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アウトロダクション

 翌日。

 芽衣は昨夜のことを思い出していた。


 夜の駐車場からそれぞれの家がある五号棟へ歩きながら、ふと訊いてみる。

「これからどうするんですか」

 別に興味があった訳では無いが、黙ってるのもなにか気まずく訊いてみただけだった。

 猫を抱いた凌順が答える。

「〝ひゅん〟局長をうちにお迎えして、コンビニへもう一回、晩飯を買いに行く。〝れま〟に盗られたからな。そして、明日は仕事を休む、かな。疲れたし」

 芽衣がため息混じりで返す。

「いいですね、大人は。自分の都合で休めて」

「まあな。芽衣ちゃんはどうする?」

 芽衣の考えは決まっていた。

「あたしは……明日、行きたい所があるんで。学校が終わったら……行ってきます」

 いつのまにか決意を秘めているように聞こえる口調になっていた。

 その意思を悟ったのか凌順は一言だけ返す。

「頑張れよ」


 そして、今、芽衣は綺薇宮女子高校の校門前にいる。

 校舎の方から終業を告げるチャイムが流れてしばらく経つ。

 その間ずっと芽衣は待っていた。

 ……来た。

 芽衣が校門からぞろぞろと出てくる女子高生の一団の前に、道を塞ぐように立つ。

 立ち止まった女子高生たちは不審な目を、あるいはジャマだとばかりに不快感や敵意を込めた目を向ける。

 しかし、一団の中心にいる美少女だけは、他の誰とも違う悲しみをよぎらせた目で芽衣を見ている。

「なんだよ、ちゅーぼー。どけよ」

 マスク姿の女生徒が巨体で威圧するように迫る。

 芽衣は答えずひとりひとりを見渡す。

 高校生とは思えないプロポーションの者、派手なメイクと髪色とカラータイツの者、制服を着崩した見るからに不良の三人組、メガネをかけている者、ぽっちゃり体型でスマホをいじっている者――そこにいるのはいずれもロクデナシとして直接的に対峙した、あるいは間接的にタブレットのデーターベースで見覚えのある顔ばかりだった。

 ただ、この中に小柄な双子がいないのは芽衣にとって好都合だった。

 もしいたら冷静に話をできる自信がなかった。

 芽衣は一団の中心にいる美少女に向かって口を開く。

「塚口聖依の妹の芽衣です。憶えてますか」

 周囲の女子高生がざわつく。

 そのざわめきが聖依の失踪に責任を感じていることからではないことを芽衣は知っている。

 聖依の失踪原因となった自分たちの行いが世間に知られることを恐れている、それによって自身への学校からの処分や警察からの問い合わせ、さらにはこの先の人生に影響が出ることを恐れている、それがざわつきの正体であることを芽衣は知っている。

 そんな女生徒たちの中心にいる美少女だけは顔色を変えず答える。

「もちろん憶えてるよ」

 芽衣が続ける。

「姉のことで話があります。ふたりだけで。聞いてもらえますか。〝あいり〟さん」


 誰もいない公園のベンチで芽衣は――

「信じてもらえなくてもいいです。ただ、あたしが伝えたいだけなので」

 ――と語り始める。

 今の聖依が自分の創った世界で猫人に囲まれて幸せに暮らしていることを。

 そして、高校入学後に〝あいり〟との距離が離れていった真の経緯を。

 そして、そして、別世界で校舎を霧で覆ってもふたりにとって思い出の青空だけは残していたことを。

 両手で顔を覆って後悔の涙を流す〝あいり〟に一礼して芽衣は公園を出た。


 芽衣は、かつて自分が魔法陣を描いた駐車場にしゃがんでアスファルトを撫でながらつぶやく。

「ちゃんと伝えたよ。おねえちゃん」

 その時、視線を感じた。

 顔を向けると五号棟三階にある一室のベランダから、キジトラの〝ひゅん〟を抱いてこっちを見ている凌順がいた。

 この時間に家にいるということは昨夜言っていた通り仕事を休んだらしい。

 凌順が手を振り、芽衣が振り返す。


 不意に吹き抜けた風を受けて、ざあと降り注ぐ桜吹雪の中で。


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