるけど、他の三人はまだだ。ユミナはにこにこ、リンゼはもじもじ、ルーはどきどき、八重はがちがち、エルゼはそわそわ、といった擬音が聞こえてきそうだ。

 正直、照れくさいし、なんとかごまかしてうやむやにしたいところだが、逃げ出すわけにもいかない。

 リーンとポーラが冷やかす中、僕はひとりひとり、順番にしていった。なんだこれ。

 ただ、キスをしたあとに、ルーには顔を真っ赤にして僕の前から逃走され、八重にはなぜか照れながら腕を取られて投げられた。エルゼに至っては、回転のかかった強烈な一撃が僕の胸を直撃した。恥ずかしいからって、コークスクリューブローを放つか、おい?

 ある意味、こういうことに慣れさせないと命に関わるやもしれん。

 薄れゆく意識の中で、これは幸せなのか不幸せなのか、そんな答えの出ないことを、僕はぼんやりと考えていた。








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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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