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異世界転移というけれど…  作者: 橘吟香
第一章
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1-8

「……(ぬし)、大事ないか?」

 心なしか、ドラゴンの声が優しい。

 労わりを感じる。

 朽ちた大理石の大きな欠片に力なく座り込み、そのまま深く項垂れる。

 まるで燃え尽きて灰になったボクサーの様に…

「――だいじょばないデス…」

 周りから「メンタル強そう」とか「あなたは大丈夫!しっかりしてるから(笑)」とかよく言われるけど、私だって普通に落ち込むときくらいあるのよ?

 みんな知らないだろうけど、意外と繊細なんだからね?


 ――おそらく。

 十中八九、私は元の世界に帰れないと思う。

 だって『異世界転移』ってそういうもんじゃん?

 ドラゴンも言っていた。

 前の『迷い人』もこの世界に偶然来て、元の世界に戻れないまま亡くなった――と。

 それは私にも当てはまる話で…

 帰る方法が確立されていない以上、運を天に任せるしかない。

 それは分かってる。

 分かってはいるんだけど…

 残念ながら私、昔から……

「――…くじ運、悪いんだよなぁぁぁぁぁ」

 何せ元旦に大凶を引き当てた経験が過去に数回。

 ――…正直に言うと。

 元居た世界に、あまり未練はない。

 例え近しい人達がいようとも。

 現代日本人なんて、みんな人生に疲れている。

 できれば世間のしがらみを捨てて気兼ねなく、スローなライフを送りたい。

 なので「どうしても帰りたいか?」と聞かれれば、「そこまでして…」と思うけど、「帰れるものなら帰りたい」というのが本音である。

 一応仕事もあるし、なんならもうすぐ両親の誕生日。

 来週は友達と映画を観た後、お決まりの新刊チェックで本屋をはしご…

 アニメグッズショップへ足を運び、推しの新商品を買い漁る…

 ――そう、みなさん、お気づきだろうか。

 仕事や親兄弟は所詮建前。

 帰りたい理由はただ一つ。

 長年貯めに貯め込んだ『腐』の遺産を…

 毎年夏と冬に大量に買い込んだBとLの薄い(ただし、内容は濃い)本を…

 あれを残して、死ぬわけにはいかないっ!

「――…帰る手段…ホントに、ないんですかね…?」

「わしが記憶する限りでは知らぬのぅ。しかし、わしも俗世から離れて久しい故、なんぞ手段があるやもしれんな…」

「…つまり、下界に降りろ、と?」

 いやいやいや。

 貴方さっき言ってましたやん。

 この森を出るのに運が良ければすぐにでも、悪ければ何年もかかるって。

 地形や道が気まぐれに変わる物騒極まりない森の中を、インドアな私にどうやって行け、と?

 え?もしかして、私に死ねとおっしゃる?

『行け』って『逝け』の方デスか?

「ちなみに。俗世から離れて久しいって、どれくらい離れてるんですか?」

「――400…いや、500年くらいかの」

「離れすぎ!」

「そうかの…?既にその倍は生きておる故、それくらい大したこともなかろうて…」

「いや、人生の半分じゃん!」

 400~500年前って言ったら戦国時代真っ只中じゃん。

 かの有名なレオナルド・ダ・ヴィンチさんの時代じゃん。

 ――…いや、待てよ。

 400年前に来た『迷い人』が口伝で残っているってことは、『迷い人』のことを調べていた人がいたってことだよね?

 異世界から来た不法侵入者を国が放っておくわけないし、仮に利益や権益が出るとすれば尚更率先してやるだろうし?

 まぁ、400年も経てば利益も利権もだいぶなくなるかもだけど、その手の研究は廃れるどころか逆に相当進んでいる、はず。

 その過程で、ダ・ヴィンチさん的な天才鬼才が現れて、帰れる方法を発見しているかもしれない。

 だったら、帰れる可能性は――ある。

「どこへ行けば…帰れる可能性を知ってそうな人、いますかね?」

「――『界』を越えるは神の領域ぞ?聡い主ならばそれも解っておるのでは?」

 それくらい知ってますぅー。

 未だかつて人類が神様に逆立ちしたって敵わないことくらい。

 でも、探すくらい、いいじゃん。

 だって…現在進行形の黒歴史がかかっているんだから!

 黒歴史(あんなの)(ごめん。あんなのとか言って…)残して死ぬとか、ほんっとマジ勘弁っ!!

「まぁ、教えるのはかまわんが…」

「対価ですね。わかりました!ちょっと待っててください!」

 さすがに無償で聞きすぎたかな。

 手に持っていたハンマーをポイッとその場に放り投げ、駆け足で入口に停めていた車まで戻る。

 その勢いのまま車に乗り込み、薄暗い道をヘッドライトの力を借りてスイスイっと大空間の手前まで進む。

 よかった。進みやすい道で。

 本当はそのまま車ごと中まで入りたかったんだけど、ちょっと入口が狭かったからそれは断念した。

 そういえば。

 大空間を出る時、ドラゴンが「いや、そうではなく…」とか言っていたような気がしたけど。

 まぁ、後で聞けばいいか。

 何が気に入るかわからないから、とりあえず車内で目についた物を手に、ドラゴンの元へ急いだ。

 ――までは、よかったんだけど。

「………」

 今。私の目の前には。

 放り投げたハンマーを、楽しそうにコロコロと転がして遊んでいるドラゴンがいる。

 大きな爪先を器用に使って、小さな小さなハンマーを転がすその姿は、まるでネ…げふんげふん。

 仕方ない。

 ここはひとつ、見なかったことにしてやんよ。

 ぷぷ。




ぷぷ。


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