幸せのかたち①
朝食を食べながらテレビのニュースを見る。天気予報で「今日は初夏のような陽気になりそうです」と言っている。まだ四月なかばなのにな、とテレビに目を向ける。
空いた食器を片づけるためシンクに向かった藍斗に、キッチンにいた母が「女の子だったら」とごく小さく呟いた。聞こえていないと思っているのだろうが、しっかりと耳に入った。
いつものことだ。苦い気持ちを押し殺して、なんでもない顔を作る。藍斗がこう言われることは日常のひとつだ。その日常でいいとは言えないが。
両親は女の子がほしかったらしい。特に母はことあるごとに「女の子だったら」と言う。そのたびになんともいえない気持ちになる息子の心など、母は考えていない。いつものことでも傷つくし、自分を否定されている事実に落ち込むのだ。慣れることなんてないだろうし、慣れたくない。
祖母から聞いた話では、両親は藍斗の名前を『愛』にするつもりだったという。祖父母が「女の子みたいだから」と説得してくれたのは、本当にありがたい。自分が生まれたときのことを他人事のように聞くのも不思議だった。女の子になれと言われたってなれないのだから、男の藍斗を受け入れてもらいたいのに。
洗いものをしていたら、父も椅子から腰をあげ、スーツのジャケットを羽織る。
「お父さん、今日は暑いみたいだよ」
「ああ。適宜脱ぐようにするよ」
にこやかに微笑んでくれて、ほっとする。
それでも父は男の藍斗を受け入れてくれている。諦めとも言うかもしれない。母のように同じ言葉を繰り返さない父は、潔いとも優しいとも思う。
両親からの愛情がないわけではない。ただ千種藍斗はふたりの望んだ性別ではなかったのだ。




