第6話
「皇太子、最近の隣国クーラル王国の状況はご存じと思いますが今こそ隣国に攻め入って領土を広げるべきでは?」
「武力行使は好まないんだよね?無駄な血を流したくないし?」
「隣国クーラル王国の侯爵家よりパールなる娘が神殿にて保護されているとか?なんでもその娘は精霊様の声を聞くことが出来るというではありませんか!それをクーラル王国の王太子は国外追放し、さらに侯爵家は家まで追放したというではないですか!」
「そんなに精霊に慕われている娘が我が国に?有難いことだ」
俺は肘掛けに乗せていた肘を落としてしまった。パール嬢のことはこの国の上層部の人間も周知するところになったようだ。
「亡命者とはいえ、そんなに精霊様に慕われている娘だ。我が国としても喜んで迎え入れよう!」
「「「賛成!」」」
俺の話も聞かずに議会が突っ走ってしまった。まぁ、パール嬢がこの国で保護されることは喜ばしいことだが。
「隣国クーラル王国についてだが、今は静観しておこう。現王太子と王太子妃候補が正式に国王夫妻となった時、クーラル王国がどのようになるのか見届けようと考えている。現王太子は賢王なのか、愚王なのか」
「そうですな、今はそのスタンスでいきましょう」
帝国の多くの貴族はそのスタンスで行くこととなった。
帝国の皇帝たる我が父は病床について久しい。実質俺が国の運営に携わっている。有難くも臣下に恵まれているようで、城を抜け出し『ドラ』として神殿に行く時間を作ることすら可能となっている。『ドラ』となっている時は黒髪の黒目だが、それも城の侍女が喜んでしてくれる。
「あら、今日はドラがいないのですね?」
「ドラはここで働く神官ではありませんからね」
そう言えば、修道服を着ていなかったし。
『『『フフフ』』』
「精霊様が不敵にお笑いですね。なんですか?教えてくださいよ!」
『え~?後出しの方が面白そうだからヤダ!』
こうなると教えてくれないと思う。精霊さんは面白いことが好きだから。
「あ、そうそう。ドラは冒険者ですよ?最近はあまりいないというか、精霊様の加護のおかげでしょうか、この国に魔物が来ることはないのですが」
うーん、私が精霊さん達と追放されたクーラル王国では精霊さん達の加護もなく魔物がいっぱいなのではないかと思うのですが?
パールの予想通りクーラル王国では魔物がたくさん跋扈していた。
「なんだ?こんなにたくさん。前は平和だったじゃないか?」
「王太子殿下が婚約相手を変えてからか?」
「お前…それは不敬ってものじゃないのか?」
「王家の人が聞いてなきゃいいんだよ」
「そうだけどさぁ、一応な」
領民は家に籠るなどの対処などしかできず、折角育てた作物を魔物に食べられてしまうのをみすみす見ているだけになってしまう。
当然、納めるために必要な量の農作物を収穫するのがやっとで、今年の冬は越えられるのだろうか?という不安との戦いで領民の心はいっぱいとなる。
精霊さんがいろいろ教えてくれない回です。