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その11

 凌順はベッドの上で目を覚ました。

 静けさの中でベッドをぐるりと囲んでいるカーテンに目を這わせる。

 確か入院した親を見舞った病室がこんな感じだったな、ということはここは病院か?――そんなことを思いながら静かにベッドを降りると、そろえて置いてある自分のスニーカーにつま先を突っ込む。

 見下ろす身体に異常はなく、着衣には落とし穴に落ちた時に付着したはずの土の一片も見当たらない。

 袖口を鼻先に押し付けると消毒薬のにおいがかすかにする。

 眠っている間に洗濯されたのか?

 脱がさずに?

 そんな違和感の中でカーテンをそろそろと開く。

 そこは病室というより医務室のようだった。

 医療機器や薬品や専門書を並べたキャビネットと机があり、その机に突っ伏して眠っている者がいる。

 起こすのも悪い気がして足音を忍ばせながら近づいてみる。

 そして、息をのむ。

 それは人間ではなかった。

 身長は凌順より低く芽衣と同じくらいでスーツを着ているが――猫だった。

 いや〝猫人間〟とでもいうべき生き物だった。

 それが静かに寝息を立てている。

 女子高生型クリーチャーの次に霧の支配者である魔女がいて、霧を出たら巨大なカニに落とし穴へ追い込まれて、目が冷めたら猫人間が居眠りしている医務室にいた。

 その意味不明さに思わず――

「さすがは異世界」

 ――とつぶやいてみる。

 猫人間はそんな凌順に見下ろされているとは知らず眠り続けている。

 どうしていいかわからない凌順はおそるおそる手を伸ばし、その頭を撫でてみる。

「う……ん」

 猫人がぐいとあごを上げる。

 同時にびくっと手を引っ込めた凌順だが、目覚める気配がないことに安堵の息をつく。

 そして、眠り続けている猫人間の露出したあごをそっと撫でてみる。

 自分でもなぜそんなことをしようとしたのかわからない。

 ただ猫相手なら、これが当然のことのような気もして自然に手を伸ばしていた。

 最初は遠慮がちに、そして、目覚めないのをいいことに次第に大胆に指先であごの下を掻いてみる。

 猫人間は目覚めることなく、むしろ良い夢をみているかのように口角をあげ――やがてごろごろと喉を鳴らし始めた。

 その様子に凌順はあごの下を掻く手を休め、改めて頭を撫でる。

 その時、猫人間が目を覚ました。

「うにゃあああああああっ」

 目があった猫人間が跳ね起きて椅子から転げ落ちる。

「いや、その――」

 驚いた凌順ではあったが、なんとか落ち着かせようと言葉を探す。

「――えと、ごめん」

 そこへ扉が開く。

「お、起きたか」

 目を向けると開いた扉に新たな猫人間が立っていた。


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