11/12
幸せのかたち⑪
帰宅したら母が夕食を作っていた。階段へと向かっていた足をキッチンに向ける。母がシンクで野菜を洗っている。一度唾を飲んでから、母の隣に並ぶ。
「手伝うよ」
こんなことを言うのははじめてだ。断られないか、いつもの言葉が出てくるのではないか、どきどきしながら手を洗う。
親の望んだとおりの性別ではないことに、申しわけなさを感じていた。でも今は男でよかったと思える。だってもし女の子だったら、詠心と出会えなかったかもしれない。出会えても、今と同じ関係ではなかったかもしれない。だから男でよかったんだ、と自分でしっかりと感じられる。
「僕、男だけどお母さんの手伝いはできるから」
おそるおそる顔を見ると、母は数度目をまばたいた。
母にも認めてほしい。藍斗が男でよかったと思ってほしい。藍斗なら男でも女でもいいと思ってもらえたら、なんて考えるのは贅沢だろうか。
「……そう、……そうよね……」
自身に言うように、母は呟いた。
詠心がそのままの藍斗を受け入れてくれた。だから藍斗も自分を恥じたくないし、後悔しないようにしたい。勇気を出したいと思えたのだ。




