ⅷ 『彼』と時々白猫
謎の二人の話だぁっ(・ω・;)
この話でこの章は終了です!
にゃおーん
猫が鳴いた。
そこには白猫がいた。
たたずむ姿はそれは美しいもので、白い毛並みは窓から注がれる太陽の光を浴びて輝いている。大きな目は、血のような赤で不思議な光を放っていた。
そんな白猫を『彼』は見て驚嘆していた。
―――どうして、自分の家に白猫がいるのか?
と。
たしかに昨日、吸血鬼の女の子をこの家に招き入れた。しかし、白猫は招き入れていない。そんな記憶もなければ、覚えも当然ない。
その時、その白猫が『彼』の側に歩いてきた。そして、
「お兄さん、おはろ」
おはようじゃないのか普通、と思いながら『彼』はおはよう、と返す。そして、あの少女が起きてきたのかと思って振り向くと白猫しかいない。
「あれ?」
「わたしだよ、わたし。この白猫がわたし」
にゃおーん
と、猫が鳴く。
「え、ええっ」
思わず彼は驚いた拍子に、机の上に置かれていた本を地面に落とす。その本を白猫は口でくわえて、そっと『彼』に差し出した。そして、『彼』がその本を白猫から受け取ると、
「そんなに驚くこと、ないと思うけど」
と、あの少女の声で白猫が言った。
「え、えっと・・・・・・つまりだな、」
「わたしは、動物にっても猫だけだけど、変身する吸血鬼。あと、時を止める能力を持っている。そんだけかな」
「名前は」
『彼』は無愛想に尋ねる。
「梓」
「梓、ね」
「じゃあ、お兄さんは?」
「俺、か」
『彼』は遠くを見つめる。何かを考えるかのように。
「名前、ない。俺には名前がないんだよ。昔は確かにあったさ。でも、もう名前は捨てた身だからなぁ」
「ふぅん」
梓の赤い目が意地悪く光る。
「じゃあ、わたしがつけてあげる」
「・・・・・・勝手にしろ」
にやっと笑って、梓は机の上に飛び乗る。そして、
「じゃあ、昔の話、聞かせて。その中で決める」
「へぇ」
そう言って『彼』は肘をつく。
―――面白そうだ、な
そして、『彼』は語り出した―――昔の事を
あれは、二〇四五年のこと。つまり、《NO》が起こった後すぐのことだ。
あの時、『彼』には名があった。恋人もおり、『彼』の人生の中では比較的、楽しく、快楽と表現できる時だった。
といっても、『彼』のそのときの名を『彼』自身、忘れたし思い出そうともしない。
たしかにあのころ、世界は緊迫状態にあった。
『彼』はアメリカと呼ばれる地に住んでいた。昼は腕の立つ護衛として仕事に勤しみ、夜はカジノと女、そういった生活を繰り返しているうちに、借金がどんどんたまって行った。しかし、その時代、それが普通だった。いつ死ぬか分からないという現状を突き付けられ、途方に暮れた毎日ともいえたからだ。
それは、すべてがすべて《NO》のせい。
そんな文句が広まっていたという記憶もある。
しかし『彼』は吸血鬼。見た目は少年だが、生きている年数はすでに三十路は超えている。いや、三十路などではない。その時の大統領とたしか同い年だったはずだった。だから、考え方も大人と同等であるにもかかわらず、見た目が子供。そのせいで、当然参政権はもらえない。そもそも、『彼』自身がこの世界ではすでに死んだことになっていたのだ。
それもそのはず、彼は吸血鬼なのだ。
そうして『彼』はあることを思いついた―――秘密結社の成立
そして、『彼』は立ちあげたのだ―――《M》を
『彼』はこの社会で意見を持ち、戦おうという意志がある青年たちを集め始めた。その時、『彼』は女とカジノから足を洗ったわけだが、それはまたそれで、苦痛があった。
はじめは、ただの小さな集まりでそんなに力はなかった。しかし、徐々に力は大きいものとなり、一年も過ぎれば巨大な集団となった。
今まで黙認していた政府もさすがに見過ごせなくなったのもこの時期だった。そして、政府が干渉し始めたのだ。最初は単なる嫌がらせ程度の軽いものだったが、次第にそれは強くなり、終いには、戦力を向けることさえあった。しかし、政府が干渉すればするほど《M》は巨大化していった。
《M》は他の地域で似たような活動をしていた者たちと集い、終いにはこの世界を治めるまでに至った。そこまで大きくなるまでにそう、時間はかからなかった。
―――五年
たったそれだけで、《M》は世界を治めた。
『彼』は《M》のリーダーとなり、最善を尽くした。
その時の世界人口、約十億。
《NO》が起こったことにより、世界の人口は半分以上に減少したが、それは徐々に回復しつつあった。住む場所も減ってはいたものの、バリケード技術を進化させ、土地を治めた。
―――しかし、それは五年で崩れ去った
それはすべて、『彼』が鬼であったせい。
人類の敵、鬼。
匿名による告発で『彼』は落ちた。今まで確立していた地位からまっさかさまに転落した。
そして、パンドラの匣に閉じ込められた。
その後、世界の人口は減少傾向になり、土地も減少。
地球は、鬼のものとなってしまった。
そんな様子を『彼』はずっとパンドラの匣の中から見ていた。
―――今もまた
「へぇ」
『彼』が語ったのを聞いていた梓がふぅと息をついた。そして、
「じゃあ、パンドラでいいじゃん」
「パンドラ?」
「そう、パンドラ。今日から君はパンドラ。丁度いい名前だと思うけど。パンドラの匣に捕らわれた、パンドラ」
「・・・・・・なるほど」
ただね、とパンドラは続ける。
「パンドラっていうのは女性の名前なのだが・・・・・・そもそも、パンドラの匣のパンドラは、ギリシャ神話に出てくる地上最初の女性の名前だ」
「あらら」
「まぁ、いいけどな」
ほぉ、と梓は呟いて赤い目を輝かせた。
「じゃ、決まり。パンドラ、よろしく」
そう言って梓はパンドラに手を出した。
「あぁ、よろしく。一体、何のよろしくか分からないが」
パンドラはその小さい手を握った。
「で、」
と、パンドラは話しを切り出す。
「君はどうしてここにいる?」
「どうしてって、え?」
「つまりだ。こんな鬼しかいない、鬼の領域にどうしていたんだ?俺が推測するに、君は俺に会いに来た・・・・・・違うか?」
うーん、と梓は唸る。そして、首を縦に振って肯定する。
「まぁ、ばれちゃしょうがないよね」
と、言いながら梓はまぶたを瞬いた。そして、
「―――天吏の鬼の血がそろそろ暴れ出すぞ」
と、先ほどの梓の声とは違い、まるで他人のような低い声が響いた。
「って、こと。それだけ。伝えた方がいいと思って、ここまで来た。重要、みたいだし。あと、《M》の意志が復活した。夜と名乗る黒猫が《M》を創り上げ、人を集めている。そして、」
「そして?」
「その夜が天吏に目をつけた」
パンドラは、少し唸った。そして、
「それは本当か?」
「本当。嘘、言うほどわたしは暇じゃない」
と、無愛想に言った。
「どうする」
梓がパンドラを見上げる。赤い瞳が少し笑ったかように思えた。
しかし、そんなことを気にするほどパンドラは暇じゃなかった。パンドラは、自分の部屋に戻ると必要なものを全てかき集め、鞄の中に突っ込み、再び梓の前に現れた。
「行く、ということでいい?」
「ああ」
同意すると、梓が白猫の姿から人間の姿になった。一五歳ぐらいの少女の姿に。髪はツインテール、白いワンピースを着た姿となった。
「あと、」
と、梓は付け加える。
「『龍刃』は元気だよ」
っつ、とパンドラは固まる。そして、「そうか」とだけ呟いて扉を開いた。
✝
「お久しぶり、天吏クン」
と、パンドラは言った。目の前にいる震える少年に。
その少年はパンドラを見て震えていた。何か怖いものでも見ているかのような表情をして、猫に見つかったひよこのように震えていた。思わず、パンドラはニヤけてしまう。そして、
「あの日以来、じゃないかなぁ?一〇年、だっけ?」
と、言った。
一〇年、長い月日だった。天吏を鬼から救い、鬼の血を体に刻みこませてから一〇年。歳をとらないから、年という感覚がなかった。
思わず、懐かしさのあまり天吏の肩に手を乗せてみる。しかし、撥ね退けられた。少し悲しかったが、パンドラは唇を噛んで、また笑った。
その時、パンドラの視界に『龍刃』が入って来る。緑色に光る剣、『龍刃』。それを天吏は握りしめていた。しかし、その手は震えている。そして、パンドラはそれを天吏の手から引き抜いた。そして、呟く。
「お久しぶり、『龍刃』」
「お、おまえ・・・・・・誰」
「俺か?」
パンドラは震える天吏に尋ねる。思わず笑みが漏れてしまうのは気にするな、しょうがない。そして、答える。
「俺は、パンドラさ。そして、君を一〇年前に助けた奴さ」
「パンドラ・・・・・・?俺を、助けた?」
「そうさぁ」
じゃあ、とパンドラは呟いて、テレパシーという名のものをやる。といっても、普通の会話を頭の中でやるというだけのことなのだが。
―――こんなふうにね
「あわわわわっ」
驚き方がかわいいな、とパンドラは思う。思わず頭をなでたくなった衝動を抑えるのに少し動揺を覚えもした。
「要件」
パンドラの後ろで梓が無愛想に吐く。
あぁ、そうだったなとパンドラは思うととりあえず、頭を掻いた。そして、
「俺はお前に用がある」
と言った。
「要件?」
「そうだ、要件だ」
赤い瞳が意地悪っぽく光った。
刹那、天吏の腹部に激痛が走る。
ぐぁはっ
突然の攻撃で、天吏は何もできなかった。
それは、強烈なパンチだった。パンドラのこぶしが腹に喰い込み、捻じ曲げられる。何度か激痛が走り、そのたびに天吏は口から血を吐き出した。ようやく激痛が治まったころには、天吏の顔は自身の血で真っ赤に染まっていた。
「これで、よし、と」
にやにや笑いながらパンドラは天吏の腹から手を放す。そして、天吏はその場に崩れた。
足に力が入らない。
痺れと痛み。それが交差し、混ざり合い、天吏を苦しめた。
「んじゃ、当分はいいか」
立ち去ろうとするパンドラ、そして梓。その二人に天吏は揺らぐ視界を向けた。
「ま、待てよ」
「ん?」
「何なんだよ、お前ら」
「んー、何なんだろうね。まぁ、強いて言えば『鬼』かな」
「鬼?」
「そうだね」
パンドラのニヤけ顔が天吏の視界を占める。
「じゃあ、おやすみ」
その瞬間、天吏の意識はブラックアウトした。
なぁご、なぁご、なぁご
鬼が、少し嗤うかのように鳴き声を震わせた。
そして、天に向けて飛び立った。
文章がうまくまとまらない・・・・・・
話が、つまらない・・・・・・か?
感想、どうぞ!
付け加え:8月24日
話の内容がつまらない、とか言っていただければ改善させていただきます!その他、文書が変だとかいろいろ・・・・・・絶賛、受付中です