その18
〝ひゅん〟〝なぎー〟凌順、そして〝うず〟の順に小会議室へ向かう通路を歩きながら凌順がつぶやく。
「ちょっと意外」
問い返したのは〝なぎー〟。
「なにがです?」
「様付けされるようなお客様なら応接室を用意するんじゃないのか。会議室でいいのか?」
前を歩いている〝ひゅん〟が振り向きもせず答える。
「小会議室での対面は〝らる〟様からのご指定らしい。そもそもここには応接室がないしな」
その言葉が凌順には意外だった。
「ないの? なんで?」
自分が最初に目覚めたような医務室があるのなら応接室ぐらいはあって当然だと思っていた。
「応接室ってのは外からのお客様をお迎えする部屋だろ? この世界はこの猫街がすべてだからな。外からのお客様なんて存在しない。この街に住んでて〝お客様〟と呼べるのは王女様と〝らる〟様くらいだが、王女様は王宮を離れることがないし〝らる〟様は初代局長だったのでこの建物を作った当時は応接室なんて必要なかった。勇退されてからは〝らる〟様がここを訪れることもなかったしな」
「だからって会議室……それも〝小〟ってのはどうなんだ」
「この人数ならそれくらいでちょうどいいとお考えなのだろう。凌順には理解できないかもしれんが猫は広すぎる部屋は落ち着かないんだよ。運動するにはいいが話をするには向いてないんだ」
〝小会議室〟というプレートのかかった扉の前で立ち止まった〝ひゅん〟が扉をノックする。
「〝ひゅん〟です」
品のある老婦人の声が答える。
「お入りなさい」