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ⅶ 梓

 朝。

 涼しい風が天吏の前髪を揺らした。そして、その風が鼻をくすぐる。

 時刻は、

 ―――a.m.06:15

 つっと汗が頬を伝って落ちた。

 ゆっくりと天吏の目が開かれる。細められた目は、少し赤く染まっていた。しかしその目も、完全に開かれるころには今までの瞳の色に戻っていた。

 ―――悪い夢を見た

 幼い時の記憶。あれは、嫌な夢だった。

 思い出したくない過去、それが天吏の脳裏を時々よぎるのだ―――こうして、夢の中で

 ―――一夜、公園で明かしちゃったな

 そんなことを思ってもすぎたことは過ぎたことだ。しかし、そのせいで関節が固まってしまっている。動かそうとしても、駄目だ。無理に動かすのも体に悪いと思った天吏はしばらくそこでぼうっとすることにした。


 今日は土曜日だ―――休日だ


 いくら休んでも問題はないだろう。

 今までもこういうことは何度もあった。今回も同じ・・・・・・ではない。

 隣を見ると剣が―――ある

 夢ではない、現実だ。

 天吏は《M》の一員となったのだ。八番目の《M》に。


 にゃあ


 猫が、鳴いた。

 そこには、猫がいた―――白猫

 黒猫ではない、白猫が、いた。

 黒猫でないことは夜ではないのだろう。しかし、と天吏は思考を働かせる。鈍ってしまった思考は、朝だからかなかなか働かない。そのせいで、頭を抱え込んでいると再び猫が鳴いた。


「にゃあ」


 いや、猫ではない。

 顔を上げるとそこには、梓がいた。

 うさぎの耳のようなツインテールと赤い大きな目。そして、やけに白い肌。今日は学校がないせいか、梓は白いワンピースを着ていた。そして、それがやけに似合っていた。

「あ、梓」

 いきなりの登場に思わず天吏は驚きの声を上げる。

「おはろ」

「あ、あぁ、おはよう」

 周りを見渡すと、先ほどの白猫はいなくなっていた。

「何、しているの?こんなとことで」

 珍しく梓から話しだした。ゆっくりとその唇が動く。

「い、いやぁ別に・・・・・・朝の散歩、だ。きっと」

「きっと?」

「ん、あぁ・・・・・・きっと」

「ふぅん」

 大きな赤い目がじっと天吏を捕えた。

「夜遊び?」

「え」

 そして、くすくすと梓は笑った。

「嘘、つくの下手。分かる」

 そう言うと梓は、とっとと走ってどこかへ行ってしまった。

「何だったんだ?」

 天吏は首をひねりながらようやく動かせるようになった体をゆっくりと動かして家に向かって歩いて行った。


 なぁご


 梓が、鳴いた。


 ✝


 天吏が呼び出しを食らったのは、丁度、お昼ごろだった。出雲からのメールによって、天吏は呼び出された。要件は、『自己紹介』と無愛想な黒白のメールで書かれていた。

 現在の時刻は、

 ―――a.m.11:32

 そろそろ出かける時間だなと思いながら締め切ってあったカーテンを引いた。日光が部屋に注がれる。

 あぁ眩しいな、なんて思いながら窓から外を眺めると―――黒猫がいた


 何故か、いた。

 それも、血だらけだった。


 にゃあぁ・・・・・・


 弱々しく鳴くその黒猫。腹から血を流し、体を小刻みに震わしている。

「よ、夜っ」

 その黒猫は《M》のマスターと呼ばれる男、夜だった。

 天吏を《M》に引き入れた男。

 その夜が、そこにはいた。


 にゃ・・・・・・


 思わず、天吏はしめ切ってあった窓を開き、夜を部屋に招き入れる。そして、ベッドに寝かせると出雲に電話しようと携帯電話を開いた。

「・・・・・・ま、待て」

「え」

 七色の目が弱々しく光を放つ。

「連絡はするな・・・・・・こんな傷、たいしたことは・・・・・・ないのだ」

「んなわけないだろっ。つか、連絡すんなってなんだよ」

「心配、かけたくないのだ。彼らに・・・・・・。それに、こんな傷ごとき、吾輩で治癒できる」

 にや、と夜は弱々しく笑った。

 しかし、そんな夜の言葉とは反対に、夜の周りは赤く染まっていった。出血が、思ったより多いようだった。

「だ、」

「・・・・・・何だ?」

「誰にやられたんだ」

 ふっ、と夜は鼻を鳴らす。

「・・・・・・聞きたいのか?」

「そうだ、もちろん」

 溜息が洩れる。七色の瞳が揺らいだ。

「・・・・・・ツインテール、赤い目」

 ツインテール、そして、赤い目?

 天吏の脳裏にはある人物が浮かんでいた。そう―――梓

 うさぎの耳のようなツインテールと赤い大きな見開かれた目、そして、無愛想な顔・・・・・・。

 不思議な、幼馴染。

「―――梓、だったな」

「ああ」

「嘘、だと疑わないのか?」

「疑わないね。今にも死にそうな奴が、自分を殺そうとした奴の嘘つくかよ、普通」

「・・・・・・そう、だな」

 気づいた時、天吏はすでに走り出していた。

 梓がいる場所は知っている。

 そこに向かって天吏は、足を動かした。

 右手に持っていた携帯は、出雲のアドレスが書かれたページが開かれたまま。そして、天吏の親指は送信キーを押していた。これで夜も大丈夫だろう、心配はいらない。

 天吏は一目散に公園に向かった―――あの、公園に


 ✝


 ―――a.m.11:40

 公園には誰もいない。

 いや、一人いる。

 日光を全身に浴び、嗤う少女が一人、いる。

 日焼けを気にしないのか、白い肌を露出させる袖なしの白いワンピースを着ている。そのワンピースが薄い生地のせいか、その少女の体格を露わにさせ、浮き出たあばら骨までもが見える。しかし、その少女はそんなことは気にしていないようだ。

 ただ、嗤っているのだから。

 うさぎの耳のようなツインテールが揺れる。

 赤い目が、気味が悪いくらい見開かれている。

 そして、口元はにやりと笑っていた。

「まだかな・・・・・・天吏、くん」

 あははぁ、と笑う。いや、嗤う。

「んんんっ?」

 梓は何かを見つけたようだった。手を上に延ばして「ここにいるよぉ」と今にも言いそうになるくらいその場で飛び跳ねる。

「てんりくーん」

 叫ぶ。

 たしかにそこには天吏がいた。しかし、

「誰、あいつら?」

 天吏の後ろには数人の影が見えるのだ。それはまるで、天吏の護衛のように見える。

「まじで、誰?あいつら」

 梓とは思えない、表情。先ほどまで無表情だった梓の表情が急に変わった。まるで、見下すような、表情。そして、笑う。

「邪魔、なんですけど」

 バチン、指が鳴る。

 その瞬間、梓の後ろに鬼が現れた。バリケードなど関係ない。鬼は空気からいきなり生まれたみたいにそこに現れたのだ―――この公園に

「お、鬼・・・・・・どうしてだよっ」

 天吏が叫ぶ。しかし、その声は梓に届かない。

「鬼使いか・・・・・・」

 天吏の隣にいた出雲がぼそっと呟く。

「鬼使い?」

「そうさ」

 いつのまにか出雲の両手には拳銃が握りしめられていた。

「鬼を操る術を持つ者のことを称して、『鬼使い』ってんだよ。つーかさ、お前も『鬼使い』じゃなかったか?」

「は」

「だから、お前も『鬼使い』じゃなかったかって聞いてんだよ」

 天吏は聞こえないふりをした。そんなのは知らない。それが、天吏の結論だった。

 天吏は背に背負っていた刀、『龍刃』を抜くと構えた。

 緑色の光が舞う。

 始めて扱う『龍刃』。しかし、扱える気がした。

 ―――コイツとは気が合う

 そんな思い込みで。

 風を、斬る。

 そう思った瞬間、


 ―――久しぶりだな、あの時の餓鬼


 なつかしい、でも、良い意味で懐かしいくはない声が天吏に語りかけてきた。

 ―――鬼の力、そして、『龍刃』か・・・・・・

 その声は感心し、頷くように聞こえた。

「お前、だれだよ」

 ―――忘れたわけはないだろう?

 ―――鬼からお前を助けた者だ

「鬼から、俺を助けた・・・・・・?」

 ―――そうだ


 その時、時が止まった。

 周りのものが全て静止している。

 この世界に静寂が訪れた。


「夜か、夜なのか?」

 しかし、どこを見渡しても夜はいなかった。ただ、天吏一人ではなかった―――男がそこにはいた

 一六、七ぐらいだろうか、天吏とはそう歳も変わらないだろう少年がそこにはいた。赤い目、そして、ひび割れた唇からのぞくとがった犬歯。

「いや、俺だよ」

 あの声だった。それは、天吏の目の前にいる少年から発せられた。


 なぁご


 鬼が鳴く。


 にゃおーん


 猫が鳴く。


 その少年の後ろには先ほどの鬼と、なぜか猫がいた。しかし、その猫は白猫だった。

「お久しぶり、天吏クン?」

 にや、と少年は笑う。

「あの日以来、じゃないかなぁ?一〇年、だっけ?」

 なれなれしく話しかけてくる、少年。その少年に天吏は嫌悪を感じた。

「そう嫌うなよ、俺と君は同士なんだからさ」

 天吏の肩に手が乗る―――少年の手だ

「さ、触るな」

 思わず天吏はその手を払う。おっと、と言って少年は一歩引き下がった。

「乱暴、だね」

 そう言って少年は天吏の震える手から『龍刃』を奪い去る。そして、

「お久しぶり、『龍刃』」

 と、言った。


 さて、この少年誰だ?

 というか、この一章長い・・・・・・キリがつかないよ(T_T)


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