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乙女心はなんとやら



「……ルーメイア様?アルス様がおみえになっていますが…」


「いいの!ほっときなさい、あんな鈍感男っ!」



花畑からずかずかお城に帰ってきて、暫く経ったところで予想はしていた訪問者。

まったく、昔からの追求癖は直ってないみたいね…めんどくさいやつ!

大体、なんで『何だかよく分からないけど、花冠作って貰えた!』って自己完結出来ないのよ。



「ははぁ…成る程、先日私が発案した花冠作戦は失敗に終わられたようですね?」


「………………」


「きっと、ルーメイア様がまた照れ隠しに何か悪戯をされたのでしょうねぇ…そう、例えば落とし穴など……」


「〜〜もううるっさいわねヴァンヌ!あっち行って頂戴!下がって下がって下がりなさいよ!」


「仰せのままに」



くすりと笑ったあとに彼、ヴァンヌがそう言うと、私にすっと整った一礼して、綺麗な蒼の髪をなびかせながら私の部屋から物音ひとつ立てずに去っていった。


……いつも思うけど、使用人ってみんな身のこなしが一つ一つ綺麗な訳じゃない。


どんなに慣れた手つきで色々こなす者が居たとしても、ある一つをやらせてみると全く出来なかったりするし。


だけど、ヴァンヌは違う。

全てを芸術品見たいに完璧に、とても優雅にこなすの……あと怖いくらいに動きが静か、あー…あと勘も見てたんじゃないのってくらい鋭いのよね。


あの人の家は、代々私のお城に使えているらしいから、そのせいなのかな?


私もアルも、小さい頃からヴァンヌに遊んでもらっていたから、今じゃ私達のお兄様みたいな感じかな。



「……はぁ」



やっと一人になった無駄に広い部屋の中、私のため息だけが虚しく響いた。


なんでいつも、アルに優しくしてあげたい時に限って冷たく当たっちゃうんだろう。

乙女心は秋の空、って言うけれど、私自身が分からないほどコロコロ心の内が変わられても困るのよね……。



「何を思い悩んでるの?」


「……乙女心って難しいわね…」


「…え?……あー、うん。ホントに難しいよね」


「ホント、何でアルに対して……っ!?」



あれ、今誰かとナチュラルに話してなかった?

あれれ、今確か私部屋で一人で物思いにふけていなかった?

んー、じゃあこの聞き覚えのある声は幻聴かしら。



「僕?僕がどうしたの?」



少しはにかみながら、嬉しそうな顔をして窓から入ってきたそれを……



「きゃあああああああ出たああああああ!!」


「ちょっ!?ルゥ落ち着いて!僕だよ僕、アルスコウフィー…どわぁあ!?」



思わず反射的に、窓枠に腰を降ろしていた何かを突き飛ばしてしまった。

その何かがアルだって事は、突き飛ばしてから気付いたけど……遅かったわね私。


そういえば私、今日に限って部屋の窓に鍵を掛けるのを忘れてたみたい。


たまにアルが窓から直接私に会いに来る事があるから、考え事とかしてるときは注意してたのに。

ダメね私ったら、今度からもっと気を付けないと!


……なんて、幼なじみを三階から突き落としてしまったっていう現実から目を反らしてみたけど、それこそダメじゃない私!


こんな高さ、下手すれば死んじゃうってのに!


そんな事を考えたら余計に怖くなってきて、思わず手を引っ込めて目をぎゅうっとつむる、自然と手にも力が籠って汗が流れ落ちる。

そして、次に聞こえてるくはずの音に怯えていると………。





…あれ、何も聞こえない?


もしかして、アルが窓から来たのも、私がアルを突き飛ばしたのも……夢なの?


まるで狐につままれたような気持ちで、恐る恐る窓から顔を出し、意を決して素早く下をみやる。



……誰も、何もいない?



「……やっぱり、夢?」


「………夢なもんか」


「えっ!?」



私の頭上から、突き飛ばしたはずの人の声が聞こえてきた。

驚いてパッと見上げると、何やら鉄のような鈍い光を放つ紐のようなものを両手でしっかりと握って、少しむすっとした顔で私の事を見てるアルがいた。


その姿を見て、ふわりと安心感が身体中に広がっていく気がした。

すっかり冷えてしまっていた指先も、心なしか、温かく感じる。



「全く、落ちるかと思ったじゃないか」


「ご、ごめんなさい!これは本当にごめんねっ!」


「いや…別に怒ってる訳じゃないけど……」



部屋上がっていい?と聞かれたので、反射的に飛び退いてどうぞ!と言ってしまった。


私としたことが、今はお姫様の欠片も無いわ。


すたっと部屋に降り立ったアルは一息つくと、その謎の紐をシュルシュルと巻き取っていく。

その物体が何なのかよく分からない私は、じぃっとアルの手元でまとまっていくソレを、食い入るように見ていた。


綺麗な銀色の紐……結構太めで固そうね。何なのかしらこれ?


その視線に気が付いたのか、アルがにこりと微笑んで、その綺麗にまとめあげたソレを私に見えやすいようにしてくれた。


き、気が利くじゃない、ちょっと触ってみよっかな…あ、やっぱりガッシリしているというか、なんというか。

それに、何だか冷たくない?固いし、何だか針金に似てる気がする。


物珍しげに見続けている私に、光に反射して光る、針金にしては少し太めの糸を見せながら少しおちょくるような目をして。



「ルゥ、これ知らないの?」



と怖いくらい無邪気な笑顔で聞いてきた。


これは、珍しくアルが悪巧みしてる時の顔ね…ホントに久し振りに見た気がするわ。


昔は一緒に色々イタズラとかして、一度だけとても温厚なお母様を怒らせた事があったわね…あれは本当に怖かったなぁ……。


…確かに、私はこの物体を知らないけど、このまま正直に知らないって言うのも何だか癪に触る!

知ったかぶりも何だか嫌だけど、正直に言うよりはマシな気がするわ。



「し…っ……知ってるわよ!」


「へぇ〜?じゃあ、これが何か教えてよ」


「え」


「ほら、僕に教えてくれない?」



相変わらずニコニコしたアル、引き下がる気が無いらしい……。

悔しいから、頭をフル回転させて記憶の引き出しという引き出しを開けてみたけど、やっぱりこの変な紐の名前が分からない。

というのも、聞いたことが無いんだから分かるわけがないわ。



「…あー……これは、あれよ…」


「うん、あれだね」


「そ、そうよ…あれよ、あれ!」


「…………」


「なっ、なによ……」



必死に誤魔化そうとしている私を、アルがしイジワルい顔しながらジッと見てきたから、少し…ほんの少したじろいで聞く。

私が視線を言葉で返して、少し間が空いてからアルがぷっと吹き出した。

………もしかして、バカにされてる?



「…ぷっ、あはははっ」


「なっ何!?やっぱりバカにしてるでしょ!?」


「ははは……はぁ、いやいや!バカにはしてないよ。…やっぱりって何?」


「……こっちの話よ」


「いや、ごめんね?本当にバカにしてる訳じゃないんだ」


「………ふん」


「ごめんってば!…これはね、ワイヤーっていうんだよ」


「わいやー?」


「そ、ワイヤー。いつもは壁を下から登って来てたんだけど、今日は何となくこれで上から降りてきてみたんだ!」



スゴいでしょ、強運でしょ?とワイヤーなるものを引っ張って笑いかけてくる。


いや、そもそもなんで普通に入り口からお城に入って来ないのよ?なんで窓から入ってこようとするのよ?

それに、なんでみんなアルが窓から入ってくる事を当たり前のように捉えてるのよ!


全く、これで本当に悪いやつが窓から入ってきたらどうするのよ……。

まあ、そんな事はまずないと思うけどね。

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