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異世界転移というけれど…  作者: 橘吟香
第一章
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1-1

初めまして。

たちばな 吟香ぎんかといいます。

木綿豆腐並みのメンタルなので優しく扱ってください。

よろしくお願いします。

 トンネルを抜けると、そこは、知らない森の中でした。


 ――ちょっと待って?

 そもそも知ってる森なんてないんだけど。

 落ち着け?私。


 目の前に見えるのは、ほんの少し開けた草むらと一面に広がる暗闇。

 灯り一つ見受けられない鬱蒼とした暗闇の中。

 唯一、車のヘッドライトだけが前方を照らし出している。

 その先に見えるのは樹、樹、樹。

 それ以外何も見えない。

 窓を少しだけ開けてみたけれど、聞こえてくるのは車のエンジン音のみ。

 助手席に置いてある通勤用のリュックからスマートフォンを取り出し、腕時計の時刻と同じか確認してみる。

 うん。同じだ。

 ただし――圏外?!

「どういうこと?」

 私が住んでいる地域に『圏外』は、ない。

 カーナビの矢印はどこを示しているのかな。

 まったくわかんないや。

 車内に流れる好きなロックユニットの軽快な音楽が嬉しいけど、試しに流してみたラジオからはザーーッというノイズ音ががが。

 どうやら彼ら(GPS、電波系)は仕事を放棄したもよう。

「……マジか」

 勘弁してほしい。

 背もたれに寄りかかり、天を仰ぐ。

 目を閉じ、腕を組んで数秒考え込んだ後、最近ちょっと?肉厚になってしまった頬をむぎゅ…っとつねってみた。

「ヤバい……タコ焼きが作れる…」

 ほっぺたが地味に痛い。

 でもよかった。

『痛い』ということはオーラ的なロードが開かれたわけではなさそう。

 さて――どうしたものかな。

 深く、長い息を吐く。

「んー、んーー、んーーー…」

 頭を前後左右に揺らしてみても。

 ――…ダメだ。

 思考回路がショートして何も思い浮かばない。

 姿勢を戻し、ヘッドライトに浮かぶ樹々をぼんやり眺めながら、ドリンクホルダーに置いていた水筒の水を一気に飲み干す。

 思っていた以上に喉が渇いていたみたい。

 うん。だろうね。



 仕事帰りにコンビニで晩ごはん用のおでんと日本酒、明日の朝ごはん用のおにぎりとパンを購入して家路についていた。

「――はずだったんだけどなぁ」

 通勤途中、数カ所トンネルを通ることはあっても、森の中、ましてや道なき道を通ることはない。

 野生動物はたびたび出没するけど、そこまで田舎でもない。

 そう――たとえ公共バスが一時間に1本だとしても…

 自宅まで後数kmという距離にある、それほど長くないトンネルを抜けようとした時、一瞬、前が見えなくなって、思わず目を閉じた。

 運転あるあるですな。

 でも、次に視界に飛び込んできたのが道路と街灯ではなく、一面の暗闇と樹々の群れ。

 全くもって…

「意味が、わからんっ」

 帰り道を間違えるほど、まだ耄碌(もうろく)はしていない。…はず。

 ――…仕方ない。

 ここはひとまず、車を走らせよう。

 いつまでもこんな鬱々とした夜の森の中に居たくないからね。

 うん。そうしよう。

 但し、道が悪そうだからスローペースで。

 走り出してから時折、というか、結構頻繁に聞こえるバキッ!ボキッ!という枝を踏み折る音が本当に心臓に悪い。

 タイヤ、大丈夫かな?

 手に変な汗かいてきた。

 不安と恐怖が仲良く手を繋ぎ、頭と胸の中で大運動会をしている中、少し開けた窓からはひんやりとした夜の空気が流れ込んでくる。

 少しずつ…テンパっている気持ちが落ち着いていくような、気がした。



 道なき道を恐る恐る進むことわずか数分。

 体感的には数十分だったけど、腕時計の針は思ったほど進んでいなかった。

 ついでに走った距離も…

 解せぬ。

 正直、こんな森とはさっさとおさらばしたい。

 ただでさえ夜の運転は怖いのに、こんな、得体も知れない所なんて、全っ然!楽しくない!

 早くおうちに帰りたい!

 帰ってゆっくりお風呂に浸かって、晩ごはん食べたい!!

 そんな私の想いが天に届いたのか、ようやく前方にヘッドライトとは違う明るさが見えた。

「明かりだ!助かったぁーー!」

 天は我を見放さなかった!!

 光のある方へ出られそうで、思わず車の中で万歳をする。

 その場に車を停め、エンジンをかけたまま車から降りると、ヘッドライトが照らす樹々の間をゆっくりと、慎重に踏み進む。

 1m…2m…と逸る心臓を抑え、湿った夜の空気の先にあったのは――



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