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その31

 空中に開いた転送ゲートから身を乗り出した凌順は眼下に目をやる。

 そこにあるのは綺薇宮女子高等学校。

 正確には王女――塚口聖依の忘れたい記憶が実体化した〝ロクデナシの巣〟。

 渡り廊下で繋がれた二棟の校舎と体育館、そして、水の張られたプールと広がるグランドが見える。

「降りるのは〝北校舎〟だ。〝南校舎〟はクッションの設置が難しい」

 〝ひゅん〟が左手首の情報端末から空間投影した構内図を見ながらささやく。

 芽衣のタブレットからコピーした情報の一端であることは言うまでもない。

 改めてキャットスーツに包まれたプロポーションに見惚れる凌順を〝ひゅん〟が訝しげに見る。

「どうした?」

「いや――セクシーだな、と」

  慌てて目を逸らす凌順に〝ひゅん〟が憮然と返す。

「猫相手になにいってんだ、人間のくせに。変態が」

「ごめん」

 改めて校舎を見下ろす。

 確かに二棟のうち一棟の屋上はソーラーパネルが並んでいてクッションを敷く余地がない。

 これが南校舎なのだろう。

北校舎(そっち)に芽衣ちゃんと王女様がいればいいんだけどな」

「残念ながら囚われているのは南校舎だ」

「なぜわかる」

 校舎の見取り図にオレンジの光点がふたつ寄り添って明滅していた。

「オレンジ色の光が特異点――つまり、エネルギー体である王女様とこの世界外の存在である芽衣様の位置になる」

「なるほど。芽衣ちゃんと王女様は同じ部屋に囚われているわけか」

 改めて校舎を見下ろす凌順に〝ひゅん〟は――

「では、行こう」

 ――そう言うと返事も聞かず飛び降りる。

 落ちていく〝ひゅん〟の姿に我に帰ってためらう凌順だが、そんな場合でもないと覚悟を決めて飛び降りる。

 そして、北校舎の屋上に〝ひゅん〟が落下しながらヒスイに出現させたクッションへ軟着陸する。

 凌順がクッションから這うように屋上へ下りたのを見た〝ひゅん〟がヒスイから転送ゲートを出現させる。

 しかし――。

「だめだ。開かない」

 〝ひゅん〟の声に凌順も手を添えるが転送ゲートは開かない。

「不良品?」

「いや、目的地に結界(シールド)が張られているっぽい」

「じゃあ……歩くしかないか」

「だな。三階へ降りて渡り廊下で南校舎へ向かおう」

「いよいよロクデナシの巣へ突入か」

 つぶやいて、ふと、いまさらな疑問がよぎる。

「そもそもロクデナシって王女様が生み出したんだよな。だったら消すこともできそうな気がするけどな。王女様は世界を作った全能の存在なんだろ」

「謁見室で言ってた通りだ。ロクデナシは王女様が〝実体化させた存在〟ではあるけれど〝創造した存在〟じゃない」

 その言葉なら凌順も憶えているが――。

「それがよくわからなかった。現実世界の存在を妄想で実体化させたってところが」

「たとえば〝あいり〟というロクデナシは現実世界に本体が存在している」

「うん」

「その本体には生まれてから今までの人生があって今がある。その人生によって記憶とか性格とかが形成されて今の存在がある。王女様は無意識にその存在のコピーを実体化してしまった。その存在のコピーと王女様が個人に抱いてたイメージがひとつになって実体化したもの――それがロクデナシ」

 そう説明されてもやはり今ひとつわからないが、わからないなりに考えてみる。

「つまり〝王女様が同級生に抱いてた印象〟みたいな上っ面のイメージだけじゃなくて、それぞれの人生までコピーした存在ってことか」

「そう。上っ面のイメージだけなら王女様の創作物に限りなく近いから王女様の意思で消すこともできるだろうが、本体の人生までコピーしたことで限りなく本体に近い存在になった。存在自体に重みがあるというかリアリティのある存在というか。同級生をモデルに創造したキャラクターではなく、同級生のコピーという人間そのものを生み出してしまった。だから王女様でも消すことができない。そもそも〝らる〟様の話では仮に消すことができたとしてもロクデナシの存在自体がトラウマを想起するから、思い出すことすら……」

 濁した言葉を凌順が察する。

「認識すると同時に苦手意識が先にたって消すどころじゃないってことか」

「そういうことだ」

 その時、数十メートル離れた空中にもうひとつの転送ゲートが現れた。

「あれは?」

 凌順が目を凝らした視線の先に現れた転送ゲートが開いて、そこからなにかが次々と放り出されるように落下していく。

 それは死体のように動かないロクデナシの群れだった。

「王女拉致作戦で王宮に取り残されたロクデナシどもだ。王宮で飼っておくわけにもいかないからな。一体くらいは標本にしてもよかったんだが、王女様が嫌がるだろうと〝らる〟様に反対された。しょうがないので冷凍保存しといたのを放り込んでいる」

 落ちていく先には水を張られたプールがあった。

 水柱を立てて落ちていくロクデナシの群れに、凌順は初めてここを訪れた時に中庭で見た落下女子高生を思い出す。

 そんな凌順を〝ひゅん〟が促す。

「落ちたロクデナシはそのままプールの水で自然解凍される。こうやって派手に落とすことで校内にいるロクデナシの注意を引くことも期待できるしな。さ、行こう」


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