【R15】「王子様しゅきしゅきだいしゅき~」「姫、俺と一緒に永遠を生きようぞ!」
冬の童話企画に出そうと思ったらR15アカンのか。
きらきら入れちゃった。
その女がなぜ全裸で現れたのか、エドゥアルドには理解できなかった。
気づけば服は脱がされ、海水で冷えた体が震えていた。
女は黙って彼を抱き寄せる。
潮の匂いが混じる湿った髪が、エドゥアルドの頬に触れた。
彼女の体温がじんわりと移り、凍えていた指先まで少しずつほぐれていく。
エドゥアルドは思わず彼女にしがみつき、その柔らかな胸元へ顔を押しつけていた。
……温かい。
耳の奥で、波の音が近づき、また遠ざかっていく。
歯の震えが止まると、まどろみが襲ってきた。
「王子、眠ってはいけません。死んでしまいます」
囁く美しい声とともに、温かいものが唇に触れた。
口づけ──そう認識した瞬間、エドゥアルドは目を開く。
女は慈しむように、彼を見つめていた。
その笑みはどこか神秘的で、深い海の底を覗き込んだような感覚を覚えさせた。
そこには紛れもなく、エドゥアルドへの愛があふれていたのだ。
彼女はそっとエドゥアルドに身を重ね、そのすべてを包み込む。
彼の記憶は蕩けるような心地よさの中……ついに途切れた。
※ ※ ※ ※
大きな白い帆の船が、人魚の島の海域に出没するようになった時、シーラは興味本位で近づいてみた。
そして甲板に立つ、美しい雄に目を奪われた。
マストの上の旗を見た姉妹たちが言うには、あれは人の国の「王子」なのだとか。
人魚には雄がいない。
ゆえに人の姿をとり、気に入った雄から子を授かるのが習わしだった。
だがシーラは、これまでその気になったことがなかった。
粗野な漁師たちを見かけても、心が動いたことはない。
──けれど。
その大きな帆船に乗る「王子」とかいう雄は、特別だった。ひと目で、これが恋なのだと悟ったのだ。
その船が現れるたび、シーラはこっそり王子の姿を探しに行った。
人魚の姿を人に見られてはいけない。そんな掟も頭から抜け落ちるほどに、彼に夢中になっていた。
船の後をつけて、彼の居場所を調べよう。そして人の姿で会いに行こう。
そう決意した矢先──海が荒れ、王子の船が座礁した。
海に投げ出された彼を、シーラはどうにか島の岸辺まで運んだ。
しかしその体は、氷のように冷たくなっていた。
「死なないで、死んではダメよ」
叫びながら、シーラは自分の下半身に手を伸ばした。
鱗をすべて剥がせばヒレまでなくなり、二本の人の脚になるという。
「……くっ」
人になる方法は、噂には聞いていたが大変痛かった。一枚剥がすごとに激痛が走り、シーラは悲鳴を押し殺す。
やがて二本の脚で立てるようになると、大急ぎで王子に覆いかぶさった。
人魚の体温は人になってもそう高くはないが、それでも王子の体は温まってきた。
彼の鼓動がわずかに戻ったとき、ほっとするあまり涙が滲んだ。
良かった……シーラはそのまま彼の唇を奪う。
目を見張る王子の青い瞳を覗き込み、小さく囁いていた。
「好き……私の王子様……あなたの子を産みたい」
つぶやきは、打ち寄せる波の音に、さらさらとかき消されていった。
※ ※ ※ ※ ※
エドゥアルドは、砂浜でパチパチ燃える炎のオレンジを見ていた。
ポケットに入っていた火打石と打ち金で、火を起こせた。おかげで、服はようやく乾いた。
「戻ってこないな」
無人島ではなかった。温めてくれた女が、確かにいたはず。
しかし目を覚ました時、その女はいなくなっていた。
彼女は命の恩人であり、運命の女だと確信していた。
「一緒に食べようと思ったのに」
焚き火に目をやる。
浜辺にいたのは、エドゥアルドがずっと探していた人魚だ。
父である国王から、その捕獲を命じられていた。
誰があの暴君になどに渡すものか。さっさと玉座を明け渡せ。
人魚はなぜだか無防備で、手に魚をたくさん抱え、波打ち際に上がってきた。
こちらを見た瞬間、迷わずカトラスを銛代わりにして投げつけ、仕留めていた。
そして今、下半身を切り刻み火であぶっているが、それでも助けてくれた島の女は戻ってこない。
「食べたら不老不死になると聞くが……」
香ばしく焼けた切り身を刺した木の串を、砂から引き抜く。
「共に食べて、伴侶となってほしかったのに」
エドゥアルドの隣には、人魚の上半身が転がっている。
瞼のない丸い魚の目が、暮れていく夕日を映してきらきら輝いている。
その顔を、どこかで見たような気もしたが、彼には思い出せなかった。
完
ご愛読ありがとうございました。




