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その7

 進む先に通用口が見えてきた。

 その全開になっている扉の向こう――校舎の外――に、なにかが落ちた。

 いや、違う。

 きれいに着地を決めた〝落下物〟の様子から凌順は気付く。〝落ちてきた〟のではなく〝降りてきた〟のだと。

 それは図書室の前で凌順に飛び蹴りを放った大柄なマスク女子高生だった。

 マスク女子高生が通用口から凌順と芽衣のいる校舎内へと足を進める。

 その姿に芽衣の尾に絡みつかれたままの女子高生が声を弾ませる。

「〝はるの〟っ、こいつらをぶちのめせっ」

 凌順と芽衣はマスク女子高生〝はるの〟が放つ威圧感に、どちらからともなく立ち止まる。

 〝はるの〟が人質女子高生を見上げて笑う。

「ざまあねえな〝ももな〟。どんな男だって手下にできるんじゃなかったのか、おい」

「う、うるさいっ。筋肉女っ」

 人質女子高生〝ももな〟の言葉がよほど不快なのか、一転して険しい表情に変わった〝はるの〟が――

「黙れ、エロ女が」

 ――吐き捨ててかたわらの壁に拳を叩きつける。

 その衝撃で校舎が振動して壁にひび割れが走り、廊下のガラスが砕け散る。

 同時に驚いた芽衣の尾が緩んだ。

 その隙を逃さず身を捩って尾から逃れた〝ももな〟は芽衣の背後に降り立つと――

「次会った時はぜってー、落とす」

 ――凌順に中指を突き立てて走り去った。

 そんな〝ももな〟を捕らえ直そうと芽衣が尾を伸ばす、が、届かない。

 同時に凌順がマスク女子高生〝はるの〟へ右腕を振り抜く。

 芽衣と同様に〝ももな〟へ目を向けた〝はるの〟の隙を突いたつもりだった。

 しかし――〝はるの〟は姿勢を崩すことなく、凌順の放った見えない衝撃波を受け止める。

 そして、その衝撃で外れたマスクを直しながら笑う。

「もう一歩踏み込めばダメージを与えられたのになあ。バーカ」

 その言葉通り、凌順の衝撃波は〝はるの〟のマスクを飛ばすくらいの衝撃しか与えられなかった。

 その事実が悔しい凌順も言い返す。

「そっちだってそっちだって……えーと」

 とはいえなにも思いつかない。

 なので見たままを口にする。

「マスクをしてない方が可愛いのになあ。バーカ」

 それでも、凌順にとって精一杯の挑発のつもりだった。

 これで掴みかかってくれば、そこにカウンターで一発入れてやる――そんなことを考えていた。

 しかし〝はるの〟は動かない。

 一瞬、耳を疑うような表情を見せたあとは硬直したように動かない。

 スイッチが切れたように、あるいは電池が切れでもしたかのように動かない。

 じっとマスク越しに覗く目で凌順を見ている。

 ただ、その顔は怒りのためか赤い、赤い、赤い。

 怒りをまとった巨鬼と化した〝はるの〟の反撃を予感した凌順の全身が恐怖によって硬直する。

 凌順がちらりと芽衣を見る。

 芽衣もまたその恐怖を感じているらしく、白い顔を〝はるの〟に向けて、ただ、立ち尽くしている。

 時間が停まったかのように、数秒が数時間にも感じる重い時間の中でじりじりと増してくる緊張感に凌順は叫び出したい衝動をこらえる。

 そして――〝はるの〟が動いた。自身の感情に耐えかねたかのように。

 しかし、それは凌順に向かって突進するのではない。

 その場で凌順から逸らした赤い顔を両手で覆ってばたばたと地団駄を踏んでいる。

 その動作の意味はわからないが、一気に動いた空気によって金縛りを解かれた芽衣が叫ぶ。

「今のうちですっ、なんだかわかんないけどっ」

「おうっ」

 芽衣の声に凌順が通用口へと走る。

 かたわらを凌順と芽衣が走り抜けても〝はるの〟は顔を覆ったまま目を向けることすらない。

 校舎を出た。

 芽衣が背後から声を掛ける。

「そのまま霧の中へっ」


 その様子を通用口の陰から見ていたのは図書室前で凌順からコンビニ袋を掠め取った小柄な女子高生だった。

 スマホを耳元にあてて伝える。

「ねーたん? あのふたり霧の中へ入ってったし」

 声が返る。

「〝はるの〟が先回りしてたんじゃねーのかよ。〝はるの〟はなにやってんだ」

 小柄な女子高生が〝はるの〟を一瞥してから凌順と芽衣が入っていった霧を見る。

「わっかんないし。なんか両手で顔覆ってぶつぶつ言ってるし。で、あの〝おっさん〟と〝ちゅーぼー〟はどーするし?」

「やってらんねえから諦める。オマエがひとりで追っかけてこい」

「……マジで言ってるし?」

「嘘に決まってるだろ、相変わらずアホだな、オマエは。そこで待ってろ。私もそっちへいく。一緒に追いかけるぞ」


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