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異世界転移というけれど…  作者: 橘吟香
第一章
4/13

1-4

 

『草むらに 寝ころんで見る青空を 流るる雲の 行方は何処(いずこ)へ』


 一句詠んでみました。

 自信作です。

 ――ウソです。すみません。


 ゆったりと流れる白い雲を眺めながら、今度は現実逃避という名の状況整理をしていました。

 本音を言えばいつまでもこうしてゴロゴロとしていたいところなんですが、空腹を訴えるおなかがそれを許してくれません。

 ついでに頭も回りません。

 考えてみなくても、仕事が忙しくて昨日の昼から何も食べていないからね。

 水分補給はちゃんとしてたけど。

 ちなみに、どこかに行っていた私の眼鏡は、土の上で横たわっていた時に自分の体重で押し潰していました。

 腕時計も水に浸かり過ぎたせいで再起不能です。

 南無。

 そういえば、ひざ掛けやブランケットは無事なのに、私の晩ごはんだったおでんたちが見当たらない。

 一体どこに行ったのかな?

 食べられたくなくて、足を生やして逃げたのかしら?

 逃げたいのは私の方なんだけど…

 行方不明になったおでんたちもそうだけど、昨夜から車内に放置しているおにぎりとパンも心配。

 そもそも、車は無事なのかな?

「――…よし。戻ろう」

 よいしょと起き上がり、身体に着いた土や草を払い落として、まずは大きくひと伸び。

 あぁ、身体が軽い。

 そして劇的に柔らかい。

 特に肩回りが。

 五十肩はホントにつらかった。

 おや?お腹周りが随分とすっきりして、ズボンに余裕がある。

 動画の広告並みにゆるゆるだわ。

「やだ嬉しい」

 身体の変化が嬉しくて、つい、いつも以上に腕を回していたら、勢い余ってピンキーリングが指から抜け落ちてしまった。

「やだハズカシイ」

 誰にも見られていないよね?とそっと周囲を確認しながら、こちらも劇的に良くなった視力で落ちたリングを探す。

 けれど、どんなに探してもリングは見つからない。

 結構気に入っていたんだけどな。

 本格的に見当たらないので、諦めの小さなため息をついて立ち上がったその時。

 視界の隅できらりと何かが光った。

 光った場所はさっきまで私が横になっていた泉の底。

 リングかな?そう思って底に下りて、伸ばした指先が触れたのは、硬い金属の欠片。

「なんだろう…」

 地中から少しだけ顔を出したそれは、丸みを帯びた人工物のような気がして、傍に落ちていた適当な枝でザクザクと掘ってみる。

 程なくして発掘されたのは、少し大きめなカードサイズの半透明な板。

「なんじゃこりゃ…」

 カードのような板の縁を、不思議な色合いの金属が、驚くほど緻密で繊細、且つ美しい細工で優しく包み込んでいる。

 細工の隅にはめ込まれた小指ほどの透明で小さな丸い石が、周りに散りばめられた数個の小石とともに、陽の光を浴びて静かに輝いている。

 なんか…素人目に見ても、めっちゃお高そうなんですが。

 上着のポケットからハンカチを取り出し、板の表面や縁に付いている土埃を優しく、丁寧に払い落とす。

 でもこれ、発掘したのはいいけど、私が持っていて良いものなのかな?

 後で誰かから怒られたりしない?

 よく分からないけど、とりあえず預かっておこう。



 予定外の発掘作業を終えて、昨夜から放置していたひざ掛けとブランケット、それに水筒を手に取る。

 そろそろここを離れよう。

 泉があった(はずの)草むらを足早に後にし、森の中に戻ると、10mくらい先に見慣れた赤い車があって心の底からほっとする。

「私の車!無事だった!良かったぁぁぁ!」

 縋りついて泣きくなるほど嬉しい。

 目視で確認する限り、車に異常はなさそう。

 タイヤもパンクしてないみたい。

 施錠してなかったのに、車上荒らしにも遭ってないみたいで本当に良かった。

 もしこの()までいなくなっていたら、どうしようかと思ったわ。

 ごめんね。日が昇ってるのに、こんな薄暗くて鬱蒼とした森の中に置きっぱなしにして。

 悪気はなかったのよ?

 ひざ掛けとブランケットをポイポイっと後部座席に放り投げ、ささっと運転席に乗り込むと、水筒を定位置のドリンクホルダーに戻す。

「はぁぁぁ――…落ち着くわぁ」

 見知った空間が私の精神を安定させてくれる。

 ありがたい。

 あ。発掘したカードはハンカチに包んで、上着のポケットに入れてますよ。

 ちなみに、銀の詰め物はティッシュに包んで、再起不能になった時計と眼鏡はケースにしまってリュックの中に入れました。

 そんなリュックの中から取り出したのは女子の必需品・折りたたみ式コンパクトミラー。

 めちゃくちゃおなかは空いているけど、まずは容姿の確認が先。

 だって、髪は延びてるし、服のサイズは変わってるしで、もう気になって気になって、正直、朝ごはんどころじゃない。

 深呼吸を何度か繰り返して気持ちを落ち着かせて、そっとミラーを開く。

「―――うっわぁー、誰これぇ…」

 これまた動画の広告みたいに顔のしわやシミ、そばかす、口元にあったホクロまで…

「キレイに消えてる!」

 肌はもちもちで、ハリと艶も今までと違って、まるで…

「別人みたい!」

 唇もぷるぷる、まつ毛はくるんとカールしていて、目の下のクマもなくなってる!

「まるで20代に戻ったみたーい」

 思わず頬をぎゅぅっとつねってみるけど、ただ痛いだけでタコ焼きは作れない。

 ――…ハイ。

 間違いなく、自分デス。

 …これってもしかして。

 異世界あるあるの「若返り」ってやつですかね?

 魔法陣を潜った覚えも、召喚された覚えもないので、原因は不明ですが。

 それにしても…ビフォーアフターが激し過ぎませんか?!

 ――…なんだろう。

 嬉しさよりも不気味さが勝って、素直に喜べない複雑な乙女心。

 一体、何を等価交換したのか、全くわかりません。

 これは、深く考えたらいけないやつかな?




サイドミラーとかバックミラーとかあるよね?というツッコミはナシの方向で…

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