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魔法を諦めたやり直しモブ少女、死んじゃう予定の大魔法使いを救う  作者: 京々
1章 才能を見つけちゃった

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8話 冒険者登録

残酷な描写があります。


 血の臭いで咽せ返るような、酷い場所だった。

 生肉と、同時に肉の焦げた煙臭い空気に鼻がつんとして涙が出た。


 狭くて暗くて寒い場所。


 地面にこびりついたこれはなんだろう。飛び散って、焦げ付いて、元の形も分からない。

 鎖で吊るされた頭部だけが、その眼窩から中身が抉り出されてもう何もないのに、それはじっと私を見ていた。




 ***




 ──夢?


 ひどい気分で目が覚めた。


「っはあ、はあ……」

「レディ、大丈夫か!?」

「……あれ、私、寝てた?」


 ハッとして肩で息をする。冷や汗が首元を伝う感覚が気持ち悪い。でも、触れ合う体温があって、それだけは安心する。


 私は、気がつくとトライにおんぶされていた。トライが心配そうに私を振り返っている。ゴールドレッドの髪が存外近くで揺れた。


「その、話の流れで俺がレディをおぶってみることになっただろう? レディを守るからには連れて走って逃げることができなければならないみたいな話で……。で、そのまま少し歩いたら、レディが寝てしまって……疲れているのかとそのままにしたら魘され始めて、」

「ありがとう……」


 私は、トライの説明でなんとなく寝る直前のことを思い出す。ぽすんとトライに身を預けて、くてーっと脱力した。広い背中に少しだけ心が安らぐ。


 でも、なんでか胸がざわざわする。嫌な予感だ。


 なんだっけ、一周目のときに何かあったんだっけ?

 思い出せない。私の体感だと、一周目の子供の頃って二十年くらい前のことだ。大きな出来事なら覚えているけれど、細かいことまで覚えていない。


 暗い洞窟と、焦げた肉の匂いが頭をよぎる。


 ただ、ちょっとだけ不安だった。


「トライ」

「なんだい、レディ」

「今から冒険者登録に行くよね」

「そうだな」

「でも、実戦は、もうちょっと装備を整えてからね。死んじゃう」

「ああ、そうしよう」


 トライは静かに頷いてくれた。




 ***




 冒険者登録は、滞りなく終わった。


 奴隷を冒険者登録することを何度か意思確認されはしたけれど、私が明瞭に頷けば冒険者ギルドもそれ以上は何も言わない。


 トライは無事に冒険者になり、冒険者ギルドの職員さんが基本的なルールの説明をしてくれた。私もトライも一応知っていたけれど、大人しく聞く。


 ああ、トライは奴隷になる前は冒険者だったらしいのだけれど、奴隷になるにあたって冒険者の資格は剥奪されているらしい。一からのスタートになる。


 冒険者の証である小さなプレートタグ──といっても冒険者の階級によってタグの素材が変わり、最初は木製のタグになる──が、無事にトライの首から下がることとなった。


「冒険者のランクは七段階あります。下から、(ウッド)(アイアン)(ブロンズ)(シルバー)(ゴールド)白金(プラチナ)精霊銀(ミスリル)


 ギルドの職員さんが説明してくれる。


 といっても、精霊銀ランクの冒険者なんて伝説だ。国に数人から十数人程度しかいないらしい。ちなみに以前のトライは銅ランクだったのだとか。


「木ランクは町から出る依頼……つまりモンスターの討伐依頼は受けられません。次の鉄ランクから受けることが可能ですが、鉄ランクになるためには冒険者ギルドの試験官が実力を見て、戦えると判断される必要があります」

「今日受けられますか?」

「可能です」


 私は「受けておいたら?」とトライを見た。

 トライにも異存はなく、私たちはすぐにランクアップ試験を受けることになった。


 ギルドの職員さんに、併設された訓練場に案内してもらう。他にも訓練している人がチラホラいるけれど、ここでやるらしい。

 空いている場所を陣取って、職員さんが試験のルールを説明した。そして二人が向かい合って立つ。


「言っておくが、装備も含めて実力だ。鎧がないから負けたなどと泣き言を言ってくれるなよ」


 試験を担当してくれる職員のベンさんがとんとんと剣の峰で自身の肩を叩いた。


 うん、装備って大事なのだ。冒険者は未開拓の場所に突っ込むこともあって、枝葉や小石での擦り傷が意外とバカにできない。それに、素手で剣を受けたら当然腕が切れて、布一枚では防げない。


 そして、トライと私の今の装備は布の服一枚のみ。さらに武器なし。

 対して、ベンさんは冒険者にしては軽装でも革鎧をつけ、刃を潰した剣を持っている。


 うーん、早まったかもしれない。トライの以前の銅ランクだって、装備ありきのランクだと思うし……。

 なんでこんな簡単なことにも実際に対峙するまで考えが及ばないんだろう。多分、一周目でも経験していないからだ。私は町の近くでちまちまと薬草を摘んで生計を立ててきたタイプの冒険者なのである。


 私が不安に駆られる中で、トライのランクアップ試験が始まった。


「はじめ!」

【ファイヤーボール】


 トライが開幕から魔法を放つ。


 一瞬驚いた顔をするベンさんだが、ファイヤーボールは強力かつ有名な魔法だ、その分対策も明らか。すぐに上着を翻して防御される。


 その間にトライは距離を詰めていた。


【ファイヤーボール】

「!?」


 至近距離でファイヤーボールを放つトライ。ベンさんは咄嗟に避けて剣を振るうも、トライは軽やかに避ける。そして、決して距離は離さない。

 ベンさんの死角に回るように移動し、トライは何度も攻防を繰り返した。


 けれど、攻防が続くと体力も尽きてくる。トライがふっと息を吐いた瞬間、肘での打撃がトライの腹部に入った。間髪入れずに剣が振り下ろされる。


 私はヒュッと息が薄くなる感覚を覚えた。


 剣の刃は潰れているとはいえ、つまりそれは棍棒だ。大人が振り回す棍棒が当たれば骨が折れる。トライが咄嗟に腕を出し、【ファイヤーボール】を発動する。


 次の瞬間、剣とファイヤーボールが激突。衝撃と熱気がぶわりと訓練場を駆けた。

 衝撃を利用してトライは一旦距離を取り、そして。


「そこまで! 合格!」


 ベンさんの怒鳴り声。


 私はハッと詰めていた息を吸った。トライが喜色を浮かべて私を振り返る。


「レディ!」

「トライ、すごい!」

「君のおかげだ! 肉薄しながらでも魔法が使えたのは初めてだ」


 ぱ! とトライが私に向かって手を広げた。私がパチンとそこに手を合わせる。嬉しい。


 こうして、トライは無事に鉄ランクの冒険者になった。



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