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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第16章 神様がみてる。
119/637

#119 再臨、そして蠢くモノ。


「ずっと見てたんですか?」

「少し気になっての。そしたら娘さんは捕まえられとるし、余計なことしたかと罪悪感がな。直接助けるわけにもいかんし」


 まあ、気持ちはわかるかな。神様が変に焚き付けたせいで、こんなことになってるとも言えなくもないし。

 ふとフィリスと教皇を見ると、フィリスの方は頭を下げて平伏、教皇の方は驚きに目を見開いていた。


「あの……公王陛下、この方は?」

「神様ですよ」

「かみっ…!?」


 教皇の視線が目まぐるしく、僕と神様、交互に向けられる。あれ? 驚いてはいるが、あまり信じてないような? あ、いま魔眼使ったな。嘘じゃないってわかったようだけど、戸惑っているみたい。


「そうだ、神様。あのびかーってヤツ、やって下さいよ」

「え? こないだはやるなと言ったじゃろ?」

「その方がわかりやすいでしょ」


 神様がふむ、と呟くと、たちまちビカーッと神気が放たれ始めた。うおう、くるなあ。これが神の威厳か。後光とかいうやつなのか、オーラが半端ない。この人は神だと、理由なく納得させる光だ。

 教皇猊下もたちまちに隣のフィリスと同じように床にひれ伏してしまう。


「もう、いいかの?」

「はい、けっこうです」


 光の圧力が消える。しかし、アレだな。なんでこの人たちに比べて僕は抵抗力があるのかな。これも神様がやってくれた底上げのおかげか?


「どうした?」

「いや、なんで僕はその光を見てもこんな風にならないのかな、と。なんかしました?」


 ひれ伏している二人を眺めながら首を捻る。


「そう言えば変じゃな。神気に当てられたら人間ならだいたいこんな風になるところじゃが。しかし、ワシは別に何も…………あ!」

「………あ、って何です?」


 今、思いっきり「やべっ」って顔したよね! したよね! あ、目を逸らした! 口笛吹くな、トボけ方が古い!


「……神様?」

「あー……その〜……ちょっと待ってくれ」


 神様が右手を頭上にかざし、何かの力が放たれた。なんだ今の?


「この二人の時間も止めといた。聞かれると面倒じゃしな」


 そうなのか? って、二人ともずっと平伏してるからわかりにくいけれども。


「で? どういうことです?」

「あー……君は元の世界で一度死んだ。そしてそれをワシが生き返らせたわけだが」

「はい」


 なにを今さら。だからこうして元気で暮らしてるわけで。


「本来、死んだ肉体を修復させるとき、身体の損傷部分や霊体の欠損部分を、その世界の構成物質で修復するのが一般的な復活なんじゃが。君が死んだとき慌ててのう。肉体を神の世界、神域とでも呼ぼうか。あそこに呼び寄せてから復活させてしもうた」

「……つまり、どういうことで?」

「君の身体を形作っている物質は神域の物質、わかりやすく言えば神の身体に近いってことじゃ」


 はあ!? なんだそりゃ!?


「でも、僕は走れば疲れますし、怪我だってしますよ? 神様の身体に近いって言われても……」

「そりゃ生まれ変わって一年も経ってないんじゃからそんなもんじゃろ。他に人より変わってるところとか思い当たらないかの?」


 思い当たる。魔力量とか、無属性魔法とか。あれって神様の仕業じゃなかったのか……。いや、結局は神様のせいだけど。


「うっかりしてた。はっはっは」

「はっはっは、じゃないですよ……。それで? なにか弊害とかあるんですか?」

「別に何もありゃせんよ。丈夫な身体を手に入れた、とでも思ってりゃいい。変な力に目覚めるかもしれんが、そんときは教えてくれ」


 変な力ってなんだよ!? 僕まであんなビカーッとした光を放つようになるんじゃあるまいな……。

 ……まあ、いいや。死ぬとか、なんか副作用があるとかじゃなければ。今まで通り暮らしていけるなら問題ない。

 あ、そう言えば。


「神様、フレイズって知ってます?」

「フレイズ? なんじゃそりゃ?」


 やっぱ知らないか。僕が送られるまでこっちの世界をほとんど覗いてなかったって言ってたもんな。神様の言う通り、この世界が滅亡しそうになってたとしても、それはこの世界の人間がなんとかするのが基本なんだろう。

 しかし、神様がノータッチだとすると、5000年前に誰がフレイズを追い払ったんだろう……。

 神様が再び右手を上げて力を放った。二人の時間を動かしたんだろう。琥珀はまだ固まったままだ。なんか仲間外れにしてるみたいで不憫だな……。


「二人とも顔を上げておくれ。娘さん。こんなことになってしまって悪かったの」

「いっ、いえっ! どうかお気になさらず!」

「そこの教皇さんも巻き込んだようじゃな。すまんの」

「はっ……恐れ多くあります……」


 二人ともやっと顔を上げた。フィリスの方は二回目とあって、緊張はしているが、普通に見える。対して教皇猊下の方は、青と翠の両目からぼろぼろと涙を流していた。まあ、無理もないか。


「話は聞いておったよ。今まで大変じゃったの。秘密を抱えたまま生きていくのは辛かったろう。もう大丈夫じゃよ」

「なんともったいないお言葉……」

「大丈夫って、どうする気なんです?」


 まさか神様本人が「光の神なんていません。これにて教団解散!」とか言うつもりか? 確かにそれが一番手っ取り早い気もするが。


「そこはほれ、冬夜君がどうにかしてくれるじゃろ?」


 丸投げかい! 無責任過ぎない!? いや、本来なら神様の手を借りちゃいけないんだろうけどさ!


「うーん……枢機卿たちを倒せばいいってもんでもないからなあ。本当のことを国民に伝えたら、間違いなくパニックだし」


 それ以前に信じてくれない可能性が高いよな。こっちが嘘つき呼ばわりされるのが目に見える。


「まあ、国民にはなんの非もないわけだけど。成り立ちはどうあれ、光の神を信じてるだけだしな。あの「光と正義の名の下に」っていうなんでも悪を倒せ! って考えは、ちょっとやり過ぎな気がするけど」

「この国はもうすでに神無しでは存在できません。せめて教義だけでも変えられれば良いのですが……」


 俯きながら教皇が呟く。

 しかし教義を変えるなんて、そんなに簡単じゃないぞ。今までの信仰を半分捨てるようなものだからな。どうしたもんか……。なにか考え方を変えるような出来事があればいいんだろうけど。ここで神様が信者の前に現れたら、もう完全に干渉だしなあ。やっぱり僕らでどうにかするしか……。


「ま、それは冬夜君に任そう。それよりも、この下のやつ。なんとかした方が良いと思うがのう」


 神様が足で地下牢の石畳をタンタンと叩く。下? それを聞いた教皇が顔を強張らせる。


「気付いておられましたか……。この国を建国したラミレス様が呼び出した闇の精霊……それがこの神殿の地下にまだいることを」

「な!? 」


 建国したときからって1000年もか!? 一応精霊って言っても召喚獣と同じだろ? この世界に維持するにはどこからか魔力がいるんじゃないのか? いや、そもそもなんで闇の精霊がまだいるんだ!?


「ラミッシュ教国を建国したラミレス様は、やがて逆に闇の精霊に支配され、精神を侵食されてしまったのです。そして精霊と一体化したラミレス様は、当時の枢機卿たちによってこの地に封印されました。これは枢機卿たちにとっても都合がよかった。なぜなら、精神に干渉する精霊の特性は失わず、この国においては教団の力となり得たからです。生かされず殺されず、今でもラミレス様は教団の礎となっているのです」


 教皇は神様の前で懺悔するかのように、そう語った。

 なんて話だ。それでこの秘密が当時の枢機卿たちからずっと受け継がれてきたってわけか。この教団の不自然さがよくわかった。魔力も召喚者と融合しているなら問題ないわけだ。まともな意識があるとは到底思えないが。


「お前さんやそこの娘さんのように、魔力への抵抗が強い者には闇の精霊の力も及ばないが、普通の人たちはそうはいかん。今でも知らず知らずのうちに、そのラミレスとやらの意識に引っ張られているのじゃろうな」

「なら、その闇の精霊をなんとかすれば……」

「少なくとも過剰な信仰心は消えるじゃろうな。そこからは当人の気持ちや考え方次第じゃが」


 なるほど。まずは根源を絶つか。それでも「正義のためならなにをしてもいいんだ!」という輩もいるだろうけどな。


「しかし、急いだ方がいいかもしれんぞ? 封印と言ってももうすでにガタがきとる。闇の力が漏れ出しとるからな」

「その通りです。そのせいで都のあちこちで人々が生命力を奪われる現象が起きています。表向きはヴァンパイアのせいとなっておりますが……」


 ヴァンパイアの事件の真相はそれか。しかし、生命力を奪っているってのはマズくないか? それって力を蓄えているってことで……。


「とりあえずその闇の精霊ってヤツをなんとかして……。教皇猊下の味方になってくれそうな人たちっていますか?」

「何人かの枢機卿は私と同じように変革を望む者もいます。ゼオン枢機卿らの一派と比べると少数ですが……」


 それでもいないよりはマシだな。国の成り立ちとかは隠しておく方がいいと思うが、闇の精霊による精神干渉や、フィリスのように神を否定した者をためらいなく処刑するような教えは間違っている。


「では、あとは任せても大丈夫かな? しばらくは見守っておるから、頼んだぞ、冬夜君。ではな」

「え!? 本当に丸投げ!? ちょ……!」


 文句を言う間もなく神様は光の粒と共に消えてしまった。逃げられた! くそう、面倒なこと押し付けて! 少しくらい手伝ってくれてもいいじゃん!

 時間が動き出し、琥珀がキョトンとしている。


《主。なんか今、変な感覚があったのですが……》

《気にするな。害はないから》

《はあ……》


 時間が止まる前と動き出した後で、僕らの位置とかポーズとかが変化したことに、琥珀の感覚がついていけなかったんだろう。説明するのも面倒だし、気にしないでもらいたいところだ。


「……夢を見ていたような気持ちです……」

「私もそう思いました。教皇猊下」


 神様に会えた嬉しさからか、興奮した気持ちを落ち着かせるように呟く教皇を見て、フィリスがクスッと笑う。

 そのとき、ザワッとした感覚が僕の背中を突き抜けた。なにか蠢くような、嫌な感じ。下から……まさか。


「ちょっとマズいことになってるみたいだぞ、これ。闇の精霊の封印が外れかけている」

「そんな!?」


 フィリスの顔が蒼白になる。と、地下から低い地鳴りが聞こえてきた。ますますマズい。とにかくここを脱出しないと!


 「モデリング」で歪めた鉄格子を通り抜け、フィリスと教皇を引き連れて階段を上がる。その間も地鳴りは続き、だんだんと大きくなっているようだった。下手すると崩落するぞ、この地下牢!

 左右に扉が並ぶ通路に出てから、一応他に囚人はいないか確認したが、幸い誰もいなかったため、そのままさらに階段を駆け上がった。


「なんだ貴様!? どうやって地下牢か、らあっ!?」


 階段を登りきり、ばったりと出会った門番に思わず麻痺弾を打ち込んでしまった。しまった。ここに置いておくわけにもいかないし、面倒な!


「琥珀! 元のサイズに戻ってくれ!」

『御意』


 突然喋りだし、大きくなった琥珀に教皇が驚いていたが、説明をしている暇はない。琥珀の背に麻痺した門番を乗せて、僕らは地下から脱出した。

 神殿の回廊を走り、中庭らしきところへ出ると、すっかり日が暮れていた。月が高い。時間を確認すると深夜12時を回っていた。

 ここまでは結界が張られてなかったので、「ゲート」を使って街の中心部へと転移する。

 すでに地鳴りは地震と呼べるようなモノになりつつあり、ただ事ではないことを察した住民たちで街中は溢れかえっていた。どうやらこの国の人たちは地震というものに免疫がないらしい。

 琥珀の背から門番を降ろしていると、周囲の人たちが教皇猊下に気がついた。さすがに教皇様は有名人らしく、あっという間に街のみんなに取り囲まれてしまう。それでなくてもこの地鳴りだ。不安で仕方がないのだろう。


「教皇様! いったいなにが起こっているのですか!?」

「落ち着いて下さい。まずは安全のため、ここから離れて……」


 教皇が避難をするよう説明しかけたとき、ものすごい爆発音と共に、丘の上の神殿の一部が吹っ飛んだ。立ち込める土煙の中からなにかが這い出してくる。なんだあれは!?

 大雑把に言うなら巨人。だが、あれは人間の形態をしていない。真っ黒い皮膚にねじ曲がった二本の角。脇腹から生えた無数の小さな腕に、背中から伸びた六本の触手。下半身は蛸のような足が何本も伸び、眼は無く、大きな口だけが横に裂けていた。


「ゴ、ガ、グ、ガ、ガァァァァァァ!!!」


 そいつは地の底から響くような禍々しい雄叫びを上げた。大気が震える。都中に轟くようなその叫びは、人々を恐怖のドン底へ叩き込むには充分だった。ガタガタと震え出し、崩れ落ちる者が出ている。精神に干渉するって能力か? 恐怖の感情を増加させられているのかもしれない。

 まがツ神。僕の頭にはそんな言葉が浮かぶ。アレは闇の精霊とかつてラミレスと呼ばれた召喚師の成れの果て。千年を経て蘇った怪物だ。







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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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