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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第18章 二人の王子。
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#139 秘密、そして未来図。


 さて、こちらにはもう心配事は無くなったので、クラウド王子は王宮から姿を消した。クープ侯爵の元に母子共々身を寄せていたわけだが、そこまで追っ手は迫ってこなかった。まあ、来たとしても殲滅させるか、「ゲート」で高飛びするだけだが。

 突然の第二王子失踪に、王宮内でもひと騒動あったらしい。その様子が今の僕にはありありとわかる。


『ガリア砦からエリア王妃が消えただと!? クラウド王子が連れ去ったというのか!? 砦の兵士はなにをしていたのだ!』

『は、はい、伝書鳩からの知らせでは全員が身動きを封じられ、何もできなかったと……』


 伝令の言葉にいらただしげにワルダック宰相が机を拳で叩く。それに億したのか、伝令が一礼して宰相の部屋を出て行ってしまった。


『だから言ったでしょう、ザブン。さっさとあんな子、消してしまえばよかったのに!』

『クラウドのやつ! 飼い主に逆らってタダですむと思うなよ!』


 焦ったように声をヒステリックに荒げるダキア王妃と、面白くなさそうに舌打ちをする馬鹿王子。

 その三人の慌ててる様子を窓辺のカーテンの陰から覗く、小さな監視者がいた。僕の召喚したハツカネズミである。

 現在、このハツカネズミの視覚と聴覚を僕と同調シンクロさせて、相手の出方を伺っている。


『クラウド王子がクープ侯爵と手を組んで、地方の貴族たちを抱き込むと面倒なことになりかねない。……ここは急ぎ、国王陛下に王位をザブン王子に譲るよう願い出ましょう。その上で、クラウド王子を捕らえます。罪状はなんとでもなりましょう』

『パルーフとの戦争はどうするのさ、ワルダック』

『残念ですが後回しです。まずは反逆の芽を摘むのが先かと』

『チェッ、せっかくパルーフの王女を手に入れられると思ったのになァ。まあ、やっと国王になれるからいいかあ』


 国王になれるという喜びからか、浮かれた様子でザブン王子が部屋を出て行った。

 うーん、これはどうなんだろう。現国王から王位を奪うよりは、馬鹿王子が王位についてから奪ったほうが良心の呵責が少ない気もするが。いや、間を空ければ空けるほど、被害者は増える可能性もある。ここはやはり……。


『……エリア王妃を奪われたのはまずい。いずれ国王の耳にも届くかもしれん。その前にザブンに王位を譲らせねば……』


 おや? ワルダックの口調が変わった。苦虫を噛み潰したような顔で、国王やザブン王子を呼び捨てにしてるし。本性を現したか? でもダキア王妃がいるのにな。イトコのダキア王妃の前では素を出しているのだろうか。


『こんなことならさっさと王位を継がせるべきだったか。クープ侯爵らを押さえつけるのに国王の力が必要だったとはいえ……くそっ! 幸い、エリア王妃を奪われたことはまだ知られてはいないだろう。強引にでも認めさせねば。認めねばエリア王妃の命はないと脅せば間違いあるまい』


 おいおい、どういうことだ? エリア王妃が人質になってたのはクラウド王子を封じるためじゃなかったのか? 国王もエリア王妃を盾にされて、宰相の言いなりになってたとでも……。

 ちょっとこれは決定的な証拠になるかもしれん。現場を押さえとこう。「ゲート」を使い、スマホをこっそりとハツカネズミの元へと送る。よしよし、ちゃんと録画しておいてくれよー。


『エリア王妃とクラウドに国王の元へ行かれてはマズい。王宮を完全封鎖し、その間に国王を脅して、王都の貴族の前でザブンに王位を譲らせねば』

『王位をザブンに譲らせたら国王はどうするの?』

『消えてもらうさ。今すぐ死んでもらってもかまわんのだが、きちんと王位をザブンに譲り渡してもらわんと、クラウドを担ぎ上げる面倒な奴らが出てくるかもしれんからな』


 おおっと、いただきましたよー。国王暗殺計画の証拠を。っていうかこれ、ダキア王妃も同罪だよな。これで、クラウド王子は反逆者の汚名を被らないですむかもしれない。


『どっちみち後顧の憂いを断つためになんとしてもクラウドには死んでもらう。王家の血筋は一人たりとも残すわけにはいかん』


 ? 何言ってんだこいつ。国王とクラウド王子を殺したって、ザブンが残ってるじゃない…か……。

 …………おいおい、ちょっと待てよ。まさか……そういうことなのか? だとすればクラウド王子への仕打ちもわかる。


『やっと我が一族がこの国を手に入れられるのだ。誰にも邪魔はさせん』

『私とあなたの息子が、もうすぐこの国の王となるのね』

『ああ。新しい王家の誕生だ』


 そう言って二人は口の端を釣り上げ、歪んだ笑いを浮かべていた。





『やっと我が一族がこの国を手に入れられるのだ。誰にも邪魔はさせん』

『私とあなたの息子が、もうすぐこの国の王となるのね』

『ああ。新しい王家の誕生だ』


 録画した映像の再生を終了する。周りを見渡すと、みんな声も出ないようだった。


「そんな……ザブン王子がワルダックとダキア王妃の息子だと!? ならば……ならばこれは王家の乗っ取りではないか!」


 椅子から立ち上がり、拳を握りしめてクープ侯爵が叫ぶ。無理もないか。これは侯爵の言うとおり王家の乗っ取りだ。冷静でいられるはずがない。ワルダックは30年以上もザブンの出生を騙し続け、宰相になったという10年前からは国王を脅して政治的にこの国を操っていたのだ。

 おそらくクープ侯爵の宰相更迭も、ワルダックのシナリオだったのだろう。


「驚いたわね……。でもなんか納得しちゃったわ」

「で、ごさるな……。クラウド殿とあの馬鹿王子はあまりにも似ておらぬ。片親どころかまったくの赤の他人なら、それも当然でごさるよ」


 エルゼや八重の言うことももっともだ。なんか腑に落ちたというか、どうりで、と納得できてしまった部分もある。体型的には似ていないが、濁った目付きはそっくりだ。

 「托卵」という動物の習性がある。カッコウなどの鳥類にみられる習性だが、まったく別の鳥の巣に卵を産みつけ、自分の子供をちゃっかり育てさせるという習性だ。そんな知識がふと頭をよぎった。

 椅子に座ったまま微動だにしないクラウド王子に目を向ける。膝に肘をつけて指を組み、じっと足元に視線を向けていた王子が静かに口を開いた。


「兄……いやザブンと私はなんの繋がりもなかった。もう何も躊躇する理由はありません。私は国のため、父のため、母のために、国を乗っ取ろうとする国賊と戦います」

「よくぞ申された、クラウド王子! 正しい王位継承者はあなたなのです! この国をあのような輩に渡してはなりません!」


 クープ侯爵の言う通り、これで大義名分はこちら側にある。王様を脅迫する材料にしていたエリア王妃も助け出した。もう向こうに切り札はあるまい。あとは一気にたたみかけるだけだが、その前にきっちりと調べることがある。

 僕はこっそりと「インビジブル」を使い、ワルダックとザブンから髪の毛を拝借して、「錬金棟」のフローラの元へ持っていった。それをもとにフローラが解析した結果、間違いなく二人は親子だという結論が出たのである。つまり、ザブンは国王の血を引いていない。まったくの赤の他人ということだ。

 まあ、万が一ということもあったからな。ちょっと安心した。


「うふふ。マスターの子供が生まれた時も調べてあげまスの」

「おいコラ、どういう意味だ?」


 そんなことを気にしてたら世の中のお父さんは疑惑の中で子供を育てないといけないだろうが。

 江戸時代の将軍様が大奥を男子禁制にした理由が今回ものすごくわかったが。


「マスターはお嫁さんが沢山いるから子供も沢山でスの。博士が言ってたでスの」

「博士って、バビロン博士がか? 僕の子供のことまで知ってたのか」


 未来を覗くアーティファクトとやらで見たのか。すると、今よりも先の未来を見たのかな。子供がいるってことは、18歳になった後……だと思うけど。僕が欲望に負けなければ。

 あと一年と半分くらい、いや妊娠期間を入れれば、早くても二年以上先の未来か?


「9人のお嫁さん、それぞれに子供がいるみたいでスの。子宝国王様でスのね」


 うはっ!? 9人も子供がいるのか。相手するのしんどそうだなあ……。

 …………………………………………はい? 9人のお嫁さん、それぞれに?

 

「9人!? なんだそれ!? 聞いてないんですけど!?」

「言ってませンの」


 え!? なにそれ、9人もお嫁さんが増えるってこと!? どんな未来だよ、それ!

 ちょ、ちょ、ちょっと待てよ。今の段階でユミナ、エルゼ、リンゼ、八重、ルーの五人だろ? 暫定だけど、スゥが入ったとしても6人。つまりあと3人も増えるってこと? なにがどうなってそうなった!


「……この話、誰かにしたか?」

「してないでスの」

「誰にもするな。余計な被害を生み出す原因になりかねん」


 特に僕に。それにしてもいったいなにやってるんだよ、未来の僕……。


「それはつまり残りのお嫁さん候補に私を入れてくれるということでスの?」

「なんでそうなるんだよっ。だいたいお前ら子供はできないって言ってたろ」

「子供なんて「錬金棟」と「研究所」の技術を合わせれば、マスターのクローンを作ることも可能でスの」

「絶対やんなよ!」


 自分の完全クローンの息子なんて真っ平ごめんだ。フローラに余計なことを口走らないように釘を刺して、クープ侯爵邸へ戻ってきた。

 鑑定の結果をエルゼたちに伝える。間違いなくザブンは王族ではない。これで本当に向こうに遠慮する必要はなくなった。


「さて、じゃあ最後の仕上げをしてくるか」

「どっかへ行くのでごさるか?」


 八重が僕に尋ねてくる。どこへってそんなの決まってる。


「一番の被害者のところへ真実を伝えにさ」


 そう言いながら僕は再び「ゲート」を開いた。








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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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