ⅳ 8番目
今日も暑いですね~(・ω・;)本当に
感想とか、どうぞよろしくです
絶賛受付中(=^・^=)
中央公園はこのエメラルド地区の中央に位置し、また、この街に住む誰もが知る公共の施設となっていた。大きさは丁度、東京ドーム六つ分ぐらい。まぁ、要は大きいってことだ。公園の中には様々な設備がある。そのほとんどがスポーツを行うための設備であり、時たま学生などが試合をやったりしている。といっても、この公園はそれだけではない。中央には巨大な時計台があり、これはもともと何かの記念で創られたものらしいが、今や待ち合わせの代名詞となっている。
だから、天吏もその時計台にやってきた。
―――p.m.11:54
あと、一分だ。そんなことを思いながら空を見上げた。昨日と同じように月が輝いている。今日は鬼の出現がないのかバリケードは張れらていない。鬼はそう毎日、人間達を襲うわけではないのだ。不定期、だが少ないわけでもない。用心に越したことはないが。
にゃおーん
黒猫。
そこには、黒猫がいた。
七色に輝く瞳と漆黒の黒い毛並み。まさに、昨日の天吏が助けた黒猫だった。
「お、おまえ」
にゃあ、と鳴いて黒猫は首を傾げた。そして、
「―――吾輩は黒猫ではない、猫である。名前はまだない、がな」
その声は時を操る猫耳、夜という名前の奴の声と同じだった。田中先生に化けていたのかはよく分からないが、猫耳を生やした彼、と同じ。そう、夜という名前の。同じ、台詞を言った。
「やぁ、久しぶりだね。吾輩、だ。またこうしてお目にかかれて光栄だよ、天吏君」
笑った。
あの、笑みと同じだった。
「猫が人間語を操るのは変だって?違和感はあるだろうだがな。この姿が一番楽なのだよ、身軽でね。吾輩は猫なのでね」
「というのは、昨日の」
「そうだ。吾輩は、少しばかり浮かれていてね。まぁ、酒によっていただけなのだが。
あのことは礼を言うよ、ありがとう」
「ど、どうも」
頭を垂れる猫、始めて見たなと思いながら天吏はその姿をカメラに収めたいななどと思った。しかし、そんな姿はすぐに切り替わってしまった。
「でだ。そんな吾輩を助けてくれたことで」
何かくれるのか、と思った。しかし、
「君を勧誘に来たのだよ。あぁ、別に悪徳商法とかではない。ただの、勧誘だ。ほら、入学式のときに新入生を部活に勧誘する、あの勧誘だ。それに、そんな悪い話しでもなかろう」
あぁ、あの時言っていた『勧誘』の勧誘か、と天吏の頭には学校でのある場面を思い出す。丁度、時が止まったとかいう不思議体験の、場面。たしかに、あの時も『勧誘』とか言っていた。
勧誘、でも何の?
そんな疑問が湧いた。
「《M》への勧誘だ」
その疑問の答えはすぐに出た。しかし、《M》?聞いたことはある。いや、誰でも知っているだろう。《M》というのはこの世界から人間を滅亡から救った団体だ。しかし、彼らは滅んだ。今でも彼らは英雄として後世にまで語り継がれている。そんな彼ら、《M》。その団体が復活か?などと思ったが、それはあり得ない。何といっても彼らは―――滅びた
「《M》は滅びた。たしかにな。しかし、復活した。それだけのことだ。この世界を、人間を守るために復活した、ただそれだけのことさ」
「テロの誘いなら断る」
現に数年前、《M》と名乗った集団がテロを起こした。しかし、
「違う。そんなものじゃない。あれは宗教的理由だと言われたはずだが。吾輩たちがは違う。吾輩たちは《M》の意志を引き継ぐ者たちなのだ」
「《M》の意志?」
「そうだ」
聞いたことはなかった。《M》の意志。そもそも、《M》というあの英雄たちを詳しくは知らない。だから、《M》の意志と言われてもピンとこないのだ。
「《M》の意志。それは、『守る』だ。全ての生き物を『守る』。それが、彼らの意志だ。『守る』ために団結し、力を集め『守る』。それが、彼らの意志だ。英雄なんてものはその後から勝手についていくものだ。英雄になりたいから『守る』んじゃない。『守る』から英雄になるのだ」
七色の目が月の光を浴びて、きらきらと輝いた。
「じゃあ、『守る』ために命を張るっていうのかよ。この、自己中心的な世の中でか?信じられねぇよ、それはただの綺麗事にしか聞こえない」
「その綺麗事がこの世界を変えることとなってもか?」
「世界を変える?」
「そうだ、世界を変える。この世界を一八〇度変えることになってもまだ、そう思うのか?」
「そうなる保証がないからな」
「ない?それは吾輩が、未来が保証する。それ以上に見返りもくる」
「仮定だろ、そんなの。仮定は結果じゃない。そんなこと、アンタにだってわかるだろ。この世界は結果がすべてだ。それ以上も、ましてやそれ以下も望まれていない。なのにアンタは、結果になると信じ込むのか?」
「悪いか?」
七色に輝く瞳がじっと天吏を見つめた。
「いや、それは全然悪くない。むしろ、呆れたな」
「呆れ、だと?」
「そんな大きな賭けをする人間がこの世界にいるとはね。博打だよ、それじゃあ」
「吾輩は強運なのだ。必ず勝つ」
「へぇ」
その瞳はまるで一つのことしか見ていないような気がした。七色の瞳、それはずっと先を見ている。そして、その理想を突き通すために手段を選ばなさそうだった。猪突猛進、だなと天吏は思う。
そして、それはものすごく楽しそうだった。
「俺も入れろよその中に。その博打ってんのに興味ある」
「興味本位ってやつか?」
「まあな」
にや、と夜は犬歯をむき出して笑った。
「ようこそ、《M》へ」
そんな天吏と黒猫の様子をじっと見ている影が二つあった。
一つは、出雲。パーカーを羽織り、フードで顔を隠している。
もう一人は、ツインテールがうさぎの耳のような少女。そして、赤い目が光っていた。
✝
久しぶりに血が疼く。そう思った時には朝だった。朝は嫌いだ、と掛け布団を頭から掛けるが夏用の薄い掛け布団からは朝日が入って来る。あぁ、嫌だなと思っても朝は来てしまうのだ。恐ろしいサイクルだ、と思ってもそれは自然なことで昔から決まった永久不滅のサイクル。
あれから五〇年の月日が経つ。
年月は早いものだね、と思うが未だに『彼』の体は衰えてはいなかった。
『彼』もまた、永久不滅のサイクルに捕らわれた者。
生まれたのは今から半世紀以上前の一九九五年。なのに未だに体は一六歳のまま。歳を取らず、ずっとこのままの七〇歳。永遠の一六歳を望まずに手に入れた『彼』。犬歯をむき出し、ひび割れた唇を噛む。少量の血と苦い味。これは現実、夢じゃない。
今でも『彼』はあの夢を見る。
『彼』は自身が鬼の一人であることを隠し《M》というヒーローの集団を立ち上げた。しかし、それはある時ばれた。いつまでも隠せはしないだろう、と思ってはいたがそれは世界が治まるまでは持つと思っていた。しかし、その考えは浅はかだったと今でも後悔する。
―――あぁ、寂しいな
しかし、『彼』の寂しさを癒す者はいない。『彼』には女も子もいない。一人ぼっちの男なのだ。永遠のパンドラの匣に捕らわれたさみしい男。今では、自分の名すら覚えてはいない。
―――俺は一体、誰なんだ?
もう、『彼』には自分自身が分からなかった。何なのか、すら。
厄、というパンドラの匣で一生を過ごすこの男は。
なぁご
鬼が、鳴いた。
啼いた。
―――君、思い違いしちゃいけない。僕は、ちっとも、しょげてはいないのだ。
太宰治作、『パンドラの匣』の一節が聞こえてくる。それは、誰か、女のひとが読み聞かせをしているように聞こえた。
―――君、もうすでに新しい幕がひらかれてしまっているのです。
しかも、われらの先祖がいちども経験しなかった全然あたらしい幕が。
「そうなのか?」
『彼』は呟く。
しかし、その問いにだれも答えはしない。
✝
時計台の時計の針が一二時三〇分を指した。
物凄い地響きがするほどの音が公園を響き聞かせる。
ごーん、ごーん、ごーん
何かあったか、と思って天吏は空を見上げるといつの間にか赤く光るパズルのピースのようなプレートがバリケードを構築していた。しかし、それは昨日とは違い物凄く早いスピードだった。目にもとまらぬ速さでそれは構築されていく。と、同時に公園の中央に設置された巨大なスクリーンにあの鬼が映し出された。なんだなんだ、と見ていると遠くの方に、月をバックにして鬼がいた。大きな、昨日の鬼より巨大な鬼。結構遠く離れているはずなのに、画面越しに鬼の気が伝わってくる。
「鬼、だな」
夜の七色の瞳がその鬼を映す。
鬼はとにかく巨大だった。容姿はまるで虫みたいだ。長い触角が顔の双方に生えている。そして、蝉のような羽で音を立てながら飛んでおり、足は六本。目はまるでトンボのよう。
「インゼクト、だな」
「鬼には、名前が・・・・・・」
「種類がだ。この鬼は虫の形をしている。だから、インゼクトなのだ。ちなみに、昨日の鬼はパルティトっていう種類に属する。鬼にも種類はある。といっても、専門用語だがな」
「はあ」
「鬼っていうだけではない。鬼にも種類があるのだ」
夜はピンっとひげを立てると、再びそのインゼクトという種類の鬼を見上げた。
その時、何かがそのインゼクトに近づいて行くのが見えた。よく見えないが三つ、ある。その三つがインゼクトに襲いかかっていた。
「え」
と思わず天吏は声を出してしまう。
「彼らだ」
「え?」
「彼らだ。彼らが《M》なのだ」
夜の目はずっとインゼクトを見上げている。
「彼らが、《M》の意志を受け継ぎ戦う者たちなのだ。君は、そんな彼らの仲間入りを果たすことになるだろう」
「ど、どういう・・・・・・」
「着いてきたまえ」
そう言って、夜は歩き出した。いつのまにか辺りには観衆がいっぱい集まっている。そして、口々に「がんばれ」だの「まけるな」だのと騒いでいるのだ。天吏はその様子に驚きながら彼らの合間を縫って夜に着いて行った。
なぁご
赤い目を見開いた少女が、鳴いた。
そこはこの街、エメラルド地域の全てが集まるビルだった。この街で唯一残った高層ビルを改装して創られたもので、その鉄筋コンクリートむき出しの建物は未だに修復しない傷跡だった。わざと、らしいが見た目が悪くて不評だったりする。傷跡なんてそこらじゅうにあるし、わざわざそうしなくてもという声があとをたたないらしいが。その、ビルの前に天吏はいた。見上げても頂上が分からない。ましてや、夜だ。といっても、バリケードのせいで赤くそらが光っているが。
「エメラルド地域本部、『エメラルド』じゃないか・・・・・・どうしてこんなとこに」
「まぁ、待て。そのうち分かる」
夜は平然にその『エメラルド』の中に入って行った。天吏も後に続くが、『エメラルド』の前に立つ警備員が怖かった。まあ、何も言われなかったが。
「やぁ、ごくろうさん」
エントランスはやけに明るかった。
そして、
「夜がいない・・・・・・?」
そこには先ほどまでの黒猫の姿はなかった。代わりに、二〇代前半の青年が立っていた。好青年、そして猫耳。
「あ、あなたが夜?」
「吾輩は猫である、名前は・・・・・・夜、か?」
猫耳を揺らしながら夜は続ける。
「どうしても、ここだと猫の姿はまずいからな。といっても、猫耳は隠せない。一応、吾輩は人間と猫との、まぁ半獣なのだ。この容姿は仕方がない。ふざけている、と言われても困るのだ」
何故か、夜は熱意を持って言った。多分、ふざけていると言われたことがあるのだろう。
「さて」
と、夜は掛けていた眼鏡に手を当てる。その姿は、田中先生に変身した時と似ていた。
「そろそろだろう」
そう言ったその時、夜の背後にあるエレベーターが開いた。そしてそこには、
「出雲、先輩」
出雲を含め、三人の少年少女達がいた。彼らは天吏と同じぐらいか、少し下か、そんな感じだった。いきなり、《M》という集団に親しみを感じる。
「彼らが先ほど、インゼクトと戦い、みごと倒した三人の《M》だ」
「た、倒した?」
思わず、驚嘆する。鬼は倒せるのか、と。というのもそのはず。あの、公園での熱狂ぶりは異常だった。それは、鬼を倒すからなのだろうと。
「そうだ、オレたちは鬼を倒した。しっかしなぁ、本当にこいつを《M》に誘うことができたなんて、恐れ入るわ、マスター」
「マスター?」
「そうです。吾輩は、マスターと呼ばれている。まぁ、夜でもいいが」
はあ、と天吏は答える。
「まぁ、とりあえず・・・・・・おめでとう、とでも言おうか。我が、後輩君。八番目として、天吏、お前を《M》の一員として歓迎する」
そして、ぎゅっと出雲は天吏をいきなり抱きしめた。
※『パンドラの匣』の一節は新潮文庫『パンドラの匣』太宰治著から抜粋
今回は長かった。
いやあ、長いね。