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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第19章 備えあれば憂い無し。
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#152 姫騎士、そして贈呈。



 カブトフレイズにレスティアの騎士団が集団で襲いかかる。しかしフレイズの硬質化した体を傷つけることはできず、何人かが鋭利な角で鎧ごと串刺しにされた。


「くっ……なんて硬さだ!」


 少女騎士がフレイズの背後に回り込みながら、細い足を狙って横薙ぎに斬りつける。

 しかし足を切断するどころか、逆に甲高い音を立てて、少女の剣が真っ二つに折れた。


「なっ……!」


 あまりのことに動きを止めた彼女に、別の個体からの角がものすごいスピードで伸びていく。


「しまっ……」


 僕は「フライ」で宙を駆けながら、フレイズの破片で作っておいた剣を「ストレージ」から取り出し、少女に伸びた角を斬り落とす。

 そのまま石畳の上を滑るようにフレイズに接近していき、透けて見えるそいつの核に剣を突き刺した。

 核を砕かれたフレイズは全身にヒビ割れを起こしてガラガラと崩れ落ちる。

 うん、この武器ならフレイズの体も斬れるようだ。こいつは魔力を通すことで切断力を増すようにしている。始終スパスパ切れたら物騒だしな。

 下級種なら「アポーツ」で核を引き寄せて壊してしまえば終わりだが、ここはちょっとこいつの斬れ味を試させてもらおう。


「あ、貴方は……」

「ここは僕に任せて住民の避難を。話は後で」

「わ、わかった。頼む!」


 さて。


「検索。半径1キロ以内にフレイズは何体いる? おっといま破壊したやつを除いて、だ」

『検索開始。…終了。全部で11体でス』


 すると12体いたわけか。にの、しの、ろの、やの……ここには残り8体か。よし。


「じゃあ、相手になってもらうかな。「アクセルブースト」」


 身体強化と加速魔法を使い、まずは目の前にいた二匹を核ごと一刀両断にする。斜め上に飛び上がり、建っていた家の壁を蹴って、落下しながら眼下のフレイズの核を狙って剣を突き刺す。

 止まることなく街中を駆け抜け、攻撃を繰り出してくるヤツの角を斬り刻む。そのまま核を横薙ぎに斬り、回転する勢いで対面側のフレイズも同じように切り捨てた。

 あと三体。一気に距離を詰め、二体の核を突きで貫き、ラスト一体は正面から真っ二つにしてやった。


「検索。残り三体を表示」

『了解。表示しまス』


 表示された場所を確認して、その場から飛び上がり、屋根の上を駆け抜けていく。眼下で騎士団と切り結ぶフレイズ目がけて飛び降りなから、核を貫く。

 唖然としている騎士団の人たちを置いて、前方にいる最後の二体へと向かっていく。

 襲い来る槍のような角の連続攻撃を避けながら、その二体も同じように核を斬り裂く。これで終わりだ。

 あえて全部斬り捨てたが、刃こぼれひとつしていない。使えるな、水晶剣。

 抜き身で持っているのもなんなので、魔力を流すのをやめて「ストレージ」から取り出した鞘に収める。

 ふと顔を上げると先ほどの少女騎士がこちらを見つめていた。どうやら無事だったらしいな。少女に声をかける。


「被害はどれくらい?」

「え? あ、ああ、何名か死んだ。街の者も騎士団の者もだ。怪我人も大多数出ている」

「そうか……死んでしまったのは残念だ。怪我人だけでも治すよ」


 少女は、え? という顔をして、横で怪我をして倒れていた騎士を見た。僕は「マルチプル」を起動し、半径1キロ以内の怪我人に回復魔法をかける。

 光の粒が怪我人を包み込み、傷を癒していく。すぐ横に倒れていた騎士が回復していくのを、少女は目を見開き、驚きの表情で眺めていた。


「……助けてもらってなんなのだが、貴方はいったい……」

「僕は望月冬夜。たまたまこの近くを通りかかったんだ。君は?」

「あ、ああ、これは失礼した。私はこのレスティア騎士王国の第一王女、ヒルデガルド・ミナス・レスティアだ。助けてくれて礼を言う」


 驚いた。王女だったのか。剣を振り回しているからてっきり騎士団の女性騎士かと……。さすがは騎士王国と言ったところか?

 あらためて見ると、すらりとした長身と長い金髪、凛と澄んだ碧眼と白磁の肌。確かにどことなく気品がある。

 纏っている鎧もミスリル製のようだ。いたるところに黄金の装飾が施され、何かしらの魔力付与も感じられた。鎧の胸当て部分には他の騎士のようにレスティア騎士団ではなく、レスティア王家の紋章が刻印されている。あの王冠の紋章は確かそうだったはずだ。どうやら王女というのは本当らしい。

 なら、きちんと挨拶しとくか。


「レスティアの姫とは知らずにご無礼を。私はここより西方、ベルファストとレグルスの間に位置する、ブリュンヒルド公国公王、望月冬夜と申します」

「ブリュンヒルド……! 話には聞いております……冒険者から身を起こした少年王……西方諸国をまたにかけ、国々の問題を解決する調停者だと……」


 口調を改めてもう一度自己紹介すると、ヒルデガルド王女の方もびっくりして口調が改まっていた。

 調停者とか。そんな風に伝わっているのか? 確かにいろんな国で勝手してるし、西方同盟のホスト役みたいなことをしてるけど。ただ、あれは同盟のどこの国にも加担しない中立の国だと言うだけなんだが。

 一応ギルドカードを見せてほしいというので、懐からカードを取り出して見せた。


「お祖父様と同じ金ランクのカードです。ご無礼を致しました。どうぞお許しを」

「いえいえ。お祖父様というと先王様ですね。同じ金ランクの先輩として一度お会いしてみたいものです」


 どんな人か気になるのは本当だ。きっと立派ですごい人なんだろうな。そんなことを伝えると、姫騎士はなんとも言えないような引きつった笑いを浮かべた。「ザ・苦笑い」という感じの類いだな。


「いえ……あまり期待はされない方がよろしいと思いますが……」

「え?」

「や、なんでもありません。それにしてもすごいですね。私たちが束になっても敵わなかった魔物をほぼ一撃で……」


 姫が周りで砕け散っているフレイズたちを眺めながらそんな感想を漏らす。いや、補助魔法の援護を受けずに、騎士団だけでここまでこらえるってすごいんだけどな。


「この魔物はフレイズと言います。魔法を吸収し、高い硬度、かつ、伸縮自在の体を持ち、再生能力も持つやっかいな敵です。倒すには体の中にある核を破壊せねばなりません」

「フレイズ……」


 姫騎士に話を聞くと、彼女たちは騎士団の演習に向かうところだったらしい。どこからか現れたフレイズたちに街が襲われていると知り、駆けつけてみれば、自分たちの剣がまったく歯が立たず、街の人たちを逃がすのが精一杯だった。よほど悔しかったのだろう、少し握った拳が震えている。

 ちょっと見ただけだが、ヒルデガルドの剣の腕はかなりのものだ。八重と比べても遜色ないと思う。

 ただ、今回は相手が悪かった。それだけのことだ。


「あ、この倒したフレイズの破片をいただきたいんですけどいいですかね?」

「え? あ、はい、陛下が倒したわけですし、それは構いませんが……」


 冒険者ルールだが、魔獣や魔物は倒した者にその素材を獲得する権利がある。パーティだと山分けになるが、ソロなら関係ない。「ストレージ」でフレイズの砕けた破片を一気に収集する。突然消えた魔物に騎士団のみんなが驚いていた。

 よし。これは思いがけない収穫だ。下級種とはいえ12匹分もあれば、そこそこの数の武器ができるだろう。多数のフレイズが出現したということには素直に喜べないが。


「ひょっとしてその剣……そのフレイズから作られているのですか?」


 ヒルデガルドが興味深そうに僕の持つ水晶剣に目を向けてくる。おや、意外と目ざといな。まあ、どっちも水晶みたいな見た目だし、流石に気付くか。


「その通りです。我が国の騎士団はこの剣と盾が通常装備でして。私の無属性魔法でしか作れませんがね」


 言外に真似しようとしても無駄だぞ、というニュアンスを含ませる。さっきのフレイズをやっぱり返せ、とか言われたくないからな。実際、加工するのに「モデリング」、硬度と切断力を高めるのに莫大な魔力、そして重量を軽減するのに「グラビティ」が必要となってくるので、真似などできないだろうが。


「そうですか……。羨ましいですね。一人の騎士としていつかそんな剣を持ってみたいものです」


 なるほど。先ほどからチラチラとこちらを見ていたのはそういうことか。

 ……ふむ。ここでレスティアとの親交を深めておいても損にはなるまい。

 「ストレージ」からもう二本、鞘に収まった水晶剣を取り出して、僕の持っていたのと合わせ、三本の剣の柄に「モデリング」でレスティア王家の紋章を掘り込む。そしてそれをヒルデガルド姫に渡す。


「では出会いの記念にこれは差し上げます。姫と国王陛下、そして先王陛下に」

「えっ!?」


 まさか貰えるとは思っていなかったのか、受け取ったヒルデガルドはおたおたと焦っていた。おもろい。


「い、いいんですか!? これは御国の国家機密なのでは……っ!?」

「いや? 僕にしか作れないので秘密も何も。確かに材料はあまり手に入らない品ですが、我が国では騎士団の者ならみんな持ってますし。ただ、その三本は僕用に作ったものですので、彼らのものとは段違いに性能が違いますが。魔力を通せば鉄くらいなら刃を乗せただけで切れますし、折れることはほぼありません。多少の刃こぼれやヒビが入ったとしても再生しますし」


 姫騎士は受け取った三本のうちの一本を抜き払って、太陽に翳す。キラキラと輝く刀身を見つめ、おもむろに魔力を流すと、そのまま横にあった崩れた家の瓦礫に軽く剣を当てた。まるで豆腐のようにレンガの壁が切られていく。


「すごいです……。しかも重さを感じません。それにこの斬れ味……もしまたフレイズが現れても今度は負けません」


 嬉しそうにはしゃぐ姫を見ながら、さすがに中級種、さらにそれ以上だと、そう簡単にはいかないだろうという言葉をぐっと飲み込んだ。この場で余計なことを言って、喜びを奪うこともあるまい。

 さて、長居をしてしまった。なぜ他国の王がこんなところに? とか突っ込まれる前に立ち去るとしよう。

 もう面倒なんで、これからは出かける時は王位を誰かに譲ってから来ようかなあ。帰ったら返してもらうとかにして。

 普通ならあり得ないが、王様が王位を簡単に譲れる法律を作ってしまうか。もちろん、僕が生きてる時に限りだが。留守の時は琥珀にでも王様になっててもらおうかな。王様の虎だ。キングタイガー。戦車か。

 ま、帰ったら高坂さんに相談してみよう。


「では自分は用がありますのでこれで失礼します。また会えるといいですね」

「素敵な贈り物をありがとうございました。いずれ公国の方へ今回のお礼をお送り致します」


 別に気にすることはないんだが。まあこういうのは気持ちだから、来たらありがたく受け取っておこう。

 「フライ」を発動させて宙に浮く僕を見た姫の驚き顔に、少し笑いそうになりながら上昇し、その場を後にした。

 さて、思いがけない出会いがあったが、早くバビロンの遺跡を探さないとな。









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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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