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異世界転移というけれど…  作者: 橘吟香
第一章
3/10

1-3

 おはようございます。

 スズメじゃない鳥の声と、何とも言えない口の中の違和感で目が覚めました。

 これは俗に言う「朝チュン」ってやつですね。


 ――…うん。違うね。


 昨夜は、トンネルを抜けたら知らない森の中にいて、さまよった挙句、小さな泉のほとりで月見酒をしようとしたら、急に胸が苦しくなって気を失ってしまいました。

 確か、そう記憶しております。

 そして、今――

 私は、森の中でも泉のほとりでもなく、乾いた土の上で胎児のように丸くなって横たわっています。

 小石っぽい何かが頬に当たって地味に痛い。

 昨日の不可解な出来事はどうやら夢ではなかったようです。

 いやもうほんと、夢ってことにしてくれて良かったのにね。

 場所から言えばおそらく泉の底?といったところでしょうか。

 だって、周りより一段低いし、なにより地面の淵が見えているからね。

 もしかして、気を失う前に聞いた「何か」が落ちる音は「私」が泉に落ちる音だったのかしら?

 その割には服が濡れていない不思議。

 ここから見える縁までの高さはたぶん50cmくらい。

 水位が10cmでも人は溺れるって言うし。

 …私、よく無事だったな。

 そういえば――昨夜の胸の痛みはどこにいったのかしら?

 欠片も痛まないんですけど。



 ――さて。

 休日の朝なら、何時までも布団の中で惰眠を貪りたい…もとい、いつもは貪っていますが、さすがに土の上はちょっと遠慮したいので、いい加減起きようと思います。

 それに、さっきから口の中で何かがゴロゴロしていて、めちゃくちゃ気持ち悪い。

 正直それで目が覚めたと言っても過言ではないので。

 試しに1個、取り出してみたら、見慣れない小さな銀の塊でした。

 なんだろう、これ。

 バッキバキに固まった上半身を起こし、口の中のモノを手のひらに全部出してみる。

「なんじゃこりゃ」

 何故こんなものが口の中からゴロゴロと?

 ――…あれ?

 なんかコレ、見覚えがある。

 確か前に……そう、うどんを食べてた時に取れた、歯の詰め物だ!

 間違いない。

 舌先でくまなく探っても歯の詰め物の感触がないもん。

 まさか…全部取れた、なんてことはない、よね?

 てゆーか、こんなに虫歯があったのか…

 ――…ちょっと待って。

 私、眼鏡かけてないのに、なんでこんなに視界がクリアなの?

 うわっ。

 足元の小石も、遠くの樹々もはっきりくっきり見える!

 一体何十年ぶりかしら?

 てか、私の眼鏡、どこに行った?!

 それに肩までだった髪が腰まで伸びている!

 やだぁ。

 ツヤがあって、めっちゃさらさら。枝毛もない!

 嬉しいけど、リアル市松人形みたいでちょっと怖い!

 ――…という、現実逃避という名の現状報告はここまでにして。

 これってもしかして…

 さんざん(たしな)んだライトでノベル的な「異世界転移」ってやつですかね?

 でもあれって基本、ピッチピチで若いお姉ちゃんやお兄ちゃんが主人公の話じゃなかったかしら?

 最近ではおじさん世代の話も増えて来たけど、まさか自分が…

 ――…いや。

 決めつけるのはまだ早い。

 ここは慎重に行こう。



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