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友よ。
今日、幾年ぶりに人の子と会うた。
雨宿りを願い出てきたその人の子は、どうやら異なる世界から迷い込んで来たようでの。
どうりでドラゴンたるこのわしに、絶対的な畏怖と畏敬ではなく、無条件の信頼と敬愛、そして好奇心の眼差しを向けると、感心したものよ。
しかし、この人の子。
聞けば「若返り」の神水を、なんと――がぶ飲みしたというではないか。
しかも、知らぬとはいえ、がぶ飲みしたことを激しく後悔しておっての。
その様があまりに面白く、しばらく笑いが止まらなんだったわ。
なれど、この者、なかなかどうして。
恩恵でもある『アーティファクト』を手にするほどの幸運の持ち主での。
にも拘らず、躊躇うことなくそれを手放そうとする。
渡した財宝にも興味を示さぬ。
いやはや……
わしの知る強欲な人の子とは異なり、なんとも奇特な娘であった。
友よ。
人の子とは、かように面白き存在であったか。
かの娘は名もなき存在であったわしを「竜賢」と親し気に呼ぶ。
そのことがなんとも…こそばゆくての。
娘の素直な驚きや、言葉の面白さ、時折垣間見せる思慮深さと呆れるほどの無防備さに、ついつい口数が増えてしもうた。
今では見かけなくなった『神聖力』を持ち、『聖女』となったと知った娘が、これまた世界の終りのように嘆く様を見れば、何故か力を貸したくなる。
しかし――
急に「冒険者になりたい」と言い出したり、『聖水』を虫よけや魔物除けの薬に混ぜたりと、かように用いるとは……
あれには驚きを越えて呆れてしもうたわ。
あの一時は、お主と過ごした日々に勝るとも劣らぬほど、実に楽しいものであった。
思い出しただけでも、笑いが止まらぬ。
――…そう言えば。
以前、森の住人から貢がれた『殺人蟻の蜜』があったはず。
あれはなかなか美味であった。
あれを渡せば、娘は喜んでくれるであろうか……
友よ。
ようやくわしもお主の元へ逝く時が近づいてきたようだ。
思えば、わしの生涯は後悔ばかりであった。
世界樹の元を去ったこと。
「戻れ」というお主の言葉に、耳を傾けなかったこと。
アンデッドと化したお主を、自らの手で葬ったこと。
――…挙げればきりがない。
そんなわしは、この森で独り静かに朽ちるが相応しい。
そう、思うておった。
されど、ここに来て……こんなにも心残りができようとは……
友よ。
わしは己の事よりも他の者を先に案ずる、この心優しき娘の行く末が、心配でたまらぬ。
命尽きようとするわしを心から案じ、寄り添い、共に眠る……この小さくも愛しき存在が――
世界樹の女神よ。
我らを創りし愛しき女神よ。
役目も全うせず、逃げ出したわしが願うは烏滸がましいことだと、重々承知の上で尚、願わずにはいられぬ。
この、異なる世界から迷い込んで来た娘の行く末を……
「――…主の…これからの人生に…幸多からん事を…」




