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その20

 〝れま〟は逃走していた。

 とはいえ自走捜索機に追い回されているわけではなく、猫街のあちこちに転送ゲートで出没し、ヒスイに作らせた自身の立体映像をその場に残していく――そんなことをひたすら繰り返していた。

 もちろん目的は捜索の撹乱である。

「そろそろいいし」

 つぶやいて住宅と住宅の間に身を隠すとヒスイを見てほくそえむ。

「これさえ手に入れば黒猫なんて用はないし」

 ヒスイに作らせた〝自走捜索機の分布地図〟を空間投影させ、十分な距離を取ったことを確かめてスマホをつなぐ。

「ねーたん、どこ?」

 スマホが答える。

「〝れま〟っ、今までどこにいたっ」

「いろいろあって、チョーお宝、手に入れたし。ねーたんに見せたいんだけど、最初の光ってる塔に行けばいいん?」

「は? いつまでもいるわけねーだろ」

「じゃあどこにいるんだし?」

「嘘だよばーか。最初の塔に決まってるだろ」

「わーった。秒で行くし」

 舌打ちとともに通話を切って邪悪な笑みを浮かべると、ヒスイに転送ゲートを作らせて飛び込む。

 ゲートの先は〝れま〟が罠泡にかかった眩い光を放つ誘導塔の基部だった。

「ねーたん?」

 周囲を見渡しながら掛ける〝れま〟の潜めた声に、姉の〝りま〟が塔の陰から姿を現す。

 〝れま〟と〝りま〟は双子だった。

「〝れま〟? どこから現れたっ」

 戸惑う〝りま〟に〝れま〟が笑う。

「〝行きたい所へ行けるドア〟を使ったし。これを使えばどこでも行けるし。あと、他にもいろいろ便利道具を出せるし」

 そう言って差し出すヒスイに〝りま〟が目を凝らす。

「こんな物で?」

 あからさまに信じてない〝りま〟へ〝れま〟が続ける。

「これを使って出した便利道具でいろんな所へ行って、いろいろ調べて帰ったら〝あいり〟にも褒められるし。褒められるどころかちょー気に入られると思うし。とりあえず――」

 街の中心に位置する尖塔を指さす。

「――まず、あっこへ行ってみるし。いかにもって感じで怪しいし」

 目を輝かせる〝れま〟に対して〝りま〟はなにが気にいらないのか不機嫌に答える。

「行くわけねーだろ。行きたけりゃひとりでいけよ」

 そんな〝りま〟を〝れま〟が上目遣いで覗き込む。

「……本気で言ってるし?」

「本気なわけねーだろ、嘘だ、嘘。相変わらずオマエはバカだな」

 〝れま〟は、にこりともせずに叱責口調の〝りま〟から尖塔へと目線を戻す。

「じゃあ行くし」

「おう。その行きたい所へ行けるドアを出せ」

 〝れま〟がヒスイを掲げると、ふたりの前に光る扉が現れた。

「この扉の向こうはあの建物の中だし。急ぐし」

 〝れま〟が扉を開けて〝りま〟を押し込む。

 そのまま扉の中へ足を踏み入れた〝りま〟はすぐに異常に気付く。

 踏み込んだ先、扉の向こうに地面がない。

 しかし、遅かった。

 〝れま〟に押し出された〝りま〟の身体はそのまま落下して、猫街中央広場の石畳に臓器を散乱させた血の染みと化した。

 その染みを中心に悲鳴を上げて右往左往する猫人たちを、上空に開いた扉から見下ろした〝れま〟が爆笑する。

 そして、思い出す。


 霧を出た〝れま〟と〝りま〟は、荒野から見えた集落の外れから眩い光を放っている塔を訪れた。

 霧を出ることはもちろん、その外に集落があることを知ったのも、その集落へ踏み入ったのも、すべてがロクデナシとしては史上初の快挙だった。

 そんなふたりに泡罠が襲いかかる。

 反応速度で優れる〝れま〟は回避に成功したものの、逃げ遅れた〝りま〟の下半身が捕らえられた。

 予想もしていなかった罠の存在に呆然と立ち尽くす〝れま〟を〝りま〟が自由になる上半身だけでもがきながら罵倒する。なにをやってる、バカみたいに見てんじゃねえ、早く助けろ――と。

 その言葉とともに放たれたロクデナシ固有の言葉毒素に刺激されて我に帰った〝れま〟が〝りま〟の手を引いて泡罠から下半身を引っ張り出す。

 〝りま〟の救出に成功した〝れま〟がほっと息をついた瞬間だった。

 いつのまにか背後に迫っていた別の泡罠が〝れま〟の上半身に覆いかぶさった。

 慌ててばたつかせる〝れま〟の両足を〝りま〟が掴む。

 しかし〝りま〟は泡罠から〝れま〟を引っ張り出すのではなく、逆に泡罠の中へと押し込んだ。

 泡罠に全身を捕らえられた〝れま〟はなにが起こったのかわからず、戸惑った表情で泡面越しの〝りま〟を見る。

 そんな〝れま〟を見て〝りま〟は笑い転げる。姉である自分を差し置いて罠を避けたから罰が下ったのだ、いい気味だと。

 さらに〝早く出してよう〟と懇願する〝れま〟に反省しろと言い放つ。

 そこへ誰かが近づいてくる気配を感じた〝りま〟は、罠にかかった〝れま〟を置き去りにして誘導塔の陰に身を隠す。

 やってきたのは服を着て直立歩行するぶち猫――〝ぽの〟だった。


 眼下の公園では突然降ってきて四散した死体に猫人たちが騒いでいる。

 その様子を見下ろし〝れま〟は――

「罰が下ったのはオマエの方だし」

 ――つぶやいて、唾を落とす。

 そして、透き通るような青空の下に立つ尖塔を頂く王宮を見やって目を細める。

「あそこには面白い物がありそうだし。興味をそそられるし。盗癖の〝れま〟としての勘がお宝の存在をギンギンに感じてるし」


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