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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第17章 日々の暮らし4。
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#127 雷熊、そして思わぬ再会。




 山へ到着してからスマホで雷熊を検索してみると、けっこうな数がいた。ひとつの山にこの数は多すぎる。これは確実に亜種がいるな。

 しかし、よくもまあこれだけの数がいながら、あまり人里の方に被害がなかったのは、ラッキーだったとしか言いようがない。実際は畑を荒らされたりしているらしいから、そこそこの被害が出ているわけだが、人が襲われなかったのは僥倖だな。よっぽどこの山には獲物になる動物たちや木の実が豊富なのだろうか。


「まあいいや、ちゃっちゃと済ましますかね」


 山の中にいる雷熊全部をロックオンし、魔法をくらわそうとしてちょっと考える。このまま倒してしまったら剥ぎ取れる素材とかもったいないな。確か雷熊の毛皮はかなりの値段で売れたはずだ。それに肝も薬の材料になるんだっけか。肉は不味くはないが、旨くもないらしいけど。魔法で黒焦げにしてしまうと毛皮の価値が半減どころか全くもって無くなってしまう。

 うぬぬぬ、一番いいのは刃物による殺傷、それも刺突武器によるものが一番毛皮を傷つけない。いや、一番いいのは毒殺や窒息、もしくは心臓麻痺とかだろうけど。パラライズでは心臓麻痺とまではいかないからなあ。


「雷熊の個体数を確認」

『確認中…終了。子熊を含めて23匹でス』


 子熊と言えども放っておくわけにはいかない。成長すれば驚異になりかねないからな。少しばかり心苦しいが……。

 ともかく一匹ずつ心臓に弾丸を撃ち込んで、しとめてくか。一時間もあれば片付くだろ。まずは近場の一匹のところへ向けて「ゲート」を開いた。




「ふう。けっこう手こずったなあ」


 思ったより亜種がしぶとく、なかなか隙を見せなかった。こっちが心臓しか攻撃できないのをいいことに、雷撃をところ構わず放ってきて、避けるのが面倒だった。それでもなんとか倒して他の倒した雷熊同様、「ストレージ」に収納したけど。

 これでこの山には雷熊はもういない。あとはこの素材をギルドで換金して貰わないとな。あ、それとこの町が出した依頼書のキャンセルをしてこないと。キャンセルっていうか、まだ依頼さえもギルドに届いてないと思うから、依頼を横取りされたとか言い出す馬鹿はいないと思うけど。


「えーっと、なんだっけ? あ、センカか。センカの町だ」


 依頼を出したというギルドがある町をマップで検索する。ここから西にいったところか。

 飛行魔法を発動させて一気に飛んでいく。なんだかんだでやっぱり便利だよなあ、この魔法。「アクセルブースト」を使えば同じくらいのスピードは出せるかもしれないけど、こっちの方がはるかに楽だ。まあ、瞬間的な加速度は「アクセル」の方が上だし、「フライ」は思考スピードまでは上がらないからな。一長一短、使い分けろってことだな。

 そんな考えを巡らせていると、雲間から町が見えてきた。あそこがセンカの町か。

 町中に降りると目立つので、その手前で降りて歩いていくことにした。マップでギルドの位置を確認して、まっすぐにそこへ向かう。

 ベルファスト王都のギルドとは比べ物にならないくらいの小さな建物だったが、中は案外ときちんとしていた。お馴染みの依頼ボードが並び、様々な依頼書が貼られている。それを横目で見ながら、僕は受付にいる女性職員のところへ向かった。


「いらっしゃいませ、ご用件は?」

「魔獣の素材を買い取ってもらいたい。それとまだ届いてないと思うけど、明日届くはずのコレットの町の依頼書のキャンセルを」

「どういうことですか?」


 怪しい人物を見るような目をされたので、ギルドカードを提出する。ランク銀のカードに目を丸くしていた職員に事情を説明し、なんとか納得してもらった。そのあと中庭の方で亜種を含めた雷熊の死体をこれでもかと並べ、換金の査定をしてもらう。町の人たちに雷熊を狩ったと証明するのに、二匹ばかりを残してあとは全部換金する。


「し、少々お時間がかかりますがよろしいでしょうか?」


 まあ、あの数だ。仕方がないか。査定が終わるまで、僕はギルドの中を見物して時間を潰していた。暇潰しにボードに貼られている依頼書を眺める。


「東の洞窟…メガスライム、か。こいつは倒したことないなあ」


 スライム系はうちの女性陣が軒並み反対するからなー。この世界にきて色々な魔物や魔獣に会ったけど、スライムとかローパーとか、ヌルヌルネバネバ系は避けられてきたからなあ。わざわざ会いに行く気はないけどさ。

 ボードを眺めていると、ふと入口から誰かが入ってくるのが見えた。まあ、さっきから冒険者の出入りはあるんで気にもしなかったのだが、入ってきた人物を見て、思わず二度見してしまった。


「あれ、冬夜じゃないか。どうしてこんなところに?」

「エンデ……!」


 白髪に同じく白の長いマフラー、白のシャツに黒のジャケット、そして黒のズボンと、相変わらずのモノトーンスタイルの少年が僕を見て驚いていた。


「なんでこんなところにエンデがいるんだ?」

「それ、僕が聞いたんだけど。僕はこの近くにいるキングエイプってのを倒してきた帰りだよ」


 苦笑しながらエンデが答える。キングエイプか。大猿の魔獣だな。確か頭があまり良くないやつ。僕も戦ったことがある。


「いや、それはどうでもいい。それよりも聞きたいことが沢山あるんだ」

「聞きたいこと? まあ、いいけど、ちょっと待っててくれるかな。依頼終了してきたいんで」


 受付に行き、討伐部位を提出しているエンデのギルドカードをチラ見するとランク赤になっていた。報酬を受け取り、それを懐に入れるとギルドの隅にある長椅子に僕らは向かい合って座った。


「で、聞きたいことって?」

「フレイズのことだ。あいつらは一体何者なんだ?」


 んー、とエンデは少し考えるそぶりを見せたが、やがて口を開いた。


「話せることと話せないことがあるけどいいかな?」

「……かまわない。話せることを聞かせてくれ」


 エンデは深く椅子にもたれこむと話を始めた。


「信じてもらえるかわからないけど、あいつらはこの世界の生命体じゃない。この世界とは別の世界から来た来訪者、とでも言えばいいのかな」

「来訪者? 侵略者じゃないのか?」

「あいつらに侵略しているつもりはないから、侵略者と言うのが正しいかはわからないけど。別の世界から自分たちの「王」を探してこの世界に辿りついたんだよ」


 「フレイズの王」。以前にも聞いたな。そいつを見付け出すことがフレイズの目的だと。


「それがなんで人間を襲うんだ?」

「そこらはちょっと話せないことも混ざるけど、フレイズにはその生命活動の源になる「核」がある。これさえ破壊されなければ、身体が砕かれても自然界の魔力を吸収して、いつかは再生するんだ。で、その「王」の核がこの世界にあるのさ。それを取り戻すために人間を殺してるってわけ」

「待ってくれ。「王」の核を取り戻すのと人間を殺すのと、なんの関係が?」

「「王」の核がこの世界の人間の身体の中にあるからさ」


 なんだって? 「王」の核が人間の身体の中にある? それを取り戻すために人間を殺してるってのか!?


「人間とは限らないかもしれないね。獣人、魔族、ある程度の知性を持った生命体に宿っているのは確かだろうけど。「王」の核はね、今は休眠しているんだ。仮死状態と言ったところかな。その状態でこの世界の誰かの中に潜り込み、次の段階に進むのを待っている。「王」の核が放つ波動はこの世界にいることをフレイズたちに気付かせてしまう。だけど細かい位置までは奴らにはわからないんだ。「王」だけが持つわずかな「音」が聞こえないんだよ。宿主の心臓の音にかき消されてね。だから人間を殺す。邪魔な音を消すために」


 ちょっと待てよ。じゃあなにか? この世界の誰かわからない一人の中にある「王」の核を見つけるためだけに、人間を片っ端から殺してるのか!? しらみつぶしとは言うけれど、まさにそれを実行しているなんて。


「フレイズってのは一体……」

「元々は別の世界で進化した生命体だったけど、ある時、フレイズを統率する「王」がその世界から消えた。それを追って世界を渡り出したのが始まりさ。「王」にも目的がある。邪魔するのは不粋だと思うんだけどね。放っておいてあげればいいのに、あいつらは本能で動いてるから」


 蟻や蜂に女王がいるように。それに惹かれるように集まって来ているとでも言うのか。それに「王」の目的?


「世界を渡った「王」の核は、その世界の人間の身体の中に宿る。宿主の生命力をほんの少しずつ吸収して、宿主が寿命を迎えると別の宿主へと転移する。それを繰り返して、蓄積された力を使ってやがて別の世界へとまた旅立つ」

「……それを狙ってフレイズがやってきているのか? 世界中の人間を殺して、「王」の核を探し、「王」の核が別の世界へと転移すると、それを追ってフレイズたちも去っていく……」

「まあ、概ねそんなところだね」


 冗談じゃない。まるでイナゴのようにその世界の人間たちを食い散らかして去っていくってのか!? 無軌道に異世界を壊滅させながら次から次へと渡っていく。しかも自分たちには世界を滅ぼそうとしている意識はない。必要だからやっているだけ。そこには善も悪も何もない。本能なんだ。


「……エンデも「王」の核を探しているって言ってたな。お前も人間を殺しているのか?」

「やだな、勘違いしないで欲しいんだけど、僕は「王」の核が次の世界へ転移するのを待っているんだよ。あいつらと一緒にしないで欲しいね」


 ……こいつの目的がいまいちわからない。「王」の核の守護者のような者なんだろうか。どっちにしろその「王」のせいでこの世界はものすごい迷惑をかけられているわけだ。


「世界の結界ってのは?」

「んー…異世界ってのはさ、こう……螺旋階段のように少しずつズレて重なっているんだよ。一段上にはすぐ上がれるけど、十段上にはすぐ上がれないだろ? この高さが世界の隔たりで、上の段に行くためには全部の段を踏破しなきゃならない。まあ、一段抜かしぐらいはできるかもしれないけど。ところが世界にはよそからの侵入者を阻む結界がある。普通なら一段上にも上がれないのさ」


 なんとなくだがわかるような気はする。僕が元いた世界とこの世界に共通する部分があるのも、そのズレがあまり大きくないからなのかもしれない。


「前にも話したと思うけど、この結界は壁のようなものじゃなくて、目の細い網のようなものなんだ。だから小さくてその世界に無害なものなら抜けることができる。「王」の核が仮死状態で渡っているのもそのためさ。そんな芸当は「王」にしかできないけどね」


 そうか……仮死状態なら世界から弾かれずにすむわけか。網目の隙間から入ってくるといった感じかな。


「ところがこの結界を無理矢理通り抜けると……まあ、普通はできないんだけど、綻びができる。何回もそれを繰り返せばやがて穴はだんだんと大きくなっていき、完全に開いてしまうと結界としての役目を果たさなくなってしまうんだ。それが5000年前に起きた」


 レジーナ博士の言っていたフレイズ侵攻か。世界を滅ぼしかけたっていう……。そういうことだったのか。


「あの時は何故か結界が修復され、フレイズの脅威は去った。残されたフレイズを駆逐して、世界は滅びずにすんだんだ。僕も残党狩りに手を貸したけどね」


 こいつ、さらりと5000年前もいたって語りやがったな。やっぱり只者じゃない。少なくても人間じゃ絶対ない。にしても結界が元に戻ったってのはどういうことなんだろう。エンデもわからないみたいだけど……。


「これでしばらくは安心だと思って眠ったら、また騒がしくなっているじゃないか。結界もまた綻び始めているし。まだかろうじて保ってはいるけど、上級フレイズがこちらにやってくるのも時間の問題じゃないかな。まあ、それが1年後なのか、50年後なのか細かいところはわからないけど」

「……エンデは人間の味方なのか?」

「味方ってのはどうかな。僕がフレイズを狩っているのは時間稼ぎのようなものだし。正直、結界が破られたらあとは成り行きに任せるかもしれない。フレイズの味方をする気はないけどね」


 やっぱりこいつの立ち位置がわからない。少なくてもフレイズ側じゃないだけマシってことか。


「って、話せるのはこんなところかな。そろそろ僕も用事があるからさ」


 そう言ってエンデは立ち上がり、ギルドを出ていこうとする。


「……最後に。エンデ、君は何者なんだ?」

「僕かい? 僕は「渡る者」さ。じゃあね、冬夜」


 そう言い残してエンデはギルドを出ていった。

 フレイズの目的、「王」の核、世界の結界……。いろいろととんでもないことがわかってきたな。リアルに考えるとけっこうマズいんじゃないか? 5000年前は結界を張り直すことで危機を回避した。でも今回は? フレイズの侵攻を止めることができるのか? フレイズは「王」の核を見つけるために無差別に人間を狩り続けるだろう。それに対抗できる者はおそらくそんなにいない。5000年前のように大群で現れたらなす術がないぞ……。

 明かされた真実に戸惑いながら、受付で換金された雷熊のお金を受け取って、僕はギルドをあとにした。








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