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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第17章 日々の暮らし4。
132/637

#132 「格納庫」、そしてフレームギア。

 モニカに案内された黒い建物の中に入ると、何よりもその広さに驚いた。どうなってるんだこれは? あきらかに外から見た外観よりもはるかに広い。

 「格納庫」の名の通り、中はまるで倉庫街のような造りになっており、左右にいくつもの頑丈そうな大きなシャッターが閉じた状態で並んでいた。しかしどこまであるんだ、これ。向こうの端が見えないぞ。


「どうなってるんだ、これ?」

「驚いたろ? 「格納庫」の中は空間魔法が使われていて、見た目よりはるかに広いんだ。って言っても、全部のハンガーが埋まっているわけじゃないからあまり意味がないけどナ」


 僕の「ストレージ」と同じようなもんか。「ストレージ」の場合は時間も止まるらしいけど。熱々のスープを入れて何時間経っても熱いまま取り出せるからな。系統で言えば空間魔法と時間魔法のいいとこ取り、時空魔法ってとこか。

 しかしこれだけ広ければなんでも収納しておけるな。おっとそれよりも!


「そうだ! フレームギア! ここにフレームギアがあるんだろ!?」

「ん? フレームギアか? あるゼ、こっちだ」


 ちんまい歩幅で歩くモニカの後をワクワクしながら追いかけていく。モニカはずらりと並ぶハンガーのひとつにたどり着くと、その横にあったボタンのようなものを背伸びして押そうとしていたが、わずかに届かない。

 代わりに押してやろうと近付こうとしたら、


「ッのやろ!」


 モニカが手にしていたパイプレンチでボタンを思い切りブッ叩いた。おぉおい!? キレんの早すぎんだろ!!

 完全にボタンが破壊されたが、重いシャッターが、ガゴン、ガゴンとゆっくりと上へ開いていく。モニカがドヤ顔しているが、この後どうやって閉じるんだよ、コレ。

 薄暗い内部を覗いてみると、そこに巨大な騎士が立っていた。高さは10メートルくらいか。灰色の機体色をした西洋の騎士。派手さはないが、頼れる武骨さが感じられる。重騎兵って感じのどっしりとした雰囲気がなんとも力強い。


「これがフレームギアか……!」

「これは初期のフレームギアで旧型機だけどナ。5000年前、あのまま戦争が続いていたら量産される予定だったんだゼ」


 量産機か。確かに安定感がある機体な気もする。おそらくピーキーな設定をされていない、操作性を高めた機体なのだろう。誰でも動かしやすくなければ量産機の意味がないしな。


「これの他にもあるのか?」

「タイプ別に何機かあるゼ。陸戦型、強襲型、高機動型とかナ。それの上位機体もあるんだが、作られなかった。設計図は「蔵」に入ってるはずだゼ」


 「蔵」か。果たして無事に残っていることやら。その設計図まで地上に落としてたら目も当てられないぞ。


「これ、乗れるかな?」

「乗るだけなら乗れるゼ? まあ、動かないけどナ」

「…………………………………え?」


 ちょっと待て。動かない? おいおいおいおい、ここまできて動かない!? どういうことだよ!?


「…………なんで動かない?」

「燃料がねえから」


 あらまあ、シンプルな返事! 燃料、燃料か! 燃料がいるのか、こいつは! なんとなくだが魔力とかで動くんだと思ってた。


「こいつの燃料ってなに? ガソリン?」

「ガソリン? なんだそりゃ。こいつの燃料は「エーテルリキッド」だゼ」

「エーテルリキッド?」

「特殊な加工を加えられたエーテル鉱石に魔力を加えて抽出した燃料だ。そいつと搭乗者の本人の魔力を連動させて動かすわけだナ」


 エーテル鉱石。聞いたことないな。何か特殊な鉱石だろうか。どっちにしろその燃料がなければこいつは動かないってことか。ここまで来て、なんてこった。


「その燃料の作り方ってモニカはわかる?」

「わかんね。魔法畑じゃねえんだよ、オレ」


 うあー。結局でっかいロボットの置物を手に入れただけかー。がっくりと肩を落とす僕を見て、慌てたように彼女は口を開く。


「き、気を落とすなよ、マスター。フレームギア以外にもここにゃいろんなものがあるんだゼ。空飛ぶ小型艇とかフレームギア運搬用の自動馬車とか」


 運搬用の自動馬車? 自動車のことだろうか。一度僕も作ろうとしたけどやめてしまったが。ちょっと興味を引かれるな。あれ? でもちょっと待てよ?


「ちなみにその乗り物の燃料は何?」

「…………エーテルリキッド……」


 ダメじゃん! 結局動かないじゃん! くそう、あのエロ博士、なんで燃料満タンにしておかないかなあ!

 モニカに詳しい話を聞くと、時間とともにエーテルリキッドは魔力が消えて効果が薄れていってしまうんだそうだ。聞いた話から想像するに炭酸飲料みたいなものかな。一回蓋を開けたら炭酸が抜けるような感じなんだろうか。それでも充分何年も持つ物なんだそうだが、いかんせん5000年は長すぎた。

 

「誰か「エーテルリキッド」を作れる奴はいないのか?」

「あー……「研究所」の管理人なら作れると思うけど、オレ、アイツ苦手なんだよなあ」


 モニカが腕を組みながら眉をしかめて首を捻る。

 またそのパターンか……。今度は「研究所」を探さないといけないのかよ……。


「ああ、でもひょっとしたらフローラが知ってるかもしれねえナ」

「え?」

「「錬金棟」と「研究所」は密接な関係にあるからナ。持ちつ持たれつ、互いに必要な素材のやりとりもあったみたいだし。オレの「格納庫」とロゼッタの「工房」も同じようなもんだけど、アイツは「工房」から出てこねえからなあ」


 確かに。ロゼッタなら何か作り始めたら「工房」にずっとこもってそうだ。

 とにかくフローラに聞いてみよう。なにか打開策が得られるかもしれない。

 僕はそう考えて、みんなを迎えるために「ゲート」を開いた。





「エーテルリキッドでスの?」


 小首を傾げてフローラが僕を見る。「錬金棟」は薬品や全く新しい素材を作り出すことに特化した設備だ。そこならエーテルリキッドなるものも作れると考えたのだが。


「できないことはないと思いまスの」

「よっしゃあ!」

「ただ、「研究所」の管理人が作るものより劣化したものになると思いまスの。それでもよければ、でスが」


 多少劣化したって問題ないだろ。これでフレームギアを動かせるならそれぐらいなんてことはない。嬉しさのあまり踊り出したくなる僕に、フローラが冷水を浴びせる。


「それで、エーテル鉱石はありまスの?」


 え? エーテル鉱石? エルゼたちの方を見るとみんなして首を横に振った。


「エーテル鉱石なんて聞いたことないわ」

「…珍しい鉱石、なんでしょうか?」


 おいおい、またかよ……。なんでこうすんなりいかないかなあ……。


「エーテルリキッドはエーテル鉱石に刻印魔法の処理をしたあと、特殊な魔法液に浸して、魔力反応させることで完成するんでスの。これくらいのエーテル鉱石があれば刻印を彫ることができるんでスけど」


 そう言って手でラグビーボールくらいの大きさを提示してくるフローラ。お湯の中にティーバッグを入れて紅茶を作るようなもんだろうか。いや、それ以前にエーテル鉱石ってもんがわからないのですが。


「エーテル鉱石とは、様々な色をシた透明感のある鉱石で、魔力を増幅、蓄積、放出できる性質を持ってまス。5000年前にはそれなりに入手できたのでスが」


 シェスカが解説してくれるが、イマイチわからん。それを聞いていたリンゼがおずおずと手を上げた。ん?


「…あのう、それって「魔石」、じゃないですか?」


 魔石? あ、あの属性を調べるときに使った小石か? 魔法使いの杖なんかに装飾されている宝石みたいなやつ。

 ごそごそと腰のポーチからリンゼがいくつかの小さな魔石を手のひらにのせて僕らに見せる。フローラが透明感のある色とりどりの1センチ未満の魔石をひとつつまみ上げ、太陽にかざす。


「間違いありませンの。これがエーテル鉱石でスの」


 なるほど、5000年の間に名称が変わっていただけなんだな。じゃあ、問題解決!? ……なのになんでバビロン関係者以外のみんなの顔が暗いの?


「どうしたの、みんな?」

「いや、だって……そんな大きな魔石、はっきり言って無いわよ?」

「え?」

「…魔石は結構貴重なもの、なんです。これくらいの小さなかけらなら問題なく入手できますが、そんなに大きいものとなると……」


 確かに僕が見た中で一番大きな魔石はレネの持っていたペンダントにつけられていた風の魔石だ。執事のライムさんがクルミくらいの大きさの、あれでかなりの価値があるとか言ってたな。え? ひょっとしてかなり手に入りにくい?


「ベルファスト王家の宝物殿にかなり大きな水の魔石がありますが、それでもこれくらいですね」


 ユミナが手でソフトボールくらいの大きさを示す。王家の持ち物でもその大きさなのか。


「ちなみにそれっていくらくらい……」

「さあ……値段なんかつけられないと思いますが」


 ダメだこりゃ。そんな高価なものを彫るとか無理だろ。しかも抽出したあとは絞りカスってことだとすると、使い捨てってこと? コストがかかり過ぎる!

 夢潰える。そんな顔をしていた僕に、八重がなにか思いついたような顔で話かけてきた。


「冬夜殿の検索魔法で大きな魔石を見つけられないのでござるか?」

「え?」


 どうだろ。地下に埋まっているものまで検索できるのか? あ、でも砂漠に埋まっていた遺跡を見つけ出すことはできたな。とりあえずやってみるか。


「検索。えーっと30センチ以上の大きさの魔石」


 空中に映し出した西方諸国のマップ上にいくつかのピンがストトトッと落ちた。……検索できたよ。あるもんだなあ。

 お、うちの国内にもあるじゃんか。ひとつだけだけど、これは助かるな。やっぱり他国に埋まっているのを勝手に掘り出すのは気がひけるからなあ。

 よし、じゃあ次は魔石発掘だな! やるぞうー!

 ………はぁー、正直しんどい……。








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あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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