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「この中からお好きなものをどうぞ」
目の前に並べたのは車内にあったのど飴、低反発座布団、世界的に有名な黒い耳の犬のぬいぐるみ、水筒と泉跡で拾ったカード。
のど飴はご時世的に必需品。
低反発座布団は、ドーナツ状じゃないだけ察してほしい。
ぬいぐるみは単なる癒し。
水筒とカードは……まぁ、あったから持って来ただけ。
「私としてはこの低反発座布団がおススメです。なんと言っても……お尻の負担が軽くなります」
ドラゴンのお尻に敷くには小さすぎるけど、そこは気にしない。
物珍しそうにひとつひとつを吟味する彼の視線が、水筒でぴたりと止まる。
「主、これは……」
「その水筒には、こちらに来たばかりの時に飲んだ泉の水が入っています」
結局、水筒に入れただけで飲まなかったんだよね。
なんとなく、この水は、これ以上飲んだらいけない気がして。
水筒をじっ……と凝視していたドラゴンと目が合う。
今度は何かを探るような眼差しでじっ…と私を見ると、ふむ……と小さく頷き、何やら意味ありげに水筒を指す。
「では、これを貰おうかの……」
「あ、はい。どうぞ」
差し出すのは全然かまわないんだけど、どう考えても、あんな大きな手でこんな小さな蓋は開けられそうにないからね。
そう思って、きゅぽん……と水筒の蓋を開け、差し出す。
そのわずかな間。
ドラゴンから一挙手一投足、探りを入れられているような気がするのはなんでだろう。
そして今度は、差し出された水筒と私を、目を点にして凝視する。
まるで、珍獣でも見ているような目だ。
安心してください。
私からすれば、アナタの方が珍獣ですよ?
「――…よい。いらぬよ」
「へ?」
いるって言ったじゃん。
まったくもう、ツンデレか?
「……主はソレが何なのか、解っておるのか?」
「泉の水です」
それ以外何が?
水筒の蓋を閉め直しながら、きっぱり言い切る。
すると今度は残念な子を見る目で私を見て――
なぜため息をつく?
「それは”一口飲むと10年は若返る”と云われている『神水』での」
「―――…はぃ?」
「主ら人にとって10年は長い年月やもしれぬが、ドラゴンからすれば朝露のように儚いもの……」
今更10年くらい若返ったとて……そう、小さく呟く。
――うん。
そりゃぁ、長寿とされるドラゴンからすれば10年なんて儚いかもしれないけど……そもそも、この水筒の量(500ml)だとほぼ一口だよね。
いや、違う。
問題はそこじゃない。
「―――……すみません。私、その水……昨夜、がぶ飲みしたんですけど……」
そうか――これが、おそらく20代まで若返った原因か。
一口10年とか……
若干数が合わないような気がするけど、何口飲んだかなんて、覚えてないくらい飲んだわ。
「ほっ……知らぬとは、実に恐ろしいものよ……」
……おい、貴様。
なに面白そうに笑っとるんじゃい。
こちとら全然面白くもなんともないわ。
「じゃぁ、この水を飲んだ後、胸が苦しくなって意識がなくなったのは……」
「それは主の言う、がぶ飲みして若返る際の……副反応みたいなものではないかの」
アレか。
高校生な名探偵が小さくなった時に胸が痛くなっていたやつ、的な?
アレって、急に小さくなっていろいろ困っていたよね。
洋服とか、仮住まいとか、アリバイ工作とか。
――ん?
だとすると、20代の姿で元の世界へ帰ったら、私、いろいろとヤバくないかい?




