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平和な日常


私は今、儚く淡い藤色の髪を風にそよがせながら、とても美しい花畑に腰を降ろし、瑞々しい花々で冠をこさえている最中です。


甘い香りに優しく包まれながらせっせと作るそれは、どんどん彩り鮮やかになっていきます。

花冠を作りながらも私は、完成したものを渡す相手の事を考えています。



――色とりどりの花が寄り添う花冠は、もう完成間近です。

あとは、アクセントに大きく綺麗なピンク色の花を編み込めば…。



「―――やあ!ルゥ、待った?」



と、なんとも絶妙なタイミングで待ち人がやって来ました。


まるで絹のように繊細そうで、美しい白金色の髪を持つ彼の名前は、アルス=コウフィード。私の幼なじみです。


私は完成した花冠を渡すタイミングを考えながら、周りの花に負けないくらいの笑顔で相手を迎え入れました。



「ううん、丁度時間ピッタリよ」


「そっか!よかった、間に合って」



アルは一度も時間を守らなかった事がありません。なんでも、頭の中で時間を計算しながら歩くんだとか。


私も一度やってみましたが、雑念が多いのか一度も成功した試しがありません。



「……どうしたの?こんなところに呼び出して、ピクニックでもするの?」



呼び出した私自身が、なかなか話を切り出さないからなのでしょうか。

きっと私が話し出しやすくするためでしょう、アルの方から話しかけてくれました。


そんないつも優しい貴方は、これから先の私の行動をどう思うのでしょう?


もしピクニックする気分で来たのなら、ビックリしすぎてする気が無くなってしまうでしょうね。



「……あ、アル?あの、これ…」



そう言いながら、私は完成した花冠をアルへとそろりと差し出します。

そうすると貴方は、思った通りとってもビックリした顔をして固まってしまいました。


しばらくして緊張が和らいで来たのか、はにかみながら私の元へと近付いて来てくれました。


そして、私が貴方の事を考えながら作った花冠へと両の手を伸ばして。

もう一度、嬉しそうな笑みをこぼしながら――



「…ルゥ、ありが……」


「今だ!!」


「えっ……うわぁああっ!?」



――ズボッと小気味良い音を鳴らして、アルは私が丹精を籠めて掘ったお手製の落とし穴へと姿を消しました。



「やった、大成功っ!」


「……ル〜ウ〜!!」


「わっはっは〜!逃げるが勝ちなのよーっだ!」


「ちょっ…待ってって……って穴深!?」


「あははははっ」




………これが私達の日常風景。





―――――――――





「全く…また騙されたよ……」


「うふふふ…あの落ちる瞬間のアンタの顔、もしここに絵師が居たのなら描いてもらって、お父様との笑いのネタにしたかったくらいだったわ……」


「……聞いてないでしょ」



はぁ、とため息をつくアル。

言っておくけど、アンタがお人好し過ぎるから私が付け上がっちゃうんだからね。

この世に生を受けてから12年と少し、自分の性格くらいもう分かっているつもりよ。



「大体、一国のお姫様で「フワスラナ」の名を持つ君が、どうしてそんなわんぱく小僧みたいな事するんだよ!」


「あらあらアルスさん?それは今更な発言かと思いますわ、そして王家に対する偏見だとも取れますわよ?」


「う……それは、そうだと思うけど…」



何さその口調…ともっともな事を言いながらも、アルは気弱そうに情けなく眉を垂れさせ、少ししゅんとした。


そう、私はフワスラナ王国という小さい国のお姫様の、ルーメイア=フワスラナ。

私は一人っ子だから、お父様もお母様も大層可愛がってくださるわ。



「でも、私の事を言うならアンタにだって言いたいことあるわよ?」


「…え、な、なに?」


「それよ!その気弱な小動物を思わせるような弱々しく頼りない態度!…アンタ、本当に世界を救った勇者の末裔なわけなの?」


「…す、少なくともじいちゃんは、ちゃんと勇者様の子孫だって言ってくれたよ!それに、何もそこまで言わなくたって良いじゃんか!」


「……本当なのかねー…」


「聞けよ!」



そしてまあ信じられない事に、このいかにも気の小さそうなアルは、以前この世界を魔王から守り抜いた勇者の血を引く子孫様なのだとか。


私と彼はずっと小さい頃から遊んでいるけど…こればっかりは信用出来ないわ。


昔からお人好しですぐに騙されるわ、ぼーっとしてて猫におやつ盗られるわ……。

前なんて、害のない魔物に追い掛けられて、半泣きでお城に逃げ入って来てたし……。


正直こんな所ばっかり見せられて、どう信じろって言うのよ?



「…相変わらず昔から信じてくれないよね、この事実」


「んー…だってアンタ見てても、ま〜〜…――…ったく!ピンと来ないのよね〜……」


「…酷い、じいちゃんが言ってたの、ルゥも聞いてただろ……」



しゅんとしていた肩が更にしゅんとなってしまった、きっとアルが犬なら尻尾がこれでもかってくらい垂れ下がってそうね。

…うーん、これって少しやり過ぎちゃったのかな?


確かに、アルはご先祖様の事を真剣に尊敬してるみたいだし、そのご先祖様に近付くために努力してるのも知ってるわ。


でも、反応が何だか面白いからついやり過ぎちゃうことも多いのよね。反省反省。



「ほら、うなだれないの!男の子でしょ?」


しっかりしなさい!とそういう状況にさせた私が言うのもなんだけど、ちゃっかりそう励ましてみる。


なのに何も言わないわ反応しないわで、少しむっとしてきたところでふとアルの目線に気付く。



「どうしたの?」


「……その花冠、僕を騙すためにわざわざ作ったの?」



軽く落ち込んでるアルは、若干自暴自棄になりながらも、私の手の中にある花冠を見てそうたずねる。


……若干、涙目?

これはこれ以上おちょくったらホント泣いちゃうかもしれないから、おちょくるのは控えてあげよっかな。



「し、失礼ねー…確かに騙すのにも使ったけど、その為だけなら自分で作らないわよ!」


「…え、じゃあなんで?」


「……あーもー!ほら、あげるって言ってんのよ!」



ありがたく思いなさい!なんて照れ隠しに言ってみるけど、全然隠せてない気がする。


花冠をもらった張本人は、相変わらず分からないといった表情を隠さないから、またむっときてしまってついつい頭をぽかりと叩いてしまった。



「いたっ…な、何するのさイキナリ!」


「だぁーっ鈍い!鈍すぎるわ!」


「だからって何も叩くことはないでしょ!?」


「叩きたくもなるわよっ!」



ぷいっとそっぽを向くと、ずかずかといかにも怒ってます、と言わんばかりな歩き方をしてその場を立ち去る。

器用にお花を避けつつね、それに実際に怒っているんだけど。


何を怒ってるのさー!という声を聞いたら、ちゃんと話さずに怒っている私に空しくなってきた。

なんでいつもこうなっちゃうかなぁ……でも、ここで振り返ってしまったら負けたかなって、何だか悔しくなるから振り返らないけど。




――ただの『お誕生日おめでとう』くらい照れずに言えたら良いのに。



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