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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第16章 神様がみてる。
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#116 神、そして干渉。




 目の前に立つにこやかな老人を見て、フィリスはただ震えるだけだった。やがて立っていられなくなったのか、膝を付き、頭を垂れる。


「どうした? 気分が悪いかね?」

「神様、神様」


 わかっていないようなので僕が声を掛ける。


「その威圧感っていうか、神気? を押さえてもらえませんかね。僕でさえちょっと直視しにくいんですけど」

「え? ああ、そうか。地上じゃったな、ここは。すまん、ついうっかり。こっちだと意識せんと力が漏れてしまうのう」


 すうっと、神様を纏っていた金色のオーラが消えた。と、同時に先ほどまでのピリピリとした威圧感も消える。さすが神様なだけはあるなあ。


「これで大丈夫じゃろ。娘さん、どうかな?」

「は、はい……」


 フィリスにはそれでも顔を上げるのが精一杯のようだ。無理もない。こんなの見せられたら、この人を本物の神と認めるしかないだろう。フィリスの言う「神は存在するのか?」という疑問に答えが出たと思う。神はいます。


「ここで話すのもなんじゃな。どこか手ごろな部屋はないかね?」

「え? あー、だったら応接室の方に行きましょうか」


 「ゲート」を開いて応接室へと繋ぐ。立つのがしんどそうなフィリスに肩を貸して、二人にはソファに座ってもらった。お茶を用意してもらおうと思ったが、給湯室に行ったらセシルさんとレネが笑い合いながら止まってた。仕方なく自分でポットにお茶を注ぎ、カップを三つ、それといくつかのお茶菓子を持って応接室へ戻る。

 二人は対面したままの状態だった。神様の方は室内をキョロキョロと見回していたが、フィリスの方は未だカチンコチンに固まったまま、目を泳がせていた。

 カップにお茶を注ぎ、お茶菓子を並べる。神様がカップに口をつけ、一口飲み終えるタイミングで僕が切り出した。


「ひとつ質問なんですけど」

「ほいほい、なんじゃね?」


 カップをテーブルに置き、神様が僕の方に顔を向ける。


「光の神・ラルスってのはいるんですか?」

「おらんよ。正直、聞いたこともない。中級神はもとより、下級神でもそんな名の者はおらんな」


 うわ、バッサリだ。僕の隣りのフィリスがショックを受けたような顔をしている。そりゃそうか。自分の信じていた神が存在しないと断言されたのだから。


「じゃあ光の神ってのはいるんですか?」

「それもおらんな。まあ、強いて言うならワシじゃな。世界神じゃから。でも闇の神でもあるし、風や火の神でもあるぞ。だいたいひと括りに「〜の神」なんてのは基本下級神じゃし」


 ってことは恋愛神も下級神なのか。その割にはけっこう世界神である神様に馴れ馴れしかったけど。神様の世界じゃそういうもんなのだろうか。


「で、では、1000年前、光の神官・ラミレス様が呼び出したという光の神・ラルス様とはいったい……」


 光の神官・ラミレス? ああ、ラミッシュ教国を建国したっていう人か。その人が光の神の力を借りてその土地を浄化したんだっけ。


「呼び出した、のう。人間に神を呼び出せる者など滅多におらんのじゃが。まあ、気まぐれで降臨する神もおるからなんとも言えんが」


 あんたが言うなや。完全に気まぐれでご降臨なさってますぜ。


「話からするに、それは神ではないと思うがの。精霊あたりではないかな。光の精霊なら呼び出せんこともないじゃろうし」

「曖昧ですね。なんか過去に遡って見てくるとかできません?」

「できんこともないが……大変じゃよ? 主にワシが。君の元いたところの言葉で言えば、今録画しながら流れてるテレビを一時停止するのは簡単でも、一年前の深夜番組に流れていたCMをインデックス無しで過去のDVDの山から探せるかい?」


 わかりづらい例えだな! なんとなくわかるけれども! とんでもなく面倒だというのはわかった。

 

「ならば……我々の教義とはいったい……」


 神様に完全否定され、落ち込むフィリス。信じていたものが崩れてしまったわけだから、無理もないが……。


「君たちは神がいないとダメかね? 自分たちの信念で、意思で、責任で、動くことはできんかね? 神を心の拠り所にするのはかまわん。親や兄弟、恋人や主君、それらを信じるように信じてくれていい。だが、頼りにしてはいけない。神は何もしない。君たちを救うのは君たちなのだ。君たちの力が奇跡を呼び、世界を動かすのだ。ワシたちはそれを見守るのみさ」


 そういう神様もけっこう干渉していると思うんだが。言うほど徹底してないよね。

 だが、黙っておく。言わぬが花、というやつだ。隣りでフィリスがなんかポロポロと泣いてるし。ツッコめる雰囲気じゃあないっスよ。


「まあ、とはいうが、結局のところ放置状態だったのは否めんかな。冬夜君を送りこまなきゃ、あと一万年くらいは覗きもしなかったかもしれんし」


 うあー! 台無しだよ! なにが「ワシたちはそれを見守るのみさ」だよ! 見守ってねえじゃん! 放置じゃん! 他に管理する異世界がたくさんあるのかもしれないけどさ!


「いいんですか、それで……?」

「うーん、酷い言い方になるが、この世界が滅んでも、それはこの世界の人間たちの責任。基本、神々はなにもせんよ。いや、もちろん神の干渉によって起こった滅亡の危機なら責任は取るがの。邪神降臨とか」


 そんなの降臨して欲しくないけど。けっこうアバウトなんだなァ。ルールがちょこちょこ矛盾してるというか。


「ま、基本はこの世界のことはこの世界の人間になんとかしてもらいたいってことじゃ。魔王とかが現れて世界征服とか始めても、魔王がその世界の者である限り、ワシらは手を出さん。せいぜい魔王を倒す武器とかを与えるくらいかの。人々が苦しむ世界はやはり嫌だからのう」


 なるほど。直接的な干渉じゃなければそういうのも有りなのか。でもさ、それって充分、手ぇ出してるよね。世界が滅びようと神は干渉しない、と言いつつ、魔王を絶対倒せるスーパー武器とか与えてたら。なんだろうな、その中途半端の過保護さは。


「いつまでも親を頼っていても仕方ないじゃろ。この世界の人間たちはもう子供ではない。自分たちで考え、自分たちで歩くことができる。なら、苦難も試練も自らで切り開かんとな。神は見守っておるよ。たまにな」


 たまにな、は余計です。まあ、四六時中見張られているのもなんだけど。


「私はこれからどうしたらいいのでしょう……。光の神・ラルス様は存在しない。その教義は人によって作られたまやかしだった。我々の行いはすべて無意味だったのでしょうか?」

「無意味ではないさ。それによって救われた者がいるのなら。これからは「神のために」していたことを、「人々のために」してあげればいいだけのことじゃよ。教義なんぞに縛られずにな」

「…………はい」


 すぐに考えを変えるのは無理かもしれないな。一応、ずっと信じてきた人生の基準みたいなものなんだろうし。少しずつその呪縛から解放されていけばいいけど。


「さて、それじゃあお暇するかの。あまり時間を止めておくのもまずいじゃろうし」


 時間が動き出したとき、僕らがいないと変なことになりかねないので、みんなで一旦謁見の間に戻った。

 相変わらず琥珀や高坂さんらは固まっている。こんな状況じゃなかったら、なにかイタズラのひとつでもしたいところだが、やめておこう。


「ではの。強く生きなさい、お嬢さん。元気でな」


 にこやかに微笑むと神様は光の粒になって消えていった。

 一拍ほどして琥珀たちが動き出した。不思議そうな顔をしてこちらを見ている。止まる前とわずかに場所が違うから、一瞬にして動いたようにでも見えたのかな。


「……まるで夢のようです。先ほどまでのことは、本当にあったことなのか……」

「現実だよ。君は神様に会った。君が信じないでどうする」

「……そうですね」


 彼女の静かな微笑みに、僕は先ほどまでとは違う意思の光をその目に感じた。自分の中で整理できたのかな。

 それからひと通りの謝罪を述べて彼女は謁見の間を去って行った。

 こうして僕の初外交は終わったのである。が、そのあと高坂さんにこっぴどく説教された。いやまあ、外交としては最悪の部類に入るものだったのは認めるけど。

 ちょっと心配だったので、椿さんに配下の忍びの者をラミッシュまで派遣してもらった。念話連絡用に召喚獣の小鳥を預けておいたので、なにかあったら連絡するように言い聞かせて。


 数日後、ラミッシュ教国司祭、フィリス・ルギットはその地位を剥奪され、背信の罪により、処刑が言い渡されたことを僕は知った。







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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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