【01 喫茶店と民宿】
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・【01 喫茶店と民宿】
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「じゃあ愛華んちの向かいの喫茶店を乗っ取ることにするかぁー」
舞江お姉ちゃんはあぐらをかいていた足を伸ばしながら、腕を上げて背筋も伸ばし、満足そうな顔で立ち上がった。
呆然自失といった状態で畳に座っているあーし。なんつーか、首だけじゃなくて頭も回っていない状態だ。
そう、首も回っていない。
女子高生二年目の四月上旬に何で、お金が無いのかと言えば、昔からの悪友に教えてもらったオンラインカジノと高校生でも五千円から借りられる闇金融により、大借金してしまっているからだ。
なんとか金儲けがしたい。その一心で舞江お姉ちゃんを頼ったわけだが、発せられた言葉は意味の分からない一言。
やっぱり親族の中で一番話しやすいだけを理由に親戚の舞江お姉ちゃんを選んだことは間違いだったか。
でも私が頼れるのはもう舞江お姉ちゃんしかいないのだ。
両親は家族経営の民宿が経営難により、お手伝いさんを雇うことすら出来ず、自分が駆り出される。
そのせいで仲良い中学時代の友達と遊ぶことも出来ず、その発散で始めたオンラインカジノで完全に詰んでしまった。
どうにかして民宿が盛り上がって特別にお小遣いがもらえるか、それとは別にお金を得ないといけない。
でもビッチメイクは好きだが、ビッチとして”ウリ”をするのは絶対に嫌。
こういうファッションが好きなだけで、男はむしろ割と嫌悪している対象だ。さすがにどんな男に対しても『キンタマ』と呼ぶほどのソレじゃないけども。
そんな経緯で舞江お姉ちゃんに泣きつき、全部話したわけだけども、当の舞江お姉ちゃんは相変わらず訳が分からない。
サイコパスならではの頭の良さがウリだった舞江お姉ちゃんだが、これじゃあただただサイコパスなだけだ。危険過ぎる。
ガラス窓に反射したあーしの表情は開いた口が塞がらず、茶髪のポニーテールが小刻みに揺れていた。
心臓も無駄に高鳴って、あーしの胸がホントにドカンドカン縦揺れを起こしている。あーしの心臓って縦?
あーしを上から見ている舞江お姉ちゃん。自分の巨乳が邪魔して足元のあーし見えていないんじゃねという距離まで一歩前進してくると、腰を屈めて、
「つーわけで、ウィンウィンでいきまっしょい!」
とニカッと笑った。全く、ホントに意味が分からない。
あーしは困惑の声で、
「意味が分からない! ホントどういうことっ?」
舞江お姉ちゃんは手のひらを前に出して、制止のポーズをしながら、
「慌てるな、ゆっくりやっていこう」
「あーしも立って何か、どっか行くの?」
「いや愛華は座ってていい、冷蔵庫からコーラ持ってくるから。身体を洗う用じゃないヤツ」
身体を洗う用のコーラなんてないでしょ、とツッコんでいいのかダメなのか、何も判断出来ない状態に自分がなってしまっている。
ホントに舞江お姉ちゃんは大丈夫なのだろうか。
あーしは舞江お姉ちゃんの後ろ姿を目で追って、ボーッとしていた。
舞江お姉ちゃんはコカ・コーラゼロのペットボトルを二本持ってきたわけだが、近付いたところで分かったけども、二リットルのペットボトルを二本だった。
「ん」
そう言いながらあーしに一本渡しながら近くに座った舞江お姉ちゃんにあーしは、
「コップは無いんですかっ」
と、つい敬語まで飛び出してしまうと、舞江お姉ちゃんは自分の分のペットボトルを開けると、そのまま口をつけて、
「JKなら二リットルくらい飲むでしょ」
「いや、普通に飲まない、飲めない」
「じゃあ余ったら家へ持って帰るといいよ、ビュッフェのタッパみたく」
ビュッフェでタッパは反則だし、とツッコんいいのか分からない気持ちの距離感になっている。
というか舞江お姉ちゃんって、こんなにサイコパスだっけ? ちょっと会わない間に、増してきている。ここにきて、増してきている。舞江お姉ちゃん、もう二十六歳なのに。
「順を追って説明するか」
舞江お姉ちゃんはデカいゲップをしてから、続ける。
「まず民宿が儲かるために町おこしをやる。それが上手くいけばアタシは愛華んちの前の喫茶店を乗っ取れるかもだし」
「町おこしっ? というか乗っ取るってホント何ぃっ!」
「じゃあ町おこしから説明するね。この、何も無い田舎のシティ、似潟県間多布町を町おこしして盛り上げて、民宿に人がやって来るように仕向けるってわけ」
「それはまあ意味は分かるけども」
「で、民宿に人がいっぱい来れば、民宿の前の喫茶店にも人が来るようになるかもじゃん?」
「そこまでは理解している」
「そんな店をアタシは乗っ取りたいというわけ」
「願望ぉっ?」
あーしは声が裏返るくらいの大きな声を上げてしまった。
舞江お姉ちゃんは笑顔で頷き、
「そそっ、アタシ楽して生きていきたいから、元々常連のいる喫茶店を乗っ取りたいと常日頃考えていたってわけ。でも一人じゃなかなか策を講じることが出来なくて……でも、愛華っつー味方がいれば、もしかすると喫茶店乗っ取れるかも! アタシは愛華の金儲けを手伝うから、愛華はアタシの喫茶店乗っ取り計画を手伝ってほしいんだ!」
そう腕いっぱい広げた舞江お姉ちゃん。なんて爽やかな表情なんだ。話している内容がアレじゃなければ、青春は子供だけのモノじゃないんだと高らかに宣言する大人のカルチャースクール物語だ。
絶対あくどいことをするんだろうけども、背に腹は代えられないし、あーしは闇金融からお金を借りていることまで全部喋ってしまっているので、ここで断ったらそれをネタに強請られる可能性もある。
ここはもう素直に受け入れるしかない。
「舞江お姉ちゃん、あーしも舞江お姉ちゃんの喫茶店乗っ取り計画を手伝うから、あーしのことも手伝ってください!」
そう言って頭を下げると、舞江お姉ちゃんが「まあまあ顔を上げて」と言ったので、顔を上げると、舞江お姉ちゃんは人差し指を立てながら、
「それともう一つ、愛華はコンテストもやること」
「コンテスト?」
小首を傾げたけども、意味は大体分かった。
「つまり、ミスコンみたいなのに応募して芸能活動も狙うってことね」
「いんやぁ、全然違うけど」
キョトンとした顔をした舞江お姉ちゃん。
いやいや、コンテストってそういうことじゃないの? じゃあハッズ! 何か”自分は見た目が良いからなぁ”とか思ってしまった。
舞江お姉ちゃんはう~んと唸りながら、
「ミスコンみたいなさ、芸の無いことはダサいから辞めて、コンテストをやればいいんだよ……あぁ、なるほど、ミスコンもコンテストか。いやいや、そういうのじゃなくて文学コンテストとか、企業が行なうキャンペーンのようなコンテストのことだよ」
「文学コンテストって、芥川賞みたいなこと?」
「厳密には全然違うけども、そういうこと。世の中には地方自治体が主催するコンテストとか、企業が宣伝のために行なうコンテストとかいっぱいあんの。勿論、出版社が主催する小説出版のコンテストもあって、それは芥川賞が関わってくるけども、愛華がやることは基本関係してこないから、考えなくてOK」
「そういうコンテストとか企業が宣伝のために行なうヤツとかもあるのか……」
舞江お姉ちゃんはフフッと笑ってから、
「小学生の時とかやらされなかった? 交通安全の標語を考えようとか」
「何かー、あった、かも……」
「それを自主的にやるって感じ、賞金も賞品もいっぱい出るのあるんだよ」
「賞金もっ?」
「そう、それで賞金稼ぎすればいいだけ。賞品も売れるヤツは売ればいいよ。ただしメルカリはNG。バレたらブラックリストに載って受賞しづらくなるかも、ブラックリストは与太話だけども」
与太話って、確か嘘か真か分からない話ってヤツだよね、でもブラックリストには載りたくないなぁ。
舞江お姉ちゃんは続ける。
「とにかく町おこしとコンテストの両輪で頑張ればいいんだ、柱が一本だと倒れた時に危険だから」
「でもコンテストって難しくない?」
「大丈夫、コンテストって才能ある人も無い人も平等だから。特に企業系の第何回とか無い、それだけのコンテストとかは」
「え、コンテストって普通に才能ある人が勝つんじゃないの?」
「才能ある人が勝つコンテストは選者にも才能があるコンテストだけ。企業系や、自治体がその回限りでやるコンテストは大体運だよ。才能ある選者がいる時もあれば、才能無い選者がいる時もある。で、才能無い選者が選考をする場合はセンスの無い作品が受賞するってわけ」
舞江お姉ちゃんはかなり危険なこと言っているような気がするけども、確かにそうかもしれないという納得感もある。
でも、
「何で舞江お姉ちゃんはそんなコンテストに詳しいの?」
「そりゃアタシは楽して金儲けがしたいから、いっぱいコンテストやってんの。一覧見せようか」
そう言ってスマホを取り出して、操作してからあーしに画面を見せてきた。




