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異世界転移というけれど…  作者: 橘吟香
第一章
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1-17

「竜賢さん。結局、私はこの世界で、何をすれば良いんですかね?」

 現状、私は単にこの世界に迷い込んだ人間に過ぎない。

 まぁ、『迷い人』とか『聖女』という変な肩書きがあるようだけど。

 それだって、勇者みたいに何か特別な使命を持って就けられたようではなさそうだし。

 いや、できれば就きたくはないんだけどね。

 ただ、どうにもこう…明確な目的がないと動きにくいというか、なんというか…

 やる気スイッチが、ね。

「…そうさのぅ。主の場合は”すべきこと”より”やりたいこと”を挙げてみた方が良いやもしれぬの…」

「やりたいこと…」

「うむ。人は何かと己が生きる意味を見出そうとする。それはそれで良いやもしれぬが、主はまだこの世界に来たばかり…やりたいことの中からそれを見出しても、良いのではないかのぅ…」

 異世界(ここ)まで来てやりたいこと、ねぇ……

 そう簡単に見つかれば苦労はしないんだけど。

 なにせ元の世界でも、やりたいことが見つからないままこの歳まできたからなぁ。

 こっちで見つかるのかしら?

 とにかく、何か挙げてみよう。

「『異世界』といって思い当たるものといったら…」

 ど定番の剣と魔法。

 両方とも私にはダメだったので残念ながら除外。

 竜賢さん(ドラゴン)には会えたし、『世界樹の女神(かみさま)』というパワーワードも出た。

『アーティファクト』も無事手に入れた。

 あとは酒場に行って情報を集め、次は冒険者ギルドへ――というのがお約束なんだけど。

 ――って…あれ?

 なんか…今…ものすごく…大事なことを、言ったような気が……

「――……」

 うわぁ、私ってば、おバカさん。

 なんでコレを思い出さなかったんだろう。

 ……あるじゃん。

 これらすべてに共通する……誰もが一度は憧れる、異世界で一番なりたい職業。

 それは――…

「――…冒険者」

「は?」


 いやいやいや、ちょっと待ってよ?

 もうちょっと冷静に考えてみようか。

 異世界に来たけど「俺TUEEEEE」や農業革命とかをする気はない。

 そんな度胸も知識も持ち合わせていないからね。

 うん、オッケー。

 でも異世界でスローライフは憧れる。

 ただし、できるだけ現代日本の安心・安全な生活水準で快適に暮らしたい。

 特にトイレ。

 これは譲れない。

 けど、異世界に来てまでニートはイヤ。

 確かに私には竜賢さんの遺産があるから、そこまで必死に仕事を探す必要性はない。

 でも、仕事をしていないと、ホントに世情に疎くなるし、何より私が落ち着かない。

 自分のペースで無理なく仕事ができて、尚且つ報酬も情報も得られる。

 それらすべての条件が揃っているのが――そう、『冒険者』

『剣と魔法』という世界で『冒険者』がいない、なんてことはないはず。

 それに、なんといっても、冒険者になることで『身分が保証される』というのが大きい。

 これがあれば…いや、これさえあれば、なんとかなる。

 ほら。一石二鳥どころか三鳥四鳥に…ならない?


「――…という理由で、『スローでライフな冒険者を目指す』っていうのはどうでしょうか?」

 もちろん、帰る方法を探しながら、という条件付きになるけど。

 そういう意味でも『冒険者』という比較的自由度の高い職業は、今の私にとってベストだと思う。

 まぁ私としては、帰る方法を一生かけて探すんじゃなくて、可能性が消えた時点ですぱっと諦めようと思っているんだけどね。

 なにせ、「若返りの神水」のせいで外見が…戻っても説明がめんどくさ…げふんげふん。

「……」

 うっうっ…眉間に皺を寄せている竜賢さんの沈黙が怖いよぅ。

 そんな私の渾身のプレゼン?を聞いた竜賢さんが、諦めにも似た長く深い溜息を吐く。

「――…主の言いたいことは解かった」

「本当ですか?ありがとうございます」

「……主がやりたいというのであれば止めはせぬ。が、一つ訊く。…主に魔物が倒せるのか?」

「え?普通に無理ですけど?」

「……」

 やだ、竜賢さんの眉間の皺が一層深くなる。

 魔物と真っ向勝負なんて、負ける気しかしないんですけど。

「無理だけど、それ以外の…薬草集めとか、キノコ採取とか、迷子探しとか…」

「…迷子は主であろう…」

 そうでした。

 迷子になった挙句、人生の岐路に立たされております。

 そんな私には、竜賢さんの後押しがあれば、なんとか頑張っていけそうな気がするんです。

 神に祈るような眼差しでじっ……と見つめていると、竜賢さんは再び深い、深い溜息を吐く。

「……主、『迷い人』と『聖女』の件を忘れておるぞ?」

「あーー…そんなのも、ありましたねぇ…」

「そんなの?」と竜賢さんが首を傾げているけど、そこは気にしたら負けなやつです。

 私の今後の人生設計を前にそんな些末なこと……いや、ちゃんと調べますよ?

 あ。だったら、この計画をサポートしてくれる人が居てくれればいいなぁ…とか思ったけど。

 それこそ冒険者に依頼する?

「――…まぁ良い。主がやりたいというのであれば、止めはせぬがの…」

「ホントですか?やったー!」

 わーーい!竜賢さんのお許しが出たぞ!

 これで、私も『冒険者』になれる!

 ――…って。

『冒険者』になるのに、竜賢さんの許可って、必要だったかしら?


 それにしても――…

 竜賢さん、なんだかお疲れモードだけど、大丈夫かな…?

 酷使し過ぎたかな?



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