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(心理的に)帰りたいのに(物理的に)帰れない状況になりつつある現状に打ちひしがれています。
――…いや。
諦めるのはまだ早い。
某バスケマンガに出ている先生も言っていたじゃないか。
あきらめたら、試合終了だって。
(でも……やる気スイッチが……)
手の届く範囲に、ない。
――今に始まったことじゃないけど。
誰か押してくれないかなと腕を組み、頭を悩ませていたら、ドラゴンと目が合った。
「しかし……主も、面白い物を持っておるのぅ」
「面白いもの?」
したり顔でドラゴンは言うけど、私、そんなゆかいな物、持っていたかしら?
意味ありげに大きな爪先でちょんちょんとカードを指す。
「あぁ、それがさっき言った『神水』の……泉跡から発掘したやつなんですよ」
「ほぉ?」
美しい細工に包まれた半透明のカードをドラゴンにかざす。
「でも、用途がわかんなくて…これ、なんなんですかね」
「……主は、それが何か知らずに、わしに差し出そうとしたのか」
「あー……まぁ、そうなりますね」
傍から見れば、得体の知れないモノを差し出す、という構図に見えなくもない。
やだ、そんなジト目で見るなよぅ。
テレるじゃないか。
「そうか……まこと、知らぬとは恐ろしいものよ」
……何、その”大切な事だから2回言いました”みたいな言い方。
「まぁ良い。なれば……ほれ。ちと、指を出してみるがよい」
「どっちの?」
「どちらでも良いわ」
早くしろと言わんばかりにドラゴンの尻尾がたしたしっと静かに急かす。
左右どっちがいいか、なんて、採血の時に聞かれたら、当然利き手じゃない方を出すよね。
それと同じで、支障がないよう、ちゃんと考えて左手を差し出したのに。
「――主は警戒というものを何処ぞへ置いてきたのか?こうも無防備が過ぎるのも考えものぞ?」
なんでまた、そんな残念そうに言うかなぁ!
警戒ならちゃんとして左手を出したし、無防備じゃないもん!
一人ぷんすこ怒っている私を他所に、ドラゴンの爪先が左薬指の先をかすめ、ほんの少しだけ血がにじむ。
くそぅ。紙で切ったみたいに地味に痛い。
「次は、ソレを隅にある丸い石に付けるがよい。石の色が変われば終いよ……」
ソレってどれよ?と思ったけど、まぁたぶんコレなんだろうなと思って、言われた通りカードの隅にある小さな丸い石に、にじんだ血を付ける。
すると、透明だった石がじんわりと……
「あ。石の色が虹色に変わった」
おぉ、きれいだな。
「で、あれば……次は石に触れたまま、あぁ、指は替えても良い……ソレをこの財どもに当ててみるがよい」
もぅおじいちゃんたら。
ソレじゃなくてちゃんと「カード」って言ってよね!
分かるから良いけどさ。
おじいちゃんたっての希望だから言う通りにしてやんよ。
右手の親指でカードの石に触れたまま、ドラゴンの背後にある大量の金銀財宝にカードをちょん……と軽く当てる。
すると、ぐぉんっ!!というものすごい音を立てて、文字通り、全ての財宝が――
え?きえ……消え、た……?
「………は?ぉ?えぇっ?!」
「ふむ……やはり消えたか…」
――…いやいやいや。
おじいちゃん、なに冷静に納得してるの?
今!貴方の目の前で、貴方の全財産が消えたんですよ?!
無一文になりましたよ?!これからどうやって生活していくんですか?!
おい、じじぃ!
なに悠長に笑っとるんじゃい!
説明を!説明をプリーズ!
「おそらくソレは【空間収納】が使える『古代魔道具』かの…」
「へ?」
空間収納?アーティファクト?
あの、みんなが愛してやまない、神アイテム的な『古代魔道具』?
【空間収納】って、引っ越しや荷物運びに便利な?
「主ががぶ飲みしたという『神水の泉』は、稀にこの世の何処かに現れては、何処かへと姿を消す。巡り逢うた者はそうおらぬ。わしもまた然り……そして、ごく稀に『恩恵』を残していくと聞く」
「恩恵……」
「泉の出現に立ち会えただけでも僥倖。まして『恩恵』を受けるとは……主はよほど幸運と見ゆる」
いや、ワタクシ、くじ運悪いですけど。
宝くじなんて、買っても全然当たりませんけど?
それがよりによって『古代魔道具』?!
私、一生分の運を使い切っちゃったの?
「でも――なんで急に使えるようになったんですかね?」
「主はその『契約石』に己の血を付け、”契約”をした。だから使えるようになったのよ」
「ああ、そういう設定……」
「『恩恵』は主に与えられたもの。主が契約するは当然よ」
与えられたっていうか、単に拾っただけなんですけど。
そもそも、拾って6ヶ月どころか1日も経ってないけど貰っていいのかな?
「それよりも……ほれ、早う【空間収納】の中を確認してみるが良い」
あ。また大きな尻尾を静かにたしたしする。
もぅ!そんなに急かさない!
でも、確認っていっても、どうやって……
あぁ、さっきおじいちゃんが石を触って……とか言ってたから……
虹色に変わった石を1回触っても何も反応が無かったので、2回触ってみると、半透明だった板に見慣れた文字が浮かぶ。
当たり、だ。
あ。言葉に次いで、文字が読める。
さすが神スキル。助かった。
よぉーし!ここまで来たらなんとなく使い方がわかってきたぞ。
使い方は……スマートフォンと同じスライド方式かな?
基本的な性能…容量・重量無制限、空間内時間停止、生物禁止は抑えてあるみたい。
虹色の石に触れながら『古代魔道具』に収納したい物を当てれば収納。
取り出す時も石を触った状態で取り出したいものを2回タップすればOK。
最初は、こんなもんかな?
後はおいおい覚えていけば……
って、やだ……アイテム説明に複製機能とか付いてるの?
すごすぎ!さすが神アイテム。
それにしても……
金銀財宝が湧く宝箱。
あぁ、だからあんなに財宝が溢れていたのか……(開け過ぎじゃね?)
武器・防具・装飾品箱。
あぁ、ドロップ品的な物か……(だいたいゴミしか出ないよね)
ドラゴンの鱗、爪、竜涎香?
あぁ、おじいちゃんの副産物か……(……う〇ちじゃん)
さすがドラゴンの財宝、えげつないな。
倉庫整理大変そう。
――でも、ですよ?
ちらり……ドラゴンを仰ぎ見る。
「『古代魔道具』は私のかもしれないけど、財宝は私のじゃないですよね?」
「……」
もう!また残念な子を見るような目で私を見る!
私、間違ったこと言ってないもん!
「――わしは既に必要のない物ばかり故、主が好きに扱えば良かろうて……」
「いーらーなーいーでーすーぅ!こんなモノ貰ったら秒で殺人事件が起きるわ!」
上からシャンデリアが落ちてきたり、階段から突き落とされたりなんて、まっぴらごめんだい!
だいたい、金銀財宝がこんなにあったらダメ人間まっしぐらじゃん。
スローライフは憧れるけど、ニートはイヤなの!
「人は強欲ではなかったのか……」
「? なんか言いましたぁー?」
「何も言うておらぬ。……この先、主の方が何かと入用になろうて。主が持っていた方が良かろう」
えー……それってつまり、私が森を出て下界に降りること前提じゃないですかー。
いや、帰る方法を探しに下りなきゃいけないのは分かってるけど。
せっかく仲良くなれたと思ったのに。
「――本当に、貰っていいんですか?」
「構わぬよ。むしろ洞窟内がすっきりして、せいせいしたわ」
ふんっと鼻息荒く顔を背けるドラゴン。
うーん……本人?の許可が出たとはいえ、よそ様のモノを使うとか、正直気が引けるわ。
しかも、こんな大金。
でも、実際問題、私、この世界で無一文だし…ありがたい話ではあるんだよね。
「――…ありがとうございます。では、遠慮なく、使わせていただきます」
「うむ」
「……でも、もうちょっと、ここに居ても良いですよね?」
「………」
あ。こいつ、またため息ついたぞ。
サッカーマンガもハマりました。
あと、「設定」言うな(笑)




