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異世界転移というけれど…  作者: 橘吟香
第一章
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1-24

 友よ。

 今日、幾年(いくとせ)ぶりに人の子と会うた。

 雨宿りを願い出てきたその人の子は、どうやら異なる世界から迷い込んで来たようでの。

 どうりでドラゴンたるこのわしに、絶対的な畏怖と畏敬ではなく、無条件の信頼と敬愛、そして好奇心の眼差しを向けると、感心したものよ。

 しかし、この人の子。

 聞けば「若返り」の神水を、なんと――がぶ飲みしたというではないか。

 しかも、知らぬとはいえ、がぶ飲みしたことを激しく後悔しておっての。

 その様があまりに面白く、しばらく笑いが止まらなんだったわ。

 なれど、この者、なかなかどうして。

 恩恵でもある『アーティファクト』を手にするほどの幸運の持ち主での。

 にも拘らず、躊躇うことなくそれを手放そうとする。

 渡した財宝にも興味を示さぬ。

 いやはや……

 わしの知る強欲な人の子とは異なり、なんとも奇特な娘であった。



 友よ。

 人の子とは、かように面白き存在であったか。

 かの娘は名もなき存在であったわしを「(りょう)(けん)」と親し気に呼ぶ。

 そのことがなんとも…こそばゆくての。

 娘の素直な驚きや、言葉の面白さ、時折垣間見せる思慮深さと呆れるほどの無防備さに、ついつい口数が増えてしもうた。

 今では見かけなくなった『神聖力』を持ち、『聖女』となったと知った娘が、これまた世界の終りのように嘆く様を見れば、何故か力を貸したくなる。

 しかし――

 急に「冒険者になりたい」と言い出したり、『聖水』を虫よけや魔物除けの薬に混ぜたりと、かように用いるとは……

 あれには驚きを越えて呆れてしもうたわ。

 あの一時(ひととき)は、お主と過ごした日々に勝るとも劣らぬほど、実に楽しいものであった。

 思い出しただけでも、笑いが止まらぬ。

 ――…そう言えば。

 以前、森の住人から貢がれた『殺人蟻の蜜』があったはず。

 あれはなかなか美味であった。

 あれを渡せば、娘は喜んでくれるであろうか……



 友よ。

 ようやくわしもお主の元へ逝く時が近づいてきたようだ。

 思えば、わしの生涯は後悔ばかりであった。

 世界樹の元を去ったこと。

「戻れ」というお主の言葉に、耳を傾けなかったこと。

 アンデッドと化したお主を、自らの手で葬ったこと。

 ――…挙げればきりがない。

 そんなわしは、この森で独り静かに朽ちるが相応しい。

 そう、思うておった。

 されど、ここに来て……こんなにも心残りができようとは……


 友よ。

 わしは己の事よりも他の者を先に案ずる、この心優しき娘の行く末が、心配でたまらぬ。

 命尽きようとするわしを心から案じ、寄り添い、共に眠る……この小さくも愛しき存在が――

 世界樹の女神よ。

 我らを創りし愛しき女神よ。

 役目も全うせず、逃げ出したわしが願うは烏滸がましいことだと、重々承知の上で尚、願わずにはいられぬ。

 この、異なる世界から迷い込んで来た娘の行く末を……


「――…主の…これからの人生に…幸多からん事を…」




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