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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第19章 備えあれば憂い無し。
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#146 新型機、そして働く人々。




 フレームギアとエーテルリキッドの量産を続けつつも、突然なにかが変わるわけでもなく、相変わらずの日常は続く。

 数日経ってからギルドから巨獣の討伐報酬と素材売却のお金が支払われた。正直かなりの額だった。今のところ使い道はないので大切にとっておくことにしよう。


「マスター。昨日は大変でしタね」

「まあ、仕方ないさ。おめでたい席だしね」


 紅茶を入れてもらいながらシェスカに笑いながら答える。昨日はベルファスト第一騎士団のリオンさんと、ミスミド大使だったオリガさんとの結婚式がベルファストで行われたのだ。

 その二次会としてここの遊戯室を貸し出したのだが、祝いの酒も入ってどんちゃん騒ぎだった。

 騒ぐわ歌うわ、ものすごかったらしい。らしい、というのは僕は現場を見ていないからだ。他国の王様が顔を出したら他の客が緊張して楽しめないだろうとの配慮だったが、どうやら思いっきり楽しめたらしい。

 今回のことは国王としてではなく、あくまで友人としての手配だったのだが、寂しいもんだな。変装して参加すりゃよかった。うちの騎士団のやつらはちゃっかり参加してたのにな。まあ、お互い騎士団としての親睦を深められたのならいいか。もともとあの部屋はそういったことのための部屋だし。

 二次会が終わってから酔い潰れたやつらや、招待客を「ゲート」で新婚夫妻に言われるまま、ベルファストの彼らの新居へ送り返したけど、よかったのかな。せっかくの新婚さんなのに……ねえ。


「新婚初夜のエロエロイベントがキャンセルでスね」

「お前はもうちょっと言葉をオブラートに包め」


 シェスカの発言にジト目で答えて紅茶を啜る。相変わらずこのエロメイドはそっち方面の話題には敏感だ。


「マスターの合体イベントはぜひ見学、できれば参加させテいただきタク。ポッ」

「ぶん殴るぞ」


 わざとらしく頬を染めんな。あざといな。相変わらずのピンク頭に紅茶が苦くなった気がする。相手にしてられん。

 「ゲート」を使い、「格納庫」へと向かう。ナイトバロンのガレージを覗くとロゼッタとモニカが両腕の装甲を外し、なにやら唸っていた。


「どうした?」

「どうしたもこうしたもねえゼ、マスター。ナイトバロンの両腕にかなりガタがきてる」


 え? 一回の戦闘でか? でも腕にダメージは受けなかったはずだけど。


「こいつは戦闘によるダメージではないでありまス。「グラビティ」の使用……というより、マスターの魔法による負荷でありまスよ」

「え?」

「ぶっちゃけて言うと魔力が強すぎるナ。マスターの魔力は純度が高いから増幅され過ぎちまうんだ。で、それにナイトバロンのパーツが耐えられない」


 そんなのってありか。全力で乗れないってことか?


重騎士シュバリエ黒騎士ナイトバロンも旧タイプのフレームギアでありまスから……。新型機ならばそこらへんも改良されているハズでありまスが」

「新型機?」

「博士が設計だけはしておいた機体だナ。基本になる機体ベース、ボーンフレームって言うんだが、それが接近戦用、遠距離支援用、高機動用と、何種類かあるんだ。それに多岐に渡る装甲と装備を追加し、個人レベルで一番合ったカスタマイズができるようになっているんだゼ。しかもエーテルリキッド要らずって話だ。ま、もっとも設計だけで、一体も完成してねえけどナ」


 すごいじゃんか。自分に合わせた機体を作れるってことだろ? 換装できるタイプってことかな。もったいない。一体くらい作っといてくれりゃよかったのに。


「ちなみにその設計図ってのは……」

「「蔵」の中だナ」


 やっぱり。しかも聞いた話だと「蔵」の管理人はかなりのドジらしいじゃないか。5000年も無事で存在してるだろうか。ただでさえすでに数個、地上にバラ撒いているというのに。

 何かの拍子に燃やしてしまったとか…ありそうで怖い。


「とりあえずマスターはフレームギアでの魔法使用は禁止だナ」

「えー?」

「そう何回も壊されたらたまらないでありまス。ただでさえ整備スタッフが二人しかいないでありまスのに」


 むう。それを言われると。フレームギアの生産の方は「工房」が自動でやってくれてるが、修理するのは二人に頼るしかないしな。あれ?


「だったら黒騎士を初めっからもう一機作ればいいんじゃないか?」

「……フレームギアを作る素材をもう一度初めっから突っ込めってか? ずいぶんと贅沢だナ?」

「あ、いや、えーっと、この壊れたやつを「工房」に放りこめば……」

「この機体を「工房」に材料として突っ込むと、蓄積されたせっかくの戦闘記憶メモリーや操縦者との同調データがリセットされるでありまスが? いつまでも成長しないレベル1の機体で戦えるとお思いで?」


 二人にものすごいジト目で睨まれた。あれ、なんか地雷踏んだ?


「で、データだけ抜いて新しく作った方に移しかえるとか……」

「その入力をやるのは俺たちなんだゼ? 経験豊富なメモリーならまだしも、たったレベル2に上がっただけのデータをものすごい時間をかけて移しかえろってのか?」

「だいたいパーツを替えるにも、調整やら接続やら、魔力回路の復元まで、全部やるんでありまスよ? それをマスターが壊すたびに、全部小生らにやれと? 何も知らないってのは言うだけ気楽でありまスなぁー」


 ヤバイ。二人の目が氷点下に下がり始めた。結局は「壊すな」という無言の圧力だ。戦闘での破損なら仕方ないが、わざわざ壊れるような乗り方をするな、ということなんだろう。

 面倒なことになる前にそそくさと逃げ出す。

 確かに二人にばかり任せっきりだからなあ。フレームギアの構造をろくに知りもしない輩に横から口を出されたらイラッとくるか。現代日本の常識で口を出すとろくなことにならないな。

 しばらく「格納庫」には近づかない方がいいか。触らぬ神になんとやら、だ。




 時間が空いたので久しぶりに国内を見て回ることにした。東部の農業地にはいくつかの水田と畑ができており、順調に作物が育っているようだった。


「あれ、陛下ではないですか」


 突然声をかけられて振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。

 女性ではあるが、普通の女性ではない。翡翠のような緑色の髪に花の髪飾り、花びらのようなスカートと背中から伸びた羽のような葉、そして身体のいたるところに巻きついている蔦。彼女は人間ではない。アルラウネだ。

 ウチの騎士団にやってきた風変わりな魔族五人のうちの一人である。


「えっと確か、ラクシェだっけ?」

「はい。騎士団所属、アルラウネのラクシェです」


 にぱっ、と笑顔を浮かべ、敬礼して見せる。いや、警察官じゃないんだから。

 

「なんでこんなところに陛下がいるんですか?」

「あ、いや、ちょっと視察にね。ラクシェこそなんで?」

「私は今日は非番なんで、こちらの畑のお手伝いをしようかと」


 へえ、感心だな。アルラウネは植物系の魔族だ。こういった農作業に向いてるのかもしれないな。


「この国の生活はどう? もう慣れた?」

「はい。みなさん親切で。よくしてもらってます。たまに旅人とかに怖がられることがあるけど、なんてことありません」


 まだまだ魔族への偏見は多く、忌避する存在として疎んじられることがある。それでも攻撃してくる者が少ないのは、魔族は人間なんかよりはるかに強力な能力を持っているからだ。

 だから自然と避けるようになる。酷い辺境だと触るだけで呪いを受けると信じられているとの噂だ。馬鹿らしい。


「ラクシェは魔族の国からやって来たんだっけ?」

「はい。ここからずうっと東北の海を越えたところにあります。ゼノアスって国です。厳しい環境の国ですが、魔族だからへっちゃらです」


 魔族の国、魔王国ゼノアス。言葉で書くと世界征服でも狙っているような悪の国っぽいが、実際は普通の国らしい。

 国民のほとんどが魔族であるため、人間の国とはほとんど交流がない。鎖国というわけではないのだが、どうも積極的に他国と交流をする気はないようで、孤立状態とも言える。そのため、あまり内部事情がわからない国だ。

 この国を治めているのは魔王と呼ばれる存在と、四天王と呼ばれる側近らしいが、ますますもって悪いイメージがある。ラクシェが言うには普通にいい国らしいけど。

 僕の印象だと魔族と人間はそんなに仲が悪いといったイメージはない。一部の人間が過剰に怖がっているだけな気がする。普通に付き合えば仲良くなれるのにな。

 まあ、あまり積極的に人間と交流しようとしない魔族にも問題があるとも言えるが。人間嫌いというよりは照れ屋さんといった感じだな。


「この国は自然も豊かで素晴らしいです。思い切って騎士団に入ってよかったと思います」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。これからも力を貸してほしい」

「はい!」


 畑作業の邪魔をしてはいけないので、ラクシェと別れ、街の方へ戻ってくると、ギルドの建設現場で今度は違う魔族の姿を見かけた。

 三メートル近い巨体に赤褐色の肌、丸太のように太い腕に、白い髪から伸びる二本の角。オウガである。

 上半身を脱いで裸になり、建設に使う角材を運んでいる。普通の作業員の五倍近く持っているな。さすがにものすごい力た。


「あ、陛下ぁ。こんちはぁ」

「お疲れ、ザムザ。君も非番か?」

「はぁい。自分は人の三倍食べるもんでぇ、給金だけではきついって言ったら、内藤様がここの仕事を手伝えばいつも腹一杯食わせてくれるってぇ」


 オウガのザムザがにかっと笑う。なるほど、適材適所か。しかしすごい力だな。一人で何人分もの仕事をこなすんだから、食事代くらい安いもんだ。

 ザムザはこれだけのパワーがありながら実は戦闘向けではない。正しく言うと「性格が」戦闘向けではない。なんというか、戦うことをどこか怖がっているところがある。

 騎士としては致命的な気もするが、荒事だけが騎士団の仕事ではないし、国民のために役に立てることはいくらでもある。

 事実、彼の力は大変みんなの役に立っている。


「頑張れよ。これは差し入れだ。終わったらみんなで食べるといい」


 「ストレージ」から以前倒した巨大イノシシの肉を二匹分取り出し、作業現場の床に置く。


「わぁあ。ありがとございます。がんばりますだ」


 破顔して角材を次々と運び出すザムザ。安上がりな奴だな。彼はその巨体からいろいろと不便なところもあるだろうな。店なんかにも入れないだろうし。あまり気にしていないみたいだけど。

 もっと住みよい国にしないとな。何が必要かなあ。学校とかか。子供たちの教育は疎かにできないよな。

 夕暮れの中を家路に急ぐ子供たちを見て、なにがこの国に必要なのかを考えながら僕も城へと帰ることにした。








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