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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第19章 備えあれば憂い無し。
145/637

#145 蠍、そして協力要請。




 バビロンでラミッシュ教国の上空を飛び、大樹海に差し掛かる。もうじき、例の巨獣がいる場所にたどり着く。

 

「ロゼッタ、通信機は取り付けたのか?」

「バッチリでありまス。バビロンや他の機体にも送れるでありまスし、プライベートチャンネルもありまス。外部スピーカーも取り付けたでありまスよ」


 胸部装甲のハッチを閉めて、チャンネルを3番に合わせる。これで外にいるモニカのレシーバーにつながるはずだ。


「聞こえるか、モニカ」

『聞こえるゼ、マスター。バッチリだ』


 正面モニターに映るモニカが大きく手を振った。向こうの声も聞こえるし、問題無さそうだな。

 まあ、今回は性能テストも兼ねて、僕一人でいくつもりだから他の機体と交信する必要はないけどね。


『マスター。目的地上空でス。ターゲットは前方の大樹海を抜けテ、ライル王国の荒野へと侵入しまシタ。ターゲットを追い越してから降下願いまス』

「あいよー」


 コクピット内にシェスカの声が響き渡る。モニターと計器類をチェックし、起動スイッチと各部駆動機に魔力を流す。

 ヒュオオオオ、と起動音を響かせて、黒騎士ナイトバロンが目覚める。

 モニターに映るモニカの先導に従って、「格納庫」内にある昇降機にナイトバロンを載せる。ガコン、ガコン、と音を立てながら「格納庫」の地下へと昇降機は降りていく。

 アニメとかだと「行きまーす!」とか言って射出カタパルトなんかを使うところだが、あいにくとここは宇宙空間でもないし、ナイトバロンに飛行機能はついてない。

 地味に普通に「格納庫」地下の出入り口から地上へ飛び降りた。低空飛行しているとはいえけっこう高い。ちょっとビビっていたのは内緒だ。

 降下途中で脚部と背面のバーニアを吹かしながら、降下モードの魔法を起動させると落ちる速さがゆっくりとしたものになる。これって「レビテーション」と同じ魔法なんじゃないだろうか。

 そのまま地上へ着地する。思ったより衝撃は少なかった。ちなみにバビロンに戻るときはワイヤーで引き上げるんだそうだ。もうちょっとなんとかならんかったのかね。まあ、「ゲート」で戻せばいいか。

 着地した荒野の正面から双尾の蠍がこちらへ向けてやってくるのが見えた。やはりでかいな。

 赤銅色の体の大きさは、フレームギアが人間と同じ大きさだとしたら、大型バス二台分くらいはある。

 平べったいボディに対して両手の鋏が馬鹿でかい。あれで殴られたらフレームギアといえども吹っ飛びそうだな。挟まれてもヤバそうだ。


「さて、ここは先手必勝かな」


 右手のメイスを握り直し、左手の盾を構え直す。巨獣スコルピナスへ向けて黒騎士ナイトバロンを走らせた。

 その姿を確認したのか、巨獣の二つの尾がこちらへと向けられる。その先から紫がかった毒々しい色の液体が水鉄砲のように噴き出した。

 しかしあらかじめそれを知っていた僕は、慌てることなく左手に構えた盾でそれを受け止める。


「備えあれば憂いなしって……うえぇえ!?」


 毒液を受け止めた盾からブスブスと煙が上がっている。ちょっ、溶けてるぞ、これ!?

 これは毒液っていうか、強酸だろ! まずいな、何回も受けたらそのうち盾がなくなってしまう。

 幸い向こうは動きがさほど素早くない。相手の右手側に回り込み、手にしたメイスを片方の尾目がけて思い切り振り抜いた。

 メキャッ、という音がして尾の部分にヒビが入る。堅あっ!?

 確か蠍って蜘蛛の仲間で、ザリガニみたいに堅い甲羅は持ってなかったはずだろ!? こっちの世界の蠍は違うのか!?

 僕があまりの堅さに驚いていると、体を回転させた鋏の一撃が黒騎士ナイトバロンを襲う。


「危なッ!」


 それをよけつつ、正面に来た蠍の頭にメイスを振り下ろす。ガインッ! とさっきよりも堅い手応えがしたが、さすがに頭への一撃、体勢を少し崩した。そこを畳み掛けようとしたが、またしても尾から毒液(強酸だが)が噴出される。


「くっ」


 再び盾で防ぐが、そう何回ももたない。盾で視界が遮られた一瞬、蠍の鋏が伸びてきて、思わずそれも盾で受けてしまう。


「しまっ……」


 蠍の鋏はガッチリと黒騎士の盾を挟み込み、危険を感じた僕はすぐさま盾を手放した。

 メキョッ、と半分溶けかけていた盾があっさりと潰される。危な!


「全力でやらないとまずいか。モニカ、戦槌バトルハンマー投下」

『よっしゃ、戦槌バトルハンマー投下するゼ!』


 空から大きめの黒いハンマーが落ちてくる。衝撃を伴って地面に突き刺さったそれを、巨獣の攻撃を避けながらメイスを放り投げ、両手で掴む。


「魔力同調。第一スロット解放」


 操縦桿の横にあるスイッチをオンにして、僕の魔力を同調させて増幅し、黒騎士の両手から戦槌バトルハンマーに流す。


「グラビティ」


 重さを軽減させた戦槌バトルハンマーをひょいと担ぎ直し、巨獣へと助走をつけて飛び上がった。そして振り下ろしざま、今度は逆に何倍もの加重をハンマーにかける。

 ズドォォンッ!! と地響きを立てて戦槌バトルハンマーの一撃を受けたスコルピナスが圧壊された。内臓なかみをぶちまけて、胴体が真っ二つに千切れ飛んだ。うあ、グロッ。


『ひゅー。やったナ、マスター』


 モニカからそんな通信が入る。思ったより手こずったな。本来ならば二、三体でかかるべきだった相手なのかもしれない。盾もダメにしちゃったしなあ。ロゼッタになんか言われそうだ。まあ、勝てたから良かったとするか。

 しかし、ちょっとやりすぎたか……? コレ、素材として買い取ってもらえるかなあ。グチャグチャになった巨獣の死体を見下ろしながら、僕は溜息をついた。





「これはまた……。まさかこんなに早く倒してしまうとは思ってもみませんでした」


 スコルピナスを倒した現場に「ゲート」を使い、レリシャさんを連れてきた。と、いうのもこいつの討伐部位がどこかわからなかったからである。

 本来、巨獣の討伐依頼などというものは個人に出されることなどないので、討伐部位の指定はなかったそうだが。こいつの元になった種、スコルピオネなら鋏の部分なんだそうだ。

 とりあえずギルドマスターが証人なら問題はないだろう。「伝文の書」でレリシャさんに呼び出されたテムの街のギルド職員によって、スコルピナスの鑑定がされ、買い取ってもらえることになった。剥ぎ取りなども全て向こうに任せる。面倒だし、ちょっと気持ち悪くて触りたくない。


「ではこれを」

「お」


 先ほどレリシャさんに渡したギルドカードが金色になって返ってきた。綺麗だけど派手だな。


「最高ランク、ゴールドクラスのギルドカードです。現在、それを持っているのは公王陛下と騎士王国レスティアの先王陛下のみでございます」

「騎士王国レスティア?」

「ここライル王国より東にある騎士の国でございます」


 へえ、そんな国があるんだ。金ランクってことはやっぱり強いんだろうなあ。騎士王か。先王ってことはもう引退しているわけで、高齢なのかもしれないけど。

 そういやギルドカードに「ドラゴンスレイヤー」「ゴーレムバスター」「デーモンキラー」の三つの称号と、シンボルマークがあったが、今回のは何もつかないらしい。

 そもそもこのクエスト自体が個人依頼されるものではないから仕方ないか。フレームギアがなければ、レリシャさんも僕に依頼しようとは思わなかったろうし。まあ、「巨獣ハンター」とかゴロ悪そうだしな。


「しかし……恐るべきアーティファクトですね。この力があれば他国を侵略することも容易いでしょうね」


 巨獣の傍に立つ黒騎士ナイトバロンを見ながらレリシャさんがつぶやく。んー、どうも危険視されているようだな。


「こいつは「フレームギア」といいます。古代王国の天才博士(変態だけど)が作り上げたアーティファクトで、この世界を守るために作られたものです」

「……世界を守るため?」

「ギルドマスターなら知っているんじゃないですか? 最近、世界各地で目撃されている正体不明の水晶の魔物のことを」

「ッ!」


 レリシャさんの顔が強張る。確実に知っているな。世界各地に存在する冒険者ギルド。そして「伝文の書」という通信アイテムがあるのだ、知らないはずがない。


「……確かに各地の支部から報告が上がっております。剣も通じず、魔法も通じず、再生能力を持つ、水晶の魔物のことが。小さな村や傭兵団などが壊滅し、被害はかなりのものになりつつあります」

「その怪物の名はフレイズ。かつてこの世界に存在していた古代文明を滅ぼした魔物ですよ」

「なんですって!?」


 驚愕の表情でレリシャさんが固まる。まだフレイズのことによるパニックは避けたいところだが、世界各地にあるギルドの情報力は役に立つ。ここはある程度の情報公開をして、協力を取り付けるにこしたことはないだろう。


「世界の結界……異次元からの侵略者……。水晶の魔物の報告がなければ一笑にふしていたでしょうね」


 僕からだいたいの説明をされたレリシャさんが、小さくつぶやく。当然ながらバビロンや、フレイズの王の核などは伏せておいた。それでもどうやら信じてくれる気にはなったようだ。事実、フレイズによる被害があるのだし、考慮すべき問題なはずだからな。


「こののち、フレイズたちの大襲来があるかどうか僕にはわかりません。だけど対抗手段がなければ蹂躙されるだけです。そのためにフレームギアを甦らせたのですから」


 まあ、ただ乗りたいという願望もあったが。

 どっちみち中級フレイズ以上には、フレームギアでしか対抗できないと思う。さらにその上、上級フレイズがいるとすれば、フレームギアで小隊を組んでも勝てるか保証はない。やれることはやっておいた方が無難だ。

 準備期間がどれだけあるかもわからないのだから。

 しばらく黒騎士ナイトバロンを眺めていたレリシャさんが、やおらこちらを振り向き、口を開いた。


「わかりました。フレイズのことはギルド本部の方に伝え、なるべく情報を集めて公王陛下の方に提供するようにしましょう」

「ありがとうございます。ただ大襲来のことは、まだ不確かなことなのでなるべく内密にして下さい」

「わかっています。我々も無闇に世界を混乱に陥れようとは思いません。幹部内の話に留めておきます」


 ギルドの情報力があればなにか異変があったとき、すぐに教えてもらえるだろう。なるべくならそんな報告は聞かないでいたいのだが。

 今回の依頼報酬と素材売却のお金はまとめて後日払ってもらうことにした。

 レリシャさんはこのまま残って事後処理をするというので、「ゲート」を使い黒騎士ナイトバロンを「格納庫」へ戻したあと、「フライ」の魔法を使って、発掘許可のもらった場所へ飛び、巨大魔石を次々と掘り出していった。この国には三個。青と緑と黄色の魔石。これでエーテルリキッドも増え、さらにフレームギアの量産化が進むな。

 「ストレージ」に巨大魔石をしまって、僕はバビロンへの「ゲート」を開いた。








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