表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第18章 二人の王子。
136/637

#136 リーニエ、そして同盟会議。




 リーニエ王国第二王子、クラウド・ゼフ・リーニエの人生は日陰者の人生だったという。

 生まれた時、すでに父親は側になく、母親と城から離れた小さな屋敷で過ごした。やがて自分が王子とわかるころには、いつもネチネチと嫌がらせをしてくる兄がなにかと干渉してくることになったという。その日の気分次第で殴られ蹴られ、侮辱された。

 自分を侮辱するのはまだしも、母親を侮辱されるのは我慢がならなかったが、殴りかかろうにも護衛の騎士や取り巻きの貴族の子息たちに取り押さえられたとか。

 クラウド王子の母親は貴族の出と言っても、もともとは商家の娘で、地方の子供がなかった男爵夫婦のところへ養女になったという経緯がある。そのため、兄には生まれが卑しい王子として蔑まれてきたとのこと。


「正直、あんな兄のいる国など出て行きたかった。しかし、母を置いてはいけません。それを見越してたのでしょう。母は病気だと偽りの診断をされ隔離されてしまいました。伝染るかもしれないので近づくなと」


 母を盾にされ、国を出て行くこともできず、兄に好きなように使われる日々。気がつけば母親は完全に幽閉され、会うこともできなくなってしまっていた。


「生きてはいるんですよね?」

「はい。幽閉先の場所で母を世話している娘がおります。この娘は私が世話になっている貴族の配下の者で、母のことをそれとなく教えてくれるのです」


 しかし、そこまでするかね。言っちゃなんだが、出来のいい弟に嫉妬してるようにしかみえないんだが。


「兄は弱い者をいたぶるのが好きなのですよ。私を手放さないのも惨めな姿を他の者に見せつけてやろうという考えなのでしょう。今回のことも婚約を取りつける使者に私を指名したのは、弟など兄の使い走りに過ぎないとでも言いたかったのでしょうね」


 歪んでるな。会ったこともない奴だが話だけで嫌いになれる。


「そこまでとは……リーニエ国王はなにも言わないのですか?」

「父は宰相のワルダックに逆らえません。変に反抗すればひょっとして殺されるかもしれないと私は思っています。父を擁護する貴族たちは次々と城から追い出され、今では味方がほぼいない状態なのです」


 公爵の質問に答える王子の手が震えていた。確かに危険だな。宰相としてはさっさと国王の首を自らの一族の血を引く第一王子にすげ替えたいと考えてるはずだし。あれ? ちょっと待てよ?


「ひょっとして今回の縁談って……」

「たぶん、結婚の発表とともに王位の継承を行うのが狙いかと」


 ははん、それでか。ひょっとして婚約の相手は誰でもよかったのかもしれない。いや、それどころか、自分に決して逆らえない弱者としてスゥを選んだ可能性だってある。夫婦とはいえ、そんな性格の奴が対等であることを許すはずがない。もしもスゥが嫁いでいたら虐待された挙句、病死などということにされてしまったかもしれないな。


「この縁談の使者に命じられたとき、逆にチャンスだと思いました。オルトリンデ公はブリュンヒルド公王と親しい仲と聞いておりましたから、なんとか公王に面会をお願いできるのでは、と。まさかこうも早く願いが叶うとは……」

「で、あんたの母親を助けるために手を貸してほしい、と?」

「はい! なにとぞ!」


 クラウド王子がまた土下座を始めた。うーん、どうする? そりゃ「ゲート」を使えば難なくできるとは思うけどさ。母親を助けるのは別にいいんだけど、そのあといろいろとややこしいことにならないかなあ、と。


「ブリュンヒルド公王陛下に申し上げます」


 突然公爵が口を開いた。なに? 急にあらたまった口調で。そりゃ第三者がいる前でタメ口はマズイかもしれないけど。


「ここはひとつ西方同盟の緊急会議を招集すべきかと。ベルファストだけではなく、レグルス、ミスミド、リーフリースの意見を考慮して事にあたるのが望ましいと考えます」


 え!? そんなに話を大きくするの!? いやまあ確かに他の人の意見は聞きたいところだけれども!


「私はクラウド王子に決意があるのなら、他国の介入もありだと思っております。愚鈍な第一王子を廃し、クラウド王子を王位につける手助けをするべきかと」


 うえっ!? ニヤリと笑う公爵に、僕とクラウド王子本人も目を丸くして驚く他なかった。





「……と、いうわけなんですが」


 ブリュンヒルドの城に設けられた会議室に西方同盟の首脳陣が勢揃いしていた。ベルファスト王国、ミスミド王国、リーフリース皇国、レグルス帝国に加え、今回からラミッシュ教国が同盟に加わっている。

 ざっとした説明をして、この国への対応を相談しようということだが。


「ふむ、確かに我が国が得た情報もそのようなものであったな。リーニエにおける宰相の権力はまさに国王をもしのぐ勢いだそうだ」


 レグルス皇帝陛下がそんな呟きを漏らす。


「儂のところはリーニエとはあまり国交がないのでな、なんとも言えんが」


 ミスミドの獣王が手を顎にやりながら、そう口を開く。確かにリーニエはベルファスト、リーフリース、レグルスとは頻繁に国交があるようだが、ミスミドやラミッシュとはあまり関係ない話とも言える。ここらへんは僕らの国も同じだ。


「だが、個人的にはその宰相や第一王子の所業には腹が立つな。泣くのは国民だろうに」

「確かに。聞いた話によると、北のパルーフ王国と戦争の準備をするため、ここ数年、重税を課しているとか。愚かしいことですわ」


 ラミッシュ教国の教皇猊下が軽く横に首を振りながらため息をつく。

 

「しかし、クラウド王子を王位につけるのはいいが、それで国はまとまるのか? 結局、政務に関わる者が宰相の腰巾着ばかりでは、王子の言葉に耳を傾ける者がいるとは思えんが」


 確かにリーフリース皇王の言うこともわかる。トップの首を変えただけではダメだろう。根本的なところから変えていかないと。


「そこんとこどうなの?」


 僕が声をかけると、呆然としていたクラウド王子がハッとして、慌てた様子で話し始めた。ユミナの魔眼でクラウド王子の本質は悪い人間じゃないと見抜いているし、この場で嘘をついても教皇猊下には通じない。


「は、はい。宰相に疎まれ、国政から外された者たちの力を借りようと思っています。ここ十数年、冷遇され不満を持っている貴族も多く、実力はあるのに遠ざけられた有能な者もいるのです。なにしろ、まずは宰相に袖の下を渡さないと役職につけないほどですから」


 自嘲するように王子が語ると、獣王陛下がチッと舌打ちをした。


「腐ってやがるな。……悪い、失言だった。お前さんの国を悪く言うつもりはなかった」

「いえ、本当のことですので」


 苦笑しながらも悲しそうな目をふせるクラウド王子。ますますもってろくな相手じゃなさそうだな。


「こちらの味方になってくれそうな有力な貴族はおらんのかね?」

「おります。前宰相を務めたクープ侯爵です。この方は他の地方貴族の信頼も厚く、何かと影で私を支えてくれた者です」


 ベルファスト国王の質問に、クラウド王子が即座に答える。敵だらけってわけじゃないんだな。宰相に反発する貴族や豪族、そこらへんをまとめて味方につけることができれば、クラウド王子が王位についてからも国として機能するだろう。

 

「その前にクラウド王子としてはどうなんです? 母親さえ助ければいいのであれば、それで国外へ逃亡って手もありますが?」

「……いえ、私は今までに宰相や兄に苦しめられてきた人たちを見てきました。無力な私は彼らを助けることができなかった。遅ればせながら私に出来る事があるならば、それを成し遂げたいと思います」

「それは今のリーニエに反旗を翻すということですよ。例え宰相が実権を握っているとしても、言ってみれば父親である国王にも逆らうということですが、いいんですか?」

「覚悟の上です」


 きっぱりと言い切ったな。国王に対してではないが、これはクーデターに近い。まあ、なるべく武力制圧なんてことはしないつもりだが。


「では他の方々はどうでしょうか? リーニエの、いえ、クラウド王子の申し出に対して」


 円卓に座る国家元首たちを見渡しながら僕が問いかけると、


「我が国はクラウド王子を支持する。リーニエの腐敗はやがてこちらにも害がおよびかねんからな」

「同じく」


 真っ先にベルファスト国王が手を挙げ、続いてリーフリース皇王も賛同した。


「帝国としても看過できる問題ではなさそうだ。積極的にとまではいかないがなるべく協力はする」


 そう言って皇帝陛下も口を開く。帝国もクーデターを起こされて、国力がまだ完全には回復してないからな。あまり無理はできないのだろう。


「ウチはあまり関係ないが、反対はしない。同盟の一国としては賛成だ。今のリーニエは好きになれん」

「その点に関しては教国も。クラウド王子に助力いたしましょう」


 ミスミドの獣王陛下とラミッシュの教皇猊下も賛成か。これで西方同盟全ての国が、リーニエ国王にクラウド王子を擁立する後ろ盾となった。あとはいかにして宰相たちを失脚させるかだが。

 できれば戦争とか武力制圧は避けたい。そこんとこを相談しようとすると、


「「「「「そこはほら、冬夜殿がなんとか」」」」」


 うおいっ!! 丸投げですかい! まあ、クラウド王子の母親を救出するのは自分でやろうとは思ってたけどさ!


「ご迷惑をがおかけします! なにとぞよろしくお願いします!」

「ああ、いや、まあ、いいんだけどね……」


 また土下座でもしそうなほど頭を下げるクラウド王子に、引きつった笑みを浮かべる。くっそう、こういうところはこの人たちに勝てそうな気がしない。伊達に長年国家元首を務めていないってことなんだろうか。ちゃっかり者め!


「よし! では西方同盟はクラウド王子を支持すると、そういうことで。ではあとは「親睦を深める」としましょうかな」

「いいですな」

「待ってました!」

「ふむ」


 ベルファスト国王の発言で国王たちはわらわらと会議室を出て行く。彼らの言う「親睦を深める」ってのは結局のところ「遊ぶ」ってことだ。行き先は遊戯室に決まってる。

 残されたのは僕とクラウド王子、そして遊戯室を知らない教皇猊下だ。


「やれやれ……。教皇猊下も行きましょう。美味しいお茶とお菓子を用意させますので。「あの方」もお気に入りのお菓子ですよ」

「まあ、それは食べてみたいですね」

 

 むろん、「あの方」とは神様のことだ。あれからたまに差し入れとして作ったお菓子などを持っていったりしている。どこから嗅ぎつけてくるのか、恋愛神までやってきて半分以上食べていきやがるが。

 遊戯室へ入ると早くも目ざとくフレームユニットを見つけたのか、みんな搭乗してプレイしていた。やり方は整備していたロゼッタとモニカに聞き出したみたいだな。

 っていうか、四人同時プレイできるようになったんだ。外部モニターで映し出される四つの機体は、赤、青、黄、紫と色分けしてあるが、誰が誰だかわからん。みんなてんで見当違いの方に攻撃したり、バランスを崩して倒れたりしている。


「公王陛下、これは……」

「まあ……」


 初めて見る様々なものにクラウド王子も教皇猊下も驚いているようだ。ま、そうなるか。


「ここは遊戯室です。まあ、遊ぶための部屋ですね。月に一度、西方同盟の集会後にみなさん遊んで帰るんですよ」


 最近じゃ集会のために集まってるのか、遊ぶために集まってるのか、怪しいところだが。少なくとも今回は有意義な会議だったかな。

 しかし、まだフレイズの来襲が確実なものではないとはいえ、他の国でも操縦者を育てておくべきだろうか。

 万が一、とんでもない数のフレイズが世界の結界を破り現れたら、ブリュンヒルドだけでは対応できないかもしれない。フレームユニットを貸し出して、それに備えておくべきかもしれないな。乗れるのがその国の国王だけってのもマズイ気がするし。

 そんなことを考えながら、教皇猊下とクラウド王子のために、シェスカとラピスさんに軽い食事を持ってくるように頼んだ。やることいっぱいあるなあ。この中で一番忙しい王様は僕のような気がする。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作リンク中。

■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ