表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移というけれど…  作者: 橘吟香
第一章
5/10

1-5

 今朝の天気は快晴で、白い雲がゆったりと流れていたのに、今は灰色の重たい雲からの大粒の雨が大量に降っています。

 山の天気は変わりやすいというけれど、この森もそうだとは知らなかったよ。

 早く止まないかなぁ。


 ――私は今。

 車のトランクに座り、この大雨を前に、昨夜買ったおにぎりとパンを貪っています。

 ほぼ24時間ぶりの食事です。

 空腹どころの話じゃない。

 幸い、おにぎりとパンは傷んでなかったし、ギリ消費期限内だったのでおいしくいただいています。

 本当は、こういう状況でも食べない方が良いんだろうけどさ。

 でも背に腹は代えられません。

 良い子のみんなは緊急時以外、絶対マネしちゃダメだぞ?(←誰に言ってんだ?)


 ――さて。

 劇的な変貌をとげた容姿の確認をした後、出来れば明るい所で朝ごはんを…と思い、車を少し進めてみたら。

 なんと!

 さっきまであった泉跡と草むらが忽然と姿を消して、鬱蒼とした樹々が延々と広がっていました。

 おかしいとは思ったんだよね。

 そんなに離れてなかったはずなのに、いつまで経っても原っぱに出ないとか…

 さすが(たぶん)異世界。

 突拍子もないことが起こっています。

 まぁ、きっと気にしたら負けなんでしょうね。

 とはいえ、こんな不可思議な所で優雅に朝食、なんてできるわけもなく。

 せめて落ち着けそうな場所はないかなと、そのまま走らせていたら、今度はいきなり大雨ですよ!

 よく言うバケツをひっくり返したような雨が、車全体を激しく叩いてくるのよ!

 ワイパーは追いつかない、窓の外では木の枝がもの凄い勢いで揺れている、風雨が強すぎて何も聞こえない。

 恐怖以外の何ものでもありません。

 とにかく、どこか安全な場所を…と必死に目を凝らしていたら――ありました!

 偶然にも、大きな洞窟が。

 思わず「やったー!」って叫んじゃったよ。

 天にも昇る気分でこれ幸いと洞窟の中に車を停め、まずは一安心。

 音が小さくなるだけで、こんなに安心できるのね。

 未だ雨は止まないけど。

 と、ここでやっと遅すぎる朝食兼昼食にありつけたというわけです。

「――ご馳走様でした」



 そんな経緯があって逃げ込んだこの洞窟。

 入口は大きく3mくらい。

 中は少し薄暗いけど、ジメジメした感じはなく、少しひんやりとしている。

 天井も思ったより高くて、中腰で進まなくていいのが嬉しいかな。

 腰が助かった。

 なんていうか、自然にできた洞窟って感じで、特にアヤシイ雰囲気はない。

 こうして見ていると…まぁ、行きたくなっちゃうよね(笑)

 だって『いかにも』な洞窟だよ?

 ここで行かない選択肢なんて、ある?ないよね。

 念の為、車の中から武器になりそうな緊急脱出用ハンマー(これしかなかった…)を片手に、大昔流行った某探検隊よろしく、好奇心の赴くまま洞窟の奥へ足を踏み入れる。

 歌は…口ずさまないよ?だってハズカシイもん。

 まずは入口から20mくらい、ほぼ真っすぐの道を進む。

 ここまでは明かりがなくてもよかったけど、ここから先は灯りがないとちょっと厳しいかも。

 それでも上下に続く緩やかな勾配を30mほど進み、曲がったところで、ふいに明かりが見えた。

 終わりは思ったより早かった。

 明かりを頼りに今度はゆっくり進み、息をひそめて、そっ…と覗き込んでみると――

(うわぁー!うわぁぁーー!うわぁぁぁーーー!)

 そこは――洞窟内とは思えないほど広い空間が広がっていて。

 朽ちた大理石の柱が半円を描くように並び建ち、崩れ落ちた欠片が周囲に散らばってキラキラと輝いている。

 高い天井からはどこからか天使のはしごのような光が降り注ぎ、その光の下で、両前足にゆったりと顎を乗せ、静かに瞼を閉じている、巨大な「ドラゴン」が――いた。

(本物だー!本物のドラゴンだよーー!!初めて見たーーー!)

 頭部に生える2本の角、太く、ずっしりとした重量感のある体型に長い尾。

 俗にいう「西洋ドラゴン」というやつですね!

 全長は20…いや、30m…大型バス2台分くらいかな。

 顔の大きさだけで絶対2mはありそう。

 身体全体を覆う水色の鱗が、月の光のような淡い銀色の輝きを放っていて…すごく、きれい。

 その神秘的な美しさが、竜が持つ圧倒されるような雰囲気を和らげているようにも見える。

 でも……なんだろう。

 ドラゴンの周りに散乱する蓋の開いた無数の宝石箱。

 そこから溢れたであろう金貨や宝石、鉱石がこれでもかと床に散らばり、積み上げられた金や銀の器や様々な武器、防具が今にも崩れそうに傾いている。

 神聖な空間のはずなのに、まるで散らかった自室を見ているみたいで、妙に親近感が湧くのはなんでだろう。

 しかし。

 こんなに近くで巨大なドラゴンを初めて見るのに、恐怖よりも感動の方が大きいのは、情操教育の成せる業か。

 はたまた私のメンタルが強いのか。

 おそらく、その両方でしょう。

 ドラゴンが『居る』ことによって、これで私が「異世界転移」したことがほぼ確定された訳なんですが、正直、嬉しいやら悲しいやら…

 乙女心は複雑デス。

 マンガやアニメ、小説で慣れ親しんだ実物を前に興奮しすぎたのか。

 勢い余って何かを踏んでしまい、足元でパキッ…と鳴った小さな音に心臓が跳ね上がる。

(なんか踏んだ?!)

 その音で我に返り、慌てて視線を落とすと、少し丸みを帯びたひし形の、見慣れない「何か」が転がっていた。

 どうやらそれを踏んでしまったらしい。

 手のひらほどの「何か」を拾い上げると、目の前のドラゴンと同じ、水色と淡い銀色の輝きを放っている。

(なんだろう、これ…)

 目の前にかざしてじっ…と見つめていると、奥にいる巨体が透けて見えた。

 ――これって、もしかして…ドラゴンの鱗かな?

(…あれ?)

 よく見ると大きな体が規則正しく上下にゆっくりと動いている。

(このドラゴン――寝ている、とか…)

 ――よし。

 ここは一旦引き返そう!

 訊きたい事はそりゃぁもういっぱいあるけど、答えてくれるかどうか分からない。

 そもそも意思疎通ができるかどうかも分からない。

 そして何より、安眠妨害は私の主義に反する。

 持っていた鱗を足元に置き、静かに踵を返そうとした、その時――


「――…随分と…懐かしい気配がするが…なんぞ、そこに居るのか…」


 洞窟内に()()()()()言葉が響いた。





部屋の片づけって、途中で飽きませんか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ