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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第17章 日々の暮らし4。
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#124 選考会、そして合格者。




 選考会当日。町の人や椿さんの配下、猫たちから報告のあった番号札の者は城の門をくぐることはできなかった。当然、食い下がってくる者もいたが、自分がこの国でどういうことをしたか事細かに語ってやるとすごすごと帰っていった。これにより50名ほど失格となり、残りは約950人。20分の1減っただけか。まだまだだな。

 城内に入り、訓練場のスペースに希望者を集める。急造だが作り上げたステージの上に、僕とレインさん、ノルンさん、ニコラさんの団長・副団長トリオ、あと馬場の爺さんと山県のおっさんが上がった。ステージ横にはエルゼやリンゼ、八重にユミナ、ルーと椿さんなどに控えてもらっている。

 スマホを操作し、スピーカー機能で音声のボリュームを上げた。


『まずはようこそ、ブリュンヒルド公国へ。この国の公王、望月冬夜です。これから我が騎士団員の選考を行いますが、ぶっちゃけた話、ウチは給金は高くないです。騎士団として国の警備の他に雑用なども結構あります。僕の後ろの獣人たちを見てもわかるように、身分や種族で贔屓したりもしません。それでもいいって方だけ残ってください』


 僕がそう言い放つと、ざわざわと募集者たちがざわめいた。そのうち数人が城門の方へと引き返していく。ま、みんな残ってくれるとは思ってなかったけどね。この時点で不満があるのならこの場で辞退もらった方がいい。

 

「それではまず、みなさんの体力を見せてもらいます。城門から出て、城の堀の周りを一周、回ってきて下さい」


 僕の言葉にみんなどこか肩透かしを食らったような微妙な表情をしていた。この城の周囲はだいたい約二キロあるかないかの距離だ。体力を推し量るには短か過ぎるとでも思っているのだろう。


「ちなみに順位とかはあまり関係ありません。自分のペースで回ってきてもらえれば結構です。リタイア…キツくなって棄権する場合は身につけているバッジを外せばここに戻ってこれますので。それでは」


 僕の言葉を聞き終えるや否や、駆け出そうとする全員へ魔法をかける。


「グラビティ」

『ぐあっ!?』


 突然加重された全員が地面に這いつくばった。


「加重魔法をみなさんにかけました。その状態で一周してきて下さい。もうダメだと思ったらさっきも言った通りバッジを外せばここに転移されるようになっていますので」


 這いつくばっていた人たちが次々と立ち上がり、低速の歩みで城門を出て行く。亀の行進というほどではないが、歩く速度より遥かに遅い。

 動けなくなるほどの重さを加えているわけではないので、歩くことはできるだろう。ものすごく体力を使うだろうが。一応ズルしたり、間違って堀に落ちたりしないように、忍びのみなさんを監視につけている。


「順位とかはあまり関係ないんですか?」

「んー…まあ、ある程度は参考にするけど、これって体力を見る試験じゃないんだよね」


 レインさんの問い掛けに僕はさらりと答える。確かにこれで体力の優れた順位はわかる。でも知りたかったのはそこじゃない。


「体力を見る試験じゃなかったら何を見るためにこんなことを?」

「根性」

「根性?」


 本気度とでもいうか。あっさりとリタイアするような人たちはダメだ。おそらくキツイことがあったらすぐさま投げ出すタイプだろう。それでは困る。

 ある程度、時間が過ぎても戻ってこなかったら、一応救助に向かうことにしている。そのときまでに諦めてしまった者が本当の失格者だ。諦めずにまだゴールを目指そうとするならば、その者は合格である。

 そんな話をレインさんとしている間にも、リタイアした者が次々と転送されてきた。早いなあ。もうちょっと頑張れよ。

 「グラビティ」を解いてやり、「リフレッシュ」で体力を回復してやったあと、すみやかにお帰りいただく。さて、何人残るかな。




 約950人いた希望者が一気に480人ほどにまで減った。つまり半分近くがリタイアしたことになる。

 上位者には体力に優れた獣人や魔族が多かったが、それはあまり関係ない。要はリタイアさえしなければ合格なのだから。冷やかしだったのか、自分の実力不足を認めたのか、理由はいろいろあるだろうけど、諦めたことには変わりない。ご苦労様でした。

 ゴールした者、諦めず合格した者全員に回復魔法をかけて体力を元に戻す。

 さて、次の試験だが。


「次は実技試験となります。武器は好きな物を使ってかまいません。30分以内に僕に一撃を加えることができれば合格とします。僕はこの木刀で相手をしますので。では始めます」


 木刀を手にして開始を告げたが、誰一人向かってこない。あれ? 不思議に思ってると、そのうちの一人がおずおずと手を上げた。


「あの、順番は?」


 ああ、そういうことか。


「順番はないです。全員でかかってきて下さい。全力でかまいませんので」


 僕のこの言葉に馬鹿にされたと思ったのか、一斉にみんなで手に持った得物を振りかざし襲ってきた。


「アクセル」


 加速魔法を使ってその間をかいくぐり、隙だらけの何人かに木刀で一撃を入れていく。さすがに数が多いので、次から次へと押し寄せてくる。が、ひたすら避けて、隙あらば打ち据えていく。

 よほど隙がなければこちらから攻撃することはしない。この審査は馬場の爺さんや山県のおっさん、エルゼや八重に参加者の技量を審査して、一定のレベルに達していると判断したら、番号を記入してもらうようにしている。僕から見ても明らかにそこに達していない人には、悪いけど一撃を与え、脱落してもらうようにしているが。

 たまに鋭い一撃がとんでくるが、「アクセル」がかかっている以上、避けるのは造作もない。気がつけば半数以上が倒れ込み、なんとか立っているだけという者がほとんどだった。


「そこまで。時間です」


 レインさんが試験終了を告げた。その言葉と同時にみんなが地面に座り込む。っていうか、試合中にちょっと知り合いがいたので驚いたのだが。

 倒れこんでいる二人の方へ視線を向ける。あ、やっぱりレベッカさんとローガンさんじゃないか。二人とも僕らがラビ砂漠で助けた冒険者だ。僕が経営するベルファストの読書喫茶で警備とかもやってもらってたんだが、なんでここに?

 僕の視線に気が付くと二人とも軽く手を上げた。問いただしたいが、周りの目もあるし、知り合いだとわかると厄介なことになりそうだ。贔屓とか言い出す輩がいないとも限らないしな。

 とりあえず倒れているみんなに回復魔法をかけて、馬場の爺さんたちのメモした紙を受け取る。


「それでは結果をお伝えします。番号を呼ばれた方はこちらへ、呼ばれなかった方は残念ながら失格となります。城門の方からお帰り下さい。では発表を始めます。番号札3番、14番、21番……」


 結果、100人ちょっとが残った。隙だらけで僕が打ち据えた者もそうだが、積極的に攻撃にいかなかった者も失格になっている。自分の技量をアピールする場でそれでは評価しようがない。

 ちなみにレベッカさんもローガンさんも合格していた。これは僕が決めたことではないので贔屓ではない。

 だいぶ絞りこめてきたな。あとは面接で決定しよう。

 合格者を引き連れて、城内の騎士棟へと向かう。彼らを別室でまたせておいて、隣の部屋で面接の準備をする。面接を担当するのは僕と団長のレインさん、ユミナ、そしてもうひとり。その手伝ってもらう人物をすでにこの国に呼んでいた。


「わざわざすいません。ご足労かけます」

「いえ、これくらいなんでもありません。貴方には返しきれないほどの恩がありますから」


 にこやかに笑って教皇猊下が答える。事前にラミッシュ教国に連絡して協力をお願いしていたのだ。護衛の聖騎士数名も部屋の後方で控えている。教皇猊下の嘘を見抜く魔眼と、ユミナの本質を見抜く魔眼で最終審査の面接を行うのだ。

 一応有名人なので、「ミラージュ」で教皇には姿を変えてもらう。そのときにいくらか若く見えるようにと注文を受けた。まったく別人になるんだから関係ないと思うんだが……女性心理は複雑だな。


「では五人ずつ呼んで来ます」


 ニコラさんが部屋を出ていき、五人を引き連れて戻ってきた。獣人が二人、人間が三人だ。部屋の中央に置かれた椅子に座るように勧める。

 

「では左の方から名前と年齢、出身地をお願いします」


 僕とレインさんが当たり障りのない質問をし、その間に左隣のユミナが魔眼で五人の本質をチェックする。僕らの質問に目の前の五人が答えるたびに、右隣の教皇の左手が握られたり開かれたりする。これは事前に打ち合わせておいた符丁で、「本当」のことを話しているときは開いたまま。それが握られたときは「嘘」。それを見ながら質問をしていく。

 別に嘘をついたことで失格にするつもりはない。人間、話したくないことだってあるし、バレるといろいろ厄介なことだってあるだろう。だけど、何から何まで嘘で塗り固められた奴を信用なんかできるわけがない。

 まあ正直に答えても、国民より自分が大事、金がもらえるなら何だってやる、裏切りなんて平気でやるよ、なんて言う奴を合格にはしないが。

 最初の五人の面接が終わり、全員が退室すると、まずユミナが口を開いた。


「左から三番目と五番目の人はやめておいた方がいいです。何かよからぬことを考えているように思えます」

「確かにその二人は嘘が多かったな。見事なポーカーフェイスだったけど」

「ポーカーフェイス……? ああ、ポーカーで表情を読み取らせないようにする技術ですね」


 とりあえずその二人にはバツ印を書いておいて、ニコラさんに次の五人を呼んで来てもらう。これをあと20回くらいやるのか。大変だなあ。




「あー、疲れた……」


 全員の面接が終わってぐったりと机に突っ伏す。大人数を相手に立ち回っていた方がよっぽど楽だ。

 狐と狸の化かし合いじゃないが、にこにこと平然な顔をして、息を吐くように嘘をつく奴を見ると、ウンザリした気分になってくる。嘘を見抜けるってのも厄介な能力なんだなあ。


「普段はあまり発動させないようにしていますね。知る必要のないこともありますから」


 教皇猊下の言う通り、なんでもかんでも片っ端から見抜いていては人間不信に陥るよな。無理をさせてしまっただろうか。あとで食事会を開いて労おう。

 とりあえず失格者を差し引くと合格者は64名。少し定員よりオーバーしてるが、これくらいならなんとかなるだろ。

 男性37名、女性27名。思ったより女性が多い。これは他の国では、女性がなかなか騎士団に入れないことが要因だと思われる。そこに「男女問わず、種族、身分問わず」の騎士団募集があったのだから有力な実力者もやって来るってもんだ。

 ちなみにレベッカさんもそんな理由だった。ローガンさんもきちんとした定職を探していたらしい。なんでも結婚するんだとか。レベッカさんと? と聞いたら、二人してなんでこいつなんかと、とハモって言われた。どうやら別の女性らしい。すいません。

 合格者64名のうち22名が獣人や魔族だった。同じ獣人が団長にいるんだから獣人たちが来るのはわからんでもないが、魔族たちはちょっと予想外だったかな。

 魔族とは人の形態に近い種族、いわゆる亜人と言われる種族(獣人もこの中に入る)でも、魔獣に近い種族のことだ。ヴァンパイア、ラミア、オウガ、アルラウネなどがこの中に入る。彼らはきちんと会話もできるし、人間を敵視するわけでもないが、あまり深く関わろうとする者はいない。

 やはりその容姿や種族特性が毛嫌いされていることもある。国によっては(以前のラミッシュのように)討伐対象だったりもするほどだ。

 なので魔族は特に厳密に面接したが、合格した五人の魔族はユミナの魔眼でも問題なく、教皇の魔眼での審査にも本当のことを語っていた。全員が人間社会で暮らしていきたいと願っていたので、その五人、(ヴァンパイア、オウガ、アルラウネ、ラミアが二人)は合格となった。

 どうもヴァンパイアと言うと吸血鬼のイメージがあったが、別に吸わないでも問題ないんだそうだ。タバコや酒と同じく、好きな者もいれば、嫌いな者もいるらしい。うちに来たヴァンパイアは血が苦手だと言っていた。変な奴。

 ともかくこれでひと通り形は整ったかな。まだ細かいところはいろいろあるけど。しかし雑多な騎士団になりそうだ。まあ、その方が面白いけどさ。








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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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