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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第17章 日々の暮らし4。
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#128 対策、そして鳥の王。





「ってことなんですけど、なんかわかります?」

『いや、さっぱりじゃの。前にも言った通り、ワシらも常に監視しているわけではないし、確かに異世界を渡り歩く種族もいることはいる。じゃが、それも含めてワシらにはどうすることもできんよ。他の神の介入がされているのなら話は別じゃが』


 エンデに会った帰り道、神様に今までのことを尋ねてみたが、どうやら神様も預かり知らぬことらしい。結局はこの世界の人間たちでなんとかしないといけないってことなのかな。

 まだ差し迫った事態に陥ったわけではないが、対策を練っておくに越したことはないだろう。

 この局面を打開するのに一番有効的なのは、やはり「バビロン」の力を使うことだな。博士が造り上げたという対フレイズ用の決戦兵器、フレームギア。それをなんとか使ってフレイズたちを撃退できないだろうか。

 どっちにしろ「格納庫」で現物を手に入れるか、「蔵」で設計図を手に入れるかしかないよな。確か残りの「バビロン」は、「塔」、「城壁」、「図書館」、「蔵」、「格納庫」、「研究所」の6つ。確率としては3分の1か。


「もっと積極的に探すべきかな……」


 僕はそんなことを考えながらコレットの町を目指して飛んでいった。





「フレームギアでありまスか?」


 エルゼたちの叔父さんらに挨拶も終えてみんなで城に戻ったあと、僕はすぐさま「工房」にいたロゼッタに話を聞いてみた。フレームギアを開発したのは博士だが、ロゼッタは整備を手伝っていたらしいからな。


「そのフレームギアってのは誰でも乗れるものなのか?」

「魔力や機体との相性により左右されるでありまスが、基本的には誰にでも動かせるでありまス。訓練しないと手足のように操るのは難しいでありましょうが」


 なるほど。であるならば、量産して戦力を増やすこともできるってわけか。乗り手は訓練次第ってところだな。巨大ロボット軍団ができたらフレイズにも対抗できるかもしれない。


「ただ、量産するのは難しいでありまスよ?」

「え? なんで? 「工房」のコピー機能を使えばバッチリだろ?」

「素材の量が半端ないでありまスよ。それに簡易型のフレームギアでも、一から製造するとなると一体造るのに丸一日かかるでありまス」


 むう。一日一体か。一ヶ月で30体。それだけでも大したもんなんだが……。博士の話を聞くと5000年前は何万体というフレイズが襲ってきたというしな。思いっきり心もとない。


「格納庫には何体くらい保存されているんだ?」

「さあ。小生はあまり他の「バビロン」に関わってなかったので。整備した限りではタイプ別に五体から七体かと思われるでありまスが」

「それだけ!? よくそれでフレイズと戦おうとしてたな」

「なにしろ量産を始めようとした矢先に、相手がいなくなってしまったでありまスから。「工房」も二号、三号ができるはずだったのでありまス」


 ロゼッタが残念そうに語る。「工房」は増設される予定だったのか。しかし、そういうことか。量産体制が整う前に事態が収束してしまったんだな。

 うーん、今のところできるのはせいぜい素材集めくらいか? 工房を出て歩いていると、「錬金棟」の方からシェスカとフローラが歩いてきた。二人の手には何本かの薬の瓶が入った籠がある。


「それ、何の薬?」

「うふふ、これは風邪薬とか、頭痛薬、胃腸薬などの一般的なお薬でスの。お城に備蓄があまりなかったので作ってきましたの」


 ナース服のフローラが笑顔で答える。何度見ても病院以外で見るナース服は慣れないな……。

 しかし薬か。回復魔法や僕の「リカバリー」でもフォローできないものもあるもんな。ん? 待てよ?


「フローラ、その薬って「錬金棟」でしか作れないのか?」

「これは普通の薬ですので、特に手は加えていませんの。手間を省くために素材から錬成しましたが、時間をかければ普通に作れまスの。純度が落ちるので多少効果は下がるかもしれませんけど」


 つまり、他の人たちにも作れるってことだな。ってことは商売になるな。風邪薬、頭痛薬、胃腸薬、どれも必需品だ。富山の薬売りじゃないけれど、うまくいけばかなりの収入源になるかもしれない。原材料となる薬草とかを栽培する必要があるかもしれないが。

 フローラにその旨を伝え、薬の精製法を椿さんたちに教えてあげることにした。忍者だけあって薬物の取り扱いは慣れたもんだし、配下の人たちにはそういうのが得意な人が多かったはずだ。これで医薬品販売業に乗り出せるといいんだが。

 シェスカたちと一緒に城に戻ってくると、とりあえずエンデから聞いたことをリーンに相談してみることにした。

 正確にいうとリーンはミスミドの大使だけど、フレイズに関しては国家を越えた問題だと思うからな。


「フレイズの「王」、異世界からの侵攻、世界の結界、ねえ……」


 リーンは大きなため息をついて椅子にもたれた。まあ、驚くよな。隣のポーラも腕を組んで悩むポーズをしている。


「長年生きてきてこんな話を聞かされたのは初めてだわ。普通ならなんの冗談かと思うところだけど……いろいろと確証になるものが揃い過ぎてるし、本当のことなんでしょうね」

「エンデが嘘をついているって可能性もあるけどね。多分、本当のことじゃないかと思う」

「それが事実だとしても、多分他の人たちは信じないでしょうね。フレイズたちの侵攻が始まらない限り」


 確かに。フレイズの存在は認めても、魔獣の新種くらいにしか認識されないだろう。僕らが出会ったのでも、まだ三体だけだ。古代遺跡でのコオロギ型、ラビ砂漠でのマンタ型、そして大樹海での蜘蛛型。これにリーンたちミスミド兵士が倒したヘビ型が僕らが認識しているフレイズの全てだ。

 ひょっとしたらもう何匹か出現しているのかもしれないが、すでにエンデの手で狩られている可能性もある。

 フレイズの侵攻が始まってから対策を立てたのでは遅すぎる。今のうちにできることをしなければ。

 と、いっても今のところ「バビロン」を探すか、フレームギアの素材を集めるかぐらいなんだよなあ。


「一応情報は集まるようにしているんだけどね。怪しい遺跡とか寂れた神殿とか。でも調査してみるとそれらしきものは無かったり、ただの廃墟だったりして、徒労に終わってるのよ」


 うーん、リーンの配下の人たちばかりに探させてもなんだな。よし、僕の方でも斥候を出すことにしよう。リーンと別れ、琥珀らのところへ行き、情報集めに適している召喚獣がいないか聞いてみる。


『そういうことならやっぱり空を飛べる者がいいと思うわぁ。速いし、いろんな場所へ向かえるしねぇ』


 黒曜がそんな提案をする。っていうと鳥の召喚獣か? 確かにどこでもいけて探索にはうってつけだろうけど。


『一匹一匹召喚して契約していたら時間がかかりますぞ、主よ。ここは眷属を束ねる者と契約なされませ』

『む。珊瑚よ。お主、あいつを召喚しろと言うのか?』


 珊瑚の言葉に琥珀が口を挟む。眷属を束ねる者? 鳥の?


『《炎帝》。我らと同格にして、炎を司る翼の王。やつを召喚し、契約を成せば、幾千の鳥を一気に呼び出すことが可能でしょう』


 なるほど。確か琥珀は獣、珊瑚と黒曜は爬虫類系の支配者なんだっけか。召喚獣は問答無用で支配でき、普通の生物でもある程度の使役はできるらしい。魔獣に関しては駄目らしいが。

 その鳥バージョンってわけだな。


「どういうやつなんだ、その炎帝ってのは」

『その能力に反して穏やかな者です。我らの中では一番の人格者ですね』


 そんな琥珀の言葉に黒曜がニヤニヤしながら茶々を入れる。


『そうかしらぁ? 私の方がよっぽど人格者だと思うけどぉ?』

『黙れ。瞬間沸騰鍋が』

『んだとゴラァ!』


 鍋が一瞬にして沸いた。言い得て妙だな。

 とりあえず二人をなだめて、その炎帝とやらを呼び出すことにした。

 城の中庭に召喚陣を描き、闇属性の魔力を集中して高める。やがて黒い霧が漂い始め、さらにその中に琥珀たちの霊力を混ぜていく。だんだんと濃くなってきたその霧にさらに魔力を加える。


「夏と炎、南方と湖畔を司る者よ。我が声に応えよ。我の求めに応じ、その姿をここに現せ」


 霧の中から爆発的な魔力が生まれ、召喚陣の中に紅蓮の火柱が立ち上がる。炎の渦が霧を吹き飛ばし、火柱が消えると、そこには真っ赤な一羽の鳥が佇んでいた。

 大きさは馬ぐらいはある。姿は鳳凰と呼ばれる伝説上の鳥に酷似していた。こいつが《炎帝》か。


『やはりあなたたちでしたか。これはまた懐かしい』

『久しぶりじゃな、《炎帝》』

『炎ちゃん、おひさ〜』

『相変わらず派手な登場だな、《炎帝》よ』


 《炎帝》の声は落ち着いた女性の声のように聞こえた。確かに琥珀が人格者だと言うだけの落ち着きはあるようだ。


『私を呼び出したのは貴方ですね?』

「そうだよ」

『我らの主、望月冬夜様だ』


 琥珀の言葉に炎帝は驚いたようなそぶりを見せたが、やがてこちらをじっと眺め、ゆっくりとその瞳を閉じた。


『なるほど。《白帝》、《玄帝》を従えるほどの方に、いまさら私がなにをしようと結果は変わらぬでしょう。主従の契約をいたしましょう。望月冬夜様、私に契約の名を』


 あれ? ずいぶんとすんなり契約してくれるんだな。条件とか突きつけてこないし。まあ、助かるけど。どうやら琥珀の言った通り、穏やかな性格っぽい。

 それはそうと、名前か。えーっと、琥珀、黒曜、珊瑚ときているから、やっぱり似通った名前の方がいいよな。んー……。


「よし、じゃあ紅玉。紅い宝石の名前だけど、どうかな?」

『コウギョク……。承りました。私のことは紅玉とお呼びください』


 ポンッ、と炎帝、いや紅玉はその姿をオウム程度の小さな姿に変化させた。そのまま僕の肩にとまる。これなら騒がれることもないだろう。

 さて、それじゃあ本来の目的を果たすとしようか。

 紅玉の力を借りて、召喚陣から一気に1000羽ほど、鳥の召喚獣を呼び出す。種類は様々、色とりどりの鳥たちがそのまま空へ舞い上がり、四方八方へと飛び立っていく。

 怪しい遺跡や建物、変わった設備や石碑なんかを見つけたら僕に報告するようにと、飛び立っていく鳥たちに念話を送る。これでうまいこと見つかってくれるといいんだが。

 鳥たちが飛び立っていった大空を眺めながら、僕はそう祈らずにはいられなかった。








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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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